『ターシャ・テューダー1)の言葉:思うとおりに歩めばいいのよ』2)

 

足の短いコーギ犬を主人公にした愛らしい作品3)で知られるアメリカの絵本作家、ターシャ・テューダーは1915年生まれ。九十歳になる今年(2005年)もニューイングランドの山の中で19世紀風の暮らしを営み、園芸と創作活動を続けている。

 

すばらしい庭の持主にして現役の絵本作家、まさに元気な高齢者のチャンピオンのような存在である。高齢化社会を生きる日本人、とりわけ女性にとって、本書で紹介されるターシャの言葉は示唆に富むものだろう。

 

       心は一人ひとり違います。

       その意味では、人はいつもひとり≠ネのよ。  (21ページ)

 

一生は短いんですもの。

やりたくないことに時間を費やすなんて、もったいないわ。  (57ページ)

 

 他人の言いなりになっているようではだめなのだ。「老いては子に従え」は彼女の辞書にはないだろう。ターシャの言葉からは確固とした自我と強い意志が伝わってくる。彼女は「かわいいおばあちゃん」などでは決してない。

 

 ターシャの描く動物たちの姿は可愛いらしい。しかし、その制作の舞台裏で彼女がこんなことをしているとは・・・

 

       冷凍庫は、現代のすばらしい進歩だと思うわ。

       わたしの地下の冷凍庫は、事故で死んだネズミやモグラの霊安室。

       モデルが欲しい時に、そっと取り出させてもらいます。  (40ページ)

 

 ターシャの庭は規模からして桁違いに広大で、彼女のやり方もそれに応じたように豪快である。広い庭はそう簡単に手に入るものではないが、気持ちの豪快さなら私たちも真似できるかもしれない。

 

       どうせならインパクトのある植え方をしたいので、

       球根もびっくりするような量を注文します。どれも百個単位で。

       一個ずつ植えるようなことはしません。

       何本か溝を掘って、その中へどんどん埋めていくの。  (87ページ)

 

 大胆かつ細心な人なのだろう。彼女は粘り強さも強調する。料理のコツを述べた最後にこう言う。

 

       それから近道を探そうとしないこと。

価値ある良いことはみんな、時間も手間もかかるものです。  (146ページ)

 

 自分が理想化されることに違和感を覚えるターシャである。

 

       みんな、わたしを理想化して見ています。

       わたしも人間だということを忘れ、現実のわたしを見ようとしない。

       マーク・トウェインも言っているわ。

「人にはみな月と同じように、だれにも見せない裏側がある」  (160ページ)

 

 彼女の裏側には何があるのか。それは詮索しない方がよいというものだろう。筆者(=Wunderkammer 管理人)にとってターシャ・テューダーは、ジョージア・オキーフ(1887-1986)、マルグリット・デュラス(1915-96)、レニ・リーフェンシュタール(1902-2003)、日本人なら宇野千代(1897-1996)、三岸節子(1905-99)といった人たちと共通点を感じさせる女性である。最晩年にいたるまで「かわいいおばあちゃん」にはならなかったそんな彼女たちをお手本に、筆者も凄味のある老婆を目指したいと思っている。

 

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1) Tasha Tudor (1915-    ) アメリカの絵本作家。ヴァーモント州の山奥に住む。リチャード・W・ブラウンの写真集で、その生活スタイルが広く知られるようになった。日本でも2000年に、「自然とともに生きる絵本作家:ターシャ・テューダーの世界」展が開催され(東京・小田急美術館)、ガーデニング愛好者の憧憬を集めた。また本年(2005年)の敬老の日前後に、NHK制作の「喜びは創りだすもの:ターシャ・テューダー四季の庭」というテレビ番組が数回放映された。

 

2) 200210月、メディアファクトリー刊。ターシャの言葉に、リチャード・W・ブラウン撮影の美しい写真を多数添えた、日本オリジナル編集の本。翻訳と解説:飯野雅子。続編として、『ターシャ・テューダーの言葉2:楽しみは創り出せるものよ』(200312月刊)『ターシャ・テューダーの言葉3:今がいちばんいい時よ』(200412月刊)が出されている。

 

3) 『コーギビルの村まつり』(原題 Corgiville Fair. 1971)、『コーギビルのゆうかい事件』(原題 The Great Corgiville Kidnapping. 1997)、『コーギビルでいちばん楽しい日』(原題 Corgiville Christmas. 2003)。邦訳版は、いずれも飯野雅子訳、メディアファクトリー刊。


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