第4章 アンケート調査結果 分析と考察

第1節 調査結果の概要

(1)利用者の割合 

 ポケットベルを現在利用している人はいなかった。また、以前利用していた人が23.2%、ケータイ利用者は85.2%、ケータイの文字通信利用者は71.0%であった。(※以下、文字通信についての割合はケータイ利用者の中での割合を示す)

 それぞれの利用割合を性別で見てみる。(表4−1)

表4−1 性別利用者割合

 

ポケットベル(以前)

ケータイ

文字通信

17.4%

82.0%

66.9%

33.3%

90.7%

77.6%

どれも女性の方が利用率は高くなっている。特にポケットベルに関してはほぼ2倍という結果になっている。しかし、ケータイ、文字通信になるとあまり差はみられなくなっている。

それぞれの利用者割合を学年別に見てみる。(表4−2)

表4−2 学年別利用者割合

 

ポケットベル(以前)

ケータイ

文字通信

1年

22.1%

92.5%

77.4%

2年

29.9%

94.0%

81.3%

3年

17.9%

82.1%

68.6%

4年

24.1%

74.7%

55.9%

 ポケットベルをみると、他の2つに比べ4年生の利用者割合が2年生に次いで2番目に高い割合となっている。これは高校生の頃からの利用者に加え、現在の4年生が大学生になった頃(96年頃)とポケットベルの流行時期重なり金銭面からも比較的自由にポケットベルを利用できるようになったことなどが考えられる。

 また、ケータイや文字通信の利用者の高い割合を順に見ていくと、ともに、2年生、1年生、3年生、4年生となり、2年生と1年生が逆転しているものの、年齢が下がるほど利用者の割合が高くなっているようである。これにはこの1〜2年でケータイが急速に普及し、後で利用動機でもみるが、一人暮らしをする者が加入電話の代わりにケータイを利用するということが珍しくなくなってきたことなど、大学生になったことを期にケータイを持つということが考えられる。

 以上のように、多少ではあるが学年により利用者の割合に差が見られた。

(2)非利用者

 いつか利用したいと考えている人はポケットベルでは、0.9%、ケータイでは53.3%であった。ポケットベルに比べケータイはいずれ利用しようと考えている人が半数以上いるという結果が出た。また、当分利用したくないと考えている人の理由をみると、ポケットベルでは必要がないからという回答が83.8%と極端に多く、次にまわりの人が持っていなくなったから(17.5%)、会話ができないから(13.5%)で、あとのものは10%に満たなかった。ここから、現在ポケットベルを周りで利用している人がいなくなり、使う機会がほとんどなく、ポケットベルが過去の物となっているということができる。ケータイの場合の理由は割合が高いものから挙げていくと、もともと電話をあまり利用しない(60.9%)、必要がないから(56.5%)、何となく縛られている感じがするから(47.8%)、購入する代金、使用料金が高いから(43.5%)、持ち歩くのが面倒だから(30.4%)となり、あとのものは10%に満たなかった。もともとあまり電話を利用しないなら確かにケータイの必要性はない。そしてここでも、ポケットベルと同様に必要がないからという回答が高い割合になっている。

第2節 ポケットベル・ケータイ・文字通信それぞれの比較

利用した動機、利用頻度、相手、内容についてポケットベル、ケータイ、文字通信それぞれを比較しながら調査結果について考えていく。

(1)利用した動機

 ポケットベル、ケータイの利用動機の割合が高いものを5つ挙げていくと、ポケットベルは、友人が持っていたから(60.6%)、友人に勧められたから(35.2%)、外出が多いので、外出時の連絡用に(28.2%)、深夜に家族に迷惑をかけずに友人と連絡をとりたかったから(19.7%)、広告を見たり聞いたりしているうちに欲しくなったので(19.7%)連絡をとるために親にもつように言われたから(16.9%)である。ケータイは、外出が多いので、外出時の連絡用に(60.5%)、友人が持っていたから(32.4%)、一般加入電話を引く代わりに(31.4%)、自分専用の電話が欲しかったから(25.4%)、連絡をとるために親にもつように言われたから(15.6%)である。ポケットベルもケータイも友人の影響が強いようである。このことについてクロス集計を参考に見てみる。ポケットベルについては現在利用している人がほとんど回答者の友人にいなくなっているので確認をケータイだけでおこなう。Q1と、Q57−1でクロスをとった。なお、正確な検定を行なうため、0〜8割まで、9割、10割の3段階に変数の加工をおこなっている。(表4−3)

表4−3 ケータイ利用×友人携帯割合

ケータイを利用しているか

友人にケータイを持っている人の割合

0〜8割

9割

10割

利用している

14.8%

47.2%

38.0%

利用していない

48.8%

41.5%

 9.8%

P<0.01 Cramer’s V=0.31 

利用している人は、利用していない人に比べ、周りの友人もケータイを利用している人が多いと分かる。また、利用していない人の周りの友人は利用している割合が低い傾向にある。ケータイを利用するか利用しないかは周りの友人の影響が大きいということが分かった。

(2)利用頻度

 まず受信についてみる。割合が1番高いものを見ていくと、ポケットベルは1日3〜5回で30.8%、ケータイは1日1〜2回で37.2%である。ポケットベルのほうが受信の回数は多い。ケータイの文字通信の受信についても見てみると1日3〜5回で27.0%である。しかし全体の傾向をみると、同じ文字を利用するポケットベルより、ケータイと同じような回数となっている。

 次に発信(送信)についてみる。ポケットベルは1日3〜5回で33.8%、ケータイは1日1〜2回で32.7%である。ポケットベルはケータイに比べて回数は多い。文字通信についてもみると1日3〜5回で28.3%である。ここでも受信の場合と同じようにケータイと似た結果になった。

 ポケットベルの回数が多くなっているのは、メッセージの文字数に制限があったためと考えられる。その点、文字通信の文字数はポケットベルに比べるとだいぶ増えている。また、ケータイで話すことを考えると、一度の電話でいろいろなことを話すことができる。これらのことが受信・発信回数の差に出たのだと考えられる。

(3)相手

 よく話す利用相手について、まず友人について見ていくと(図4−1)、ポケットベルでは親しい友人(94.4%)、あまり親しくない友人(9.9%)となった。ケータイでは親しい友人(97.3%)、あまり親しくない友人(8.2%)となった。ポケットベル、ケータイともにあまり親しくない友人とはこれらのメディアを使ってはコミュニケーションをとらず、親しい友人と親しくない友人を区別しているということが分かった。次に、文字通信についてみると、同様に親しい友人(94.0%)、あまり親しくない友人(8.2%)であった。また、顔を合わせたことのない友人(ベル友、メル友など)は、ポケットベルでは7%、ケータイでは0%、文字通信では、2.7%とほとんどみられなかった。親しい友人に次いで多かったのが家族である。ポケットベルは26.8%、ケータイでは45.1%、文字通信では13.7%であった。家族が多いとは言っても、ポケットベルや文字通信など、文字でのコミュニケーションはケータイで直接話すことよりもかなり少ない。

これらのことから、ポケットベル、ケータイともに親しい友人とコミュニケーションをとるためのものといってもいいと思う。

 次に、自分の番号を教えても良い相手について見る(図4−2)。よく話す相手と同じく、ポケットベル、ケータイともに、1番高い割合だったのが親しい友人で、ポケットベルは74.6%、ケータイは86.7%であり、次いで家族が、ポケットベルでは52.1%で、ケータイでは78.5%だった。また、その他のものの割合をみても、全体的にポケットベルよりケータイのもののほうが高い。ポケットベルよりケータイのほうが番号を教えても良いと思っている相手が幅広いということがいえる。

(4)内容

 割合の多かったものを順に5つあげる(図4−3)。ポケットベルの場合、待ち合わせの連絡(59.2%)、用事はないがおしゃべりをしたいとき(53.5%)、時間つぶしをするとき(52.1%)、近況報告や様子うかがい(36.3%)、飲み会や食事会の誘い(26.8%)だった。ケータイで話す場合、待ち合わせの連絡(68.8%)サークルやクラブ等の連絡(46.5%)、飲み会や食事会の誘い(43.0%)、ゼミ(授業)等の連絡(39.1%)、アルバイト先への連絡(34.8%)だった。ポケットベルもケータイも待ち合わせの連絡が一番高い。ケータイでサークルやゼミなどの割合が高いのはこの調査の対象者が大学生だからということもあると思う。また、文字通信の割合をみると、時間つぶしをするとき(51.1%)、用事はないがおしゃべりをしたいとき(46.7%)、待ち合わせの連絡(44.5%)、近況報告や様子うかがい(36.3%)、飲み会や食事会の誘い(25.8%)だった。ここで注目したいのは、ポケットベルや文字通信では、おしゃべりや時間つぶしといった、特に用事がない内容の場合の割合が高いことである。ちなみに、ケータイで話す場合、用事はないがおしゃべりをしたいとき(30.5%)、時間つぶしをするとき(17.6%)で、ポケットベル、文字通信に比べるとかなり割合が低い。このことから、ポケットベルは待ち合わせの連絡といった用件的な要素で使われることもあるが、おしゃべりや時間つぶしといったように気軽なことで使われることも多いといえる。一方、ケータイは、文字通信をみるとその内容はポケットベルのものを引き継ぐような形になっているが、話をする内容をみると、待ち合わせの連絡、飲み会等の誘いの割合が高いということからも、次に会う約束をするための手段として使われることも多いということができる。

 (1)〜(4)まで調査結果の比較をみてきて、以前使われていたポケットベルと現在使われているケータイ、文字通信では共通する点もあり、違う点もあった。この共通する点、違う点ということの背景には移動体メディアの移行ということがあるのではないかと考えられる。例えば相手についてみた(3)からはポケットベル、ケータイ、文字通信とも親しい友人とコミュニケーションをとるためのものということが分かり、このことからは使う移動体メディアがポケットベルからケータイへと変わっただけ、つまり移動体メディアの移行があったということが考えられる。また、(4)の内容ではポケットベルと文字通信の結果が似たようなものとなっていて、ポケットベルの役割を文字通信が担っている部分があるのではないかということが考えられる。しかし、これらの結果からだけではポケットベルからケータイへと移行があったというには十分でないように思う。そこで、次の第3節ではポケットベルからケータイへの移行ということについてその移行の中でどのようなことがあったのかも含め詳しく見ていく。

第3節 ポケットベルからケータイへ

ここでは、ポケットベルからケータイへの移行についてアンケート調査結果をもとに詳しく見ていく。

まず、ポケットベルを以前利用していた人のやめた動機をみる。携帯電話を持つようになったからという回答が83.1%と極端に多く、次にまわりの人が持っていなくなったから(19.7%)、会話ができないから(18.3%)となり、あとのものは10%に満たなかった。ここから、ポケットベルからケータイへの移行ということがあったということが考えられる。あとは、当分利用したくない理由と同様で、会話ができないこと、まわりの人などが原因となっている。

 ポケットベルをやめた理由としてケータイを持ったからと回答した割合が高いことからもポケットベルからケータイへの移行があったことは推測することができたが、クロス集計を使ってもう少し詳しく見ていく。

 Q18のポケットベルを利用しているかという問いとQ1のケータイを利用しているかという問いをクロス表でとった。(表4−4)

表4−4 ポケットベル利用×ケータイ利用

ポケットベルを利用しているか

ケータイを利用しているか

利用している

利用していない

以前利用していた

100.0% 

 0.0% 

利用していない

 80.5% 

19.5% 

P<0.01 Cramer’s V=0.23 

この結果から、ポケットベルを以前に利用していた全員がケータイを利用していることからもポケットベルからケータイへの移行があったということができる。

 しかし、第2節の(4)でみてきたようにケータイで話す内容とポケットベルでのメッセージ交換の内容とには違いがある。そこで、ポケットベルの内容と同じような結果になった文字通信についてみる。ポケットベルを利用しているかという問いのQ18と文字通信を利用しているかという問いのQ12とでクロス表をとった。(表4−5)

表4−5 ポケットベル利用×文字通信利用

ポケットベルを利用しているか

文字通信を利用しているか

利用している

利用していない

以前利用していた

84.1% 

15.9% 

利用していない

66.3% 

33.7% 

P<0.01 Cramer’s V=0.17 

Cramer’s V=0.17ということで、それほど強い関連があるとはいえないものの、以前ポケットベルを利用していた人のほうが利用していない人に比べると文字通信を利用する割合が高くなっている傾向にある。

 また、序章や第1章でみてきたように、ケータイの契約数が増加してきている1996年は、ちょうどケータイでの文字メッセージが始まった頃と重なっている。これらのことから、ポケットベルからケータイへと移行があり、そしてその中でポケットベルでの文字でのおしゃべりや時間潰しなどといった気軽なコミュニケーションはケータイの文字通信へと引き継がれてきたと考えられる。しかし、文字通信はすべてを引き継いだわけではないようである。

 ポケットベル時代にあり、特徴的な存在とも言える「ベル友」について考えてみる。Q27のベル友がいましたかという問いにたいして、いたと回答したのは43.9%であった。では、このベル友とはどのような存在だったのか。

顔も合わせたことのないベル友とはどのようなメッセージを交換していたのだろうか。ベル友の有無について尋ねたQ27とメッセージの内容についてたずねたQ25でクロスをとると、有意という結果が出たものはQ25−7であった。(表4−6)

表4−6 ベル友×時間つぶし

ベル友がいるかいないか

時間つぶしをするとき

○なし

○あり

いた

31.0% 

69.0% 

いない

56.8% 

43.2% 

P<0.05 Cramer’s V=0.25 

時間つぶしをすると回答した人でベル友がいた人のほうがいない人より割合が高くなっていることから、ベル友とは、主に時間つぶしをする目的でメッセージを交換していたという傾向があるといえる。

 ケータイのメール友達(Q14−7)について見てみると2.7%という結果になった(電話上でだけの友人は0%)。ベル友という顔を合わせない友人とのコミュニケーションはポケットベルからケータイへの移行の中でいなくなっていったと考えられる。

 それでは、この移行の中でなぜ「ベル友」は引き継がれず、いなくなってしまったのだろうか。このことについてケータイを利用したことでどのような変化があったかという点に注目して見てみる。Q27とケータイ利用後の意識の変化について尋ねたQ16とでクロスをとると、有意という結果が出たのはQ16−5だった。なお、正確な検定を行なうため、よく感じると時々感じる、あまり感じないと感じないをまとめ3段階に変数の加工をおこなっている。(表4−7)

表4−7 ベル友×ケータイ 顔を合わせる友人との結びつき

ベル友がいるかいないか

ケータイ 普段顔を合わせる友人との結びつきが強くなった

よく感じる、時々感じる

どちらともいえない

あまり感じない、感じない

いた

51.7% 

24.1% 

24.1% 

いない

21.6% 

51.4% 

27.0% 

P<0.05 Cramer’s V=0.33 

普段顔を合わせる友人との結びつきが強くなったということにたいして、よく感じる、時々感じると回答している人を見ていくと、ベル友がいたという人にそう感じるという傾向が強いことが分かる。このクロス表から次のようなことが考えられる。ベル友が以前いた人は、いなかった人に比べ顔を合わせる友人との結びつきがどちらかといえば疎遠だった。むしろ疎遠だったからこそおしゃべりや時間つぶしといった形で時間の隙間を埋めるための「ベル友」という存在を作ったのかもしれない。しかし、ケータイを利用することによってベル友がいなかった人と同じくらい顔を合わせる友人とコミュニケーションをとるようになった。よって、ベル友が以前いた人の方が結びつきが強くなったと感じるという結果になった。そして、友人との関係が疎遠ではなくなった人たちにとって、「ベル友」はもう必要とされなくなったのではないか。

ポケットベル利用時にはメディアを介するコミュニケーションの相手と実際に会ってするコミュニケーションの相手と2つの相手が存在した。しかし、ケータイを利用することによって、メディアを介するコミュニケーションの相手と実際に会ってするコミュニケーションの相手は同じになったのである。

 次の節では、さらに、ケータイを利用することで若者の意識や行動、コミュニケーションにどのような影響があったか、友人観等を含め見ていく。

第4節 若者のコミュニケーション

 ここでは、現在の若者のコミュニケーションについて意識や行動の変化、友人観などから見ていく。まず、現在利用している移動体メディアであるケータイを利用しての意識と行動の変化(アンケート調査のQ16、17)の結果で特徴的なものをポケットベルのもの(Q28、29)とも比較し、その後で若者の友人観について見ていく(Q55、56)。

(1)意識の変化

意識の変化について質問の内容ごとに見ていく。

・友人についての質問

 友人との結びつきについての質問の結果からは、普段顔を合わせる友人では、ポケットベル、ケータイともにどちらともいえないと回答した割合が高くはなっているものの、3割以上が結びつきが強くなったと感じている。(図4−4)。一方、普段顔を合わせない友人の結果を見ると、強くなったと感じている人の割合はケータイで23.3%、ポケットベルで16.4%となり(図4−5)、若干であるが普段顔を合わせる友人との結びつきの方が強くなったということがいえる。

・プラス面についての質問

 連絡がつかずイライラすることが減ったかという質問ではケータイで半数以上が減ったと感じているという結果になった(図4−6)。ポケットベルでは、相手にメッセージを送ってもそれが確実に届いた、そのメッセージを相手が見たということが確信できないことに対し、直接相手と話すということで、確実性のあるケータイで高い割合になったと考えられる。

 いつでも連絡ができるという安心感をもてるようになったということにたいして、よく感じる、時々感じると回答したのはケータイで85.5%だった。一方ポケットベルでは52.9%である(図4−7)。ポケットベルでは半数であったものが、ケータイになるとほとんどの人がケータイを持つことでいつでも連絡を取れることに安心感を持っているという結果になった。

 行動が自由になったということにたいして、ケータイでよく感じる、時々感じると回答したのは42.7%で半数近くがケータイを利用することで行動が自由になったとしている。一方ポケットベルを見てみると、そう感じるよりも感じないという傾向が若干強いことが分かる(図4−8)。このことから、ケータイを利用することでポケットベルを利用することに比べると行動が自由になったと言うことができる。

この結果には、上記でみた、いつでも連絡がとれることに安心感をもてるということに関係しているように思う。つまり、ケータイを利用する以前は、いつ連絡が入るか分からない場合は連絡をとることのできる場所、一般加入電話のある家だとか、ポケットベルを利用していても近くに公衆電話がある場所などにいなければならなかった。それが、ケータイを持つことでいつでもどこででも連絡をとることができるようになった。ゆえに、ケータイでは行動が自由になったという結果が出たのだと考えられる。このことについてクロス集計を使って確かめてみる。Q16−1とQ16−2でクロスをとった。なお、正確な検定をするため、時々感じるとよく感じるで1つ、あまり感じないと感じないで1つとし、3段階に変数の加工をおこなった。(表4−8)

表4−8 行動が自由になった×安心感を持てるようになった

行動が自由になった

いつでも連絡ができるという安心感を持てるようになった

時々感じる、よく感じる

どちらともいえない

あまり感じない、感じない

時々感じる、よく感じる

98.2%

 0.0%

 1.8%

どちらともいえない

79.5%

17.9%

 2.6%

あまり感じない、感じない

71.6%

10.4%

17.9%

P<0.01 Cramer’s V=0.28

いつでも連絡ができるということに安心感を持てると回答している列を見ると、行動が自由になったと感じると回答している人の割合が、どちらともいえないや感じないに比べて高い。このことから、いつでも連絡ができるという安心感が行動を自由にしているのだと確認できた。

・マイナス面についての質問

 束縛感を感じるかという質問では、ケータイ、ポケットベルともに半数以上が感じないという結果になった(図4−9)。ケータイを利用していない動機について第1節(2)に、何となく縛られている感じがするから(47.8%)という結果があったが、実際利用している人をみると縛られているという感じはないようである。

 頻繁に電話がかかっているのでうるさいと思うかという質問については、ケータイ、ポケットベルともにうるさいとは感じないという結果になった(図4−10)。特にケータイにはその傾向が強いといえる。

 意識の変化は以上のような結果になった。移動体メディアのマイナス面と考えられる、常に身近にあるということでの束縛感やうるささなどは感じないという結果になった。むしろ全体の結果からはケータイを利用することによって、安心感を持てたり、行動が自由になったと感じたりとプラスと感じることが多いということがうかがえる。

(2)行動の変化

 普通の電話で通話する機会はポケットベルでは変わらないという回答が73.5%であるが、ケータイでは減ったという回答が66.9%だった(図4−11)。図電話と同じ機能を持つケータイを利用すると普通の電話を利用する機会は減るようである。このことから、ケータイを普通の電話の代わりに利用しているということができる。

 小さな用件でも連絡をとることは、ケータイ、ポケットベルともに利用することで増えたという結果が出ている。特にケータイでは8割近くの人が増えたと感じている(図4−12)。ケータイを利用することによって人とコミュニケーションをとる機会が増えたということがいえる。

 自分から連絡を取る相手の数についてはポケットベルをみると変わらないという回答が多くなっているが、ケータイでは半数が増えたと回答している(図4−13)。ケータイを利用することによって人とコミュニケーションをとる機会が増えたということは上記で見たが、ケータイを利用することによってコミュニケーションをとる相手の数も増える傾向にあるということが分かった。

 ケータイの利用によってコミュニケーションをとる機会、相手の数が増えたという結果から、ケータイの利用によって人間関係が活発になったといえる。

(4)友人観

 友人観について尋ねたQ55、56で特徴的な結果が出たものを図で示す(図4−14)。

<図の質問内容>

1.親しい友人には何でも相談できる方だ

2.友人になったらその関係は長く続く方だ

3.浅く広くより1人の友人との深いつきあいの方をだいじにしている

4.直接会う方が顔や表情から微妙な気持ちの変化や伝えたいことが分かる

5.身振りや手振りを交えて直接話した方が気持ちや言いたいことを伝えやすい

6.直接会うことで時間を共有しているという実感がある

7.メディアを介するより直接会う方が落ち着いて話ができる

8.メディアを介するより直接会う方が相談事や真剣な話ができる

9.友人に頼ったり頼られたりするのは煩わしい

10.友人と遊ぶより機械いじりの方が楽しい




この結果からは、若者について言われているような人間関係が希薄になっている、淡白だという傾向とは反対で人間関係を大切に考え、人と会うことに積極的であるという傾向が見られた。また、メディアを介するよりも直接会うということを重要と考えているということが分かる。

 若者全体の友人観は上記の通りである。では、ケータイの利用者・非利用者ではこれらの友人観に何らかの違いはあるのだろうか。ケータイ利用の有無を尋ねたQ1と友人観についてのQ55、56とでクロス集計をとった。有意という結果が出たのはQ56−3だった。(表4−9)

表4−9 ケータイ利用×多方面の友人と交流

ケータイを利用しているか

少数の友人より、多方面の友人といろいろ交流する方だ

そう思う

どちらかといえばそう思う

どちらともいえない

どちらかといえばそう思わない

そう思わない

利用している

5.6%

15.9%

34.5%

31.7%

12.3%

利用していない

9.3%

11.6%

16.3%

32.6%

30.2%

P<0.05 Cramer’s V=0.21

少数の友人より、多方面の友人といろいろ交流する方だということにたいして、特にそう思わないの列で差が見られる。この列からは、利用していない人に多方面と交流することに否定的であるということが伺える。利用していない人の方が利用している人に比べると広い人間関係に消極的な傾向にあるといえる。

 ここまでアンケート調査の結果をもとに現在の若者のコミュニケーションについてみてきたわけだが、ケータイを利用することによって友人との関係がどう変わってきたかということについてはあまり結果を得ることができなかった。しかし、ケータイを利用することによって人間関係にさまざまな影響が出てきたということは分かった。さらに、次の第5節ではケータイ利用が人間関係に与えた影響について、もう少し友人という関係に触れながらコミュニケーションの選択という点から見ていこうと思う。

第5節 コミュニケーションの選択

 2章の先行研究の中でも、ケータイやポケットベルそれぞれで「シカベル」「番号通知サービス」でコミュニケーションの選択が行われているということにふれた。この第5節では、実際にそのコミュニケーションの選択がどうおこなわれているか見ていく。

 Q9でケータイに電話がかかってきたとき、発信者番号を確認するかという問いの回答は確認するが98.4%、確認しないが1.6%となり、ほとんどの人が相手を確認してから電話に出るということが分かった。また、この確認後電話に出ないことがあるかということをQ10で尋ねたところ、電話に出ないことがあると回答したのは52.8%で、ないと回答したのは47.2%だった。一方、発信者が番号を通知して電話をかけるかということをQ11で尋ねると、通知すると回答したのが99.5%でしないと回答したのが0.5%でやはり、ほとんどの人が番号を通知してかけるという結果になった。ポケットベルについても同じような質問をしている。Q26でメッセージを故意に無視したことがあるかどうかを尋ねた。無視したことがあると回答したのは50.7%で、ないと回答したのは49.3%だった。ケータイでもポケットベルでも相手を無視し、コミュニケーションの選択ということが行なわれていたようである。

 なお、現在の若者のコミュニケーションということで、ケータイに関する質問の結果を中心に分析する。

 ケータイで相手の番号をチェック後電話に出る人と出ない人ではどう違うのだろうか。この点について、Q10と、友人に対する意識について尋ねているQ55の1〜7、Q56の質問とでクロスをとった。有意という結果が出たのはQ56−3だった。なお、正確な検定を行なうため、Q56−3では、そう思うとどちらかといえばそう思う、どちらかといえばそう思わないとそう思わないをまとめ3段階に変数の加工をおこなっている。(表4−10)

表4−10 ケータイ でないこと×多方面の友人と

発信者番号をチェック後電話に出ないことがあるか

少数の友人より、多方面の友人といろいろ交流する方だ

そう思う、どちらかといえばそう思う

どちらともいえない

どちらかといえばそう思わない、そう思わない

ある

29.2% 

27.7% 

43.1% 

ない

13.7% 

41.9% 

44.4% 

P<0.01 Cramer’s V=0.20 

全体をみると、少数の友人より、多方面の友人といろいろ交流する方だということにたいし、そう思わないという傾向が強くなっているが、そう思う、どちらかといえばそう思うという列をみると、電話に出ないことはないと回答した人に比べ電話に出ないことがあると回答した人の割合が高くなっている。このことから、多方面の友人と交流をする人は、ある一定のラインからは入らせないというような傾向があると考えられる。第2節(3)でみたように電話で話す相手として親しい友人とあまり親しくない友人を区別するように、電話をかけてきた相手全員を自分に近いラインの中に入れるのではなく、相手を選ぶことをするのだと考えられる。このことについて友人の種類という点に注目しながら、さらにクロス集計を使って見てみる。発信番号を確認後電話に出ないことがあるかということを尋ねたQ10と話す相手について尋ねたQ6の中でも友人についてということで、Q6−2、3とでクロスをとった。相手によって電話に出るか出ないかで違いが見られたのは、親しくない友人と話す、のQ6−2だった。そこで次に、自分のケータイの電話番号を教える相手としての親しくない友人にも違いが出るのかということを見た。しかし違いは見られなかった。(表4−11)

表4−11 ケータイ でないこと×ケータイ あまり親しくない友人 話す、番号を教える

あまり親しくない友人と

話す

あまり親しくない友人に

番号を教える

発信者番号をチェック後電話に出ないことがあるか

ある

12.2%

29.0%

ない

4.3%

28.2%

この結果について考えていく。あまり親しくない友人に番号を教えるか教えないかということは、発信者番号をチェック後電話に出ないことがあるかということには関係ないようである。しかし、実際に親しくない友人と話す割合は、発信者番号をチェック後電話に出ないことがあると回答した人の方が出ないことがない人に比べ高くなっている。このことについては次のようなことが考えられる。

 番号を教えるという時点では発信者番号をチェック後電話に出ないことがあるかないかということは関係ない。しかし、ケータイでコミュニケーションをしていくうちに、親しくない友人であるということで、そのときの気分によっては話したくないという時もでてくる。そんな時、発信者番号をチェック後電話にでないことがあると回答した人は電話に出ないということを選択することで折り合いをつけられるため、あまり親しくない友人や多方面の友人と付き合っていくことができるのである。しかし、コミュニケーションの選択ができない人は話したくない時でも無理に相手に付き合うため、相手との関係に無理が生じ、やがては電話でも話さなくなるのである。

 以上のことから、発信者番号をチェックしてコミュニケーションの選択を行うことで親しい友人以外とも付き合っていくという人間関係の幅を広くしたと考えることができる。

 以上のように第4章ではアンケート調査の結果について分析を行なった。ここで出た結果を先行研究や私の仮説などをもう一度振り返ってみながら最後の総括でまとめていく。