イギリスのマーマレード

 1495年、ポルトガルからイギリスに入ってきたマーマレードは、瞬時にしてフル・イングリッシュブレックファストには不可欠の存在となった。イギリス人に人気のセビリアオレンジ(スペイン産)か、生では食用されない完全にマーマレード用のビターオレンジの2種が材料として主に使用されている。余談になるが、伝統あるメーカー3社全て、創業者の妻が最初の味を決めたそうだ。  3社のうち一番高価な商品を製造しているフランクコッパーズ社(FC)は昨年ロバートソンズ社(R)に吸収合併。現在R工場で作られていても製品名が異なるのは、製法の異なったFCの伝統を保っているためだとか。各社、独自の味を守る理由はマーマレードの醍醐味である甘味、苦味、酸味の三点のバランスの好みかと思われる。

 

北欧では冬の貯蔵食品として愛用。

 

北欧では、果実の採れる短い期間に、お母さん方が、越冬食品として、野生のいちご、ラズベリー、力ーラント類のジャムを一生懸命につくり、壷に貯えます。我が国の漬け物と同じように、保存食品として愛用されているわけです。家族は、冬の間この「母の味」を感謝して食べているのでしょう。

 

シャーロック・ホームズはジャムを楽しめなかった!

 

ジャムの先進国は、イギリス、フランスです。イギリスでは、いちごが古くから豊富に自生していました。ストロベリーの名は、10世紀の植物誌にありますが、いちごに宗教的な「徳性」を見つけて尊重し、中世期からエリザベス王朝にかけて、野生のいちごを庭に移植・栽培することが流行しました。シェイクスピアの「ヘンリー8世」にも出てきます。マーマレードになるオレンジは、15世紀に、バスコ・ダ・ガマが、インド周航から持ち帰り、その後大量に輸入するようになりました。また、イギリスは砂糖の貿易を独占していましたので、ジャムづくりの伝統を誇ることができた訳です。

18世紀から19世紀にかけて、産業革命が一応達成され、国民の生活レベルは向上しました。しかし、19世紀に推理小説の中で活躍したシャーロック・ホームズも、仕事が忙しくて、作品の中では、ジャムを楽しむ食事をしていません。ジャムは当時まだまだ高級で貴重な食品だったのです。英王室御用達に、チップトリー社のジャムとオレンジマーマレード、クーパー社のオックスフォード・オレンジマーマレードがあります。このオックスフォード・オレンジマーマレードは「英国人の真心」「マーマレードの芸術品」といわれています。事実、英国人は黄金色のマーマレードを朝食に欠かさず、そして深い満足を得てエネルギーの源泉となっているのです。

 

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