坂本冬美のヒット作「夜桜お七」は、作詞が俳人の林あまりということでも話題を呼んだ、日本的情念あふれる名作である。
ところがこの歌にはただ一箇所だけ外来語が使われている。「ティッシュをくわえ」というくだりである。それもスピードが落ちて伴奏も消える聞かせどころに出てくるのである。これが私にはどうも引っかかって仕方がない。なるほど紅をひいてティッシュをくわえるシーンはえもいわれぬ色気を醸し出すものではあるが、しかしお七にティッシュではやはりそぐわない。歌がここに来るたびに、どうして俳人ともあろう人が……と首をかしげるのである。
とはいえ冷静に考えて見れば、「ティッシュ」の代わりに「ちり紙」や「鼻紙」では品がなさすぎるし、さりとて「桜紙」では「さくら」があまりにもしつこくなりすぎる。だから林あまり氏にとってもこれは苦渋の選択だったかもの知れない。それでももう少し何とかならなかったものかと、私はこの歌を聞くたびに残念に思うのである。