第5章 総括

 この卒業論文では移動体メディアの使われ方に見られる現代の若者について考えてきた。アンケート調査の結果からは、周りの影響などを背景にポケットベルからケータイの移行があったことや人間関係に変化があったことが分かった。この移行の中でポケットベルの役割をケータイの文字通信が担い、ケータイ(で話すとき)は電話をしてそれで終わりというわけではなく、次に人と会うための手段として用いられる傾向にあるということが分かった。このことや友人関係について尋ねた回答などから、一般に言われているような人間関係が希薄だとか、淡白だということとは反対で、若者が人と直接会うということに積極的になっているということがいえた。また、若者は自分が持つ移動体メディアをポケットベルからケータイへと変えたことで、人間関係がより幅広く活発になってきていた。この背景には、親しい友人との関係を大切にする一方で、番号表示サービスでコミュニケーションの選択をして人間関係を円滑にしながら、あまり親しくない友人や多方面の友人とも付き合っているということがあった。そして、このことからは若者は親しい友人とそうでない友人とを明確に区別しているのだともいえる。ケータイを持つことで安心感をもてるようになり行動が自由になったという意識の変化からは、若者が1人で行動しやすくなったということがうかがえた。外出するときなど、一緒にいなくてもケータイの電波が届く場所にいる限り、繋がっているという意識を持つことができるからである。逆にいえば、いつでも人と繋がっていたいという気持ちが若者には強いのだとも考えられる。

 私が考えていた、ケータイを利用することによって友人との距離が近くなったということについてはケータイ利用者全体については分からなかった。しかし、以前「ベル友」がいた人に限れば、私が考えていたことが当てはまったように思う。アンケート調査の結果で、「ベル友」がいた人にとってケータイを利用することで普段顔を合わせる友人との結びつきが強くなったと感じている人が多かったからである。このことについては理由として、「ベル友」がいた人はもともと友人との関係が疎遠だった。しかし、ケータイを利用することによって「ベル友」がいなかった人と同じくらい友人との結びつきの強さを感じることができるようになり「ベル友」が必要なくなったというのが、「ベル友」がいなくなった原因だと考えられた。

以上のように、若者像を移動体メディアの使われ方を通して見ることができた。

 今回、ポケットベルからケータイへの移行を見ただけでも若者の人間関係にさまざまな変化があったということが分かった。私の卒業論文では、常に自分に近いところにあり若者のコミュニケーション観を表すものとして移動体メディアを見てきたわけだが、文字通信の他の手段としてはパソコンを利用する電子メールというメディアもある。移動体メディアとパソコンなどのメディアとではやはり違いが見られるのかもしれない。また、この先メディアはますます進化し、新たな利用の方法も出てくるだろう。変化を一番取り入れやすいのは若者である。メディアが変わっていけば、若者のコミュニケーションの形も変わっていくのだと思う。しかし、メディアが人と人とを繋ぐものだということは変わらないはずである。人が人とコミュニケーションをとろうとする限り人間関係に積極的であるということなのだから、人間関係が希薄になるということはないように思う。