はじめに


 現在日本では、全国どこに行っても地域おこし、あるいは地域づくりの話が1つや2つ出てこないところはないくらい、地域おこし(地域づくり)の運動が展開されている。ではなぜ、地域おこし(地域づくり)がこんなに盛んになっているのか。
 地域おこしや地域づくりが強く言われる動きは、歴史的に見ると何回か起こってきている。第一は明治維新直後で、自給中心の生産から商品生産へと農村を中心とした地域が大きく変化していった時期である。第二は、明治末期から第一次世界大戦にかけてで、町村是制運動という形で地方産業振興、地域計画策定の動きが見えた時期である。第三は、1929年に起こった世界大恐慌とその影響による農村不況からの脱却を目指して行われた農山漁村経済更正運動、産業組合拡充五ヶ年計画の時期である。第四は、戦後の農村のあり方をめぐって出された新農村建設事業の時期である。第五は、1970年代後半の「地方の時代」、地域主義が主張された時期である。第六は、1988年から政府によって提起された「ふるさと創生」事業の時期である。この地域おこしや地域づくりの流れを見ると、明治維新や第一次世界大戦、第二次世界大戦のような対外関係での矛盾が激化した時期や、国際的圧力が強まったり、政府の矛盾が大きくなった時期に地域おこしや地域づくりが持ち出されている。そして、現在の地域おこしは一時的なブームではなく、社会情勢から生まれた必然的な社会潮流なのではないだろうか。
 今回の調査は、村民にパソコンを配布して全国的に有名になった富山県山田村の地域おこしを調査することによって、地域おこしの今後の可能性が見えてくればと考えている。
 ところで、「地域おこし」と「地域づくり」は、もともと近年になっていつの間にか定着した社会的な慣用語であって、語意が厳密に定義されているわけではない。「地域づくり」はソフト面だけでなく、むしろハード面を重視した言葉として捉えられているが、「地域おこし」はもっぱらソフト面を重視し、「シマおこし(注1)」から派生した言葉であることからもわかるように、沈滞した地域がその打開策として行なっているイメージとして捉えられている。行政などで従来から使われている「地域開発」や「地域振興」についても、本来なら厳密に区別され、それぞれに概念規定が与えられているのだが、今回は厳密な使い分けはせず、それらのすべてを含む幅広い意味をこめて「地域おこし」を用いることとする。


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