若者たちの間で、コミュニケーション・ツールの1つとして電子メールを利用している人が最近増えてきたような気がする。それはこれまでパソコンを使える環境にある人同士でしかメール交換できなかったのに、パソコンが急速な勢いで普及すると同時にメール機能つきの携帯電話・PHSを所有する若者が増加し、メール交換できる範囲が広がったためではないかとわたしは推測する。しかし、電子メールが急速に普及してきているとはいえ、まだまだまわり中の人誰もが利用しているコミュニケーション・ツールであるとは言い難い。
若者たちが普段利用しているコミュニケーション・ツールといえば、一番最初に思いつくのは携帯電話・PHSである。全国的にみても20代の携帯電話・PHSの利用率は7割を超えている。他に、若者が普段利用しているものといえば家にある普通電話や昔ながらのコミュニケーション・ツールである手紙であろうか。これだけのコミュニケーション・ツールがあるということは、若者はこれらをうまく使い分けて利用しているはずである。しかし、そこへ新しく電子メールというコミュニケーション・ツールが加わることによって、若者のコミュニケーションになんらかの変化が起きているのではないだろうか。若者のコミュニケーションについては、新井克弥(新井,1993,p.169‐203)が以下のように述べている。
若者たちはメディアとのつながり、とりわけパソコンとのつながりが強く、彼らにとってコミュニケーションとは自室の中にいて電話やコンピュータを駆使することで交わすものになってきているようである。つまり、情報化が推進した「コミュニケーションの間接化」によって直接的な,対人関係が切断されてしまっているというのである。これは若者論の中でも一番新しい考え方ということなのだが、最近の急速な情報化によってその考え方がより強まってきていると言われている。つまり、メディア環境の発達にともなった、メディアとヒトとの関わりの濃密化によってコミュニケーション先にある他者との関係が希薄化していってしまうというのである。
コミュニケーションは本来、他者、つまり本人を含めた最低2人の人間と、それを媒介するもの=関係をとりもつものを必要条件とする。しかし、彼らは、本来めざすべきコミュニケーション先=他者よりも、他者とのコミュニケーションの媒介にすぎないはずのメディアとより深い関係を結ぶ傾向にあり、ヒト‐ヒト関係からヒト‐モノ(メディア)関係へと若者たちのコミュニケーション形式は変化していっていると言われているのである。
しかしわたし自身、若者たちの人間関係が希薄になってきているとは感じたことがない。わたしが思うに、電子メールというコミュニケーション・ツールは若者たちの対人関係を希薄にしているどころか、いつでも連絡をとりあえるという点では反対に人同士のつながりを深める作用があるのではないだろうか。そこでわたしは、電子メールの利用と若者たちの対人関係の間にどのような関係があるのか調べてみようと考えたのである。
この研究では上で述べたように、電子メールがコミュニケーション・ツールとして若者の間でどのように位置付けられているのか、そして電子メールをどのように利用しているのか、その利用実態について考えていきたいと思っている。また電子メールの利用と若者たちの対人関係の間にどのような関係があるのかについても詳しく考察していきたいと思っている。
この論文は4章で成り立っている。それぞれの章について簡単に説明すると、まず第1章では電子メールを自由にやりとりするために必要な「インターネット」が登場した経緯と、電子メールの現状について説明している。また、手紙や電話と電子メールの違いについて言及し、電子メールの特徴について考察している。第2章では富山大学の学生300人を対象とした意識調査についての説明、第3章では調査結果の分析を行っている。そして第4章では本論のまとめを行っている。
第1章では、最近急速にわたしたちの間に普及してきている電子メールというコミュニケーション・ツールについて詳しく考察していきたいと思う。まずは自由に電子メールをやりとりするために必要不可欠なインターネットについて考察していこうと思う。
はじめに、パソコン通信とインターネットの違いを述べておかなくてはならない。パソコン通信とインターネットの違いについては、船津衛(1996,p.213)が以下のように説明している。
まずパソコン通信だが、これはある特定の事業者が運営しているものであり、まるで管理された閉鎖的会員制クラブのようになっている。それに対しインターネットはだれでも利用でき、だれとでも情報交換することができるオープンな世界となっている。また、パソコン通信が1台のホスト・コンピュータにつながった中央集権的なネットワークであるのに対して、インターネットはホストとなるコンピュータはなく、サーバーというコンピュータを介して、世界中のコンピュータ・ネットワークと直接接続できる分散的なネットワークである。(船津,1996,p.213)
つまり、パソコン通信がある一定の人たちの間だけでしかコミュニケーションをはかることができなかったのに対して、インターネットはだれとでも自由にコミュニケーションをはかることができるのである。それではインターネットとは、そもそもどのようにして起こったのだろうか。
インターネットは1969年に、アメリカ国防省の下部機関であるARPA(Advanced Research Projects Agency)が、軍事関係の研究を行っている研究所の大型コンピュータを結ぶARPANETを構築したことからはじめられた。そして、1986年には国立科学財団(National Science Foundation)が5ヶ所のスーパーコンピュータを拠点に、全米の研究機関の間を接続したNSFNETを構築したことによって発展した。
さらに、1989年には民間のインターネットとネットワーク・サービス・プロバイダーが誕生し、また、インターネットとインターネット技術およびその応用に関して全世界的な協力と協調を目的とした国際組織インターネット・ソサエティ(ISOC)が発足され、確固としたものとなった。そして、アドレスを一元管理するネットワーク情報センター(NIC)が作られ、現在のインターネットに至っている。
日本においては、1980年代の前半頃までは、パソコンはまだまだ高価なものであり、それをコミュニケーションの道具として使用しようと考える人は少なかった。このようにパソコンというものが人々の間にまだ浸透していない中、1984年に慶應義塾大学、東京工業大学、東京大学の共同実験によるJUNET(Japan University Network)が作られ、また88年には40の大学や国立研究所の共同プロジェクトとしてWIDE(Widely Distributed Environment)が行われた。そして、近年、パソコン通信の事業者やインターネット・サービス・プロバイダーによって商用サービスが開始され、インターネットの利用者数はどんどん増加していっている。
(『情報化社会と青少年』,総務庁青少年対策本部編,1995 ,p.47より)
『情報化社会と青少年』(総務庁青少年対策本部,1995,p.47)によると、特に若者たちにおいては、パソコンを使っている割合は4割を超えており、1回も使ったことのないものの割合は2割をきっている。つまり、パソコンは自宅や学校などにおいて若者たちの間でよく利用されるようになってきているのである。この調査は1995年に行われており、それから既に4年ほど経っているので、若者のパソコン利用はもっと増加していると言えるだろう。(図1−1)
さて、これまでインターネットがどのように登場したのかについて説明してきたわけだが、ふつうインターネットと聞いて思い浮かべる機能といえば、WWWアクセスや電子メールのやりとりくらいではなかろうか。そこで以下では、インターネットの機能の中で人々がよく利用しているのは、一体どんな機能なのかを見てみようと思う。
まず、インターネットの機能・サービスを紹介しよう。
『通信白書 平成11年版』(郵政省編,1999,p.38)によると、インターネットの機能・サービスはおおまかに4つに分けることができる。
これら4つの機能・サービスの中で、わたしが本論で研究の対象としている若者たちが利用しているインターネット機能・サービスとはどのようなものなのかを見てみようと思う。下の表1−1は『通信白書 平成11年版』(郵政省編,1999,p.38)から引用したものであり、このデータは郵政省が行った「インターネット利用状況調査」の中のインターネットを利用する若者(18〜25歳)の利用状況と、全体平均の利用状況のデータを比較したものである。これによると、18歳〜25歳の若者は、WWWアクセス率や電子メール、チャットの利用率が全体平均を上回っている。(表1−1)
表1−1 インターネット活用状況
全体平均 |
若者 (18〜25歳) |
|
WWWアクセス「1日1回以上」 | 70.6 | 73.1 |
メールマガジン購読率 | 93.5 | 92.3 |
電子メール受信「1日1回以上」 | 82.0 | 86.1 |
電子メール発信「1日1回以上」 | 52.1 | 55.1 |
チャット利用率 | 25.3 | 47.1 |
また、若者はインターネットを出会いの場として積極的に活用しており、「メール友達がいる」若者が74.6%なのに対し、全体平均は65.0%、また、「ネット上で知り合った人がいる」若者が61.9%なのに対し、全体平均は50.0%と、両方の質問において若者が全体平均を上回っている。(表1−2)
表1−2 ネット上での交流活動
全体平均 |
若者 (18〜25歳) |
|
メール友達がいる |
65.0 | 74.6 |
ネット上で知り合った人がいる | 50.0 | 61.9 |
ネット上で知り合った人と オフラインで会った |
23.3 | 32.8 |
このことから、インターネットを通じて新たな人間関係を形成することに、若い世代ほど抵抗が少ないことがうかがえる。
最近インターネットに限らず、携帯電話やPHSの文字通信等を含め、若者の間では急速にコミュニケーション手段が多様化している。そして、若い世代ほど新しい手段をいち早く取り入れ、使いこなす傾向が強いと思われる。
それでは、若者たちの間で積極的にコミュニケーション手段として利用されている電子メールとは、一体どのようなものなのだろうか。次節では、まず電子メールの現状について詳しく言及していきたいと思う。
インターネットの利用者数については、辻大介(辻,1997,p.168‐181)が以下のように述べている。
現在インターネットが急速な勢いで普及しており、正確な利用者統計はないが、95年の調査では北米で既に2400万人の利用者が存在しており、日本においては200万人以上にのぼるとされている。また、未利用者における利用意向も高く、95年末のある街頭調査では44%がすぐにでも使ってみたいと答えており、96年7月の都内高校生調査でも56%が使ってみたいと回答している。
このように日本においてインターネットは、アメリカに少し遅れはとっているものの、人々の間に急速に浸透していっていることは間違いないのである。それでは若者たちの間でコミュニケーション手段として利用されている電子メールがインターネット利用全体の中で占める割合はどのくらいなのだろうか。
まず、次の図1−2で引用している『「マスメディア」としてのインターネット−インターネット利用者調査からの一考察−』(辻,1997,p.168−181)の中で行われている調査について簡単に説明する。対象はASAHIネットのインターネット接続契約者6万人から無作為に抽出した1500名(法人を除く)で、調査期間は1996年7月3日〜7月15日、有効回答は133票であった。なお、地方プロバイダーとの比較のため、大分を拠点とするNewCOARAの契約者に対しても同時に調査を行ったが、単純集計レベルではほとんどの項目でかなり近似した数値が得られ、安定した結果が示されている。
この図1−2によると、現在インターネット利用の核と目されているのはWWW(World Wide Web)と電子メールである。まずインターネットを毎日利用する者はあわせて6割を超えており、かなり活発に利用されていると言える。次にWWW・電子メールを毎日利用する者も半数近く、それ以外の機能の利用頻度に比べると、やはりこれらが利用の中心になっていることがわかる。(図1‐2)
(『「マスメディア」としてのインターネット−インターネット利用者調査からの一考察−』,辻,1997,p.168−181より)
また、若者の場合もインターネット利用の目的に「電子メールをやりとりするため」と回答している割合が5割を超えている。つまり、インターネットを利用している若者は、色々ある機能の中でも、電子メール機能をよく使っていると言えそうである。(図1−3)
(『情報化社会と青少年』,総務庁青少年対策本部編,1995,p.62より)
これまでの考察で、現在インターネットが急速に人々の間に普及していっていること、そしてインターネット利用の核となっている機能・サービスはWWWと電子メールであることがわかった。それでは電子メールはわたしたちとなじみの深い、手紙や電話といったコミュニケーション・ツールとは一体どこがどのように異なっているのだろうか。
次節では、手紙、電話それぞれの性質について詳しく考察し、それらと電子メールの違いや、電子メールの特徴について考えていきたいと思う。
ここでは、わたしたちとなじみの深いコミュニケーション・ツールとして手紙と電話(携帯電話も含む)をとりあげ、まずはそれらの性質について詳しく考察していきたいと思う。そしてそれらの性質がよく理解できたところで、電子メールの特徴を考えていこうと思っている。それでは考察に移ろう。
まず、手紙についての詳しい説明をしてみよう。川上・川浦・池田・古川(1993,p.85・90)は手紙について以下のように述べている。
手紙の場合、発信者側からみると、手紙が相手の手元に届くのは早くて翌日である。遠隔地のものとなればさらに日数を要することになる。また受信者の側からすると、手紙やはがきが配達された場合、内容を確かめずにそのまま放置しておくということは考えにくい。メッセージが届いたことを確認した時点で、手紙を読み、内容を一通り確認することになるはずである。すなわち手紙は発信者側から見ればメッセージの到達に時間がかかるメディアであり、また受信者側からみれば発信されてはじめて利用されるメディアであると同時に発信者の都合に左右されるメディアであるということになる。
また手紙はその内容的に、フォーマルなメッセージとして位置付けられている。例えば年賀状や暑中見舞いなどの儀礼的なものもあれば、各種招待状や挨拶状などのように、正式なメッセージとして送られるものもある。
つまり手紙は、手紙を出す側にとっては相手の手元に届くまで何日間か時間がかかってしまうメディアであり、手紙を受け取る側にとっては相手が手紙を出し、それが自分の手元に届いて内容を確認したときにはじめて成立するメディアであると言える。しかも手紙は儀礼的な内容や正式なメッセージを伝える場合に使用されることが多いというのである。
しかし手紙を出す側の者は手紙が相手に届くまでにどれくらいの時間がかかるかなど、それほど気にしていないように思う。普通、手紙には急を要する用事などを書くことはないし、もし急な用事があるのなら手紙ではなく、電話で済ませようと思うものである。あえて手紙を送るということは、急な用事があるからではなく、むしろ急ではない何らかのメッセージを伝えたいからなのではないだろうか。また、「受信者にとって手紙とは発信者の都合に左右されるメディアである」と言われているが、わたしは一概にそう言うことはできないのではないかと思う。確かに発信者が手紙を出した場合、受信者は強制的に受け取らざるを得ないという意味では「発信者に左右されるメディア」であるが、強制的に手紙を受け取っても、それを読むかどうかは受信者の自由である。しかも手紙を受け取ってからその場ですぐに読まなくてはいけないわけでなく、自分の気が向いたときや、時間に余裕のあるときに読めばよいという点では、「発信者に左右されるメディア」どころか、受信者にとってかなり融通のきく、自由なメディアと言えるのではないだろうか。
また手紙は文字だけを媒介としたコミュニケーション・ツールである。そのため、メッセージや自分の気持ちを文字で表現できない場合は相手にメッセージを伝えることができない。そういう意味で、手紙は限定が多いメディアであると言えるのではないだろうか。
それでは次に、普段からわたしたちが頻繁に利用しているコミュニケーション・ツールである電話について、詳しく考察していこうと思う。川上・川浦・池田・古川(1993,p.85)は電話について以下のように述べている。
電話の場合、発信者主導という性格は手紙の場合よりもさらに強くなる。発信者が電話をかけると、受信者の都合とは関係なく受信者側のベルが鳴り響く。他のことに専念していたり、睡眠をとっている間でもベルは鳴るのである。ベルが鳴れば、「電話に出なくては」という意識が働く。都合が悪くても、寝ていても、気分を害しながらもついつい電話に出てしまうことになる。本人がかたくなに受信拒否すれば電話に出ないことも可能であるが、それでも受話器を外したりしないかぎりベルの音に悩まされることに違いはない。つまり、発信者にとっては随時性の高いメディアではあるが、受信者にとっては自己都合がほとんど考慮され得ないメディアということになる。
このように、電話は発信者が受信者側の電話のベルを鳴らすことによって、受信者側の行動を強制的に拘束してしまうという、非常に暴力的な性質を持っている。また、電話はふつう聴覚情報だけであるから、メッセージが正確に受信者に伝わらないことがある。この、「音声だけでメッセージを伝える」という性質は電話コミュニケーションの大きな特徴である。
それでは、電話コミュニケーションの1つめの特徴である、「音声のみによるコミュニケーションから成り立っている」という性質に注目して、以下から考察を進めてみよう。
電話は音声を媒介とするコミュニケーションであり、音声によってはじめてコミュニケーションが可能とされるものである。このことにおいて、電話コミュニケーションは他のコミュニケーションと大きく異なっている。
電話において、わたしたちは自分の意見、態度、気持ちなどを音声化する必要がある。電話は身振りや表情ではなく、音声によって自分を表現しなくてはならないため、音声によって表現されないものは他者に理解してもらうことができないコミュニケーションである。しかし、電話の場合は音声だけで身振りや表情で自分を表現できないとはいうものの、声の調子や話し方、声の大きさ等で自分の気持ちを瞬時に表現することができる。むしろ電話よりも、文字を媒介としている手紙や電子メールの方が、身振りや表情でもなく、声でもなく、文字だけで自分の気持ちを相手に伝えなくてはならない限定の多いメディアであると言えるのではないだろうか。
また、電話においてわたしたちは沈黙を避けるべきであり、即断による発話が必要である。もちろん、沈黙も、うまい間のとり方として意味があり、実際使用することもあるだろう。しかし一般的には、音声が発せられないとコミュニケーションは中断されてしまうことになる。
そして、電話ではお互いに相手を見ることができず、両者の関係は間接的接触である。しかし、相手の顔を直接見ないことにより、相手の視線を気にすることなくコミュニケーションすることができるとも考えられる。
それでは次に、電話がどのようにわたしたちの間に浸透してきたのか、そして電話の使用方法がどのように変化していっているのかについて考察してみよう。
電話というメディアがわたしたちの前に登場したのはもう1世紀ほど前のことである。A.G.ベルが電話を発明したのが1876年、そして日本に公衆電話が初めて登場したのが1900年である。それからしばらくの間は、電話は一部の特権階級のものであり、経済的な豊かさを表す地位シンボル機能を有していた。しかし、そのうちに電話機の設置が容易になり、その数も増え、業務用とともに居住用、家庭用も普及率が大幅に伸び、また公衆電話も多く設置されるようになった。それによって誰もが電話に接することができるようになり、その利用方法も、緊急時のみならず平常時においてもごく当たり前に用いられるようになった。さらに電話は、一家に1台の家族用から一家に2〜3台のパーソナル用として用いられることも多くなり、その上、携帯電話やPHS等のように移動可能なものも増え、電話の個人化が急速に進んできている。
また、電話の相手も会社や公的機関等から、親、兄弟、そして友達や恋人など親しいものへと変化し、電話の内容も公的な命令や伝達、あるいは仕事上の連絡や指令などから、個人的な連絡、約束、悩み相談、情報交換、そしておしゃべりが中心になってきている。つまり電話が私的コミュニケーション手段として利用されるようになってきているのである。
そしてさらに、電話の利用形態に世代差が生じてきているとも言われている。船津衛(船津,1996,p.79‐82)は以下のように述べている。
例えば、年配者が重要な用件については電話では失礼だから直接訪問するなり、手紙を書くべきと考えるのに対して、若い世代はまず電話でということがふつうである。また電話をかける際に、あいさつやその他の形式を丁寧に行うものであると年配者が考えるのに対して、若い世代はそういうものを省略し、すぐに本題に入ろうとする性質がある。
しかも電話はかつての「簡単、明瞭に」から、「ゆっくり、長く」に変わってきている。電話の利用時間についても、これまでは夜間をなるべく避け、日中にかけるのがマナーであったが若者の場合は夜間での使用がほとんどである。
そして電話の使用方法も何か用件を伝えるためではなく、特に用事もないのに、ただおしゃべりをするために電話を使用する場合が多くなってきている。
このように電話は若者にとってなくてはならないコミュニケーション・メディアとなっているのである。
次に、電話の2つめの特徴としてあげられるのが「双方向コミュニケーションである」という性質である。電話においてわたしたちは自分の考えや意見を述べ、相手に聞いてもらうとともに、相手もただ聞くだけではなく、自分の考えを述べ、聞いてもらうことができる。電話コミュニケーションは相互に自己表現が可能なコミュニケーションなのである。
そして電話の3つめの特徴としてあげられるのが「距離・時間ゼロのコミュニケーションである」という性質である。携帯電話等の普及によって、わたしたちはいつでもどこでもコミュニケーションの開始が可能になった。相手がどんなに遠くにいても、電話がつながれば即座にコミュニケーションが開始できるのである。そういう意味で、電話は距離ゼロのコミュニケーションであると言える。
つまり、電話には「音声のみによるコミュニケーション」、「双方向コミュニケーション」、「距離・時間ゼロのコミュニケーション」という3つの特徴があり、それに加えて、若者と年配者では電話の利用時間やメッセージの内容に差が生じてきているのである。
ここまでわたしは、わたしたちにとってなじみの深いコミュニケーション・ツールとして手紙と電話(携帯電話も含む)をとりあげてきたわけだが、以下からはわたしが研究の対象としている電子メールについて、その特徴を詳しく考察していこうと思う。まずは、電子メールの性質をいくつかあげてみよう。
第1に、電子メールの随時性について説明しよう。
電子メールは、郵便がそれと対比してsnail-mail(かたつむりメール)と呼ばれるほど、瞬時に配達される。それでは電子メールがどのように相手に送られているのかをこれから簡単に説明してみよう。まず発信者が送ったメールは受信者のメールボックスに記憶される。そして、受信者がメールボックスをチェックしたときにはじめてメールが読まれることになる。利用者からすると、これはメッリトでもあり、デメリットでもある。相手がどこにいようがメッセージを送ることができる反面、相手がすぐに自分のメールボックスをチェックしてくれなければ、メッセージは届かないままで終わってしまうからである。つまり、お互いに毎日のようにメールボックスをチェックしているのであれば、速達郵便よりも迅速な情報のやりとりが可能であるが、週に1度くらいしかメールボックスをチェックしないような相手なら、普通郵便で手紙を送ったほうが早いということになる。すなわち、いつもコミュニケーションが成立するとは限らないのである。
しかし、記録が残る、自分の都合のよいときに返事を書けばよいなどといったメリットを考慮すると、近くにいる相手に対してであっても、対面より電子メールのほうが都合のよい場合は少なくない。
第2に、電子メールは新しい文字メディアであると言える。文字メディアと聞いてこれまで思い浮かんだのは手紙やはがきであったが、第1の特徴でも述べたように、メッセージが相手にとどくまでの迅速さにおいて、電子メールは従来のものを凌いでいる。
しかし、文字だけを媒体としたコミュニケーション・ツールである電子メールを多用することによって、コミュニケーション過程から肉体としての顔が切り離されてしまい、人間同士のあたたかいつながりがなくなり、人間関係への無関心という不道徳が増幅されたとも言われている。また、若者のコミュニケーションについても同じことが言える、とされている。このことについての詳しい考察は第3章で行うことにして、ここでは本題に戻ることにする。
さて、ここまでわたしは電子メールの特徴をいくつか挙げてきたわけだが、以下では(1)、(2)で述べてきた手紙や電話の特徴と電子メールの特徴を比較し、それぞれどこがどのように異なっているのかを考察してみようと思う。
まず電話には「夜中にはかけられない」「相手がいないとメッセージが伝わらない」デメリットがあるのに対し、電子メールには「電話で連絡がとれなければ電子メールを送っておけばよいのであり、夜中でも、早朝でも、相手の都合を考えずにいつでも発信することができる」「相手がその場にいなくてもメッセージを残すことができる」といったメリットがある。ここで電子メールと電話の違いがわかる。
また、電子メールの随時性という性質に注目すると、電子メールは電話と似た性質を持っているようにも思える。また、電子メールが電話回線を用いていることからも、システムとしては電子メールと電話は近い性質を持ったメディアと考えられる。しかし、電子メールが文字を媒体としているのに対して、電話は相手の声を聞きながらリアクションすることができる音声のメディアであり、やはり電子メールと電話は似ているようで異なったメディアということになる。
そして、今まで対人コミュニケーションを行う方法としては、直接会って話をしたり、電話をかけたり、手紙を出したりといったことが行われていたのだが、電子メールはこれらのコミュニケーション・ツールの中では手紙に近い存在であると考えられる。手紙も電子メールも文章によって自分の考えを相手に伝えるという点で、性質が似ているのである。しかし、手紙は相手に届くまで日数がかかるのに対し、電子メールは瞬時に相手にメッセージが届く。また、手紙は届いた時点で相手にメッセージが伝わるが、電子メールの場合は相手に届いていたとしても、相手がメールボックスをチェックしないかぎりメッセージは伝わらない。つまり、手紙はメッセージの到達に時間がかかるメディアであり、電子メールはメッセージは瞬時に届くが、相手に届いてすぐにメッセージが伝わるとはかぎらないメディアであると考えられる。
つまり電子メールは、いままでわたしたちが利用していたコミュニケーション・ツールである電話や手紙と一部似た性質も持っているが、やはり異なっており、特に手紙においては電子メールのほうが瞬時にメッセージが届くという点で、利用者にとってメリットが大きいと考えられる。また電話においても電子メールのほうが、相手がいなくても相手の都合を考えずにメッセージを届けることができるという点でメリットが大きいと言える。
しかし電話や手紙にも、電子メールにはないメリットがある。例えば手紙は相手に届いた時点でメッセージがきちんと伝わるのに対し、電子メールは相手がメールボックスをチェックしないかぎりメッセージは届かない。また電話は相手がその場にいれば、すぐにメッセージを伝えることができるし、相手の話に対してすぐにリアクションを返すことができる。それに対し、電子メールは相手にメールを送信しても、いつ読んでもらえるかわからないし、電話のように瞬時にリアクションを返すこともできない。それでも電子メールを利用する人が増えつづけているということは、人々がこれらのコミュニケーション・ツールを場合によって上手く使い分けていると言えるのではないだろうか。特に若者は、電子メールやチャットなどのネット上での交流活動に、より積極的であるという調べもあるくらいなので(『通信白書 平成11年版』,郵政省編,1999,p.38)、電子メールを上手く使い分け、また電話や手紙も場合によってきちんと使い分けているのではないだろうか。
第3章では、若者たちが電子メールをコミュニケーション・ツールとしてどのように位置付けているのか、そして電子メールをどのように利用しているのか、その利用実態について詳しく考えていきたいと思っている。また、若者の対人関係と電子メールの利用がどのように関係しているのかについても詳しく考察してみたいと思っている。
ここまでで、インターネットが若者たちの間に急速に浸透してきていること、インターネットの機能の中ではWWWと電子メール機能がよく利用されていること、そして若者たちが電子メールを積極的にコミュニケーション・ツールとして利用しているということがわかった。また現在、若者たちのコミュニケーションについては、人間関係の希薄化、つまりヒト‐ヒト関係からヒト‐モノ(メディア)関係へと変化していっていると言われていることがわかった。
それでは、若者たちは電話(携帯電話)や手紙などの以前からよく利用されているコミュニケーション・ツールと新しいコミュニケーション・ツールである電子メールをどのようにして使い分けているのだろうか。わたしはまず電子メールのコミュニケーション・ツールとしての位置付けについて考察してみたいと思っている。また、それとあわせて若者たちがどのようにして電子メールを利用しているのか、その利用実態についても詳しく考察していきたいと考えている。わたしは若者たちの間では、電子メールは何か用件があって送るのではなく、思いついたことを用もなく書いたり、暇な時に何か書いて送ったりという使い方をされていることが多いのではないかと考えているのだが、実際のところはどうなのだろうか。
次に、若者たちの電子メール利用と人間関係との間に何らかの関係があるのかどうかを調べていきたいと思っている。この調査では友人関係に対する学生の意識を聞いており、その結果をもとにして、電子メール利用が友人関係にどのような影響を与えているのかを考察していこうと考えている。
第3章では大きく分けて、これら2つのことについて考察していこうと思う。それでは、次節で今回の意識調査の概要を説明することにしよう。
今回の調査は富山大学の学生を対象にして実施したのだが、調査についての詳しい説明に移る前に、まず富山大学のインターネット利用環境について述べようと思う。富山大学では、入学と同時に学生全員にメールアドレスが与えられる。そして教養教育の科目で「情報処理」という必修の講義があり、それを受講した学生は全員電子メールを体験することになっている。また、インターネットを利用することのできるパソコンも、いつでも使用できるよう情報処理端末室に多数設置してあり、学生が自由にインターネットを利用できる環境になっている。
それでは調査についての詳しい説明に移ろう。今回の調査にはクォータ法を用いた。クォータ法については『社会学辞典』(見田・栗原・田中,1987)で以下のように説明されている。
クォータ法とは有意標本抽出の一種で、比較割合標本抽出の一つである。クォータ法では、母集団意識に着目して、これを基準にして母集団にできるだけ似せるようにする。典型的には国勢調査などから得た情報に基づいて、各標本について母集団の各部分の構成に対応して、標本の各部分の構成を似せる、つまり割り当てをする。
今回の調査では母集団を富山大学の学生とし、学部・学年・性別ごとに割り当てを行った。富山大学には、人文学部、経済学部、教育学部、理学部、工学部の計5つの学部が存在するが、学部・学年・性別にかたよりが生じないようそれぞれ公平に割り当てて調査にのぞんだ。当初、サンプル数は300としていたが、割り当てを行った結果301となった。これをもとにして、調査用紙を社会学コースの授業を受講している学生に分担して配布してもらい、2〜3週間後に回収した。調査は1999年10月下旬頃から11月中旬頃まで実施した。その結果、301部配ったうち1部回収することができず、300部で分析を行うことになった。
次節では、意識調査の各設問についての説明を行う。
ここでは各設問の説明に入る前に、意識調査全体の大まかな流れについて述べようと思う。まず電子メールについての質問項目は大きく分けて7つに分類されている。1つ目は電子メールの利用実態について、2つ目は電子メールをやりとりする相手について、3つ目は電子メールに書く内容について、4つ目は電子メールを使用するにあたっての意識、使用していない人の電子メールに対する意識について質問している。また5つ目に手紙についてきいている部分、電子メールの便利な点・不便な点についてきいている部分があり、6つ目に対人関係に対する意識について質問している。そして最後、7つ目に直接会って話す内容について質問している。これらがこの意識調査の大まかな流れである。それでは各設問の説明に入る。また、詳しいことは巻末の添付資料(「大学生の通信メディア利用に関する調査」)を参照していただきたい。
まず意識調査の一番最初の部分で、調査対象者の属性についての基本的な質問を行っている。ここでは性別や学部、学年等について質問している。(F1〜F5)
ここでは、まずインターネットの利用状況やキーボードの技術、電子メールの使用経験の有無などについて全員に質問している。(Q30〜Q32)
続いて電子メールを使用したことのある人に限って、電子メールの利用頻度や電子メールを始めた時期、また電子メールの送受信を行う場所等について質問している。(Q33〜Q38)
ここでは、電子メールのやりとりを誰としているのか、メールアドレスを教えてもよいと思う相手は誰かについて質問している。(Q39〜Q40)
ここでは電子メールの形式や、やりとりする内容等について質問している。
まずはじめに、電子メールでの文章の長さについて質問しているのだが、わたしは、若者たちは用件だけの短いメールよりも、思いついたことなどを書いたり、用事もないのにどうでもいいことを書いたりして、比較的長めのメールを送るほうが多いのではないかと考えている。(Q41)
続いて顔文字の使用についての質問をしている。ここでは顔文字を使用しているかどうか、そしてなぜ使用しているのかについて質問している。顔文字は本来、パソコン通信でよく利用されていたらしいが、若者たちには利用されているのだろうか。わたしの場合は、顔文字を使ってメールを書くと、ヘビーユーザーっぽい感じがして何かマニアックな印象を受けるので、ごくたまにしか使わないのだが、実際に顔文字を使っている人はいるのだろうか。(Q42〜Q43)
次に電子メールに書く内容についての質問をしている。ここでは「6)用事はないがおしゃべりをしたい時」「7)時間つぶし」あたりが多くなるのではないかと予想している。(Q44)
また、電子メールにつける署名についても質問している。ここでは署名を付けるかどうか、どんな署名を付けているかについて質問している。わたしは、若者たちは従来の形式にとらわれず自由なやり方でメールを使っていると考えているので、署名は必ずしも付けるとは限らないのではないかと思う。(Q45〜Q46)
そして最後に、電子メールを書き言葉で書くか、それとも話し言葉で書くかについて質問している。若者たちの場合、電子メールは友人とやりとりすることが多いと思うので、フレンドリーな感じで話し言葉を使うのではないだろうか。(Q47)
ここではまず、なぜ電子メールを利用しているのか、そして電子メールがこれまでのコミュニケーション活動に与える影響について質問している。具体的には、電子メールを利用する理由について、そして電話の回数や、自分から連絡をとる相手の数、手紙を書く回数などが増えたか減ったかについての質問になっている。(Q48〜Q49)
そして最後に、電子メールを使用したことのない人に、なぜ使用しないのか、そして今後の意向についての質問している。(Q50〜Q51)
ここでは、まず手紙の利用頻度、そして手紙に書く内容について質問している。わたしは手紙に書く内容、電子メールに書く内容、電話で話す内容との間には何らかの差が見られるのではないかと考えている。(Q52〜Q53)
次に電子メールを利用するにあたっての便利な点や不便な点について質問している。(Q54)
ここでは対人関係・友人関係について質問している。両方とも選択肢は「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「どちらともいえない」「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」の5段階もうけている。(Q55〜Q56)
ここで得られた結果をもとに、電子メールが対人関係にどのような影響を与えているのか考察していこうと思っている。
ここでは、調査対象者が普段、友人とどんな話をしているのかについて質問している。
以上が意識調査の内容である。それでは調査結果の分析に移ろう。
詳しい分析に移る前に、ここでは学生たちの電子メール利用に関する基本的なデータを見てみようと思う。まずはどれだけの学生がインターネットを利用しているのか見てみよう。(図3−1)
図3−1によると、学生がインターネットをプライベートで使用している割合は「1)プライベートで利用している」と「3)プライベートと学業の両方で利用している」をあわせて58.0%と、とても高くなっている。これは、富山大学がいつでもインターネットを利用できる環境にあるということも関係しているのかもしれない。それに、授業でインターネットを利用せざるを得ない場合もあるので、この結果だけでは若者たちの間にインターネットが浸透しているとはっきり言いきることはできないかもしれない。
それでは次に、どれだけの学生が電子メールを利用しているのか見てみよう。(図3−2)
図3−2によると、電子メールを使用している学生は58.3%、使用したことはあるが現在は使用していない学生が20.0%となっており、何らかのかたちで電子メールを使用したことのある学生の割合はこれら両方をあわせて78.3%と、非常に高くなっている。しかしこのデータは富山大学のいつでも利用できるインターネット環境と、学生全員にメールアドレスがあることが影響しているのかもしれない。
それでは次に、学生が電子メールをどのくらいの頻度で使用しているのか見てみよう。(図3−3、図3−4)
図3−3、図3−4を見てみると、送信・受信の両方において「1)ほとんど送受信しない」割合は30%前後で、1番高くなっている。次いで「3)1週間に1〜2通」が22〜25%前後となっている。また、毎日送受信している学生はあわせて15〜17%前後で、あまり多いとは言えないが、1週間に最低1通は送受信している人の割合があわせて5割を超えており、学生たちの間では毎日とまではいかないにしても、電子メールが利用されていることは確かなようである。それでは次に、学生たちが1週間にどれくらいメールをチェックするのか見てみよう。(図3−5)
図3−5を見てみると、「1)ほとんどチェックしない」が36.4%で1番高く、次いで「2)1週間に1〜2回」が27.5%となっている。前にも述べたように、電子メールを使用している割合は約6割ほどだが、メールチェックについては「5)毎日チェックする」割合が18.2%なのに対して「1)ほとんどチェックしない」割合が36.4%、それに次いで「2)1週間に1〜2回」の割合が27.5%と、電子メールを使用する上で、電子メールの特徴の一つである「随時性」はあまり意識されていないようである。つまり、電子メールがどれだけはやくメールボックスに届いていたとしても、メールボックスを確認する頻度が低く、電子メールの「隋時性」という特徴はあまり見られなくなってきていると言うことができるのではないだろうか。「隋時性」という特徴がなくなってしまった電子メールは、若者たちの間で手紙に近い利用をされているのかもしれない。
簡単にまとめると、インターネットをプライベートで利用している学生の割合は約6割で、電子メールを何らかのかたちで利用したことのある学生の割合は約8割である。このことから、電子メールは学生たちの間にかなり浸透してきていると言えそうだが、メールの送受信数を見てみると、「ほとんど送受信しない」と「月に1〜2通送受信する」割合が合わせて約4割を超えており、まだそこまで頻繁には利用されていないようである。しかし、1週間に最低1通以上送受信する割合は5割を超えており、毎日とまではいかないにしても、利用されていることは確かなようである。しかし、メールチェックをする頻度があまり高くないので、電子メールの大きな特徴である「隋時性」がほとんどなくなってしまい、手紙に近いメディアになってしまっているような気がする。
それでは、次からはこれまでのことをふまえた上で、電子メールの位置付けについて詳しく考察していきたいと思う。
ここでは、第2章第1節「調査の目的」の部分でも述べた通り、若者たちが電話(携帯電話)や手紙などの以前からよく利用されているコミュニケーション・ツールと新しいコミュニケーション・ツールである電子メールをどのようにして使い分けているのかを明らかにしていきたいと思っている。
わたしは、若者たちの間で電子メールは電話のように何か至急連絡をとりたい時に使われているのではなく、電話をかけるまでもないようなおしゃべりや世間話をしたい時に使われているのではないかと考えている。また電子メールは、文章を書いて送るという点では手紙ととても似ているように思えるのだが、相手に届く速度の違いなどによって、その内容も異なってくるような気がする。電子メールは手紙よりも文章の長さも短く、内容もどうでもいいような世間話や、ちょっと思いついたことなどを瞬時に送りたい時に使われているのではないだろうか。これからそれらのことについて考察を進めていこうと思う。
まずはじめに、若者たちが携帯電話・PHS、手紙、電子メールでどんなことをやりとりしているのかについて見てみようと思う。調査結果を図3−6にまとめたので参照していただきたい。(図3−6) わたしの予測は、電話は何か用事があるときの連絡手段として有効に利用されていることが多い、というものである。 調査結果を見てみると、携帯電話・PHSの場合1番多いのが、「4)待ち合わせの連絡(68.0%)」で圧倒的であり、これは携帯電話・PHSの、どこにでも持っていくことができるという携帯性によるものであると考えられる。次に多いのが「2)サークルやクラブ等の誘い(46.5%)」「3)飲み会や食事会の誘い(43.0%)」「1)ゼミ(授業)の連絡(39.1%)」「5)アルバイト先への連絡(34.8%)」である。やはりわたしの予測通り、学生たちは何か用事があって電話を利用することが多いようである。しかし、「6)用事はないが、おしゃべりをしたいとき(30.5%)」「9)近況報告や様子うかがい(27.0%)」も次いで多くなっており、電話は何か用事があるときの連絡手段として利用されることが多いが、時として用事がなくても利用される場合があると言えそうである。 次に、学生たちが手紙にどんなことを書いて送っているのかについて見てみようと思う。 わたしの予測は、手紙は電話とは異なり、何か用事があるときの連絡手段としてはあまり使われていないのではないかというものである。なぜなら手紙は電話と違って、相手に用件が伝わるまでに時間がかかってしまうからである。しかし手紙は電子メールと似た性質を持っているのではないかと思う。なぜなら手紙も電子メールも文字を使って相手にメッセージを伝えるコミュニケーション・ツールだからである。 調査結果を見てみると、手紙の場合1番多いのが「9)近況報告や様子うかがい(66.3%)」で圧倒的である。これは、実際にわたしが受け取る手紙を見てみてもわかることである。次に多いのが「8)悩み事の相談(20.7%)」「6)用事はないが、おしゃべりをしたいとき(19.0%)」「10)贈答品へのお礼や季節のあいさつ(17.0%)」である。やはり手紙は電話のように瞬時にメッセージを伝えることができないことから、用事があるときの連絡手段として利用されることはほとんどないようである。その代わりに、用事もないのに何か書きたいときや、悩み事の相談などにも割合的には少なめだが、利用されているようだ。それでは、手紙と同じく文字を使ったコミュニケーション・ツールである電子メールはどのような使い方をされているのだろうか。 それでは、学生たちが電子メールにどんなことを書いて送っているのかについて見てみよう。 わたしの予測は、電子メールは電話のように何か至急連絡をとりたい時に使われているのではなく、電話をかけるまでもないようなおしゃべりや世間話をしたい時に使われていることが多く、また手紙よりも文章の長さも短く、内容もどうでもいいような世間話や、ちょっと思いついたことなどを瞬時に送りたい時に使われていることが多い、というものである。 調査結果を見てみると、電子メールの場合1番多いのが「9)近況報告や様子うかがい(65.1%)」で、電子メールはやはり手紙と似た性質を持っているということがわかった。また、手紙の場合「8)悩み事の相談」は20.7%、電子メールの場合が22.3%と、非常に数値が近くなっており、ここからも手紙と電子メールが似た性質を持つことがうかがえる。次に多いのが「6)用事はないが、おしゃべりをしたいとき(51.3%)」で、わたしの予測通り、電子メールは電話のように用事があるときに利用されているのではなく、何かとりとめのない話をしたいときに利用されていることがわかった。また、手紙の場合は「6)用事はないが、おしゃべりをしたいとき」が19.0%なのに対して電子メールの場合は51.3%、また手紙の場合は「7)時間つぶしをするとき」が7.3%なのに対して電子メールの場合は31.1%と、電子メールは手紙よりもさらにとりとめのない会話や時間つぶしをしたいときに利用されていると言えそうである。しかし、電子メールは相手に瞬時にメッセージを伝えることができるからか、メッセージを伝えるのに時間がかかる手紙よりも連絡手段として利用されることが多いようである。 それでは、ここまでのことを簡単にまとめてみよう。 ここまで、携帯電話・PHS、手紙、電子メールの内容について見てきたが、内容だけでこれだけの違いが発見できた。それでは次に、携帯電話・PHSと電子メールにおいて、それぞれどんな人とやりとりしているのかについて見てみようと思う。 まずはじめに、学生たちがどんな人たちと携帯電話・PHS、電子メールでやりとりしているのかについて見てみよう。調査結果を図3−7にまとめたので参照していただきたい。(図3−7) 図3−7によると、携帯電話・PHSの場合「2)親しい友人」の割合が97.3%と最も高く、次いで「1)家族」の割合が45.1%となっている。携帯電話・PHSは、ほとんど親しい友人か家族と連絡をとるために利用されているようである。また、「3)あまり親しくない友人」の割合が8.2%となっており、知り合い程度の友人との連絡手段としては、携帯電話・PHSはあまり利用されていないと言えそうである。 それでは、次に学生たちがどんな人たちと電子メールをやりとりしているのかについて見てみよう。 図3−7によると、電子メールの場合、携帯電話・PHSと同様に「2)親しい友人」が83.2%と最も高くなっている。しかし、「1)家族」とやりとりする割合は13.4%と低く、若者たちは家族とは電子メールのやりとりを活発に行っていないことがわかった。電子メールは、近況報告や様子うかがい、また用事はないけど何か言いたいことがあるときや時間つぶし等に利用されることが多いので、家族とやりとりするよりも、友人たちとやりとりすることが多くなるのものと思われる。 また、「4)大学の教職員」と電子メールをやりとりしている割合が15.5%、「3)あまり親しくない友人」とやりとりしている割合が13.9%と、両方とも携帯電話・PHSよりも高い割合になっている。これは、まず大学の教職員とのやりとりについては、最近、講義等でレポートを電子メールで送らなくてはならない場合が多くなってきており、そのため教職員と電子メールをやりとりしている人の割合が高くなったものと思われる。次にあまり親しくない友人とのやりとりについてだが、これは電話で話すよりも電子メールの方が文字だけでメッセージを伝えられるため、伝えたいことだけを伝えて、よけいなことを話さずに済むという点で、利用している人が多いのではないだろうか。しかし相手が親しい友人となると、話はまた違ってくると思う。親しい友人とのやりとりには、自分の気持ちや考えを声の調子や声の大きさ等で瞬時に相手に伝えることのできる電話を利用するのではなかろうか。実際に、「2)親しい友人」とやりとりしている割合は、電話の場合は97.3%、電子メールの場合は83.2%と、やはり電話の方が高い割合になっている。 また、「7)顔を合わせたことのないメール友達」を持っている人の割合が13.9%と、低めだったことが意外だった。 手紙についてはここでは見ていないが、手紙はほとんどの場合、友人とやりとりすることが多いと思うので、分析を省いている。 それでは次に、携帯電話・PHSの電話番号、そしてメールアドレスを教えてもよいと思う相手を比較し、プライベートで利用されることが多いのはどちらかを調べてみようと思う。図3−8に調査結果をまとめたので参照していただきたい。(図3−8) 図3−8によると、電話番号の場合1番多いのが「2)親しい友人」で86.7%、次いで「1)家族」で78.5%となっている。これは予想通りといった感じだが、「6)その他連絡をとる必要がある人」が57.8%、「5)アルバイト先」が55.9%と高い割合になっており、何か連絡をとる必要のある人に電話番号を教える傾向があることがわかった。 また、電話番号を「7)誰に知られてもあまり気にしない」人は18.4%と少なく、携帯電話の番号はプライベート的な要素が強く、あまり簡単にまわりの人に教えたりしていないと言えそうである。 それでは次にメールアドレスを教えてもよいと思う相手についての調査結果を見てみよう。 図3−8によると、メールアドレスの場合、携帯電話と同様に1番多いのが「2)親しい友人」で76.5%、次いで「1)家族」で54.6%となっている。携帯電話と比べて家族にメールアドレスを教える割合が少ないのは、実際に家族と電子メールをやりとりすることが少ないからではないだろうか。 また、「6)その他連絡をとる必要がある人」が35.3%、「5)アルバイト先」が13.4%と、どちらも携帯電話の場合は5割以上の割合だったのに対し、とても低い割合になっている。これは、電子メールが携帯電話のように連絡手段として使われているのではなく、用事はないけど何か言いたいときや時間つぶし等に利用されていることを示しているのではないだろうか。 ところで、図3−8によるとメールアドレスの場合は「7)誰に知られてもあまり気にしない」割合が25.6%になっており、携帯電話番号の18.4%を上回っている。前述で携帯電話番号はプライベート的な要素が強いようだという考察を行ったのだが、この調査結果から、やはりメールアドレスよりも携帯電話番号の方がプライベート的な要素が強いと言うことができそうである。 簡単にまとめると、 というふうにまとめることができそうである。 それでは次に男女間における携帯電話・PHS、手紙、電子メールの使い方の違いについて見てみようと思う。 これまで、男女全体における携帯電話・PHS、手紙、電子メールの使い分けについて見てきたわけだが、調査結果を分析していくうちに男女間でこれらの使い分け方に差が生じていること、そして電子メールの利用率に差が生じていることに気づいた。これらについて詳しく考察していくために、男女別の調査結果を以下に示す。 それではまず電子メールの利用率に男女間でどれくらいの差があるのかを見てみようと思う。(図3−9) 図3−9によると、電子メールを「1)使用している」男子学生の割合は52.4%、女子学生の割合は70.4%と、女子学生の方が男子学生よりもかなり高い割合になっている。また、電子メールを「3)使用したことがない」男子学生の割合は26.5%、女子学生の割合が11.1%となっており、男女の間で電子メールの利用率に差が生じている。どうやら電子メールは男性よりも女性によく利用されているようである。 電子メールは文章を書いて相手に送ることから手紙に近いコミュニケーション・ツールであり、もともと男性よりも女性の方が手紙を出していることから(図3−10)、男性よりも女性の方が手紙に近いコミュニケーション・ツールである電子メールに興味を持っており、電子メールの利用率に男女差が生じたものと考えることができないだろうか。 図3−10を見てみると、前でも述べた通り、やはり男性よりも女性の方が手紙を頻繁に利用しているようである。 それでは次に、男女間における手紙に書く内容の差についての調査結果を見てみよう。(図3−11) 図3−11では質問項目の後半部分で有意な結果がいくつも出てきた。まず「6)用事はないが、おしゃべりをしたいとき」で、カイ2乗検定において1%水準で有意な結果が得られた。割合は男子学生6.8%、女子学生40.7%である。次に「7)時間つぶしをするとき」でも、カイ2乗検定において1%水準で有意な結果が得られた。割合は男子学生4.7%、女子学生12.0%。そして「8)悩み事の相談」でもカイ2乗検定において1%水準で有意な結果が得られた。割合は男子学生9.9%、女子学生39.8%。最後に「9)近況報告や様子うかがい」でもカイ2乗検定において1%水準で有意な結果が得られた。割合は男子学生51.0%、女子学生93.5%である。これらの質問項目では常に女子学生が男子学生を上回っており、男子学生より女子学生のほうが手紙を様々なことに利用していると言えそうである。特に男子学生が近況報告や様子うかがいなどに手紙を利用することが多いのに対し、女子学生は近況報告や様子うかがいはもちろんのこと、悩み事の相談や用事はないが何かを伝えたいときなど色々なことに手紙を利用しているようである。 次に図3−12についてだが、ここでも手紙の場合と同様に、質問項目の後半部分において有意な結果がいくつか得られた。まず「6)用事はないがおしゃべりをしたいとき」でカイ2乗検定において5%水準で有意な結果が得られた。割合は男子学生45.1%、女子学生60.4%である。次に「8)悩み事の相談」でもカイ2乗検定において1%水準でで有意な結果が得られた。割合は男子学生15.5%、女子学生32.3%である。また「9)近況報告や様子うかがい」でもカイ2乗検定において1%水準で有意な結果が得られた。割合は男子学生54.9%、女子学生80.2%である。これらのことから、電子メールにおいても手紙と同様に男子学生より女子学生の方が電子メールを色々なことに利用していると言えそうである。 それでは次に、電子メールアドレスを教えてもよいと思う相手の違いについて男女別に見てみよう。(図3−13) 図3−13では、まず「1)家族」でカイ2乗検定において5%水準で有意な結果が得られた。割合は男子学生が48.6%、女子学生が63.5%である。どうやら男性よりも女性の方が家族にメールアドレスを教える傾向があるようである。また「2)親しい友人」でもカイ2乗検定において1%水準で有意な結果が得られた。割合は男子学生が69.0%、女子学生が87.5%である。このことから、男性よりも女性の方が親しい友人にメールアドレスを教える傾向があることがわかる。しかし、ここで一番注目したいのは「7)誰に知られてもあまり気にしない」でカイ2乗検定において1%水準で有意な結果が得られたということである。割合は男子学生が33.1%、女子学生は14.6%である。このことから、男性に比べて女性は、メールアドレスを誰に知られてもよいとは考えておらず、メールアドレスをよりプライベートなものに位置付け、そんなに簡単に人に教えるものではないと考えているのではないだろうか。 ここまでの分析から、男性が近況報告や様子うかがいなどに手紙を利用することが多いのに対し、女性は近況報告はもちろんのこと、悩み事の相談や用事はないが何かを伝えたいときなど色々なことに利用していること。そして、女性が近況報告や悩み事の相談、用事はないけど何かを伝えたいとき等、友人との色々なやりとりのために電子メールを使用する傾向があるのに対して、男性は電子メールを連絡手段として使用する傾向があることがわかった。また、女性は男性よりも電子メールをよりプライベート的なものに位置付けており、メールアドレスにおいては誰にでも教えてもよいものではないようである。 それでは次に、男女間における電子メールに書く文章の長さの差を見てみよう。もし、男性よりも女性の方が近況報告や悩み事の相談など色々なことに電子メールを利用する傾向があるとしたら、自然と文章も男性より女性の方が長くなるはずである。(表3−1) 表3−1 男 女
(3)電子メール利用における男女間の差について
P<0.01
P<0.01
F1 性別
X
Q41 電子メールの文章の長さ
1)
1〜2行
2)
3〜5行
3)
6〜10行
4)
11〜20行
5)
21〜100行
6)
100行以上
12.4
25.5
28.5
24.1
8.0
1.5
2.1
14.6
30.2
39.6
13.5
0
P<0.01(単位:%)
表3−1を見てみると、男性の場合は1〜20行の間でばらついた結果が出ており、特に3〜10行のところに約5割の回答が集中している。それに対して女性の場合は6〜20行のところに約7割の回答が集中しており、やはり男性よりも女性の方が電子メールの文章が長い傾向にあることがわかった。
これらの結果から、男性が電子メールを近況報告や連絡手段など比較的短い文章に利用する傾向があるのに対し、女性は電子メールを近況報告以外にも悩み事の相談やどうでもいいことを伝えるため等、色々なやりとりを比較的長めの文章で行う傾向があると言えそうである。
つまり、男女間において電子メールの利用率に差が生じたのは、まず男性が女性に比べてもともと手紙を書く回数が極端に少なく、そのため手紙に似たコミュニケーション・ツールである電子メールに対しても女性よりも興味が少なかったこと。そして、男性が電子メール利用に用事はないけど何か伝えたいときや悩み事の相談等をあまり求めないのに対し、女性は電子メール利用にまるで手紙のように、用事はないけど何か伝えたいときや悩み事の相談等を求めており、そのために男性よりも電子メールをよく使う傾向があること。これら2つのことが影響しているのではないだろうか。
それでは、次節では若者たちの電子メール利用と対人関係との間にどのような関係があるのかについて、詳しく考察していきたいと思う。
現在の若者たちのコミュニケーションに対する論説では、若者たちはメディア機器との関わりが濃密になるほど、ヒトとコミュニケーションしているのではなく、メディア機器とコミュニケーションしていると感じてしまうようになると言われている。つまり、ヒト‐ヒト関係からヒト‐モノ(メディア)関係へと若者たちのコミュニケーション形式が変化していっているというのである。
しかし、わたしはメディア機器を使ってコミュニケーションすればするほど、いつでも相手と連絡が取れ、人同士がより深くつながっていくような気がする。若者たちの人間関係は希薄化どころか、いつでも相手と気楽に連絡が取りあえる状況にあるという点では、逆に濃密化していっていると言えるのではないだろうか。
そこでわたしは電子メールを利用している若者としていない若者との間に、対人関係に対する意識の違いがあるのか調べるため、まずは電子メールの使用経験について質問しているQ32と、メディアに対する意識について質問しているQ55の8)〜12)までの質問項目をクロスさせ、考察してみることにした。それらのうち、有意な結果が得られたものを以下に示す(表3−2)
表3−2
Q32電子メールの使用経験
X
Q55−11)メディアを介するより、直接会う方が落ち着いて話ができる
メディアを介するより、直接会う方が落ち着いて話ができる | |||
そう思う |
どちらとも 言えない |
そう思わない | |
電子メールを 使用している |
42.0 | 40.2 | 17.8 |
電子メールを 以前使用していた |
71.2 | 16.9 | 11.9 |
電子メールを 使用したことがない |
59.7 | 32.3 | 8.1 |
表3−2によると、電子メールを使用している若者はメディアを介した方が落ち着いて話ができると多少感じているようだが、電子メールを使用したことがない若者は、メディアを介するより直接会った方が落ち着いて話ができると感じているようである。電子メールを使用している若者は、日常で電子メールをよく使っているせいか、「メディアを介するより、直接会う方が落ち着いて話ができる」と一方的に言いきってしまうことができないようで、「どちらとも言えない」と答えた割合が4割にのぼった。これに対して電子メールを使用したことがない若者の、「メディアを介するより、直接会う方が落ち着いて話ができる」に「そう思う」と答えた割合は約6割にのぼる。しかし、ここで特に注目したいのが、電子メールを以前使用していた人は「メディアを介するより、直接会う方が落ち着いて話ができる」に「そう思う」と答えた割合が7割を超えている。この数値は、電子メールを使用している人、使用したことがない人よりもはるかに高い。これは一体どういうことなのだろうか。
表3−3
Q32電子メールの使用経験
X
Q55−12)メディアを介するより、直接会う方が、相談事や真剣な話ができる
メディアを介するより、直接会う方が、相談事や真剣な話ができる | |||
そう思う |
どちらとも 言えない |
そう思わない | |
電子メールを 使用している |
52.6 | 36.0 | 11.4 |
電子メールを 以前使用していた |
76.3 | 15.3 | 8.5 |
電子メールを 使用したことがない |
71.0 | 21.0 | 8.1 |
表3−3を見てみると、電子メールを使用している若者と、使用したことのない若者との間に意識の差はあまりなさそうである。どちらとも、「メディアを介するより、直接会う方が、相談事や真剣な話ができる」に「そう思う」と答えた割合はとても高くなっている。しかし、電子メールを使用している若者は、日常でメディア、つまり電子メールとよく接触しているためか、「どちらとも言えない」と答えた割合が36%にのぼった。電子メールを使用している若者は、メディアを介したコミュニケーションの良さも、直接会って話すことの良さも両方とも知っているために、メディアを介するより直接会って話した方がいいとはっきり言いきることができなくなっているのではないだろうか。
しかし、表3−2の場合と同じように、ここでも電子メールを以前使用していた人が「メディアを介するより、直接会う方が、相談事や真剣な話ができる」に「そう思う」と答えた割合は、電子メールを使用している人、使用したことがない人よりも高く、76.3%となっている。
つまり、表3−2、表3−3から、電子メールを以前使用していた人は、「メディアを介するより、直接会う方が落ち着いて話ができる」、「メディアを介するより、直接会う方が、相談事や真剣な話ができる」と強く感じている人で、そのため電子メールを使用するのをやめてしまったと考えることができそうである。
それでは次に、若者たちの電子メール利用と対人関係の間にどのような関係があるのかについて詳しく考察してみよう。以下の調査結果では、電子メールを利用している若者だけに的を絞っている。(表3−4、表3−5、表3−6)
表3−4
Q49−4)人と直接会って話をする回数
増えた | 変わらない | 減った | |
人と直接会って話をする回数 |
2.2 | 93.1 | 4.7 |
表3−4によると、電子メールを利用するようになってから、人と直接会って話す回数が減ってしまったということはほとんどいないようである。電子メールを使用するようになる前と、電子メールを使用するようになってからとでは、特に人との直接の関わりが減ってしまったということはないようである。
表3−5
Q49−5)小さな用件でも連絡をとること
増えた | 変わらない | 減った | |
小さな用件でも連絡をとること | 23.3 | 74.6 | 2.2 |
表3−5をによると、電子メールを利用するようになってから、多少ではあるが人と連絡をとりあう回数が増えているようである。少なくとも減ってはいない。このことから、電子メールを利用するようになってから、若者たちの間で小さな用件でも人と連絡をとりあう回数が増え、対人関係が活発になってきていると言えるのではないだろうか。
表3−6
Q49−6)自分から連絡をとる相手の数
増えた | 変わらない | 減った | |
自分から連絡をとる相手の数 |
22.0 | 77.6 | 0.4 |
表3−6を見てみても、電子メールを利用するようになってから、自分で連絡をとる相手の数は多少だが増えており、やはり電子メールを利用するようになってから、対人関係が活発化してきていると言えそうである。
それでは次に、電子メール利用が若者たちの友人関係にどのような影響を与えているのかについて、友人関係が「広く・浅く」なっているのか、それとも「狭く・深く」なっているのか考察してみようと思う。わたしの予想では、電子メール等のコミュニケーション・ツールを利用することによっていつでもどこでも友人同士で連絡をとりあえるようになってきているので、より友人関係は活発にそして密になってきているのではないかというものである。つまり、若者たちの友人関係は「広く・浅く」より「狭く・深く」なる傾向があるのではないだろうか。
それでは、友人とのつきあい方について質問しているQ56のデータをもとにして考えていこうと思う。(表3−7)
表3−7
Q32 電子メールの使用経験(有・無)
X
Q56 友達とのつきあい方について
電子メールの使用経験 | そう思う |
どちらとも 言えない |
そう思わない | |
1)友人になったら、その関係は長く続く方だ | 有 | 77.1 | 19.4 | 3.4 |
無 | 67.7 | 29.0 | 3.2 | |
2)浅く広くより、1人の友人との深いつきあいの方を大事にしている | 有 | 64.6 | 26.3 | 9.1 |
無 | 50.0 | 37.1 | 12.9 | |
3)少数の友人より、多方面の友人といろいろ交流する方だ | 有 | 21.7 | 36.0 | 42.3 |
無 | 19.4 | 30.6 | 50.0 | |
4)友人といるより、1人でいる方が気持ちが落ち着く | 有 | 21.7 | 44.6 | 33.7 |
無 | 24.2 | 46.8 | 29.0 | |
5)友人関係はあっさりしていて、お互いに深入りしない | 有 | 17.7 | 33.7 | 48.6 |
無 | 22.6 | 38.7 | 38.7 |
表3−7ではカイ2乗検定において有意な結果は得られなかった。電子メールの使用経験と友達とのつきあい方には関連はないようである。
それぞれの項目について詳しく見てみよう。まず電子メールの使用経験にかかわらず、「2)浅く広くより、1人の友人との深いつきあいの方を大事にしている」で「そう思う」割合が5割を超えており、やはり若者たちは「広く・浅く」より「狭く・深く」のつきあい方をしているようである。また、電子メールの使用経験にかかわらず、「1)友人になったら、その関係は長く続く方だ」で「そう思う」割合が約7割となっており、若者たちの友人とのつきあい方は狭く・深い傾向があり、そしてそのつきあいは長く続くものであると言えそうである。しかし、電子メールの使用経験にかかわらず、「4)友人といるより、1人でいる方が気持ちが落ち着く」で「どちらとも言えない」割合が4割を超えており、若者たちが友人と「狭く・深い」つきあい方をし、またその関係が長く続くくらい密なものであったとしても、時には自分1人だけになってみたかったり、誰もいないところに行きたくなったりと、若者たちの友人とのつきあい方は少々複雑で、はっきりしないもののようである。また、電子メールの使用経験の有無は、友人関係には特に影響を与えていないようである。
これまで、若者たちの電子メール利用と対人関係の間にどのような関係があるのかについて考察してきたわけだが、どうやら電子メールを利用するようになってから、対人関係に対する若者たちの意識に特別大きな変化は見られないが、少しずつ対人関係が活発化してきていることは確かなようである。また、若者たちの友人とのつきあい方についても、電子メールの使用経験の有無にかかわらず、浅いつきあいをしている若者は少なく、若者たちは友人と深く、そして長く続くようなつきあい方をしていると言えそうである。
第4章では、わたしがこれまでに述べてきたことをまとめてみようと思う。まず、わたしは若者たちの間で利用されているコミュニケーション・ツールとして、携帯電話・PHS、手紙、電子メールをあげ、それらをどのようにして使い分けているのかについて探った。このことについて調査結果よりわかったことを以下にまとめてみた。
まず、わたしが考えていた仮説を説明する。わたしは若者たちの間で電子メールは電話のように何か連絡をとりたい時に使われているのではなく、電話をかけるまでもないようなおしゃべりや世間話をしたい時に使われているのではないかと考えていた。また電子メールは、文章を書いて送るという点では手紙ととても似ているように思えるのだが、相手に届く速度の違いなどによって、その内容も異なってくるような気がしていた。そして、電子メールは手紙よりも文章の長さも短く、内容もどうでもいいような世間話や、ちょっと思いついたことなどを瞬時に送りたい時等に使われているのではないかと考えていた。上記の調査結果のまとめを見てみると、だいたいわたしの仮説通りの結果が得られたようである。
また、電子メール利用において男女間に差が生じていることを発見した。電子メールの利用率で、女性が男性を上回っていたのである。これについては、電子メールの利用方法における男女差を以下にあげた。
このような男女間の電子メール利用に対する意識の違いから、電子メールの利用率に差が生じたのではないだろうか。
次に、わたしは電子メール利用が、若者たちの対人関係にどのような影響を与えているのかについて探った。現在の若者たちのコミュニケーションに対する論説では、若者たちはメディア機器との関わりが濃密になるほど、ヒトとコミュニケーションしているのではなく、メディア機器とコミュニケーションしていると感じてしまうようになると言われている。つまり、ヒト‐ヒト関係からヒト‐モノ(メディア)関係へと若者たちのコミュニケーション形式が変化していっているというのである。しかし、わたしはメディア機器を使ってコミュニケーションすればするほど、いつでも相手と連絡が取れ、人同士がより深くつながっていっていくような気がする。若者たちの人間関係は希薄化どころか、いつでも相手と気楽に連絡が取りあえる状況にあるという点では、逆に濃密化していっていると言えるのではないだろうか。
そこでわたしは実際にこのようなことが若者たちの間で起こっているのかどうかを考察するため、電子メールに着目して調査結果を分析し、以下にまとめた。
これまでの調査結果から、若者たちが電子メールを利用するようになってから対人関係が薄れてしまったとか、ヒト‐モノ関係になってしまったとは言いきることができないとわかった。これまでの調査結果からは、若者たちに自分達の対人関係が濃くなってきているという意識があるかどうか述べることはできないが、電子メールを使用することによって人とあう回数や、人と連絡をとる回数が増えてきており、若者たちのコミュニケーション活動は無意識のうちに活発化していると言えそうである。電子メール利用による若者コミュニケーションの活発化という変化は、若者たちのコミュニケーションがヒト‐ヒト関係からヒトモノ関係になってきていると言われている現代社会において、それらの意見をくつがえすような、若者たちにとってはよい変化だと思う。
電子メールは、最近になってわたしたちの間に広まってきた新しいコミュニケーション・ツールである。今はまだ浸透しきっていないが、あと数年後にはまるで携帯電話のように、誰もがあたりまえのように持っているコミュニケーション・ツールになるかもしれない。しかし、わたしは今回の調査結果からも言えるように、どんなにコミュニケーション・ツールがわたしたちの間に広まったとしても、人と人同士のコミュニケーションがおろそかになってしまうようなことはないだろうと考えている。