第5章    広告分析

「広告分析」では女性雑誌に多く見られる『美容』に関する広告を取り上げる。

メディアは広告を掲載することで成り立っており、広告は「商品情報を伝えるだけでなく、イメージによる生活や生き方、らしさの規範を提案する、文化そのものになっている。」(小川真知子、1992、p135)

そして広告は「「読んでもらう」記事以上に、(「買ってもらう」ために)人々の欲望を直截に反映し(「ほしい」)、くすぐる要素がより濃厚である(「買いたくなる」)と思われるとともに、“美”や身体のありよう・基準の画一化の文化を浸透させる」(諸橋泰樹、1989、p104−105)とされる。

そのような広告のなかでもここでは、『美容』に関する『化粧品』や『痩身・整形』広告におけるコピーや体験談の表現(女性雑誌が送るメッセージ)について内容的な側面から分析していき、女性たちが「身体加工」へと走る意識の背景を探る。

 

第1節      コピー分析

第2節      体験談分析

第3節      「身体加工」の問題点

 

第1節                           コピー分析

 

『化粧品』『痩身・整形』の広告の中でも(「美しさ」を手に入れるための手段として)「身体加工」を促す重要な表現の一部であり、特徴的で目をひくキャッチコピーをここでは取り上げ、そのコピーの裏側に隠された送り手の意図(メッセージ)、受け手側の意識を探っていく。

 

1.「身体加工」を促すコピー

 

@     義務としての美しさ

         「ムダ毛のない足は女性のマナー。」(プチseven7月号/6・7・8・9・10月号/JJ6・7・8・9・10・11月号/女性自身6・7・8・9月号,脱毛用品)

         「ムダ毛処理は,いまやオシャレを超えた男女のエチケット。」(non.no 11月号,脱毛用品)

         「あなたも見られてる!汚い肌はNG!」(プチseven 11月号,ピーリング用品)

         「モテル女にムダ毛は厳禁だ!」(プチseven8月号,脱毛用品)

         「こんな肌じゃ恋は始まらない!!」(プチseven 11月号,ピーリング用品)

         「スリムじゃないと始まる恋も始まらない」(JJ8月号,エステ)

 

「マナー」や「エチケット」という表現が見られることから、若い女性にとって「美しくあること」は常識とされているのである。

そして「NG」「厳禁」という言葉からはもはや女性たちに「ムダ毛はあってはならない」「やせていなくてはならない」とコピーは半ば強制もしくは義務としている。

また「恋は始まらない」という表現も見られ、「美しくあること」は異性の心をとらえるための前提条件になっている。

これらのコピーが見られる背景には「女性は美しくあって当然」という社会意識があることを裏付けている。そして女性たちはやせている体型やムダ毛のないきれいな肌を維持したり、そのための努力をすることが「女性であること」であるような価値観を女性たちに植え付け、そのための努力をしないことは「女性」というカテゴリーから逸脱することを意味している。

 

そしてこれらのコピーは、(「働く女性」や「主婦向け」のものにははじめから「痩身・整形」の広告がないこともあるが)「中高生向け」「若い女性向け」の雑誌に多く見受けられた。このことから「美しくあるべき」とプレシャーをかけられているのは年齢の若い女性たちということか分かる。

 

A     美しさの基準

         原千晶さんが選んだダイエットで、やせてイッキに変身する。」(non.no7・8・9・10・11月号,ダイエット食品)

         「ダイエットリーダー 女優・大河内奈々子さんもグローバルでスリムをキープ!」(non.no 11月号,ダイエット食品)

         芸能人のようなワキ美人に!」(JJ6月号,エステ)

         「敏感肌のあつこさんも愛用する〈ジョーズ・エピネ〉の脱毛効果」(JJ6・7・8月号,脱毛用品)

         「グラマーなのにスリム。これがモデル体型の秘密!」(JJ7月号,ダイエット食品)

         「芸能人の愛用者急増で、芸能界でも超話題!!」(JJ7・8・9月号,ダイエット食品)

         「この秋、原千晶さんみたいな美脚を目指す」(JJ11月号,ダイエット食品)

 

女性雑誌においては芸能人やモデルの身体が美しさをはかる物差しと考えられ、「理想の身体」として取り上げられることが多く、そのような身体がめざされるべきものとして語られる。そして女性たちはその「理想の身体」基準と自己の身体を照らし合わせ見比べ、その基準に自分が達していないと思い、「理想の身体」基準に合わせようと努力する。そしてそれらの人たちと同じような体型を得ることが、「美しさ」を獲得することとされる。

 

特に女性週刊誌においては以下に記すように、ファッション誌以上に「芸能界」「芸能人」といった言葉を引き合いに出したコピーが多く見られた。

 

         「芸能人の愛用者急増で、芸能界でも超話題!!」(女性自身6月号,ダイエット食品)

         芸能界の秘密を公開!」(女性自身6月号,ダイエット食品)

         「ガウクルアは2年前から芸能界に浸透!!」(女性自身6月号,ダイエット食品)

         「愛用者には驚くような女優さんの名前も!」(女性自身6月号,ダイエット食品)

         「あのスーパーモデルも愛用している」(女性自身6月号,ダイエット食品)

         芸能人はもう知っている!?」(女性自身7月号,ダイエット食品)

         小林幸子さんも愛用!」(女性自身8・11月号,エステダイエット器具)

         「食べながらするダイエット法が芸能界の話題を一人占め?」(女性自身9月号,ダイエット食品)

         芸能界を席捲する 飲むダイエット法」(女性自身9月号,ダイエット食品)

         渡辺絵美(40)女としての誇り(プライド) 母の愛で ついにここまで 秘密兵器で痩せた!」(女性自身10月号,ダイエット食品)

         コロッケさんもビックリ!!『ヨーでるダイエット』」(女性自身11月号,ダイエット食品)

         東てる美さんもやせた!」(女性自身11月号,ダイエット食品)

 

○白人志向性について

ここでは美しさの基準とされるのは、メディアの登場する芸能人やモデルであったが、先行研究(1989)(1)によると女性雑誌の美しさの基準は、白人女性とされ、「白人志向性」が指摘されていた。それ以降、白人志向については、80年代を境として「白人離れ」傾向が始まったとする意見(2)と依然として「白人志向」は残っているという意見(3)の二つの意見が存在する。

女性雑誌のおけるこの「白人志向性」「白人離れ」は現在ではどうなっているのだろうか。

今回の調査ではモデルの属性に対する数量的な分析は行わなかったが、明らかに日本人モデルの登場回数のほうが多く、外資系化粧品ブランドの広告を除いて白人女性モデルが際立って多く見られるということはなかった。

では実際の女性たちの体型や意識はどうなっているのであろうか。「20歳代女性のボディサイズ変遷」(1994年、ワコール調べ)によると、身長は46年間のあいだに5.3cmも伸びているのに対し、体重はほぼ横ばいのままである。そしてバストも横ばいでウエストが3.1cm増えてはいるが、ヒップが1.1cm減っている。これらのことを総合的に考えると身長の割に体型自体はスリムになってきているのが以前と比べた時の現代女性の体型の特徴である。

このように現代女性の体型は、この半世紀のうちに目をみはる変化を見せており、戦後のアメリカへの憧れから同時に生まれた欧米人の体型に近づきたいという願望はほぼ達成されたといっていい。そしてもはや日本人女性たちのあいだには以前言われていたような欧米人、白人女性への憧れという意識は薄れてきているのではないだろうか。

それでは実際の女性の意識はどのようなものなのであろうか。女性を対象に行われた調査からみていきたい。1998年4月に東京都内の20代〜30代のOL対象に行われた「美容とダイエットに関する意識・実態調査」に「あなたの理想体型を持つ芸能人は誰か」という質問があったが、それに対する回答の第1位は藤原紀香、第2位山口智子、第3位RIKAKO、第4位飯島直子、第5位梅宮アンナという結果であった。ここに挙げられた上位5人の女性に共通することは、一般的な日本人よりも脚が細く長く、胸が大きく、とてもスタイルがよく、極めて欧米人に近い体系を持っている、ということである。

これらのことから現実の日本人女性が欧米女性の体型により近づくことで、現代においては欧米人女性そのものを理想とすることはあまり意味のないものになってきているのではないだろうか。そしてメディアに登場する女性たちは特化したものと考えられるため日本人女性のなかでもスタイルのよい女性が多いことは確かだが、白人女性よりも身近でスタイルのよい日本人女性をメディアが美しさの基準として提示することで、一般の日本人女性たちにより美しさが手に入りやすいものだというイメージを与えることになっているのではないだろうか。

このようなことから直接的な白人志向性がメディアにおいて語られることは少なくなってきており、美しさの基準=白人女性という図式は現代において成り立たなくなってきていると思われる。

 

B     美しさの約束

         「松雪さんのテスティモで,私も流行顔!」(non.no8月号,化粧品)

         私だってYUKIちゃん顔!」(non.no8月号,化粧品)

         「『ヌーブ』で持田香織に変身!」(non.no8月号,化粧品)

         「3ケタコスメで、あのスターの強運パーツを手に入れよう!」(non.no8月号,化粧品)

 

この場合、まず「A美しさの基準」というものがあって、「B美しさの約束」が成立するという構造があり、Aでも述べたように、芸能人が一つの美しさの基準になっており、広告に出ている芸能人と同じ商品、サービスを使いさえすれば自分も(「私も」「私だって」)その芸能人のようになれる(「○○に変身」)といったことを謳っている。これらのコピーは「美しさ」を商品やサービスの消費によって「約束」しており、消費によってすべてのことが可能であるという「消費至上主義」を象徴している。そして女性たちを消費指向性へと導いている。

 

C     他者の視線

同性の視線

         あの子より,カワイク,あの子よりも存在感。」(mcSister6月号,美容外科)

         「秋のケアで差をつける!」(JJ11月号,エステ)

         嫉妬の視線がツンツンツン。」(JJ11月号,エステ)

         「女友達に差をつけろ」(Oggi10月号,化粧品)

異性の視線

         「うるおいがキレちゃうと、お誘いもキレちゃう気がするの。」(mcSister7月号/non.no6・7月号,化粧品)

         「パッチリ魅惑のEYESに男の子の視線集中!」(プチseven7・8・9月号,整形用具)

         モテモテ度超UP!!ウルトラセクシーメーク!!メインアイテムはこれ!!」(プチseven7月号,化粧品)

         男の子はストレートが好き!」(プチseven 11月号,頭髪用品)

         「話題のメーク。男の子はどれが好き?大実験」(プチseven7月号,化粧品)

         「女性の夢をかなえる、男性の思いをかなえる。」(JJ6月号,豊胸用食品)

         「質感で好かれたい」(Oggi10月号,化粧品・)

         「大人の輝きで魅了したい」(Oggi10月号,化粧品)

         「繊細な輝きで感じさせたい」(Oggi10月号,化粧品)

         「全てで判断してもらいたい」(Oggi10月号,化粧品)

         「ナチュラルを武器にして心をつかみたい」(Oggi10月号,化粧品)

         「香りで意識させたい」(Oggi10月号,化粧品)

不特定多数の視線

         「ブリーチカラーで,街の視線をゲットしよう。」(mcSister8月号,頭髪用品)

         「美人になって注目されるオンナになりたいアナタに。」(mcSister8月号,美容外科)

         みんなにみられる肌って,うれしい。」(プチseven6・7・9月号,脱毛用品)

         みんなが振り向くバストになる」(non.no6・7・8・9・10月号/JJ6・7・8・9・10・11月号,豊胸用具)

         視線を集めてスラッと歩こう!」(JJ11月号,ダイエット用具)

         振り返って私を見て・・・」(女性自身6月号,美容外科)

         羨望のまなざし・・・・・・。」(女性自身6月号,バストケア用品)

 

他者からの視線が重要なものとして語られているが、それが「同性」からのものであるか「異性」からのものであるかによって、視線の持つ意味合いが変わってくることが分かる。

「同性」からの視線は、自分が美しくになることでほかの女性に「差」をつけ、そのことによって嫉妬の視線を浴びることが謳われ、女性たちの競争心をあおっている。

そして「異性」からの視線に対しては、男性が好むとされる女性像に自分を合わせることが謳われ、美しくなる目的は男性の視線が自分に好意的に向けられるようにするためのもので、「美しさ」とは男性を魅了し、獲得するための手段とされていると考えられる。このことからも女性が男性の視線(まなざし)を内面化してしまっていることが分かる。

また同性、異性両方の「不特定多数」の視線というものに対してのコピーは、ほとんどのものが、羨望や注目を集めることに美しくなる目的がおかれている。

このように女性たちは常に他者からの視線を意識していなくてはならないとされており、身体は「見られるもの」「見せるもの」という性質を帯びるようになり、「見られること」「みせること」に対する過剰な欲望が作り出されている。

 

またこれらのコピーは、「中高生向け」「若い女性向け」「働く女性向け」に見られたものばかりで、唯一「主婦向け」のものには見られなかった。(『痩身・整形』の広告、広告記事自体がほとんど見られなかったこともあるが)

「中高生向け」「若い女性向け」「働く女性向け」の3つは「未婚女性向け」雑誌であるのに対して「主婦向け」は「既婚者向け」である。このことから「未婚者」は同性、異性、そしてその両方からの視線・注目を集めなければいかないのに対し、「既婚者」である主婦は、その必要はないとされているのだろうか。

「主婦向け」と同じく「既婚者向け」の雑誌として、「生活情報誌」(Muffin)があるがその中に特徴的なコピーがあったので見てみたい。

 

         「『ママ太ったね…』パパのきつ〜い一言を見返したい」(Muffin6月号、ダイエット食品)

 

先に示した「未婚者向け」のコピーが、不特定多数(特に異性の)視線・注目を集めることが重要であると語られているのに対し、このコピーでは特定の誰か(ここでは夫)の視線が重要なものになっている。

これらのことから「未婚者」は不特定多数の人に対して「美しく」あることが求められるが「既婚者」は特定の誰か、夫に対しての「美しさ」が求められているのではないだろうか。

 

D     “若さ”指向(若さ=美しさ)

         若さを決めるのは、肌のリフト力。」(Oggi6月号,化粧品)

         「シミ・ソバカス。メークで隠しきれない日が、やってくるかもしれない。」(Oggi6・7・10月号,化粧品)

         素肌の年齢,気になりだしたら。」(Oggi8・9月号,美肌用内服薬)

         「お顔全体に若々しいハリとうるおい。」(VERY6月号,化粧品)

         「上げた私は、5才若い。」(VERY6月号,化粧品)

         若い肌をキープする夏のシンプルスキンケア」(VERY7月号,化粧品)

         あのころのボディをとり戻す」(VERY 10月号,美容食品)

 

これらのコピーは「働く女性向け」「主婦向け」の25歳以上の女性に向けられた雑誌にしか見られなかった。このことからも「若い方が美しい」「いつまでも若さを保たなければいけない」という意図、そして「老いる」ということに対して過剰な不安や恐怖を抱かせマイナスイメージとしてとらえられ、それは克服すべきものだとするメッセージが読み取れる。

 

E     美しさの期限

         「自信のきれい、ミロードで春デビュー。」(JJ6月号,エステ)

         「『春だからムダ毛はイヤ』キャンペーン実施中」(JJ6・7月号,エステ)

         夏がくる前に、急いで、急いで!ソシエで痩せよう!」(JJ6月号,エステ)

         夏をめざして今からダイエット開始!!」(JJ7月号,ダイエット食品)

         夏までにメリハリスリム!」(JJ7月号,ダイエット食品)

         夏はやっぱり脚やせ主義!」(JJ8月号,エステ)

         夏までに谷間をつくる!」(JJ8月号,豊胸用具)

         夏はゼッタイスリム宣言!!」(JJ8月号,エステ)

         「もうすぐお洒落を楽しむ秋が来る!スリムじゃないと流行の服も着こなせない!」(JJ 10月号,エステ)

         秋が脱毛のチャンス!」(JJ 11月号,エステ)

         秋のケアで差をつける!」(JJ 11月号,エステ)

         秋冬こそ、細足がカッコイイ!視線を集めてスラッと歩こう!」(JJ 11月号,ダイエット用具)

         「大切なのはこの季節のケア」(VERY11月号,化粧品)

 

「春デビュー」「夏までに」というように「いつまでに」と期限をつけ、その期限までに「美しさ」を獲得しなくてはいけない。このことは「美しさ」への強迫観念を女性たちにより抱かせている。

しかしその期限は一年中存在し、季節に関係なく、女性は常に自分の身体・体型に気を使っていけなくてはならず、春であれ、夏であれ、秋であれ、冬であれ、何らかのもっともらしい理由をつけることによって(理由がない場合もあるが)、女性たちは「ムダ毛はあってはならない」「痩せていなくてはならない」「美しくなければならない」のである。

 

以下に記したコピーは、同じ雑誌に毎号掲載されていた同じ商品(ダイエット食品)のコピーであるが、月ごとにコピーが毎回変わっており「美しさの期限」の特徴が明確に現れている。それを月順に見ていく。

 

         「今なら夏に間に合う!スッキリやせて6月中には新しい自分」(non.no6月号,ダイエット食品)

         「今なら夏に間に合う!7月にはやせてキレイになれる!!」(non.no7月号,ダイエット食品)

         「今すぐ実行!1ヵ月後にはスリムでキレイになれる!!」(non.no8月号,ダイエット食品)

         「今から本気で実行!!9月中にはもっとスリムに、さらに可愛くなろう!!」(non.no9月号,ダイエット食品)

         「次はあなたがきれいになる番。10月中にはスリムになれる!!」(non.no 10月号,ダイエット食品)

         「次はあなたがきれいになる番。11月中にはスリムになれる!!」(non.no月号11,ダイエット食品)

 

F     秘密性

         「★誰にも知られず完全梱包で発送します。」(プチseven7・8月号,脱毛用品)

         こっそりきれい!」(non.no6・7・8・9・10月号/JJ6・7・8・9・10・11月号,脱毛・豊胸・ダイエット器具)

         「自然な形状だから、誰にも気づかれず美しいカタチにバストアップ!」(non.no9月号,豊胸用具)

         人に気づかれない ナチュラル美容整形」(女性自身6・7・8・9・10・11月号,美容外科)

         他人に気付かれずに二重まぶたに」(女性自身6・7・8・9・10・11月号,美容外科)

 

これらのコピーから、自分に欠点があり、その欠点に自分がコンプレックスを抱いていること、そしてその欠点を器具などによって隠し、“美しくなりたい”と思っていること、これらはほかの人に知られてはいけないということが謳われている。

「女性は美しくあるべきである」という社会規範の下で、女性が美しくなりたいと思うことは当然のことに思われる。しかし女性たちは「美しくあるべき」であると同時に、「美しさ」に対して意識過剰になってはいけないのである。ある種、美しさに対して無関心であることが美徳とされているのではないだろうか。

そして美しくなろうとするその行程は人に知られてはいけないもので、もし美しさを手に入れられたとしたとしても、その美しさは何らかの形で手が加えられ、作り上げられたものと気付かれてはいけなく、その人が生まれもって持っている顔や身体として人から認識されなくてはならない。このことから身体は加工されるものとして語られている反面、やはり生まれ持った美しさこそが価値のあるもの、賞賛されるものとして位置づけられている事実があるのではないだろうか。

 

G     安心性

         ドクターと提携!」(non.no 10月号,エステ)

         「全国200以上の病院で使われているマイクロダイエット」(JJ7月号,ダイエット食品)

         「信頼あるドクターのマネジメント。だから安心!」(JJ7月号,エステ)

         安心のドクターサポートシステム」(JJ7・8・9月号,エステ)

 

H     即効性・簡便性

         「ムダ毛即(その場で!)解消!」(プチseven7月号,脱毛用品)

         「抑毛ジェルを塗るだけで、面倒なムダ毛処理から開放!」(プチseven7・8・9・10月号/non.no6・7・8・9・10月号/JJ6・7・8・9・10・11月号,脱毛用品)

         目覚めるたびにビックリ!」(non.no7・8・10月号,ダイエット食品)

         目覚めれば体重ダウン “面倒なのはイヤ”1ヶ月で、急いでヤセタイ人はこれが一番!」(non.no6・7・8・10月号,ダイエット食品)

         わずか1晩で よく眠る人ほどヤセられる!」(non.no8・9・10月号,ダイエット食品)

         「今すぐ実行!1ヵ月後にはスリムでキレイになれる!!」(non.no8月号,ダイエット食品)

         「無理な食事制限ナシ!!!! お腹いっぱい食べる!」(non.no 10月号,ダイエット食品)

         「発見!?ヤセる鍵(ポイント)は眠ることだけ! 大幅減量成功者にあなたも続け!」(non.no 11月号,ダイエット食品)

         早い!安い!痛くない!簡単!30分速攻脱毛!」(JJ6月号,エステ)

 

I     科学性

         「ずばり!これが《睡眠減量科学》の7大特長!!」(non.no8・9・10月号,ダイエット食品)

         『カプサイシン』&『キトサン』W効果!」(JJ6・7・8・9・10・11月号,ダイエット食品)

         「世界3大ダイエット成分配合 豊麗成分ガウクルア高配分(ガルシニア+ギムネマシルベスタ)」(JJ6月号,ダイエット食品)

         特殊レンズのフォーカス効果で毛と毛乳頭を一気に撃退!」(JJ6・7・8・9・10・11月号,脱毛器具)

         超音波+遠赤W効果」(JJ6・7・8月号,エステ器具)

         最先端レーザー」(JJ8月号,脱毛エステ)

 

IJKの「安全性」「即効性・簡便性」「科学性」は先行研究(1989)でも述べられていたが、今回(1999)の分析でも多く見られた。そしてこの3つの特徴以外に先行研究であげられていたのは「特典」(ex:10日間無料試着、ぬいぐるみプレゼント)、「斬新性」(ex:新発売、大発明)、「経済性」(ex:低料金、お求めやすい)、「話題性」(ex:話題集中、話題騒然)といったことを謳ったコピーであるが、これらのものは今回の調査でも広告中に多数見受けられた。

 

2.分析まとめ

ここでこれまで見てきたコピーの特徴を並べてみてみると、

@     義務としての美しさ

A     美しさの基準

B     美しさの約束

C     他者の視線

D     “若さ”指向

E     美しさの期限

F     秘密性

G     安心性

H     即効性・簡便性

I     科学性

というように以上10の特徴が特に顕著に見られたものであった。

これらをまとめてみると、女性たちは美しくあることが当然のこととされる(義務としての美しさ)。そしてその美しさは芸能人やモデルといったメディアに頻繁に登場する女性が基準となっており(美しさの基準)、そのような美しさは彼女たちが使っている(とされる)商品・サービスを消費することによって手に入れることができるのである(美しさの約束)。

そして特に若い女性たちや未婚者は常に不特定多数の他者からの視線を意識していなければならず、結婚している主婦は特定の誰か(夫)からの視線を意識していればよい(他者の視線)。よって若い女性たちは美しさをより求められる。そして年齢が高くなるにつれて女性たちは何よりも“若さ”が求められ、いつまでも“若さ”を保たなければならないとされる。(“若さ”指向)。

また「美しさ」は「いついつまでに」と期限をつけられ、それまでに獲得しなければならず(美しさの期限)、その「美しさ」を獲得するための努力は人に知られてはいけないものであるとされる(秘密性)。

そして安全、便利で簡単な、しかもすぐに効果が得られる商品やサービスがその手助けをしてくれるのである。(安心性、即効性・簡便性、科学性)

 

このように女性雑誌というメディア、特に『美容』に関する広告は「女性は美しくあって当然」という前提の上に成り立っており、女性たちに美しくあるべき理由や美しさの基準を強調することで、女性たちにより「美しさ」の重要性を認識させ「美しさ」に対する需要を高めている。そしてその「美しさ」は「身体加工」によって簡単に得られるものであると促している。

 

先行研究(1989)においてはメディアが美しさの基準をつくり出し、人々にあなたは社会的に美しいと評価される基準から外れている、基準に達していないとレッテルを貼り、人々がその基準に自分は達していないというスケアシティ(稀少性)の意識を抱くことによって、強迫神経症的にダイエットブームや痩せ商品の流行現象を形成している側面が指摘されていた。

そして今回の分析においても、女性雑誌の美容広告は美しさの基準を女性たちに提示し、その基準に外れているとされる女性に対して、脚の細さやバストの大きさ、そして若さが足りないという様々な希少性、欠如性を認識させ、女性たちに「身体加工」を促していた。

このように「身体加工」を目的とした商品、サービスが女性たちに必要とされる背景にはメディアによって女性たちが自分自身の身体の希少性、欠如性に気付かされること、そしてそれを消費によって埋めることができるという広告の意識操作が大きく作用しているのではないだろうか。

 

また分析前にはファッション誌と女性週刊誌とでは見られる広告コピーに何らかの違い(内容の過激さなど)があるのではないかと思っていた。実際にコピーを調べていくとファッション誌の比べ女性週刊誌に「芸能界」「芸能人」といった言葉を引き合いに出したコピーが多数見られた。このことは「女性週刊誌」の読者の「芸能ネタ」に対する関心の高さを示しており、「芸能人」「芸能界」という表現を出すことにより、女性たちの関心をより一層引こうとする広告側の意識操作がうかがえる。

 

第2節                           体験談分析

 

第4章の分析からも分かるように女性雑誌の中で多くの割合を占めるのが美容に関するものであり、「ファッション誌」においては約4分の1、「女性週刊誌」においては約5分の1を占めていた。そしてその『美容』に関するページはほとんどが広告もしくは広告記事であった。その中でもここでは「身体の加工度」が最も高い『痩身・整形』の広告について、コピー以外に見られる内容、その特性などを見ていくことから、なぜ女性たちがそれほど「身体の加工」に走るのかということを分析していく。

 

1.    「痩身・整形」広告の特徴

「痩身・整形」広告に見られたおもな特徴は次のようなものである。

         ほとんどが雑誌の後半のページにある。

         その商品、サービスを使用した人の写真を使用前・使用後として並べて比較できるよう紹介している。

         使用者の体験記のような喜びの声が載せられていることが多い。(そのどれもが過剰なほどにその商品をほめたたえている。)

         その商品、サービスを使って効果が得られたという有名人や芸能人が登場し、その効果を述べている。

         医師や専門家と称する人のコメントがついており、その信用性を述べている。

         「!」マークの多用

         女性週刊誌では1ページ中の3分の1あるいはそれより小さい「部分広告」が多く見られた。

 

諸橋泰樹(1989)は「化粧品広告」がハレの広告であるのに対し、「痩身・整形広告」は現代における“治療伝説”のフォークロア(民話)をなすウラの広告であると位置づけた。そしてウラ文化が、カラー広告によってオモテに出てきたのが、「エステティック・サロン」の広告であると指摘していた。そしてファッション誌においては現在ではエステティックサロン以外の『痩身・整形』の広告もほとんどがカラー広告になっている。しかしカラー広告になった今でもそのような広告には「ウラの広告」という印象が強く残っている。また女性週刊誌においては現在でも白黒広告が多数見られ、その「ウラ」としての性質がよりいっそう感じられる。やはり『痩身・整形』の広告は女性雑誌において陰の存在であることに変わりないのではないだろうか。

そのような『痩身・整形』広告に登場する人物によって語られること(体験談)に注目し、そこの隠されたメッセージを読み取っていき.女性たちが「身体加工」へと走る背景にあるものを分析していく。

 

2.体験談分析

ダイエット食品やエステなど『痩身・整形』の広告には、その商品・サービスを使ったとされる体験者、推奨者の体験談が載せられている。ここではその体験談が物語っていることを読み取り、そこにはどんなメッセージが隠されているのか、どのように女性たちを「身体加工」へと導いているのか、この種の広告が一番多く見られた「若い女性向け」ファッション誌を題材に見ていく。

 

@       外見的変化

         「頬がパンパンで丸顔だったため、流行りの洋服を着てもなんとなくサマにならなかった私。小顔になったらバランスがよくなって、ファッションの幅がぐっと広がりました。」(JJ6月号、エステ)

         「食べることが大好きで運動が大嫌いな私は、ダイエットはなかなか成功しなかったのですが、思い切ってスリムマスターを1ヶ月間1日15分だけ試したところ、こんなプロポーションに!失敗続きのダイエットも一気に解決しました。これでどんな洋服も自信をもって着こなせます。」 23歳、看護婦(non.no6月号,ダイエット器具)

         「私は、5kgやせたんですけど、同じ洋服を着てもぜんぜん印象が違うんです!前は、鏡を見るのもいやだったんだけど、今では満足(笑)。洋服を選ぶのが楽しいです!」 19歳(non.no 10月号,ダイエット食品)

         あの頃は、パンツやロングスカートで隠すことばかり考えていましたね。でも足が太いとパンツもキマらないんです。(中略) 実際に2週間やってみて、本当に顔と下半身が締まったからびっくり!!ほっぺたはすっきりしたし、ウエストなんか4cmもダウン!太ももふくらはぎも確実に細くなった気がするんです。(中略) 最近は、スカートもはけるようになったし、毎日楽しくてしょうがないです。」 アルバイト(non.no 11月号,ダイエット食品)

 

ここに例を挙げた体験者は、痩せることによって着られる洋服の幅が広がり、洋服を選ぶのが楽しくなったと言っている。このように女性たちが「やせたい」と思う原因(やせる目的)の一つには、流行のファッションを着こなしたいという願望が挙げられる。しかしこのことは逆に考えるとやせていなくてはオシャレができないという現状があるということではないだろうか。

このことに関し、浅野千恵は以下のように述べている。

 

「女性をありのままの姿かたちではなかなか受け入れてくれないこの社会において、女性たちはやせることによって自分の居場所を確保しようとしているように見える。しかもその際に、現代の若い女性たちが受け入れられているという実感や充実感を得るためには、「やせていてオシャレができること」が不可欠な条件になっているただでさえ生きていく上での必需品であり、その人の属する社会的カテゴリー(女、男、若い、年取った等々)を表示する重要な役割を果たし、またこの社会においては自己表現の重要な手段とみなされている衣服というアイテムを入手することの困難さは、性別や年齢にかかわらず、その人生を暗くするにたることがらであるだろう。大量消費時代の生み出す皮肉と言おうか、バラエティに富んだ衣服が手に入りやすくなったように見える一方で、「標準サイズ」という名のもとに規制された衣服の流通のありようが、自分の体型に合った衣服を手にいれることを困難にさせてしまってもいる。オシャレであることがこれほど重要視されている時代にあって、オシャレできるかできないかということが、ちょっとした体型のちがいで左右されやすい事情が社会的にかたちづくられてしまっているのである。」(1996 、p99−100)

 

このようにオシャレをすることは若い女性にとって、自分のアイデンティティにかかわる重要な問題であるにもかかわらず、そのオシャレをするためには洋服を身体に合わせるのではなく、自己の身体を洋服に合わせたものにしなくてはいけないという逆転現象が起きているのである。そしてこのような状況を作り出した背景に女性雑誌という存在があると思われる。

女性雑誌、そのなかでも特にファッション誌は常に最新のファッションを身に着けることが最大の関心ごとである。そしてそのファッションを着こなすためには「やせていること」が大前提とされている。そして「やせていない」とされる女性に対しては「いかにやせて見えるか」ということが紹介される。その顕著な例は「太ももの気になる人」「ウエストが太い人」「二の腕が気になる人」といったようにタイプ別に分け、それぞれにどうすればその部分を洋服によってカバーすることができるかが指導されている記事や広告記事である。またなかには「脚の太い人はこういうスカートははいてはいけない」「顔が大きい人はこのようなセーターを着てはいけない」といったように着るものに対して一方的な基準を作り女性たちにそれを押し付けているものもある。

本来、美しさを補助してくれるファッションでさえも、そのファッションを身につけるためにはある一定の体型を持っていなければならないのである。

 

このようにもはや「身体は加工せざるを得ない状況」が作り出されているのである。

このことが体験談から読み取れる。

 

A       内面的変化

         「顔が大きくて二重アゴ。年齢以上に老けて見られるのが悩みのタネでしたが、輪郭がシャープになったら性格まで明るく!友達も「別人みたい」と驚いています。」(JJ6月号,エステ)

         「印象が変わる!むくみ顔が憧れの小顔に。表情まで明るくなった!」(JJ6月号,エステ)

         「胸を気にしてい、ボディラインの出ない地味めの服ばかり着ていたから、髪もメイクも消極的。胸の開いた女らしいスタイルは憧れでした。」 20歳、S大学(JJ9月号,豊胸器具)

         「悩みのお肌がきれいに!自分に自信が持てて、明るい性格になれました。」 フリーター、東京都(JJ9月号,エステ器具)

         「毛深い手足を出すのが苦手で、性格も引っ込み思案でした。」 27歳、主婦(JJ 11月号,脱毛用具)

         「毛深いのは遺伝らしく、姉と一緒に子供の頃から腕や脚を剃っていました。(中略)彼がほしくても積極的になれませんでしたが、今はつるつるの肌になれて自信がつきました。」 埼玉県在住、18歳、高校3年(non.no7月号,脱毛用具)

         やせたことで自分に自信がついたし、新しい仕事でもがんばれました!いろんな意味でいい影響になったのかもしれませんね。」 タレント、25歳(JJ7月号,ダイエット食品)

         「私は自分の足にすごくコンプレックスをもっていました。そんな時、自分の直感でブリアントの門をたたきました。(中略)現在は理想のボディを手に入れ、毎日楽しく充実した生活を送っています。コンプレックスだった足も今はチャームポイントになりました。」 女優、25歳(JJ6月号,エステ)

 

ここに例を挙げた人々は一様に、痩せて、あるいはムダ毛がなくなって引っ込み思案だった性格が明るく積極的になり、自信がついたと述べている。

やせることによって、きれいになることによって、外見が変わることはもちろん、内面までもが変わってしまうことを述べているが、このことは逆に「太っている女性」などに対してのマイナスイメージをあおり、太っていることに対する罪悪感を女性たちに植え付けている。また太っている人に対して自信を持たせてはくれない社会が存在することを物語っている。そしてやせさえすれば外見的な美しさも内面的な美しさも手に入れることができる、と女性たちに「やせ」への方向へ導いている。

 

ここでも「身体加工」は女性たちにとって不可欠なものといて語られている。

 

B 異性のみる目

         物心ついた時からずっとデブ。ゾウ足ズン胴コギャルとか、目がクサるから超ミニで階段歩くなとか言われてました。花の女子高生なのにぃ〜!」「デブ歴18年、試したダイエットは数知れず。アタシの青春は終わっちゃうヨ!と嘆いていたとき、やーっと出会えたGVDシステム。目ざめるたびに軽くなっていく感じで、はじめの1週間でもう5kg以上ヤセてました。今ではまるで別人で、渋谷センター街でも歩こうものならナンパの嵐(こないだまではよけられてたのに・・・)。制服と私服も全とっかえ!ウレシイ悲鳴あげてます!」 18歳、S女子高校3年(non.no6月号,ダイエット食品)

         K大アメフト部との合コン話が持ち上がり、QBのT君とどーしても仲良くなりたくて、ダメもとでGVDシステムに挑戦。そしたら、これまでどうやっても落ちなかった下半身のムチムチ肉が、みるみるなくなってくんです!顔もひとまわり小さくなって、合コンではこの私が人気No.1!超ミニで元気にアタックしたらT君とお付き合いオッケー!もう舞い上がっちゃてます!」 18歳、T女子短大1年(non.no6月号,ダイエット食品)

         「「花の受付嬢」だったはずが、外食ばかりでみるみるデブに。「社のイメージが落ちるから受付に出るな」というキツい上司の一言で、一大奮起!これまでのダイエットでは胸からヤセちゃって結局ザセツしてたんだけど、今回は日に日にウエストや下半身が目に見えて細くなっていくのがわかり、楽しくてしょうがないダイエットでした!butあんなに私を煙たがってた上司のセクハラ、今さら許せん!」 21歳、受付業務(non.no6月号,ダイエット食品)

 

このようにやせたことによって周囲(特に異性)の自分を見る目が変わり、好意的に受け入れられるようになることが述べられているが、このことは顔かたちでその人を判断してしまう外観至上主義(諸橋泰樹)の社会を象徴しているものとして考えられる。

またこのように自分に対する異性の見る目が変わったことが述べられている体験談はあったが、同性の見る目が変わったというものは見られなかった。やはりここでも異性の目は重要なものであることが語られている。

 

3.「痩身・整形」広告における人生の物語的性質

『痩身・整形』の広告に掲載されていた体験者、推奨者の声をいくつか取り上げ、その内容を分析してきたが、どの例を見ても「理想」の身体を獲得することが、幸せな人生を獲得することであると述べられている。そしてその幸せな人生を獲得する過程を『痩身』の広告に関して順序立てて見ていくと、次のようなストーリーが浮かび上がる。

「ダイエットによってやせることができたら、オシャレができるようになる。そしてオシャレをすることによって自分に自信が出てくる。さらにそのことによって周囲(特に異性)の自分を見る目が変わり、好意的に受け入れてくれるようになる。」

このようなやせること等による好循環の構図、外見が良くなることは内面にとってもプラスの影響をもたらすものだということ、これが『痩身・整形』の広告にみられた顕著な性質である。しかしこのことは言い換えると、体型や顔立ちがその人の人間性や人生までもを左右し、その人自身を判断する基準や材料になっているということではないだろうか。

 

またそのような体験者、推奨者の声はまるで「やせれば必ず良いことがある」という一種の暗示のように思えてくる。

痩せることによって失うものは脂肪だけであって、他に失うものはなく、得られるもの(彼氏や幸せ)のほうが断然多いと彼女たちは誌面で語っている。彼女たちは「やせれば良いことがある」(やせたことによる何らかの報酬がある)という暗示に自らかかっている被害者であるだけではなく(実際に良いことがあったのだろうが)、それを読む女性たちにもそのような暗示をかけている加害者でもあるのではないだろうか。

 

そして女性たちは実際にその「やせれば必ず良いことがある」という暗示にかかっているのであろうか。

1998年4月に東京都内の20代〜30代のOL対象に行われた「美容とダイエットに関する意識・実態調査」に「痩せるだけで悩みが解消され生活が楽しくなると思うか」という質問があり、「思う」「ほぼ思う」と答えたのは、20代で61.2%、30代では47.8%であり「変わらない」と答えた人が20代で14.4%、30代で37.3%というものであった。この結果からやせるだけで何かよいことがある、悩みが解消され楽しい生活を送ることができる、と実際に多くの女性たちが思っていることがうかがえる。そして年齢が低いほどそう思い込んでいる人が多くなるという傾向があることが分かる。

 

このことは言い換えると、今の生活に何か不満があり幸せでないのは、自分がやせているとされる基準に達していないからであると多くの女性たちが思っているということであり、またその生活の楽しさなどに対する稀少性、欠如性は、やせることなどの「身体の加工」によって埋めることができるということである。

『痩身・整形』広告はダイエットやエステによってやせることを賛美し、それによって得られる「美しさ」と「幸福」を約束する。その結果女性たちは「身体の加工」によって身体の欠如性を埋めようとすると同時に、精神的な欠如性をも埋めようと「身体の加工」に励むようになるのではないだろうか。

 

第3節                           「身体加工」の問題点

 

1.商品、サービスに対する被害や苦情

第1節、第2節において『化粧品』『痩身・整形』に関する広告ついて分析し、これらの広告は「身体加工」を「美しさ」を獲得する手段として奨励し、女性たちを「身体加工」へ導いていたが、そのような「身体加工」には危険が付きまとう事実がある。

 

1998年度に消費者生活センターに寄せられた「危害」に関する情報は4756件にのぼった。その内容を分類別に見ると、化粧品、医薬品等の「保健衛生品」が最も多く1219件(25.6%)で全体の約4分の1を占め、つぎに美容、医療等の「保健・福祉サービス」が972件と続く。

商品別にみると、「化粧品」が690件(14.5%)で最も多く、ついで「エステティックサービス」466件(9.8%)、「健康食品」427件(9.0%)となっており、この3つの商品は順位が入れ替わることがあっても、過去11年間上位を占めている。

「化粧品」「エステティックサービス」に関する危害の内容では「皮膚障害」(1844件)が多く見られ、特に「エステティックサービス」の内訳を見てみると「美顔エステ」が197件(42.3%)で最も多く、次いで「脱毛エステ」160件(34.3%)、「痩身エステ」58件(12.4%)の順で危害情報が寄せられ、これら3つで全体の約9割を占める。

また商品別で第3位の「健康食品」のほとんどは栄養補助食品という名の「ダイエット食品」である。

このように『化粧品』や『痩身・整形』に関する商品・サービスには多くの苦情が寄せられており、グラフを見ても分かる通り「エステティックサロン」に対する苦情は過去6年間でも増加傾向にあるのが現状である。

 

図5−1 化粧品・エステに関する危害発生件数推移(『消費生活年報1999』より作成)

 

このように苦情や被害が相次いでいる背景としては、女性たちが女性雑誌に掲載されている『化粧品』『痩身・整形』などの広告がこれまで見てきたように誇大広告と呼べるようなものが多いということと関係しているのではないだろうか。そのような広告は読者を期待させるような文句が並べられている。その大きな期待に対し実際の効果が思ったよりも薄いということが『化粧品』『痩身・整形』商品・サービスへの苦情の多さと関連しているように思われる。

「身体加工」には、多くのリスクがつきまとっている現実があることがうかがえる。

 

2.広告表現に対する規制

『化粧品』や『痩身・整形』に関する商品、サービスには苦情や被害が相次いでいる。そのようなことを受けて、問題のある広告表現に対して、これまでも何らかの規制がしかれてきた。

 

日本においては、日本広告審査機構(JARO)と公共広告機構(AC)の、メディア業界団体や広告主、広告会社などが参加する組織が広告に対して何らかの規制を与えているが、なかでも広告審査機構は、広告の自主規制センターとして、「広告、表示に関する問い合わせの受付、処理」や「広告、表示に関する審査、指導」「広告、表示に関する基準の作成」などを行っている。そしてここでも消費者から寄せられた苦情で最も多かったのは、美容器具でそれに次いで美容・健康食品であった。

広告による表現の規制はまず業界による自主規制に任されている。業界内での自主規制がうまくいかなかった場合は、監督官庁が「行政指導」を行ったり、より強いガイドラインを官主導型で作成し守らせるなど、介入が強まる。特にこれまでも『痩身・整形』を目的とする商品、サービスを扱う業者に対する公権力の介入が繰り返された。

 

1985年6月に、厚生省薬事務局と公正取引委員会が、女性週刊誌等に多かった「痩身効果等を標ぼうとするいわゆる健康食品の広告等について」と題した不当表示商品についてのガイドラインを日本健康食品協会やマスコミ各機関、業界団体等関連機関に通達した。そのガイドラインの内容は@「やせる」という〈痩身効果〉A「バストが豊かに」という〈豊胸効果〉さらにB「背が伸びる」という〈伸長効果〉(これらの“三効果”はすべて薬事法違反と厚生省が断定。公正取引委員会も同様に、これらのCMを不当表示(景表法第4条違反)と認定。)、この三つを広告で謳うの禁止するというものであった。

また1987年9月には、公正取引委員会からエステティック・サロンの業界全体に対し「エステティック・サロンの表示の適正化について(要望)」が出され、不当景品類及び不当表示防止法違反の警告処分を受けたエステティック・サロン業者もいくつか見られた。

同じく1987年の7月には業界団体である日本通信販売協会が痩身ウエア等の広告表現について自主的な「厳重注意申し合わせ」をしたがその効果は得られず、翌1988年3月には公正取引委員会が調査に乗り出し、同1988年12月に痩身ウエア等を扱う15の通信販売業者が不当景品類および不当表示防止法違反の厳重注意を受けた。

また最近では1993年6月にエステティック・サロンに他する苦情の増加を受けて「楽して痩せる」と謳った大手サロンの広告に、公正取引委員会が不当表示であると排除命令を出した。

 

しかし今回の分析において「飲んで眠るだけで痩せる」といったような簡便性を謳った広告は現在でも数多く見られたことからこれらの不当表示を規制することの困難さがうかがえる。また同時にそのような「身体加工」に「美しさ」を求める女性も多く存在することが分かる。

そして女性たちに対して偏った美しさを押し付けるような広告や、女性と男性の伝統的性別役割を描く広告などに対する批判的ガイドラインなどはつくられていないのが実情である。商品、サービスの利便性や効果などを過剰に宣伝するような広告を取り締まることも重要であるが、今後は女性たちにある種特定の「美しさ」を強要したり、過剰な「身体加工」に走らせたりするような広告に対しても見直していくべきなのではないだろうか。

 

注釈

(1)日本誌のファッションページの登場人物中、日本人の占める割合は約6割で、4割が白人もしくはハーフであった。また化粧品広告に関しては、日本企業の場合には日本人モデルが約8割、外資系企業の場合には日本人モデルがわずか14%、白人が86%であった。

 

(2)落合恵美子は『日本女性生活史』(1990)で『nonno』におけるモデルの人種別構成を分析しその結果から白人離れの開始であると指摘した。そしてその「美の基準の白人離れは日本だけの傾向ではない。オイルショック以降の世界女性の変動の中で、民族的な個性が注目されるようになってきた。そのような流れを象徴する日本人顔モデルの山口小夜子の国際的成功は、世界的にも事件であったが、日本国内の意識の変化にも拍車をかけた。」と述べている。

 

(3)井上輝子はその落合の意見に対して、「落合が分析対象とした『nonno』は、若い女性向け雑誌の中でも特に白人離れの傾向を持つ雑誌であるから、この一誌だけを見て、女性雑誌全体が「白人離れ」をしたと断定するのは、危険ではないか。」「女性雑誌がやたらに使う欧米風の用語法、頻繁に引き合いに出される欧米女性のおしゃれや家庭生活の事例、広告やファッションページの舞台に使われる欧米風の景色等々、雑誌の誌面全体が醸し出すイメージは、明らかに欧米の方向を向いている。」(1995、p11)「たしかに80年代には、経済大国日本の自身と「自然派指向」とが相まって、かつてのような欧米文化への憧れとコンプレックスが弱まったし「日本の伝統と美」を売り物にする「高級」女性雑誌が登場したことも事実であるが、女性文化全体を見ると、まだまだ白人女性の生活とおしゃれが、準拠枠になっているのではなかろうか。」(1995、p11−12)と述べている。

また村松泰子は「ひと頃よりも、女性誌に登場するモデルに「白人の若い女性」が少なくなったとはいえ、(ハイグレードなファッション雑誌ほど)まだまだ西洋的身体が到達すべき美のモデルとして登場する」と述べている。(1995、p232)