地域おこしの可能性 −山田村の事例からの考察−


 村民にパソコンを配布して全国的に有名になった山田村の地域おこしを調査することで地域おこしの今後の可能性が見えれば、ということを最終的な目的として今回の調査を行なった。

分類から問題提起へ

 山田村の地域おこしを分類すると「地域間交流型」に属すると考えられる。インターネットがネットワークの輪を広げ、交流が生まれ、地域が活性化する(交流という字面だけを見る)と考えると、「地域間交流型」に属すると考えられるからである。
 しかし、「地域間交流型」の定義から考えると山田村の地域おこしは「地域間交流型」のカテゴリーからはずれているのではないか。というのは、「地域間交流型」は‘地域’と‘地域'の間の交流であるが、山田村の場合は、インターネットを使っているため‘個人'と‘個人'の交流になるからである。では、山田村の地域おこしは地域間交流型に含めるべきではないのだろうか。

調査の目的・方法

  • 調査の目的:山田村の交流の現状を調べることで、「山田村の地域おこしは、地域間交流型のカテゴリーに含めるべきではないのか」という疑問に対し、「地域間交流型のカテゴリーに含めてもいいのではないか」という私の仮説を立証すること調査の方法は以下の3通りの方法である。
  • 調査方法:1.岩杉陽一さんへのインタビュー
            2.山田村メーリングリストによる調査
            3.ふれあい祭の参与観察

    調査結果

     調査の結果から山田村の交流の特徴を述べる。
  • ふれあい祭が始まったきっかけにはインターネットが関わっていることから、山田村の交流はインターネットがなかったら生まれなかったものであり、ふれあい祭の計画や話し合いがMLで行われていることから、インターネットがあるからこそ続いている交流である。
  • 地域間交流は、姉妹都市交流にしろ国際交流にしろ行政が中心となって交流を支援している(交流相手はたいてい行政が決めている)が、山田村の場合は、パソコン支給は行政が行なったがそれによってインターネットを使い交流を行なうかどうかは村民次第であるため、行政が中心となっての支援はない。また村民によって交流の有無の格差が大きい。
  • 地域間交流は、普通、相手が誰なのかはっきりしているが、山田村の場合はインターネットを使っているため、相手がどういう人なのか分からないことが多いし、交流相手が無数に広がっていく。また、一人一人、人数や相手も違う。
  • 必ずしも山田村の外の地域との交流とは限らず、山田村内での交流もある。
  • メーリングリストに入ったりすると1対1の交流だけとは限らずその交流の形が多元的になる。また山田村と地方、山田村と都市、山田村と外国というようにいろいろな交流が混ざっており、その交流が更に広がっていくことが考えられる。
  • 山田村の地域間交流において大きな意味を持っているふれあい祭は、ふれあい祭の説明からわかるように、もともと考え出した(企画を持ち込んだ)のが山田村村民ではなく、外の人間である。
  • ふれあい祭は、山田村が主体ではなく、外の人間の方が主体的であり積極的である。
  • 実際に交流相手と出会えるふれあい祭は交流を円滑に進めるための通過点であり、交流相手とコミュニケーションをとるための共通の話題になっている。
  • ふれあい祭で得られる交流は、村民と学生の交流 < 学生と学生の交流 である。
  • 盛り上がっているのは、村民 < 学生 である。
  • 山田村の存在が交流の後押し的な役割をしており、山田村が媒体となってさらなる交流が広がっている。
     以上から分かるように、山田村の地域おこしは地域間交流型とは明らかに外れている。しかし、“地域間”ということを抜きにして考えると地域間交流型の定義は山田村の地域おこしにぴったりとマッチする(山田村の場合、「地域の個性・独自性」はパソコン支給によるインターネットの導入、「相互のニーズ」は、山田村側は村民の視野を広げ交流を深めるということ、相手側は交流をしたいということ)。また、“地域間”の交流ではないとはいえ山田村には明らかに他の地域の人との“交流”があり、ただ“地域間”の交流ではないということでカテゴリーに含めないというのはおかしい。
     そこで地域間交流型の定義をもっと広義なものと考え、山田村を新しい地域間交流型として含めるべきだと考えることにする。(地域おこしというのは社会の背景によって少しずつ変化してきており、まして現在は著しい速さで社会が変動していて地域自体も今までになかった新しい地域おこしを求めてきている。だから、山田村の地域おこしが地域間交流型から外れた交流になっているのは当然といえば当然のこと)つまり、新しい地域間交流型とは“地域間”にこだわらず何らかの形で交流があり、それによってその地域が活性化する交流であり、たとえその‘地域’が交流を行なううえでの媒体としての役割しか果たしていなくても、それによって何らかの影響がその‘地域’に起これば、それは地域間交流型に含めるものとする。

    山田村を地域間交流型に含めることに対する意味づけ

     山田村を地域間交流型に含めることで地域間交流型の範囲が広がり、それによって地域おこしの幅も広がる。つまり、今まで‘地域’という単位の活動でないと‘地域おこし’として含めてもらえなかったものが、地域という単位だけでなくそれ以外の単位(例えば‘個人’や‘グループ’など)の活動も地域おこしに含めることが出来るようになる。 →山田村は「‘個人’や‘グループ’の活動による地域おこし」の代表例

    今後の地域おこしの可能性(山田村の交流の特徴からの考察)

     山田村の交流の中で特に注目したい特徴である「ふれあい祭における学生の主体性・積極性(外の人間が始め引っ張っているということ)」は、他では見られない交流の形で、山田村独自の交流であり、これ(=外の人間が引っ張っていってくれる交流)は今後の地域間交流の新しい展開を期待させるものとなるのではないか。例えば、過疎化が進み、人口特に若者の数が減り地域おこしも立ち行かないような地域にとって、外の人間が引っ張っていってくれる交流というのは希望の光になり得ると思う。
     またインターネットについても、現在コミュニケーションツールが多様になりインターネットの普及も広がっているため、インターネットを使った交流はこれからも増えるだろうし、インターネットによって「行政が中心とならない交流」もどんどん増える可能性があると思う。
     他に「行政は中心にはならないが支援はする」という面や「行政が交流の媒体となり後押しをする」という面、「交流相手が1つとは限らず相手も分からない」という面なども地域おこしの今後の広がりを示唆するものとなり得るのではないか。


    別紙

    地域おこしの分類

  • 地域産業振興型
  • 社会生活環境整備型
  • イベント型
  • 地域間交流型
  • 人材育成型

    山田村の地域おこし

     山田村がインターネットを導入したのは、山田村中学校の先生が「山田村の子供は覇気に乏しいので、刺激を与えるためにパソコン通信で外の世界と交流したい。そのための回線を引いて欲しい」と村役場に要望したのがきっかけである。そして時代の流れからパソコン通信ではなくインターネットの方が良いということになりインターネットを導入。その後、県から地域交流拠点設備整備モデル事業の候補先に応募する事を勧められ、各家庭にパソコンを配置してネットワークで結ぶ「一家に一台パソコン支給」という独自の案でモデル事業の指定を受け、希望する全家庭325戸(普及率71%)へパソコンが配付された。以上のことから、山田村は地域おこしを目的にインターネットを導入したのではないとことが分かると思う。しかし山田村の情報化事業では「村がインターネット接続などの基盤を準備することによって、村の外部の人と村民との間や、行政と村民との間、村民同士の間のコミュニケーションの場を提供することができ、その変化が刺激となり、村民の生活が積極的になったり、村や自分に対して誇りを持つきっかけになれば、村民の意識改革を通して村の活性化や魅力的な村づくりが実現できるのではないか」と考えているため、私はインターネット導入を山田村の地域おこしとみなしている。
    ふれあい祭
     インターネットの就職関係ML仲間であるが全く面識のない5人の学生が、パソコン使用状況調査のアンケートを持って山田村を訪れた。しかし、電脳化についての勝手な思い込みによってイメージしていた村をちょっと調査してみようという気軽さと表面的な付き合いでは村に入り込めず、むしろ危険性をともなっていると思い知らされた。そしてもっと真面目な態度で交流をしたいと考え、「お助け隊として村の役に立ちたい」という気持ちと「情報化と村おこしについてのサマースクール」という気持ちを持ちつつ、山田村で夏のイベント「ふれあい祭」を行なおうということになった。
     一方、学生が「ふれあい祭」の企画を山田村に持ち込んだ時、ふれあい祭の話を直接役場が受けると祭が役場主導となりがちになるため、村のグループの1つに相談をもちかけ、ボランティアとして村民の電脳化推進に協力したいという学生の気持ちを率直に受けとめて学生の後押しと手助けをしようと立ち上がった。そして「ふれあい祭」は村民との親密なコミュニケーションがなければ学生だけでは成り立たないと考え、様々なグループや人々が集まり「こうりゃく隊」を結成。また「富山政策研究サロン」や「SVJ」などのNPO(非営利団体)の援助もあり、1997年7月26日〜8月3日に電脳村ふれあい祭が行われた。
     ふれあい祭は「山田村の可能性を感じ少しでも山田村の役に立ちたいと集まった学生がボランティアとして村民の活動に協力し、生活に密着した情報化の未来について語り合うイベント」をコンセプトにしており、次の3種類のイベントを柱にしている。1つめは山田村の情報化を助け貢献するイベント、2つめは情報化社会の理解を深めるイベント、3つめは村民と交流するイベントである。1998年のふれあい祭は8月1日(土)〜8月9日(日)に行なわれ、前年より情報化ということに重点を置きパソコンお助け隊の充実を図り、また将来山田村を支えるであろう若者との交流を持ち共に考えるきっかけを作ることを主旨としている。イベントは前年と同様に3種類のイベントを柱にしており、前年は7月の終わりの日曜日に行われてるいも祭と同時開催されていたが、今年は別々のイベントとして行っている。またそれらのイベントのほかに、パソコンお助け隊が8月2日〜8月8日まで1日2回(1回目は10:00〜12:00・2回目は18:00〜20:00、8日は1回目だけ)行われている。なお今年のふれあい祭学生参加者はOBと一部社会人を含めて82名である。


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