『ターシャ・テューダー1)の言葉 特別編:生きていることを楽しんで』2)
『ターシャ・テューダー 最後のことば』3)

 

 筆者(=Wunderkammer 管理人は目下、更年期障害に悩まされている。ホットフラッシュは数年前から始まっていたが、今年の夏頃から吐き気や脳貧血といった症状も出るようになり、さらには精神的にも具合が悪くなってきた。ムシャクシャする(通り魔の気持ちがあやうく理解できそうになるほどに)かと思えば、鬱々とする(赤ちゃん誕生の知らせを聞いてもおめでたいと思えず、「生まれてきてかわいそうに」と感じてしまうほどに)状態に落ち込んだ。異様な不安感に取りつかれ、「死んでしまえば楽になる」という悪魔の甘いささやきまで聞いた。

生きていることを楽しんで」 これは、こんな状態の者にとって、もっとも必要なメッセージである。

 

       生きていれば、落ち込むこともあります。

       状況を好転できると思ったら、ぜひ努力すべきです。

でも、変えられないなら、

それを受け入れて歩み続けるしかありません。
      何があっても「生きていることを楽しもう」という気持ちを忘れないで。
        (『ターシャ・テューダーの言葉 特別編』156ページ)

 

私たちはいずれ皆必ず死ぬのである。生きている状態が稀有なものであることを、ターシャはよく知っていたにちがいない。

 

 アメリカの絵本作家であるターシャ・テューダーは晩年になってから、その生活スタイルが紹介され、日本でも有名になり称賛されるようになった。家族(長男のセス・テューダー)の証言が興味深い。

 

時に、ターシャに向って「あなたのように生きられたらいいのに」と言う人がいます。でも、実際に彼女の人生――人里離れた場所に住み、文明の利器や携帯電話を持たず、買い物のための便利な交通手段を持たず、一日に二回ヤギのミルクを搾り、家畜小屋の掃除をし、そして何よりも四人の子どもを育て、芸術の世界で成功するために一生懸命仕事をし、お金の心配をし、四十代で離婚する、などなどを考えるなら、それほど魅力的でないでしょう

(『ターシャ・テューダー 最後のことば』92ページ)

 

セスはまた次のようにも語っている。

 

みんなが母によくこんなことを言います。「あなたみたいに生きられればいいのに」と。すると母は「そう? じゃあ、なぜそうしないの?」と答えるでしょう。

でも、母は相手をからかっているわけではありません。彼女の言葉は、「人生をもう一度見つめてみては?」という提案なのです。実際のところ、あまり多くのことを期待せず、数匹の動物たちと庭、住み心地のよい家を持っていれば、多くの人が田舎で暮らすことはできるでしょう。もちろん、誰もがそういうシンプルな生活を楽しめるわけではありませんが。

(『ターシャ・テューダー 最後のことば』95ページ)

 

 ターシャの最期の言葉は Joy! だったという。生きていることをどう楽しむか、それは私たちそれぞれが自分で考えて工夫し、実行していくしかない。ターシャの生き方をそのまま真似ることは不可能だし、真似できたとしてもそれを楽しめるとは限らない。

 

       わたしが心がけてきたことは、

       騒音、ごたごた、攻撃的で付き合いにくい人を避けること。

       自分の経済力に見合った生活をすること。借金はしないこと。

できるだけ自給自足すること。

これは、節約になるだけでなく、

自分で作り出す満足感も得られましたから、一挙両得でした。
     (『ターシャ・テューダーの言葉 特別編』14ページ)

 

こんな心がけのもと、せっかくこの世に生を受けたチャンスを享受したいものだ。悪魔のささやきに乗せられて自滅するなどもってのほかである。

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1)        Tasha Tudor (1915-2008)  2008618日、米ヴァーモント州の自宅で永眠。享年92歳。

2)        200612月、メディアファクトリー刊。Wunderkammer図書室第14回で取り上げた『ターシャ・テューダーの言葉』シリーズの特別編。写真:リチャード・W・ブラウン。翻訳:飯野雅子。

3)        20096月、白泉社刊。「月刊MOE」200611月号、20084月号に掲載されたターシャへのインタビューと家族の証言をまとめたもの。写真:リチャード・W・ブラウン。翻訳協力:前田美紀。

 


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