第6回 偏見理論
1.態度概念としての偏見
1)態度概念
- 行為の心理的準備状態
- 人々の反応行動には一貫性が見られる
- 後天的に学習によって形成される
2)偏見の定義
オルポートにおける偏見の定義
「ある集団に所属している人が、たんにその集団に所属しているからとか、それゆえにまた、その集団のもっている嫌な特質をもっていると思われるとかいう理由だけで、その人に対して向けられる嫌悪の態度、ないしは敵意ある態度である」
3)偏見理論の含意
- 偏見(態度)→差別(行為)
- 個人的な心理状態
- 被差別者への敵意あるいはマイナスイメージ
2.偏見の形成
- ステレオタイプ
- 同調
- 攻撃の置き換え(スケープゴーティング)と投射
- 欲求不満の原因を被差別者に負わせる
- 自らが持つ心理的状態(悪意、攻撃性など)を被差別者の側に帰する
- 内的葛藤と抑圧
- 近代的価値観(人権・平等など)と偏見の矛盾(葛藤)を偏見を抑圧することによって解決する
- 権威主義的パーソナリティ
- 偏見を形成しやすいパーソナリティ
- 権威ある者へは服従と同調、弱者へは服従を要求し、非寛容で硬直的なパーソナリティ特性
3.偏見の修正(態度変容)
1)偏見の修正の困難さ
- 事実に基づいて形成されたものでなく、情動的側面が強いため、反証する事実によっては修正されにくい
- 抑圧によって偏見の存在が気づかれにくい
2)態度変容の契機
- 接触仮説
- 被差別者との継続的接触が偏見を減少させる
- 態度変容の契機としての内的葛藤
4.偏見の効果
1)オルポートによる偏見の表面化の5段階
誹謗、回避、差別(生活機会からの締め出し)、身体的攻撃、絶滅これらは、「攻撃」と「排除(忌避)」にまとめることができる
2)偏見の悪循環
ミルダールの悪循環図式
- マジョリティの偏見
- マイノリティの隔離、コミュニケーションの断絶
- 異なる価値観の形成、マジョリティから見たマイノリティのイメージの低下
- マイノリティの地位低下、意欲の低下、ルサンチマンの形成 →に戻る
- マジョリティに偏見の「根拠」を与える →1に戻る
同和対策審議会答申の悪循環論
- 心理的差別(偏見)による実態的差別の形成
- 実態的差別による心理的差別の再生産・正当化
5.偏見の「背景」「周辺」
- 「穢れ」意識
- 「因業」意識
- 「血筋」「家柄」意識
- 生物学的決定論と社会ダーウィニズム
- ナショナリズムとエスノセントリズム
- 性別役割分業意識
6.偏見理論の検討
1)偏見が差別の原因か?
- (個人的な)偏見がなくても差別的行為をする例 (ex.同調的な差別、無知による差別)
- 偏見はあるが差別的行為をしない例 (ex.民主的規範への服従)
マートンの類型
- 偏見も持たず人種的差別もしない人(all-weather liberal)
- 偏見は持たないが、差別をする人(fair-weather liberal)
- 偏見は持つが、差別をしない人(fair-weather illiberal)
- 偏見を持ち、差別もする人(alll-weather illiberal)
2)個人的心理状態としての偏見
- 個人的な偏見の背後には「社会意識としての偏見(差別意識)」があるのではないか。
- →日本での差別意識論、人種主義(Racism)の理論
- 偏見は何らかの理由で意図的に作り上げられたものではないか
3)被差別者の否定的イメージとしての偏見
偏見は「被差別者」のイメージか?
- 「被差別者」のイメージと「被差別カテゴリーの抽象的なイメージ」の違い
- 例えば「障害者」のイメージと「障害」のイメージ
- 女性のイメージと、「女性性」のイメージ
- これらは必ずしも同一ではない
4)練習問題
- 「結婚・出産退職をする女性が多いので女性は雇用しない・重要な地位につけない」というのは偏見によるものか?
- 「親や親戚が反対するので被差別部落出身者の婚約者との婚約を破棄する」というのは偏見によるものか?
- なにげなく「差別語」や「差別的表現」を使ってしまうのは偏見によるものか?
- セクシュアルハラスメント(例えば職場での地位を利用して性的関係を迫る)は偏見によるものか?
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