考察

 今回の調査においてわかった事をまとめてみる。

  1. きっかけの面において認証前の環境に関する組織やクレームの有無に関してはその存在が直接の要因とは一概に考える事はできなかった。
  2. 親会社等からの方針があったとしてもその認証の時期によって、事業所のもつISOに対する期待感や、その時の取り組む姿勢に多少の違いが現われた。
  3. 多くの企業にとっては市場における企業イメージの向上よりも、地域住民や自治体に対する配慮の方を強く考える傾向があった。
  4. まだ国内・国外の市場においてはISO14001の認証というものは取引の条件としては大きな要因とはなっておらず、きっかけとしてはその影響はあらわれていない。(しかし、今後については大きな要因となると考えている企業が多い。)
  5. 認証を得ている企業の業界が大きく方よりがあり、今回の調査においてはそれらの企業の経営形態による影響を強く感じる結果となった。
  6. 環境マネジメントシステムの構築に関しては、きっかけとしては多くの企業が重要視していなかったようだが、教育の面に関しては、モラルや環境意識の向上に関して認証後、大きく評価している。
  7. 企業はISO14001の認証を得る事によるメリット面を考慮する傾向よりも、今後認証を得ていない事でのデメリットを考えている傾向がある。
  8. ISO14001認証企業による製品に関しては市場としては大きな反応はなく、企業側も大方それに期待していない傾向がある。(特に電気・電子、機会関連企業)
  9. 教育に関してはその方法により従業員の意識に違いが現れた。環境問題に対する基礎知識の教育を徹底した企業や、環境カード等の補助教育を実施した企業の従業員には企業内外において顕著な変化があらわれていた。

 各項目についての解説

  1. 環境に関する組織はそのほとんどが緊急時においての実行性に重視する傾向があり、実際にそれらの環境組織が常駐し、ISOの認証に際し助言や必要性を説いたような形跡は見られない。これらの組織は事業所単位で存在するものであり、その発言力に乏しいようであった。一方企業グループとしてその組織が存在し、常駐しているような企業ではその活動は重視されている傾向にあり、ISO認証にあたっても各事業所にその要請を行うなどをしていた。これは多くがきっかけの部分での親会社等からの要請の部分から見て取れた。
  2. 親会社からの方針についてはそのほとんどの企業があったと回答があったが、グループ内でも早くに認証を得た企業に関しては先立った例として認証を要請した観もうかがえる。その後にはその例を各事業所に伝え、参考にする形で認証を進めたようであり、親企業としてもそのような事業所に対しては「取得は当然の事」として方針に加え要請した様にうかがえる。
  3. 多くの事業所にとっては市場というものはさほど「近い存在」ではなく、重要視していない様である。逆に地域住民や、自治体といった存在を視野に入れた企業イメージというものを重要視していたようである。
  4. 国内外を問わず市場(企業間取引)においてISO14001の認証というものはさほど取引の条件としては重要視されていないため、その影響というものはほとんどなかったようである。海外(欧米)に製品を輸出している企業の回答を見ても現在においては支障無いようである。しかし多くの企業は今後についてはISO14001の普及などに伴うグリーン調達の浸透などに対し、危機感を抱いており、将来的には企業感取引を問わず、一般の市場においても環境に配慮していない商品が敬遠される時が来ると感じている。
  5. 今回の調査対象となった企業が、実際の日本国内におけるISO14001認証事業者の業界割合、と同じく電気・電子、機械関連の企業が多くなったため、その回答にも電気・電子、機械関連の業界の特徴である各部品の分社化形態の影響が強くあらわれた。
  6. 環境マネジメントシステムについては、その効果が実際にコスト面やシステム面に反映するといったことよりも、従業員における教育に重要視した傾向がある。コスト面やシステム面に関しては認証前の状況においてはその効果を疑問視する企業もあり、実際は認証した後でその結果がうかがえるだろう程度に考えていた企業が多い。
  7. 早くに認証を得た企業は「他に先駆けて認証を得た」事によってその企業イメージの向上に期待していた感があるが、その後に認証を得た企業に関してはメリット面よりも、「今取っておかないと今後デメリットとなる」という考えがある。これは先立って取った事でのイメージ向上を望めない事による所と、業界内で盛んに取得を進める現状において、「取り遅れると大変な事になるな」といったような危機感があらわれているものと取れる。
  8. これは今回の調査対象が特に市場から遠い位置にある企業が多かった事によるところが多い、また一般の市場においてもISO14001というものに対する認知度がまだ浅いという考えが企業側にある事もその要因となっている。
  9. 環境問題についての基礎知識は企業内の活動にかかわらず日常の生活範囲にまでその影響があったようであり、従業員内に常に「環境」というものに対する認識を生んだものと見られる。また環境カードや、テスト、アンケートなどは従業員に対し再度その責任感を問う形になったようであり、個人目標の記載などは、個々の活動の活性化を生んだものと考えられる。

 全体的には、本社やグループとしての方針という意見が多く見られたが、ここには業種や事業所の立場のような現実的な要因が背景として関係しているようである。特に言える事は現在取得している業種の半数が電子・電気、機械関係の産業であり、その製品に使用されている部品、源材料の生産がグループ内で分社、分業化されているという現実である。製品に対し環境の配慮を要求するという事は、使われる部品一つ一つに対し環境に配慮してある必要があり、必然的に各分社、工場にその要請があったものと思われる。また、市場から遠い位置に属するそれらの企業は製品に対するイメージの向上の期待を希薄にさせる結果を必然的に生み出しもした。逆に、サービスや建築、製品の最終工程に属する企業からは商品や企業に対するイメージの向上に大きく期待し、取得のきっかけの大きな要因となっている。実際に開発に携わっている企業からはその開発の状況と、その商品に対する市場の反応を回答してくれた所があった。

 一方 化学薬品を多く使用する紡績、化学といった業界は、それらの環境側面の管理、緊急時の対応システムの必要性からISOの持つ環境マネジメントシステムの必要性が大きな要因となっている。これはISO9000sにはない、環境側面の特定、それらに関する法規制等のリストアップによる従業員の教育の徹底という意味を含んでいる。今後環境問題に対する関心が市場で高まる事が予想され、環境側面物質に関する事故の発生、その対処に対し厳しい反応があるだろう。この時その事故に対する企業の責任は大きく問われ、多くのデメリットをこうむる事になる。現代の環境問題に対する取り組みは、そのような危機管理に対し厳密な対応が要求されており、その体制作りが急務と捉えられているように考えられる。

 ISO14001に対する認識については大きく意見が分かれているように見られる。地域社会や自治体に「環境に配慮している」という所を示す手段として捉える傾向が強い。それは現代の産業界においてISO14001の認証というものが一番効果的な「環境問題に配慮している」という事を示す手段であるからである。それに対し対外的な方面ではなく企業内、従業員に対し「環境に配慮している」事を示す事を考えている企業もある。これは認証のきっかけが会社(親会社等)の方針により取得した企業に多く見られたが、対外的なイメージにはそんなに大きく効果は期待していないが、認証を機会に従業員内に環境に関するモラルの向上と、システムの定着を期待しているというものである。これに関してはマネジメントシステムの所でも述べたが、この様な意識の浸透は今後の企業の活動においてきっかけとなり、何らかの効果をもたらすだろうという期待の表れであり、特にISOだからというものではないように見受けられる。もうひとつはISO14001をはっきりと「環境に対して効果がある」と認識した企業である。これはごく少数であったが、企業がISOの取得を進める事は環境によい事だという認識からきたものである。特に業種や会社の形態に違いや傾向は見られなかったが、早い時期に認証を得た企業にこの考えがあらわれている様に見受けられた。私が感じた事だが、この考えは認証を得た後の期間が長い程その企業が出ているのではないかと感じた。早く取得したという意識よりも認証を得てからの環境に対する意識の発展の結果そのような考え方が生まれてきたように感じられたからである。

 活動の方面に関してはだいたいの企業が省エネルギーと廃棄物の二点に重視している。省エネルギーに関しては特に紙や水、燃料など細部にわたりその使用量の確認、使用方法の改善を行っている。これにはいくつかの原因が考えられる。まず大半の考えはその実行者が従業員全員にわたり、新たなる設備投資や、人員などの設定が不要であり、一番手近なレベルの問題に属している事が挙げられる。認証に際し企業には従業員に対し環境に対する教育が義務付けられており、この様な手近な所の改善は環境意識の定着にはきっかけとして一番適していたとみられる。またコスト面からいっても消費を控えるという点で効果が期待できる方面であり、省エネルギー意識の定着は重視された様に見受けられた。廃棄物の管理、分別に対しても同じ事が言える。これはコスト面の部分では一見あまり関係しないように見えるが、「今後お金を払えば捨てられるという時代ではなくなる」という意見があった事にも表れているが、廃棄物をどう減らす、リサイクルするという所は、「資源を使う」事よりもコスト面で大きく影響していくことが予想される。今の段階での廃棄物の管理システムの構築は今後の企業活動にとって重要事となってきているのではないか。

 他によく見られたのは周辺環境の改善という活動である。これは企業事態の利益にはならないものである。木を植えた事が実際に企業の活動にどう影響するのかと言われれば私には計り知る事ができないが、これはきっかけの所で見られた傾向から考えると、地域の住民や自治体に対するイメージ作りや、従業員のモラルの向上という面で行われているのではないかと予想される。ボランティアという事も考えられるが、今回の調査においては「環境に対する取り組み」としてではなく「ISO認証に際しての取り組み」と聞いているので、ボランティアでしているとは考えにくい。

 教育の面においては先に述べたようにいくつかの手順、方法が見られたが、教育を行う範囲については当然であるが従業員全てにわたっている。集合教育を行った企業に関しては「環境」というものの基礎概念から教育し、なぜ今環境問題に取り組まなければいけないのか、その必要性を訴える所が多い。これは実際に環境に関する取り組みを行う上で、この知識、意識の浸透が基本であると考えた事が見受けられる。またこれらの教育に加え、テストやアンケート、環境カードの様な個人目標記入を実践したところもあり、企業がいかに従業員の教育、意識の改革を重要視したかがうかがえる。ある企業では、常駐の協力会社(食堂の従業員)に対してもその協力を要請し、事業所全体での意識の浸透を強く推進した企業も見られる。

 ISO認証というものが基本的にトップダウン(経営層から従業員へ)のものであるのに対し、その活動が従業員の協力無しには実行できないという現実があるからであり、どれほど従業員がそれを理解し、実行して行くかによって、ISOの持つ効果に大きく違いが現れると考えられた事が見受けられる。

 反対にこの従業員の教育に関して積極的に行わなかったと思われる企業には共通点がある。それは集合教育という形ではなく、各セクション代表者(責任者)の教育を行いその代表者が各セクションでそれぞれ教育を行うというものである。これには業種やその会社の規模といった違いではなく、その企業内の仕事が多岐にわたり、一概に共通の教育が行えない現実もあったように見受けられる。この教育方法に関しては「環境」というものの概念などに関しての教育がどう行われたのかについては分からないが、この方法を行った企業に関しては企業内にアンケートや環境カード等の「全従業員全体で行う活動」というものはあまり見られなかった。この事は日常生活の面にも現れているのか、前者の教育方法に比べ、目立った活動実態の回答はなかった。