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1930年代から現代まで |
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第一次世界大戦は1918年に終わり、第二次世界大戦が終結する1945年までは、とくにファシズムやマルキシズムの台頭などによる、社会的・政治的状況の激変の時代であった。文学の世界も、当然のことながら、そうした状況変化をさまざまなかたちで明瞭に反映させているが、最初の10年間、つまり1920年代は、いわゆる「モダニズム」全盛の時代で、ジョイスやエリオットやウルフなどによる種々の文学的実験が行われて革新的風潮が支配的だった。
詩人として30年代に出発した初期のオーデンに見られるのは、何よりもまず、社会的関心と心理的関心とを結びつける、ということだった。彼は極めて知的な詩風を築いていくことになる。こうしてオーデンは、社会革命への希望と個人の病理の診断とが一体となった独特な感性の結合を示す詩を次々に発表して、新しい詩の時代の到来を告げたのだった。
ディラン・トマスの処女詩集『18編の詩』が刊行されたのは1934年のことで、彼は一躍詩人としての名声を博す。彼は言葉のもつ原初的で、魔術的な力に取り憑かれ、自閉的な若者の性と死の感覚をなまなましい斬新なイメージで抒情的に歌い上げた、ロマン主義的な幻視者の系譜につらなる詩人である。彼はオーデンのような知性の詩人ではなく、情緒の詩人であった。いわゆる「感情の真実の声」をもつロマンティックな詩人として、知的な詩風が支配的だった30年代、40年代のイギリス詩の世界で異彩を放っているのである。
イギリス現代詩の領域で新しい動きが顕著になるのは、1950年代初め頃からのことである。とくに新進詩人を紹介する2冊のアンソロジー、すなわちD.J.エンライト編『1950年代の詩人たち』とロバート・コンクェスト編『新傾向』が、両アンソロジーに収められた詩人がほとんど同じであったこともあって、ひとつのまとまったグループの出現の印象を強めたのである。そして「新しい動き」にちなむThe Movementの名称で呼ばれるようになる。このグループを代表する詩人が、フィリップ・ラーキンにほかならない。
The Movementの詩人たちに共通して見られる特徴は、モダニズム詩の前衛的な試みへの反発と30年代の詩人たちの政治的姿勢に対する反発である。
モダニズム文学的な実験への反動ということが起こったのは、現代詩の世界だけではない。現代小説の世界でも、明らかにThe Movementと呼応して、モダニズム小説批判が50年代前半にいっせいに噴き出す。
20年代に最盛期を迎え、ジョイスの『フィネガンズ・フェイク』において空前絶後の言語空間を構築し得たイギリスのモダニズム小説が、その後、時とともに凋落の一途をたどり、ほとんど閉塞状態に陥ったのに対して、『燈台へ』や『フィネガンズ・フェイク』よりも『ミドルマーチ』や『フォーサイト家物語』を、という掛け声のもとに結集した50年代前半における、アンガス・ウィルソン、C.P.スノウ、キングズリー・エイミス、アイリス・マードック、ジョン・ウェインたちによる、反モダニズム小説的な態度表明は、何よりもまず、過去のイギリス小説上に幾度か見いだせるのと同種の先行世代への反乱、文学上の変革と転換の要請として受けとれるのである。