第1節 調査の概要

 ここではまず調査の概要を説明しておこう。
この調査は「子供達はなぜ塾に通うのか」ということを明らかにするために行なったものである。対象者は学習塾通いが一番浸透していると思われる中学生とした。
この調査は3つの塾に通っている中学生1〜3年生191名を対象に行なったものである。中学1年生が45名、2年生が54名、3年生が92名という構成になっている。この3つの塾について少し説明を行う。3つとも形態は総合塾である。それぞれ、10〜20人ほどの人数で1クラスを構成し、一斉授業を行なっている。3つともテストによる能力別クラス分けを取り入れているが、希望者には個別指導も行なっている。できるだけ大きな母集団が欲しかったため、通常より人が集まる夏期講習会という時期にアンケートを行った。生徒はもとからの塾生が172人、夏期講習会生19人という構成だった。質問紙の方も全部で33問あるのだが、夏期講習生は17問まで答えてもらう形態をとった。この調査の方法は集合調査である。これは夏期講習会最終日(1998・8・30)に行われるテスト終了後に生徒達に教室に残ってもらい一斉に行った。アンケートの説明に関しては、行ける場所へは作成者である私がいって行った。テストの日程が重なったりして行けなかった塾に関しては注意点などをまとめた紙を渡し、実際集合調査を行ってくれる人に会って説明した。
 次に質問紙中の設問についての紹介と説明を行おうと思う。
 問1〜3は本人に関することを聞いている。学年・性別・塾生か夏期講習会生かなど分析に必要と思われる基本的な質問を行った。
問4では夏期講習会で勉強している科目についての尋ねた。
 問5〜6までは入塾動機について、誰からの影響を受けて入塾したかなどについて尋ねた。
 問7では、一日の勉強時間を尋ねた。
 問8では私が想定する「塾に通う子どもが持つであろう不満」について聞いた。ここでは、これまで塾について悪く言われる時に挙げられる項目を並べてみた。
 問9〜10では、学校の成績と成績の満足度について自分の意見を聞いた。
 問11〜12では高校受験について尋ねた。行きたい高校があるかどうか、またその高校を選んだ理由などを聞いた。
 問13〜14では、学歴についての意識を尋ねた。大学に行きたいかどうか、そして学歴についてどういう意見を持っているかについて尋ねた。
 問15〜17は夏期講習会生のみに聞いた設問である。ここでは塾に対するイメージを入った前と後に分けて尋ねた。
 問18〜20では学習塾で週何回・何時間授業を受けているか、どのような科目を勉強をしているかを聞いた。
 問21〜22では学習塾までの交通機関とかかる時間について尋ねた。
 問23では授業時間外の行動について尋ねた。ここでは授業以外で塾にいるかどうかを尋ね、塾にいる場合は何をして過ごしているかを聞いた。これは私の実体験からでた質問である。私の通塾体験において、一番楽しかった時間というのが塾の授業が終わってからの時間であった。塾の先生達や友達と話したり、勉強したりする時間が学校で過ごす時間とは違って新鮮であった。それは今の時代でも変わらないことなのであろうか。それが知りたくてこの質問を入れた。
 問24は塾に行って得られた効果について尋ねた。ここでいう効果というのは、学校の成績があがったかどうかということである。ここではその評価を「たいへんあがった」から「たいへんさがった」までの5段階で自己判断してもらった。これは子供を塾に通わせている親が一番心配していることであり、通わせている目的でもある。つまり、この結果は子供がなぜ塾に通うかを知るためにキーポイントになるものである。
 問25は塾に行くようになって勉強そのものが面白くなったかどうか尋ねた。これは学校の成績や高校受験という狭い範囲ではなく、もっと大きい視野で勉強というものをみて作った質問である。
 問26は塾に対して生徒がもつ感想である。これは「とても楽しい」から「とてもつまらない」までの5段階評価で判断してもらった。これも私の分析の中では核になる質問となっている。
 問27はこれからも学習塾を続けたいかどうかとその理由を答えてもらった。理由の方は自由解答という形なので数はそんなに期待しないが、生徒の直接的な意見が得られるので参考にしたい質問である。
 問28〜29までは塾における友人関係について尋ねた。入る前と入ってからの友人関係についてを尋ねた。これも私の経験からだが、私が講師をしていた塾では兄弟で同じ塾に通うというパターンや友達を連れてくるというパターンがとても多かったという印象が強い。そして通塾を決める要因として友人はかなり大きく絡んでいると思ったため、設問にいれた。
 問30〜32は「塾」・「学校」とを対立させ、友人関係・講師との関係・塾という場所に対しての感想について尋ねた。それぞれの項目は自分にとって「塾」と「学校」のどちらにより近いかという方式をとって尋ねた。
 問33は完全に自分の趣味でいれた質問である。自分が塾の講師をしていたことから、現代の子供はどういう先生像をもっているかを知りたかったのである。
私がこの調査を通して考えたいと思っている問題は、「子どもはなぜ塾にいくか」という問題である。「学習塾」は、時代によってイメージが違うものだと私は思う。そして見る視点によっても違うものだと思われる。ここでは「子ども」から見た現代の「学習塾」について考えたいと思う。

第2節 調査結果の分析

 ここではまず、「子どもはなぜ塾に行くか」ということについて私が持っている仮説を説明しておこうと思う。私自身の経験や塾の講師をしていた経験から考えると、子供達にとって塾は勉強する場所であるとともに、友人とのコミュニケーションの場であったり、学校や家庭とは違った「楽しい場所」であるように思う。そして、子どもが通塾を続ける要因は後者の方、つまり勉強以外の要因が大きいのではないかと考えられる。
 私の仮説が正しいかどうかを分析するために、「通塾を続けるかどうか(問27)」を中心としてそれに関連があるものをあげていこうと思う。問27の単純集計(図3−1)
と自由解答の集計表(表3−1)を示しておく。


ここででた結果というのは、半数以上の生徒が通塾を続けたいと思っているということと、その理由というのは解答数は少ないが「成績を維持する、もしくは上げたいから」であるということである。実際はどうなのであろうか。

(1)通塾に高校受験が与える影響

 中学生が塾に通う目的としてはずすことのできない「高校受験」に関してここで考えてみよう。「高校受験」に関しての質問は問11で「行きたい高校はありますか」と聞いた。その結果、「決まっている」と答えた生徒が81.4%、「決まってない」と答えた生徒が18.6%であった。行きたい高校が決まっている生徒が81.4%いるのは、受験をおそらく意識していないと思われる中学1・2年にも聞いたことを考えるとかなり多いように思う。これは塾に通っている生徒達は受験を意識していると考えることができる。問11と問27のクロス表をとってみると5%で有意であった。(表3−2)

この結果から行きたい高校がある生徒は通塾を続ける傾向があるということができる。

(2)通塾に学歴意識が与える影響

 まずここでいう「学歴意識」というものについて説明しておくと、これは問14「あなたは学歴についてどう思いますか」という質問に対して「必要である・必要でない・そのことについて考えたことがない」で答えてもらった結果を基にしたものである。この結果、「必要である」と答えた生徒は54.5%、「必要だと思わない」と答えた生徒は11.1%、「そのことについて考えたことがない」と答えた生徒は34.4%であった。問14と問27のクロス表をとってみると5%で有意であった。(表3−3)

つまり、「学歴が必要である」と思っている生徒の方が通塾を続ける傾向があるという結果が得られた。
 この「学歴意識」は高校受験だけに限定しない意味での「自分にとっての学歴」に対しての意識を指す。私はこういう意識でとらえているのだが、生徒たちが「高校受験」に対しての意味だけでとらえてないかを調べるために問11と問14の相関係数をとってみた。この2つの質問の相関が強ければ生徒はこの「学歴意識」を「高校受験」の意味でとっていることになる。(表3−4)

この結果、相関係数は0.17程度でありこの2つの質問の間の相関は強くないことがわかった。つまり、このアンケートに答えてくれた生徒達は「受験」と「学歴」を別物として捉えた上で、問14に答えてくれたことがこれでわかった。つまり、先ほどのクロス表の分析は正しかったといえる。

(3)通塾に「成績上昇度」が与える影響

 この「成績上昇度」とは、学校の成績に関してのことである。これは問24で「学習塾に行って学校の成績は上がりましたか」という質問をした。その結果、「たいへんあがった」と答えた生徒が16.1%、「少しあがった」が57.8%、「かわらない」が19.3%、「少しさがった」が5.6%、「たいへんさがった」が1.2%であった。つまり、「(どちらかといえば)成績があがった」と感じている生徒は70%を越えている。これは子どもを塾に通わせている親が一番気になることだと考えられる。問24と問27のクロス表をとってみると、5%で有意であった。(表3−5)

つまり、子供達にとっても「成績が上がる」ことは塾に通う要因の一つとなっているようである。

(4)通塾に友人が与える影響

 これはさきほどの仮説の部分でも述べたことだが、通塾に「友人」が与える影響について考えてみようと思う。まず問29で「現在塾に仲の良い友人がいますか」と聞いた。その単純集計からは92、3%の生徒が「いる」と答えていた。この友達というのは問28aや問29aの結果から、塾に入る前から友達であることが多いといえる。「塾でだけ会える」という友人関係でなくても通塾を続けることに影響はあるのだろうか。問29と問27のクロス表をとってみると5%で有意であった。(表3−6)

つまり、通塾に友人がいるかどうかというのは影響を与えているということができる。

(5)通塾に「楽しい」という感情が与える影響

 これもさきほど仮説の方であいまいにだが、塾は子供達にとって「楽しい場所」ではないのだろうかと書いた。問26で「あなたは塾をどう思いますか」という質問をし、「とても楽しいと思う」から「とてもつまらないと思う」までの5段階で答えてもらった。その単純集計の結果は、「とても楽しい」と答えた生徒が22.8%、「どちらかといえば楽しいと思う」が43.1%、「どちらでもない」が30.5%、「どちらかといえばつまらないと思う」が3.0%、「つまらないと思う」が0.6%であった。ここからも分かるように塾を「(どちらかといえば)楽しい」と思っている生徒は65%以上になる。問26と問27のクロス表をとってみると1%で有意であった。(表3−7)

つまり「塾をどう思うか」ということが「通塾を続けるかどうか」に大きな影響を与えていることがわかったのである。
 このクロス表をさらに細かく見ていこうと思う。問26で「とても楽しいと思う」と答えた生徒の89.2%人が塾を「続けたい」と思っていることが分かる。問26の残り4段階それぞれでみてみると、「どちらかといえば楽しいと思う」と答えた生徒の75.0%が、「どちらでもない」と答えた生徒では40.8%が、「どちらかといえばつまらないと思う」と答えた生徒では60.0%が、「とてもつまらない」と答えた生徒では0.0%が「塾を続けたい」と思っているのである。この結果から塾を楽しいと思う生徒ほど通塾を続ける傾向が強いということができる。
 以上が通塾に影響を与えていると思われる要因の分析であるが、ここで言えることはどの要因が特に強いとは言い切れないということである。それぞれのCramar’Vで関連の強さを比較してみても、(5)だけが0.3を超えるだけで、あとは0.2程度であった。これは(1)〜(4)まではそこそこの強さの相関があり、(5)に関しては強い相関があることを示している。この「楽しい」という感情ももう少し分析してみないと何に起因しているかわからない。つまり、子どもが塾に通う理由は、勉強に関することも友人に関することも関係しており限定できるものではない。その中でも「楽しい」という感情は大きく影響しているということであるといえる。第4章ではこの「楽しい」ということについてもうすこし細かい分析を行おうと思う。
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