第4章    女性雑誌分析

 

第1節      ファッション誌分析

第2節      ファッション誌・女性週刊誌 比較分析

第3節      先行研究比較分析

 

第4章では女性雑誌をページ数といった数量的な側面から分析していき「身体加工」が女性たちにとってどのような存在になっているのか考察する。

第1節では年齢ごとに分類した「ファッション誌」を、それぞれの属性の雑誌における言及分野をページ数でカウントし、年齢ごとに『美容』に関する情報の数量的な変化を分析し、またその『美容』ページの内容を詳しく見ていきことから、年齢ごとに「美しさ」と「身体加工」はどの程度関わりあいがあるか考察していく。

第2節では第1節と同様の分析を「女性週刊誌」で行い、第1節で分析した「ファッション誌」との違いを考察する。

第3節では「ファッション誌」「女性週刊誌」両方について言及分野における先行研究(1989)との比較を行い、『美容』に関する比率が誌面においてどう変化しているか見ていき、「身体加工」に関する情報が増えてきているのか、減ってきているのか考察する。

 

第1節 ファッション誌分析

 

1.誌面内容構成比率分析

先行研究(1989)の分類方法に基づき、女性雑誌の言及分野を66の小分類項目に分類し、これらを27の中分類項目にまとめ、さらに『おしゃれ』(『美容』『ファッション』)『余暇』『生き方』『家事』『出来事』『その他』に整理した。それぞれの属性の雑誌がどのような内容で構成されているのか、『美容』に関する内容が雑誌中でどのような位置を占めているかを見ることによってそれぞれの属性や年齢ごとに「美しさ」がどれだけ重要視されているのか、分析する。

 

図4−1 ファッション誌 誌面内容構成比率

 

どの属性においても、内容を構成している上位3つは『ファッション』、『美容』、『余暇』の順であった。

そして『ファッション』の比率はどの属性においてもほぼ変わらないが、『美容』の比率は「若い女性向け」をピークに「働く女性向け」「主婦向け」と年齢を重ねるごとに減少していく。

 

このように「主婦」における『美容』の割合が「若い女性」「働く女性」より低くなった理由として考えられる大きなものは、「主婦」における『家事』の割合が他の属性より10%近く上回っていることが挙げられる。『家事』の割合は他の属性では2〜4%前後であるのに対し、「主婦」においては14%となっており、やはりこれが『美容』の比率を低くした原因ではないだろうか。また『余暇』の割合も「若い女性」を最低ラインとして年齢を増すごとに高くなっており、これも年齢が高くなるにつれ『美容』の割合が低くなるということの一つの原因と考えられる。

「主婦」における『美容』の比率を低くしたと考えられるこの二つの『家事』と『余暇』という存在から「主婦」は“美しく”なることよりもほかの役割(家族のために料理を作る、子供の面倒を見る、生活自体を楽しむなど)があるとされているのではないだろうか。

そしてこれまでも「主婦」に対して見られる必要がない、見せるべきではないといった社会規範が存在していることは指摘されているが、やはり主婦は“美しさ”にあまり関心を払わなくてよいのであろうか。

 

しかし『ファッション』の比率はどの属性でも4143%といった同じ値であった。「若い女性」「働く女性」とくらべ「主婦」における『ファッション』の割合が極端に減っていたならば「主婦」は見られる必要がないという規範が存在することは証明されるはずである。だが「ファッション誌」におけるこの分析では「主婦」も「中高生」「若い女性」「働く女性」と同じ値で『ファッション』が見られた。このことから「主婦」であるからといって“美しさ”に関心を払わなくてよいということは必ずしも言えないのではないだろうか。

 

このように「身体を着飾る」要素をもつ(「身体の加工度」の低い)『ファッション』の割合はどの属性も同じであることから、「身体そのものに手を加える」要素をもつ(「身体の加工度」の高い)『美容』の内容を詳しく見ていき、年齢ごとに「美しさ」というものはどのような「身体加工」によって作られるべきなのか、次の節でみていきたい。

 

2.美容関連構成比率

ここでは雑誌中に見られた『美容』に関するページを「身体の加工度」に応じて『化粧品』『整形・痩身』『その他』とさらに細かく分類し、その構成比率から年齢ごとに「美しさ」がどのような「身体加工」によって作られるべきであるか考察していく。

 

図4−2 ファッション誌 美容関連構成比率

 

『痩身・整形』は「中高生」向けのものに16.9%みられ、「若い女性」では46.0%と最も多く見られた。特に「若い女性」向けの中では『痩身・整形』が『化粧品』とほぼ同じ割合でみられ、身体そのものを加工する「身体の加工度」の極めて高い商品、サービスは比較的年齢が低い女性がターゲットとされていることが分かる。

 

それに対し年齢の高い「働く女性」「主婦」においてはどちらも約9割が『化粧品』によって占められており、『痩身・整形』は「働く女性」では6.1%、「主婦」では2.2%ととても低い数字であった。このことから年齢の高い「働く女性」「主婦」では、『痩身・整形』によって身体を加工することがほとんどなく、身体の加工度の低い『化粧品』によって身体に何かをつけ・着飾るということに「美しさ」の重点がおかれているといえる。

そしてこのことと雑誌全体の「誌面内容構成比率分析」において「主婦」向けの雑誌であっても『ファッション』に関する比率がほかの若い属性とあまり変わらなかったことを考えると年齢が上がるにつれて「美しさ」というのは何かによって「着飾ること」を意味するようになるといえる。

 

それに比べ年齢が低い「中高生」「若い女性」では、身体を着飾る『化粧品』と身体そのものを加工する『痩身・整形』が近い値で見られ、「身体の加工度」が高いこと関する情報をより多く得ている。このことは女性雑誌側が「美しさはより身体を加工することによって作り出される」ということを若い女性たちにより多く提示しているということである。

このようなことから身体を着飾る『化粧品』と同じような感覚で、「身体そのものを加工すること」が若い女性たちには自然に受け入れられているのだろうか。このことについて、図4−3、4−4から考えてみたい。

 

図4−3 性・年齢階級別 肥満の状況(男)

図4−4 性・年齢階級別 肥満の状況(女)

(厚生省保健医療局「国民栄養調査結果の概要」1997年)

 

この二つの「性・年齢階級別 肥満の状況」グラフでは20〜29歳の年代において男性の「やせ」の割合が20.5%であるのに対し、女性の「やせ」の割合は男性の2倍以上の47.1%となっている。

また30〜39歳においても男性の「やせ」の割合が11.3%なのに対し、女性の「やせ」は30.7%と男性を大きく上回っており、40歳〜49歳、50歳〜59歳になるにつれ男性のやせの比率と女性のやせの比率が接近したものになっていく。

 

そして女性においては年齢が低くなるにつれ「やせ」の割合が高くなっていることが顕著に表れており、このことは「若い女性向け」をピークにして年齢を増すごとに『美容』を構成しているペ−ジの割合減少していくことと関連付けて考えることができる。また20〜29歳の女性はどの属性よりもとびぬけて「やせ」の割合が多いにもかかわらず「ダイエットをしている」人もほかの属性より多いことが図4−5の「ダイエットをしている」より分かる。

これらのことから年齢が低くなるにつれ、「身体は加工されるものである」という意識が強まっていると考えられ、このことには「身体の加工度」の極めて高い『痩身・整形』の情報が「若い女性向け」の雑誌に偏っていること減っていることが影響していると考えられる。

 

図4−5 ダイエットをしている

(厚生省保健医療局「国民栄養調査」1996年)

 

以上のことから、特に若い女性向けの「ファッション誌」には『美容』の情報が多く見られ、その『美容』の内訳を見ても『化粧品』と『痩身・整形』の割合が同様に見られ、実際に身体を加工している女性が多く見られる。そして年齢を重ねるごとに『痩身・整形』の情報は「ファッション誌」において見られなくなり、実際に女性たちも「身体加工」を行わなくなってゆく。そして『ファッション』や『化粧品』によって「着飾る」ということで「美しさ」を満たす傾向に向かっていくと考えられる。

 

3.『その他』について

先の「美容関連構成比率」グラフにおいて『化粧品』『痩身・整形』のいずれにも当てはまらなかった『その他』の内容を見ていきたい。

 

表4−1 その他の内容

中・高生

美容記事,制汗剤,デンタル用品,体臭予防用品,ボディーシャンプー

若い女性

ボディーシャンプー,美肌用クリーム,デンタル用品,美肌用内服薬

働く女性

美肌用内服薬,美容記事,デンタル用品,フットスプレー,

主婦

美容記事,美肌用内服薬

(合計が3ページ以上あったもの、多かったもの順)

 

『その他』の中でも3ページ以上カウントされたものを多かった順にそれそれ挙げてみた。

中でも注目すべきなのは、「中高生向け」において『美容記事』をのぞいたほかのものはすべて「清潔さ」に関するものであったことである。また「若い女性向け」においても、『ボディーシャンプー』や『デンタル用品』といった「清潔さ」に関するもの見られた。

若者の「清潔さ」へ関心の高さはよく指摘されることではあり、諸橋泰樹は以下のように述べている。

 

「どこかで「清潔さ」や「美しさ」「健康」という基準が作られ、それが半ば見えない制度と化し、「不潔さ」への嫌悪感と「清潔さ」への欲望が強迫的に作られているのではあるまいか。それほど体臭はきつくないはずの日本では若者たちの間で、毎朝シャンプーをし、頻繁に洗顔をすることが“ブーム”にすらなっている。」「神経症の(それも特に思春期女子の)一種に「体臭恐怖症」とでも言ったような「症状」がある。自分の身体や口が匂うのではないか、他者が自分のことを臭いと感じているのではないか、といった強迫的な思いから逃れられず、日常生活に支障をきたすほどまでに始終身体を洗ったり人前に出られなくなったりするのである。これなどは、内在化された規範的なまなざしや嗅覚による「不潔」「くさい」というラベリング(レッテル貼り―たとえば学校において―)や、巷にあふれる「悪い匂い」「汚いもの」追放キャンペーンといった趣の化粧品・衛生用品の広告がその子を不安にさせ孤立無援にさせ、「症状名」を発見させたと解釈するのが相当であろう。」(1989、p121)

 

このようなことが指摘されているが、やはり「中高生」や「若い女性」たちに対して「清潔さ」信仰を促すような商品の広告などは絶えることがないように思われる。若い女性にとって(男性にとっても)「清潔さ」とは美しさを語る上で重要な要素なのではないだろうか。

 

そして『化粧品』のメイク用品や『痩身・整形』のダイエット、整形が見た目を変える「身体加工」であるのに対し、ここで見られた『その他』の制汗剤やマウススプレーなどの「清潔さ」に関する商品は、見た目は変わらないが身体の内側(皮膚の内部の汗腺や粘膜)に直接的に作用する「身体加工」であると考えられる。そして「身体の加工度」に関しては、それらの商品は身体に対して極めて直接的な加工を行っている点から高いと考えられるのではないだろうか。

 

4.ファッション誌分析まとめ

ファッション誌を年代別に分析して「中高生」「若い女性」はもちろんのこと美しさを求められており、それは『痩身・整形』といった「身体加工」にまで及ぶ傾向にある。そして「働く女性」そして「主婦」も洋服などの装飾品によって着飾るという形で美しさが求められているということが分かった。

古い社会においては、多くの場合女性たちは結婚した後は労働力や生殖能力があるかないかということが問われ、美しさを保持しようと普請したりすることは非難されるべきことであった。しかし現在では年齢や立場を問わず、主婦や母親、働いている女性であっても美しくあることが望まれているのである。

「ファッション誌」が提唱するのは若い女性は美しくあることが当然のことであり、結婚しても家事という役割をこなしながらも美しくあるという役割を同時にこなすべきであるといったことである。

 

第2節 ファッション誌・女性週刊誌 比較分析

「ファッション誌分析」で「中高生向け」「若い女性向け」「働く女性向け」「主婦向け」に分類していた「ファッション誌」をここでは「ファッション誌」として一つのものとしてとらえ、読者が30代〜50代の主婦が最も多い「女性週刊誌」と比較していきたい。

 

1.誌面内容構成比率比較

図4−6 ファッション誌・女性週刊誌 誌面内容構成比率比較

         『美容』の比率は、「ファッション誌」24.8%、「女性週刊誌」21.6%とあまり差は見られない。

         『ファッション』の比率は、「ファッション誌」43.0%、「女性週刊誌」3.6%と大きな差がある。

         『出来事』の比率は、「ファッション誌」2.8%、「女性週刊誌」26.2%と大きな差がある。

         「ファッション誌」は『美容』と『ファッション』によってほとんど構成されているのに対し、「女性週刊誌」は『ファッション』以外の『美容』『余暇』『生き方』『家事』『出来事』それぞれの項目がわりあいに均等になって構成されている。

 

「ファッション誌」と「女性週刊誌」の内容構成比率での大きな違いは、『ファッション』と『出来事』の比率の違いであるが、「女性週刊誌」における『出来事』の内容のほとんどは、芸能人のゴッシプや事件、時の話題そして誰かに対する中傷である。何より「女性週刊誌」の読者の特徴としてあげられるのは、このような芸能人のゴシップなどその情報をお金を払ってまで知りたいという、他人に対しての関心の強さである。「ほかのOLは、ほかのカップルは、よその家族は、よその夫は、他の妻は、他の姑は、やんごとない人は、どんな生き方をしてどんなトラブルを抱えているのか。のぞき見とねたみと単純な正義感をもとに、自分の今の不幸な境遇を憂う家事専業や会社員の女性の読者を、女性週刊誌は獲得している。」(村松泰子、1998、p203−204)とされるように、自分(の不幸)と他者(の不幸)を比べることによって女性週刊誌の読者は自己の位置を再確認しているのではないだろうか。

 

そしてこのように「女性週刊誌」の読者の関心が自己の境遇、身の回りの体裁について他者からどう見えているのか、という点にあるのに対し、『美容』と『ファッション』によって誌面の約7割を占めることからも分かるように自身の顔や外見が他者から見てどう映っているのかということに対する関心が強いのが「ファッション誌」の読者と言える。

 

2.美容関連構成比率

内容構成比率比較で見たように、雑誌全体における『美容』の比率は「ファッション誌」24.8%、「女性週刊誌」21.6%と両誌であまり差がなかった。ここではその『美容』の内容について「女性週刊誌」と「ファッション誌」では違いが見られるのか見ていく。

 

図4−7 ファッション誌・女性週刊誌 美容関連構成比率比較

         『化粧品』の比率は、「ファッション誌」56.3%、「女性週刊誌」はその約半分の27.2%となっている。

         『痩身・整形』の比率は、「ファッション誌」34.8%、「女性週刊誌」はその約2倍の66.3%となっている。

         上記2つのことから「ファッション誌」と「女性週刊誌」は、『美容』に関してまったく逆の構成であることがわかる。

 

「ファッション誌」は『化粧品』の比率が『痩身・整形』に比べ約1.5倍、それに対し「女性週刊誌」は『痩身・整形』の比率が『化粧品』に比べ約2.5倍であった。このことからファッション誌と女性週刊誌は『美容』に関していえばほぼ正反対の構成である。「ファッション誌」はどちらかと言うと「身体を着飾る」ことに重点が置かれており「身体の加工度」が低く、「女性週刊誌」は「身体そのものを加工する」ことに重点が置かれており、「身体の加工度」が高い傾向であるということが言える。この「女性週刊誌」の「身体の加工度」の高さは「ファッション誌」において最も「身体の加工度」が高い「若い女性向け」のものよりも高い傾向にあることが分かる。(「ファッション誌」の「若い女性向け」の『化粧品』の比率は49.9%、『痩身・整形』の比率は46.0%であった。)

 

また「女性週刊誌」は「ファッション誌」における「主婦」の年齢(30歳〜)にあたる女性が読者と考えられるが、「ファッション誌」の「主婦向け」のものには『痩身・整形』の情報がほとんど見られなかった。しかし「女性週刊誌」においては『化粧品』以上に『痩身・整形』の情報が見られた。このことから「ファッション誌」において隠されていた年配女性の「身体加工」への需要が「女性週刊誌」においては表に出てきていると考えられる。そして結果として30代以上の女性においてはかなりの「身体加工」への需要があり、それは20代の若い女性を上回るものである。

 

これらのことからどの年代においても「美しさ」はもはや「身体加工」によって作り出されるものとして女性たちに提示されている。よって「身体加工」の傾向は「年代」の影響よりも「時代」の影響が大きいと考えられる。(「身体加工」を当たり前ととらえる「時代」に移り変わってきている。)そしてなかでも若い女性たちは「美しさ」をより求められているために「身体加工」を体現してしまっている女性が多い。

 

第3節 先行研究比較

今回(1999年)と1986年に女性雑誌研究会によって行われた分析をファッション誌では『nonno』と女性週刊誌では『女性自身』の2誌について誌面構成の数量的な比較をしてみたいと思う。(10月号に限定して比較)

 

1.ファッション誌比較

図4−8 ファッション誌比較

1986年に比べ1999年になると『美容』『ファッション』の比率が大きく増加しているのに対し『生き方』『家事』は減少していることが分かる。このことから特に若い女性の家事役割の比重が低くなっていることが分かる。それに対し女性は「美しくある」という役割が以前よりも重視されてきていると言えるのではないだろうか。そして『美容』の比率が増加したことは「身体加工」が当たり前になってきている、ということを裏付けている。 

また1986年には言及されていなかった『出来事』が1999年には誌面に登場している。

 

2.女性週刊誌比較

図4−9 女性週刊誌比較

一方、女性週刊誌においては『美容』ページはわずかに減少し『ファッション』ページはわずかに増加している。また『余暇』の比率が半減しているのに対し『出来事』の比率は大幅に増加していることが分かる。

ここで『美容』の比率が減少しているのは、1986年当時にはまだ「主婦向けファッション誌」というジャンルの女性雑誌が存在しておらず(1995年にはじめて創刊された)、「女性週刊誌」が様々な言及分野を網羅していたのではないだろうか。そして「主婦向けファッション誌」というものが確立された現在ではこの種の雑誌が『美容』や『余暇』に関する情報を「女性週刊誌」に変わって引き受けているのではないだろうか。