調査の回収に際しての状況

 アンケートの回収に関しては、送付した翌日の9月21日辺りから3日間は1日3通から5通の返答があった。その後1日1〜2通という回答頻度で、10月10日近くの2,3日には一斉に回答があった。10月8日に督促状、感謝状をFAXにて送付し、10日を過ぎた4,5日も回答があった。なかにはFAXではなく、大学に直接送付していただいた企業も2,3件あった。

 最終的な回収数は37通であり、88通の送信に対しての回収率は42%となった。送信企業の業種割合、回収企業の業種割合は以下の通りである。

業種

全体集計(%)

JAB集計(%)

配布企業(%)

回収企業(%)

配布企業数

回収企業数

電気・電子

34.7

36.2

39.8

35.1

35

13

機械

10

7.7

15.9

13.5

14

5

化学

8.6

8.6

9.1

10.8

8

4

金属

5.9

6.6

5.7

5.4

5

2

建設

4.8

5.4

6.8

8.11

6

3

ゴム・プラスチック

4.1

5.1

2.3

2.7

2

1

サービス

11.5

12.3

6.8

10.8

6

4

その他

20.4

18.1

13.6

13.5

12

5

88

37

回収率

42%

(注)この表において、全体集計とされているのは19999月現在での日本国内におけるISO14001取得企業の業種割合であり、JAB(財団法人 日本適合性認定協会)公表分というのは、その分類に基づきJAB適合供給者認定範囲別件数であり、その数は前体集計に内する。

 各業種の分類はJAB適合供給者認定範囲に准じたものとなっている。

 配布企業数、回収企業数、割合については、私の知識に沿って分類したものであり、前述のデータとは厳密に比較できるものではない。

 質問紙の配布企業、回収企業についても全体集計、JAB集計の業種別割合とは大きく違わない結果となり、今回の調査が全国調査と比較してもデータの点では大きく偏りがないものといえる。

 この表を見てもわかるが、日本国内においてISO14001の認証を得ている事業所の業種別割合では、

電気・電子関連の業種の割合が最も多く、次いで多くなる機械関連の事業所数と合わせるといずれの統計結果においても約半数の割合になる。

 これらの業界は主に製品自体の完成を専門とすると言うよりも、その製品の各部品の製造を担当する事業所が多い。この事は後のISO14001の認証におけるきっかけや認証後の効果に対する期待感の点などで大きく影響してくる。

 また、金属、ゴム・プラスチック関連、化学系の業界は割合こそは少ないが、原材料の生産や、化学薬品を多く使う事に関連して先の電気・電子、機械関連とは違った捉え方が見られた。

 

 アンケートを記述式にしたため回答の内容に質問紙に対する解釈の食い違いが現われた。その質や回答の量は様々であったが、電子・電気関係の企業の回答は内容が皆横並びな傾向が感じられた。他に、スポーツ用品関係の企業では早くから本格的な環境に関するプロジェクトが存在し、その関係からか具体的で熱心な回答を頂いた。

 その回答のきっかけの部分を抜粋すると

「今までは、スポーツ用品業界は国内外で商品取引でグリーン調達の対象になりにくい業界でした。即ちISO14000sの取得も商品取引の条件にはならないので危機感はありませんでした。但し、今後は学校関係及び官公庁ではグリーン調達の条件になるかもしれません。」

 との回答があった。また、

「スポーツ用品業界は、顧客からは企業姿勢より機能やデザインの方が期待されるので、取得によるイメージアップはあまり期待できないと考えています。ただ、取得後、マスコミ等の要請で新聞、テレビ、講演会で紹介の機会を頂きましたので、多少はイメージアップができたかもしれません。」

といったように、回答に対し、自社及び業界の立場などの周辺の環境に至るまでを書いていただき、自社の考え方とその後の状況などの細かいところまでの意見を頂けました。

 この様な回答は数件でしたが、アンケートの質問項目以上に情報を頂けた事で多く参考にさせて頂きました。この様な回答を頂けた企業はここに挙げた企業を含め、ISO14001の認証以前から積極的に環境に対する活動を行っている事が多く、今回のアンケートにおいてもその存在をアピールされている事があった。

 また、ISO14001の認証をイメージの向上の面で大きく期待している企業ほど、回答の内容についても確かな表現であったように思われた。

 

アンケート調査前の仮説

 企業がこの不況の時代にISO14001の取得に走る理由として、私はある程度仮説を立てて質問紙を制作した。それはこの調査のきっかけともなったドキュメント番組の中で感じたものである。

 企業は昨今社会問題としてとりざされてきた環境問題というものを、環境に配慮しようと考えを主におき、ISO14001の承認を選択したのではなくISOの取得がこれからの国際的な市場の中では、取引の条件として挙げられるようになり、一種の戦略的な価値としてその認証を必要としたのではないか?  企業というものが、時間と労力、新たな設備投資をしてまでISO14001の取得を必要としているのは結局は今後の企業活動として利益を生むと考えたものであり、環境に配慮した考えというものだけで取得したものではないと考えたのである。

 実際今回のアンケートでは、そのきっかけの部分と、取得後の各方面への変化を問う質問項目に重点をおいた。

 取得、認証のきっかけについて (全体的な傾向)

 きっかけについては、質問紙の項目のA・Bの部分から考察した。

 環境に関する組織・クレームの有無については有効な回答のあった企業数は32社であり、そのうち環境に関する組織があると答えたのは28社であった。組織といってもその規模や、対象とする環境問題は様々であった。法律に定められている程度の小規模の対策班を設置し、ほとんどの人員は兼任というかたちで配置されているのが現実であった。またクレームの有無は、有りが12件でありそのほとんどが騒音や排水汚濁ついてのものである。またクレームがあった企業のその解決法、対処については環境に関する組織が担当したというよりもクレームが解決した後にその組織ができたようであり、実際はクレームのあった時には活動してないというのが殆どである。実際問題が起きた時に対処する組織は有るが、専門組織の実態は見られなかった。当初クレームがあった企業、事業所ほど認証を得ようとする傾向があるのではと考えていたが、クレームの内容、その対処方法などから見ても直接ISO14001を取得したから関係するような内容ではなく、地域住民との協調や自治体との良好な関係の維持のために認証を得たというように見られた。

 親会社、取引会社からの要請はあったかについては、有効回答は35あり、その63%にあたる22社は親会社もしくはグループの方針であるとの回答であった。しかし、その取得の時期により、微妙にその実態は違っているようであった。1997年中の認証を得た事業者については、ISO14001の認証は1999年時に比べ、グループ内での義務感はなく、かえって新たなる分野への挑戦といったように思われた。

 例えばこの様な挑戦的な要素を持つ事業所に見られた主なる傾向については、

1最高経営層の取得意思の決定から環境目標発表、キックオフまでの期間が長く、その間に行う環境に対する基礎調査、自社の状況把握などに多くの時間を割いている。

2活動の内容に関しても、早い時期の取得であったため、前例が少なく、自社独自の活動などが多く伺える。(周辺環境のゴミ拾い、緑化運動等)

ISO14001の取得マネジメント機関(第三者機関)からの講師を招くなどの社外機関の協力が多く見られる。

 確かにその取得に関しては方針として、親会社、グループから要請はあったものの、早い時期だった為、事業者の環境に対する自主的な意識の発展も強く見られた。 またISO9000sの取得を過去に行っている企業についてはその組織がISO14001に対しても継続してその活動を行い親会社等からもそれを要請されたようである。

 自社方針としては10社の回答があり、電力などの公共的な要素を持つ企業や、グル−プではない単体の企業がその殆どであった。中には経営層に環境問題に対し熱心な人物がいてその活動を勧めたという意見もあった。自社方針として認証を進める企業の理由には多少だが環境に対する責任感の存在が確認された。取引先などからの要請については、実際はISO14001の認証が取引に直接条件として挙がる事がないようであり、きっかけとしては殆ど見られなかった。

 環境についての配慮があったかについては、その殆どが企業として活動するにあたって、何らかの配慮が必要と感じており、今後の活動に至っては環境に配慮していなければ必ずデメリットを生ずると感じているようである。しかし、ここで見られた環境に対しての配慮というのはあくまで自社の利益を追求するという目標の基での企業活動上の条件の事であり、実際の世界的な議論となっているような環境問題に対する意識とは幾分の違いが感じられた。ここで言うデメリットとして挙げられたものには、「行政のグリーン購入の推進に伴う市場の制約」「周辺地域との協調関係に障害が現われる」「取得していない事による企業イメージの悪化」等である。中には「欧米市場(特にヨーロッパ)における商品輸出に障害が出る」という意見もあった。この意見は私がこの調査を行う前に考えていた予想と一致した。ヨーロッパにはISOより以前にEMASが存在し、ISOに関してもこの規格に大きく影響を受けている。実際環境に関する規格の殆どはヨーロッパが起源であり、その浸透率も高い。現にISO規格は日本が事業所別では世界で一番多く認証を得ているが、EMASを含めるとヨーロッパの規格の浸透率日本を抜き非常に高くなっている。環境問題に厳しいヨーロッパの市場で活動するには環境規格というパスポートは必ず何らかの影響を持つだろうと考えたのである。しかし、今回の調査では実際に商品を欧米に輸出していないもしくは、その企業の管轄ではない為か、意見としては少数であった。実際にヨーロッパの市場において環境規格がどのような存在であるかという所は窺い知る事ができなかった。

 競争意識についてはその認証の現状がまだ発展期にあり、認証を得ている、得ていないという比較が先ほど述べたようにさほど取引などには影響しているわけではないので、実際は「業界内で先んじて認証を得る」という所にその重点がおかれているように思われる。競争意識の項にも、今後のグリーン調達の拡大によって、官公庁などに対し、取引の条件に挙げられる可能性があるためという意見があった。

 ISOが持つマネジメントシステムによる 企業内での効率的なシステムの構築に関しては、きっかけとしては考えている企業は少なく、回答としても約半数にも満たなかった。コストの削減や生産性の向上は考慮しているものの、実際は認証した後にその効果が問われるものであり、取得前の状況では企業としても大きな魅力として考えてはいなかったようである。しかし、今後このマネジメントシステムの効果には関心があるようであり、恒常的なシステム構築という観点で、環境問題から離れた観点で期待するという回答も多々あった。また後に従業員の教育に関係して述べるが、環境マネジメントシステム構築に伴う従業員の意識、モラルの向上を期待したという意見も見られた。これには認証の際にある外部機関の監査や後の内部監査によって従業員内に、システム経営の導入、継続を図るという期待があったと見られる。

 イメージの向上に関して言えば、大きく期待しているという回答が半数、逆に期待しないという回答が半数であった。期待すると答えた回答の内容は地域自治体や、周辺住民に対する信頼関係の向上に期待するという回答が約7割であり、逆に、生産する商品、サービスに付するイメージについては期待していない、若しくは疑問視する企業が多く、グループ内で製品の中間工程に属する企業など市場から遠い製造企業に関してはその傾向が強くあらわれていた。期待しないと答えた企業は主に電子・電機業界に多く、背景には各業界における取得に対する温度差があると思われる。電子・電機業界では競って取得している傾向にあり、現在では認証を得る事のイメージ面のメリットより、今後取得してない事へのデメリットを考えた回答が多く見られた。

 下に示した表はUNCRD環境マネジメント協会が199710月に愛知・岐阜・三重・長野・静岡・滋賀の6県に行ったアンケートから一部抜粋したものである。106配布61回答 

 (表2

ISO14001導入・実施の目的

回答割合(%)

企業イメージの向上

80

従業員の環境意識の向上

80

環境に配慮した企業活動への転換

77

環境リスクの回避

77

自治体や地域社会との良好な関係づくり

57

コスト削減

52

既存環境マネジメントの改善

31

生産性の向上

31

新規国際市場の開拓

10

新規国内市場の開拓

その他

(表2)は今回の調査とは別にUNCRD環境マネジメント協会が行ったものであり、ここではきっかけの部分の回答だけを今回の調査結果における傾向を補う形で載せた。

 今回の調査では「企業イメージの向上」に関する期待感はここまで大きくはあらわれなかったが、「従業員の環境意識の向上」や「自治体や地域社会との良好な関係づくり」という点においてはその傾向は一致していると捉えている。逆に今回の調査においてもほとんどあらわれなかった「新規国際・国内市場の開拓」という点やマネジメントシステム(生産性の向上)等といった点ではこの表からもきっかけとしては大きくとられていない事がうかがえる。

 この表であらわされている「環境に配慮した企業活動への転換」という項目は今回の調査では具体的に項目として質問紙に設けなかったため、その意識の存在の具体的な量は計り知る事ができなかったが、

実際の回答には「今後企業として当地で操業していき続けるには環境に配慮した企業活動への転換は必要」「今後環境に配慮していない企業は残っていけない」などという意見も多くあった事から、この点においても今回の調査ではきっかけの部分で関係しているのではないかと言える。(環境に対しての配慮の部分として考慮)

 また「環境リスクの回避」という項目に関しても質問紙には設けなかったが、それに関した回答はマネジメントシステムの項目及び実際の活動内容の項目にあり、各々考慮した。

実際の活動の概要

 質問紙においてはCの項目である。ISO14001の概要の部分で述べた事だが、最高経営層は環境方針をそれぞれの企業活動に則した内容で設定し、その方針を達成する為の具体的な活動とその継続が義務付けられている。その企業の持つ環境側面と環境影響を確認し、しっかりとした組織を作り、それに対処しなければならない。その対処は定期的に企業内で点検確認し、その改良、改善に至るまでを全てシステム化しなければならない。またそれらの方針活動は、全従業員に理解され、教育される事も義務付けられている。

 今回のアンケートでは、特に従業員に対する教育の方法とその従業員の日常の業務に深く影響する活動の内容に注目した。

 主な活動内容

 ・廃棄物の削減、管理の徹底 ・リサイクルの促進 ・省エネルギーの実践

 ・省紙、ペーパーレス活動の推進 ・環境側面物質の管理 ・環境に関する製品の開発

 ・騒音、振動などに対する対策の実施 ・周辺環境の改善(緑化,ゴミ拾い)

この中で殆どの企業の回答に見られたのは 廃棄物の削減、管理の徹底 リサイクルの促進 省エネルギーの実践 省紙、ペーパーレス活動の推進 であった。

 これらの活動は特に業種や業態に関係なく、全従業員に公平に活動の参加が必要なものという共通点がある。しかしこれらの共通点に反し、企業がこれらの活動を進めるにあたってどのようにその参加を促し、教育したかによって従業員のその活動に対する反応、自主活動の現われに微妙に違いが見られた。

 教育方法

教育方法については幾つかの傾向が見られた。

パターン1 回答数14社 41.2

 全従業員に対する(時間外)集合教育 及び 責任者や著しい環境側面をもつ職場の従業員に対する専門教育(訓練)

パターン2 回答数7社 20.6

 責任者、各課の管理者による専門教育の後、その責任者による各セクションごとの従業員に対する一般教育

パターン3 回答数7社 20.6

 パターン1、パターン2に加え、環境カード等の自己目標携帯の実施

パターン4 回答数4社 11.8

 パターン1、パターン2の加え、テストやアンケート、インタビュー等の実施

その他2社 (回答数34社)

の大きく4つに分けられた。もちろん、いくぶんの重複、認識の違いはあると思われるが、パターン1と2についてはそのどちらかの方法は必ず実施され、環境カードや、アンケート、テストに関してはそれらの基本的な教育の実施のうえに更なる教育の実施という形で行われる傾向があるように見られた。

 その他の回答については具体的な教育方法が書いてなかった。「ISOの教育手順にて准じ教育を実施」等。

 教育方法とその後の結果

パターン1と2に関してはそれぞれの従業員の参加意欲や、環境に対する意識の向上に大きな違いは見られなかった。ただ、集合教育を行った時に、環境問題についての基礎知識や、その必要性などの教育を受けた事により、個人単位での環境配慮の意識の向上等が見られたところもあった。個人的な環境意識の向上の現れとしては、各家庭単位でのごみの分別の実施が定着した等である。

 パターン3や4に関しては全体的(組織的)な活動以外に、個人に対し何らかの活動及び努力を促す事になった為か、省エネや紙の使用量削減、廃棄物の管理(ゴミの分別)などの活動に企業の思惑以上の結果を生み出したようである。また、アンケートやインタビューなどで個人的な意見や感想などを聞いていると思われる。それはこの様な教育を実施している企業の回答には、質問紙のC2bの回答(取得に際し従業員の方々の意識にはどのような変化が現れてきましたか)にたいし、「各家庭でのごみの分別や省エネルギーの意識が生まれた」や「従業員の日常の生活においても環境に関する活動の存在を確認している」といったものがあった事からうかがえる。この様な回答はパターン34の教育を行った事業所に顕著に現われている。

 私は今回の調査ではISO14001の認証に際し、従業員に企業内において環境に関する自主的な活動が生まれているのを期待していた所があった。しかし、回答の中にはそれらしい活動の存在は確認できなかった。しかし、先に述べたように組織の活動内での従業員の意識の向上が表れており、日常生活の範囲での個人的な環境配慮活動の存在も確認できた事で、今後何らかの発展につながると期待したい。

 全体的に環境教育に際し、従業員のモラルや能力の向上につながったという意見はあり、教育方法や、その浸透性には大小が見られるが、個人単位への環境の知識が広がったことは企業活動内にとどまらず、日常生活での環境問題への理解につながったと思いたい。

 ISO14001認証後の変化

 質問紙ではD・Eの項目で聞いている。Dに関しては主に今後の企業の活動に関して聞き、Eでは対外的な反応について聞いた。

 企業内の活動の変化については約8割の企業が変化はないと答えており、企業に活動に関しては「環境に対し配慮しつづけるのは当然であり、その事によって経営方針が大きく影響するものではない」という意見が殆どであった。また電子・電気関係の業種では商品の開発や販売に関して関与してない事もあり、「工程や、作業内容に関しては大きく影響する分野ではない」との意見もあった。これは変化があるという回答があった企業がサービスや消費者に近い企業、素材関係の企業に多く見られた事によって裏付けられる。企業内での活動の変化とはイコール商品、製品に対しての現れであり、製造の中間に位置する企業にはその変化が容易ではないようである。