第2章 言説の分類

 言説がどのような目的によって語られているかという観点による分類と、言説中に出てくる典型的な言葉に注目した分類の2種類を行なう。
 ただし後述するように、一方の分類方法で分けられた各項目はもう一方の方法で分けた項目のいずれかにほぼ重なることがわかった。このことはそれぞれの言説の性格をはっきりとあらわすものといえる。

1.言説の目的による分類

 他の区分については事項で解説するとしてここでは「批判型」について特に解説する。
 批判の根拠を整理すると、主なものは次のようになる。

 これらの批判の根拠は後述する「対立」の問題に関連する。

2.キーワードによる分類

 この中で特に取り上げるのが、「損得」と「内助の功」である。 まず、「内助の功」の代表的な言説の例が[表1]の一覧である。
「内助の功」という言葉が最初に用いられた明確な時期は特定できないが、注目すべき記事として『朗報『内助の功』減税』という見出しを持つものがある(週刊新潮 pp.23,1981)。これは、配偶者特別控除がでてくる以前、「二分二乗方式」が大蔵省から浮上してきた頃のもので、この当時から既に「内助の功」を建前にした政策設計が行なわれていたことを示すものである。
 次に、「損得」の代表的な記事の例が[表2]の一覧である。
 控除対象の「限度額」を知りたい・周知させる、あるいは手取額の「損益分岐点」をはっきりしたい、といったテクニカルな問題を解説する言説である。
 「いくらまでなら控除を受けられるか」「どのくらい働くのが一番得か」「損をしない働き方」といった言葉が示す通り、人々が最も関心のある金銭的な損得がメインである。
 これら2つの言葉に注目するのは、次のような理由による。
 「内助の功」といった言葉の多用は、特定の人(世帯)を優遇するのが制度の目的であることを人々に印象付ける。また、「損得」絡みの言説が多くみられるということは、人々の関心がその点に多く集まっていることを示し、それらの言説に人々がふれることによって「損をしたくない」という意識をさらに強める。目的や理念ではなく、主に自分の金銭的損得の面で制度を認識するということをあらわしてもいるし、またそのような認識を強化もする。
 このようなことから、これらの言説が後述する「対立」を強化することになると考えるのである。