国際規格の歴史とその広がり

 国際規格について説明する場合、最初にどのような規格があるかを話さなければいけない。それはその標準化の適用される産業、業種、地域などによって大きな違いがあり、それらを管轄する機関等もさまざま存在する事になるからである。

 各企業、工場内で使われているものは一般に社内規格である。またそれが業界や、グループ内で使用されるものになると団体規格といわれる。国家内では国家規格、それがアジア地域や欧州地域などの広範囲となると地域規格と呼ばれる。地域規格としては、欧州で電気工学、電子工学を除くほかの分野の標準化を進めるCENなどがある。国際規格とは地域を越え、産業全体で使用される規格を指すものである。現在国際規格として一般に知られるものには、ISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準会議)などがある。国際規格は、電気技術の分野から始まり、国際電気標準会議(IEC)が、1906年に創設された。電気以外の分野での標準化の先駆的業務は1928年設立された ISA(万国規格統一協会)によって実施され、機械工学の分野に重点が置かれていた。日本からは、時の特許標準局の工業品規格統一調査会(日本標準規格JES)が加入していた。ISAは、1930年代末期において、戦争の脅威の増大とともに数ヵ国の会員がISAから脱退し、 1942年に至って公式の活動を停止した。 1944年には、連合国の18カ国の国家標準化団体によって構成される国連規格調整委員会(UNSCC)がISA の業務を引き継ぎ臨時の戦時機関として活動した。 UNSCCは、1946年10月14日ロンドンで会議を開催し、”工業規格の国際的統一を促進することを的とする新しい国際機関を設立することを討議した。その結果としてISOが設置され、第1回臨時総会が、 1946年10月24日ロンドンで開催され1947年2月23 日正式に発足した。日本も1946に制定されたJISC(日本工業標準調査会)が、1952年にISOに加盟し、翌1953年にはIECに加入したことによって日本における標準化活動がJISCを中心に展開して行く事になる。

ISOの機能と構造

ISOの目的

 ISO は製品やサービスの国際交流を容易にし、知的、科学的、技術的及び経済的活動分野における国際間の協力を助長するために世界的な標準化及びその関連活動の発展促進を目指している。 ISOは、国際規格の制定作業に生産者、使用者(消費者を含む)、政府及び科学団体の利害を反映させている。

会員資会員資格

 ISOの会員団体(member body)は、各国における最も代表的な標準化機関とし、1カ国から1機関だけが会員資格を認められる。標準化に関する組織が十分に整備されていない国(その大部分は発展途上国)の場合はISOに通信会員 (correspondent member)として加入することができる。これらは、ほとんどすべての場合政府機関がなっている。さらに、経済規模が非常に小さい国のために、第3のカテゴリーである購読会員(subscriber member)を設置している。我国は、日本工業規格(JIS)の調査、審議を行っている日本工業標準調査会(JISC)が、1952年4月15 日に閣議了解に基づいて加入している。

財政

 ISOの国際規格作成業務に必要な資金の主たる部分は、当該TC(専門家委員会)やSC(分科委員会)の幹事国(Secretariat)自らの負担となっている。 ISOの業務全体を包括した経費を正確に表すことは難しいが、1998年の総経費は約1.5億スイスフランであった。 ISO中央事務局の経費は、そのおよそ20%にあたる約30百万スイスフランであり、この約63%にあたる 19百万スイスフランがメンバーの分担金によって賄われている。31%が規格などの出版物・ロイヤルティーの収入であり、その他が6%となっている。

ISOの地位

 ISOは非政府間機構である。ISOは、スイス民法第60 条及び関連条項に従って、スイス国における法人格を保有している。 ISO会員の約70%以上は、政府機構又は公法(Public Law)で規定された法人組織である。その他の会員は、それぞれの国において、すべて公共の行政機関と密接に結びついている。 ISOは、国際連合(経済社会理事会:ECOSOC)及び関連のある国際機関、及び国連専門機関での諮問的地位を有する。

ISOとその他の標準化機関との関係

ISOとIEC

 ISOはパートナ一であるIECと非常に密接に協力している。1976年に結ばれた協定では、それぞれの責任をIECは電気工学と電子工学の分野を扱い、ほかの分野はすべてISOが扱うとしている。

 両機関の協調関係は、1986年故山下勇氏がISO会長に就任後、積極的に推進され、具体的に形で現れるようになった。その第一歩がISOとIECの共通専門委員会であるJTC1(Joint Technical Committee1:情報技術専門委員会)である。

 これがきっかけとなり、相互の作業手順がIEC/ISO Directive,規格に関連した項目を補足する多くのガイドがISO/IEC Guideとして共通に発行され、両者の規格制定過程に至るまでの協調関係が進展している。これにより、相互に興味のある主題などの開発に際しては、共同の作業プログラムが設けられ、効率のよい国際規格の開発が保証されることになった。ちなみに、両機関の中央事務局はともにジュネーブの同じ建物にあり、協調関係はますます加速されることになると思われる。

ISOとCEN

 ISOは地域標準化機間とも密接な協調関係をもっている。特にヨーロッパにおける電気工学、電子工学を除くほかの分野すべての分野の標準化を進めているCEN(European Committee for Standardization)とは密接で、イギリス,フランス,ドイツなどCEN加盟国19ヶ国の加盟機関であるBSI,AFNOR,DlNなどがそのままISOの加盟機関でもあるため、当然ヨーロッパの地域標準化はISOに準じた規格の開発にならざるを得ない。そこでISOとCENの間で、規格開発における相互の技術協力に関するウィーン協定が結ばれた。

 その目的は、相互に規格開発の作業状況の情報を提供しあい、同じ主題での規格開発の重複を避けながら、互いの整合を図ろうというものである。

その他の機関との協調

 ISOもIECも国連の一部ではないが、国連の専門機関とは多くの技術的な協力関係がある。具体的には、国連の経済社会理事会(BCOSOC)における諮問資格を持ち、国連の他のほとんどすべての団体や専門機関においても、これと同等の資格を有している。

 国際通信連合(ITU)、世界保健機構(WHO)、国際食品、農業機構(FAO)、国際原子力エネルギー機構(IAEA)などとは国際標準化に積極的にかかわっている。またISOのTC及びSCと連絡のあるその他の500の国際組織について、その一覧がISOリエゾン(ISO Liaisons)として出版されている。

日本のISOへの参加

ISOへの参加

 前にも述べたように、ISOには1国から1標準化機関のみが参加しているが、日本からは日本工業規格(JIS)の調査、審議を行っているJISCが1952年に加入している。

 1957年にはJISC(日本)は初めて理事会メンバーに選出され、また1969年から1979年まで4期連続して理事メンバーに選出されていたが、1979年の総会においてDIN(ドイツ)とJISCは、ANSI(アメリカ)、BSI(イギリス)、GOSTR(ロシア)、AFNOR(フランス)と同様の常任理事会メンバー扱いとなった。1993年の第16回総会においてISOの機構改革が承認され、理事会メンバーの選出方法が変わったが、JISCはこれまでと同様常任の理事会メンバーとなっている(現在、ロシアは常任理事国から外れている)。また、1985年にはISO総会も東京で開催し、さらにこの東京総会においてISO会長に故山下勇民が選出され、1997年のジュネーブ総会においては、青木朗氏がISO副会長に選出され在職している(政策担当副会長:1998年、1999年)。また1971年からは、ISO,IECを中心とする海外の規格制定動向を把握し、技術情報を収集するためのISO,IECとの連絡、ヨーロッパ地域などの標準化機関との接触、重要な会議への出席などを通じた日本の対応などの目的で、日本規格協会と日本貿易振興会(JETRO)が協力して、ISO,IECの中央事務局のあるスイス・ジュネーブに工業標準化の専門家を常駐させている。

(2)国際規格作成への参加

 1998年1月1日現在において、ISOの規格開発のための技術分野の数、つまり専門委員会(TC)は184、分科委員会(SC)は597を数える。これらに対して、JISCが積極的に規格開発に参加・貢献(Pメンバー)しているTC,SCは約500である。

また、JISCは各TC,SC及びWGの幹事国(WGの場合はコンビナー)を98年3月現在TCで7、SCで19を引き受け、この分野の規格作成作業の中心的役割を担っている。さらに、ISO/IEC JTC1(情報技術専門委員会)については、19のSCのうち四つの幹事国を引き受けている。

(3)ISOとJISとの整合化

 ISOなど国際規格が存在する場合、各国の国家規格をそれに整合させ開発していくことは望ましいことである。ただJISの場合、ISO規格が

  1. JISのカバーしていない農業分野があること
  2. 製品規格が少ないこと
  3. 過去にヨーロッパを中心に開発されたこと

などから、ヨーロッパの各国に比べて整合化率は低いのが現状である。

 しかし、JISCではISO,IECの国際規格にJISを整合させて開発するため、ISO,IEC規格開発のための審議を行う委員会とJISを審議する委員会をできる限り一致させ、国際規格の動向をJISに反映させるために、平成7年度から、国際整合化3ヶ年計画を立て、約2000件を対象に国際整合化作業を行った。

 規格作りにも一考を取り入れ、規格の様式を国際様式に改め、国際規格をそのまま翻訳してJISにする翻訳規格(例:Z9900シリーズ,Ql4000シリーズ 他)や、要点のみを日本語で規定し、具体的な事項はISO,IEC規格そのものを原文のまま参考として採用する要約規格なども制定されている。