第五章 調査結果分析

  • 単純集計  SD法を用いた問9を、まずは単純集計にかけてみた(結果は論末にまとめて添付)。そして、A〜Bという軸の上で「A(B)に近い」「どちらかというとA(B)に近い」の合計が50%を越えるような回答の偏りが見られる項目を抜き出し、マンガのイメージとして多くの人が抱いているものをみてみた(表1参照)。

    表1(枠内は%)
    A(B)に近いA(B)に近い + どちらかというとA(B)に近い
    子ども向け  19.2   53.1
    非現実的  17.3   59.7
    理解しやすい  24.9   63.6
    やわらかい  24.8   74.3
    親しみ易い  30.0   71.5
    安い  24.3   60.7
    軽い  17.0   54.9
    単純  15.5   51.0
    身近  22.1   55.4

     このうち、「子ども向け」「非現実的」は第三章で投書の分析を行なった時にも含まれていたものである。それに比較的近いイメージとして「単純」が含まれている。また、非常に大きな偏りが出た項目として「やわらかい」「親しみ易い」があり、どちらも「どちらかというと〜」を含むと70%以上の人がそう思うという結果が出ている。あと、「理解しやすい」「安い」「身近」「軽い」といったイメージが並ぶが、かなり大雑把にまとめると、「肩肘はらない身近なものである」というイメージがあると言えそうである。
     問10も同じ手法で集計してみた。ただこの場合「AorB」ではなく「活字メディアorマンガ」の軸なのでそれぞれ別にまとめた(表2、表3参照)。

    表2(枠内は%)
    活字メディアに近い活字メディアに近い + どちらかというと〜
    情報量が多い   44.4    83.1
    読みごたえがある   27.7    65.5
    思考力を養う   32.7    71.2
    知識が広まる   31.7    76.0

    表3(枠内は%)
    マンガに近いマンガに近い + どちらかというと〜
    娯楽性が高い  26.9  69.7
    普及しやすい  18.9  57.3
    誰にでもわかりやすい  24.0  70.1
    子どもの心をつかみやすい  36.9  80.6
    暇つぶしにむいている  26.3  65.9
    気軽に楽しめる  29.1  69.9

     これまた非常に「いかにも」な項目が双方出そろった感がある。活字メディアの方は、いかにも「ためになりそう」な項目がいずれも非常に高い割合で選択されている。「情報量が多い」に至っては「活字メディアに近い」(解答欄としては「1」)を選んだ人だけで44.4%、「どちらかというと〜」を含むと83.1%、約6人に5人が選択していることになる。それに対してマンガのほうはというと、一番割合が高いのが「子どもの心をつかみやすい」、他ほぼ横一線で「誰にでもわかりやすい」「気軽に楽しめる」「娯楽性が高い」「暇つぶしにむいている」「普及しやすい」と続く。こちらは言うなれば、いかにも「リクリエーション性」が高そうなものが多い。この部分は問9にも近いものがある。
     もう一つ活字メディアとマンガを比較する設問、問11では大人として子どもにより多く読んでもらいたいのはどちらか聞いてみたが、「マンガをより多く」と答える人は皆無であった(214人中5人)。「小説をより多く」が43.9%、「どちらも同じくらい」が47.2%、とこの二項目でほとんど全てであった。マンガをある程度評価する人も少なくはないが、少なくとも小説よりも積極的な評価をする人は殆どいないということがわかった。
     マンガが子どもに悪影響を及ぼす度合いについて尋ねた問12では、子どもに悪影響を与えるマンガ「も少しはある」と答えた人が全体の4分の3近くを占めた。それに対して「〜が多い」と答えたのは23.2%。4分の1弱であった。
     「有害コミック問題」の知名度を聞く問13だが、さすが対応が早かった「(自称)教育県」富山だけはあり、「聞いたことがない」のは一割程度であった。しかし、残りのうち半分の人は「聞いたことはあるがよく知らない」とのこと。
     マンガの中の性表現について質問する問14も、大きく結果が偏った。「性的表現の規制はしないほうがいい」と答えたのは約8%しかおらず、残りのうち、性的表現を「取り締まったほうがいい」と答えたのは全体の44.4%にものぼった。残りの47.7%は「販売方法は制限」すべきと答えた。ただ、マンガ以外のメディアにおける性表現について今回の調査では問うていないため、「マンガだから」これだけ厳しい結果になったのか、それともそもそも「メディア上での性表現は好ましくない」と思っているのか、ということを確かめる術が無いので、いささか意義が薄いデータでもある。しかし少なくとも先の「有害コミック問題」のような運動があったときに規制に賛成すると思われる人が、全体の半分近くにのぼったという数字は、興味深いものであろう。
     問15は、bのデータが少々使いにくいのでaとbをまとめて一つの変数にした。bで「単行本」又は「マンガ雑誌を買って読んでいた」のいずれか一つでも選んでいれば「自分でお金を払って講読した人」として(1)、それ以外の人で、bで3〜7のいずれか一つでも選んでいれば「お金は出さないけどマンガは読んだ人」として(2)、bで1〜7のいずれの項目も選ばず、aで3か4を選んだ人は「マンガを大して読まなかった人」として(3)、という値を与えて変数を加工、新しい変数を生成した。さてその新しい変数、仮に「12〜13歳頃のマンガ経験の質」と名付けるが、これによるとその頃に自分でマンガを買って読んでいた人は全体の半数にもおよぶことがわかった。借りて読んでいた人を合わせると7割の人がその頃マンガを読んでいたことになる。少なくとも子どもの頃はマンガを読んでいる人は圧倒的多数派であったのだ。
     問16では子どもの頃と今とのマンガに触れる量の差を質問したが、aの質問ににおいて、予想通り「子どもの時のほうが今よりもよく読んでいる」という回答が過半数(65.0%)を占めた。また、bの質問でマンガを読む量が減った時期を聞くと、16〜20歳の間が37.3%と一番多く、21〜25歳の間が26.8%と、この時期が目立って多かった。但し、その理由については「なんとなく」の人が47.3%もいて、他「面白くなくなった」のが25.5%、「忙しくなった」が21.8%であった。周囲の影響というものをある程度予想していたのだが、「親などに苦言を呈された」という人はたった1人、「周りの人が読まなくなったから」というのは一人もいなかった。これに関しては全面的に予想が外れたことになる。
     問17は、問15と対になっていて、現在のマンガ接触量を問う質問である。これも、問17aの1or2を選んだら「買って読む」、aの3〜6いずれか一つでも選んだら「買わないけど読む」、aの7を選んだら「読まない」、の3つに変数をまとめ直した。すると今度は「買わないけど読む」人が45.8%と、半分近くにもなった。「買って読む」人は20.1%と激減。これは問16の結果とも符合する。但し、この二つを合わせると65.9%の人が何らかの形でマンガを読んでいることになり、この数字自体は問15と比べてさほど大きな差があるとは言えない。これは、子どもの頃からみてマンガを読まなくなったといっても、量的減少があるとはいえ全く読まなくなるわけではないということであろう。
     問18、19は子どもがマンガを読んでいる時の親の反応についてである。まず問18では調査対象者自身が子どもの頃、マンガを読んでいて親に叱られたことがあるかという質問だが、「特に叱られたりすることはなかった」人が67.6%と、約3分の2を占めた。これほど多いとはあまり思っていなかったのだが、逆に言えば約3分の1の人は叱られたことがあるということである。そして問19、自分が親の立場になったら子どもに対してどうか、という質問だが、「止めはしないが奨めもしない」という人が55.1%、半数を超えた。しかし、「内容によっては止めさせる」人も30.1%いた。もし「内容によって」という単語がいわゆる「有害コミック」を想起させたのだとしたら、問13と比べるとむしろ少ないくらいである。
     以上、単純集計でマンガについての質問を一通りみたわけだが、これだけでは意味をなさない質問や結果に面白味の無い質問も少なからずあるので、特定の質問に関してそれぞれの質問にあっていると思われる方法で分析してみたいと思う。

  • クロス表集計  とりあえず、2変数間の因果関係から何かを読み取ってみたい。ただ、今回の調査の本来の目的、マンガのイメージについての分析は、クロス表で調べるには変数の偏りが大きすぎるものも多いのでクロス表以外の方法を用いることにする。なお、有意水準はカイ二乗検定値を「p」で表わし、0.05未満と0.01未満の二段階で表示した。
     まずクロス表作成に先立ち、変数・問9の一部と問11〜19を加工した。いずれの変数も極端に度数が少ない選択肢を内包しており、そのままではクロス表の有意性に著しく支障を来たすので、一部の例外を除いて選択肢を2〜3個に絞り込んだ。以下にその過程を記す(数字は変数の値)。問9(1)は1と2を1に、3〜5を2に統合した新しい変数に変更した。「マンガは子ども向けだと思う/思わない」という分類である。問11は2〜4を2に統合、「小説のほうが多い必要はない」グループをつくった。問12は1・2を1に、3・4を2に統合、「子どもに悪影響を与えるマンガは多い/多くない」の2つにした。問13は3を2に含ませた。問14も3を2に含ませ、「取り締まった方が良い/取り締まりは必要ない」の2つとした。問15と問17は既に単純集計のところで触れた通りである。問16はa・bの設問を融合させ、aの1を「1:元々読んでない」、bの1・2をあわせて「2:15歳までには読む量が減った」、bの3を「3:16〜20歳の間に読む量が減った」、bの4を「4:21〜25の間に読む量が減った」、bの5・6をあわせて「5:26歳以上になって読む量が減った」、aの3・4を「6:読む量は減っていない」とする新しい変数にした。問18は1〜3と4の二つのカテゴリーで「叱られたことがある/ない」とした。問19は1を2に、5を4に吸収させ、残った2・3・4を1・2・3に定義し直した。
     ではまず調査対象者個人の属性、性別及び年齢と問11〜19との関係を見てみよう。
     性別との間に相関が見られたのは、「有害コミック問題」についての2つの項目であった。問29(性別)と問13「あなたは『有害コミック問題』についてご存じですか」、問14「あなたはマンガの中での性的表現についてどう思われますか」とのクロス表である(表4、表5参照)。

    表4
     問29:性別 × 問13改:「有害コミック問題」について知っているか
    度数(%)知っている よく知らない
    男性 61 (57.5) 45 (42.5)
    女性 35 (31.8) 75 (68.2)
    全体 96 (44.4)120 (55.6)
       p<0.01、Cramer's V=0.259、r=0.259

    表5
     問29:性別 × 問14改:マンガのなかでの性的表現についてどう思うか
    度数(%)取り締まった方が良い取り締まりは必要ない
    男性 39 (36.8) 67 (63.2)
    女性 56 (52.3) 51 (47.7)
    全体 95 (44.6)118 (55.4)
       p<0.05、r=-0.156

    女性のほうが「有害コミック問題」についてよく知っている割合が高く、取り締まりを望む声も若干多かった。このことは、この問題に関して男性より女性のほうが関心が高かったことを示すのではないだろうか。運動の発端になった新聞記事は東京都生活文化局「婦人計画課」の調査報告をもとにした物であったし、住民運動の先駆け的存在は和歌山県田辺市の「主婦」たちによるものだった。「有害コミック問題」は、マンガに「女性の裸」や「可愛らしい女の子の絵で過激なシーン」が出てくる事で問題になっていたこともあり、また一般的に言って女性の裸が出てくるのは男性側の性的欲求から生じる需要であることから、女性のほうが関心が高くなるのは自然といえよう。しかし逆に言えば、この二つの変数にしか有意差が無いということは、性別はマンガ経験や小説とマンガのどちらを評価するか、といった変数に影響を与えているとはいえないということである。
     年齢層との相関は、予想されたことだが多くの変数に関してみられた。問11「あなたは小説とマンガではどちらをより多く子供たちに読んでもらいたいですか」、問14「あなたはマンガの中での性的表現についてどう思われますか」の、マンガに関する考えと、問15「12〜13歳頃のマンガとの接触の度合い」、問17「現在のマンガとの接触の度合い」の、マンガ経験の項目、いずれにも有意差がみられた(表6〜表9参照)。

    表6
     問30:年齢 × 問11改:子どもには小説をマンガよりも多く読んでほしいか
    度数(%)小説をより多く読んで欲しい小説のほうが多い必要はない
    20代 7 (21.9) 25 (78.1)
    30代 20 (37.7) 33 (62.3)
    40代 30 (55.6) 24 (44.4)
    50代 19 (47.5) 21 (52.5)
    60〜70代 18 (52.9) 16 (47.1)
    全体 94 (44.1)119 (55.9)
       p<0.05、Cramer's V=0.232、r=-0.182

    表7
     問30:年齢 × 問14改:マンガの中での性的表現についてどう思うか
    度数(%)取り締まった方が良い取り締まりは必要ない
    20代 9 (28.1) 23 (71.9)
    30代 20 (37.7) 33 (62.3)
    40代 20 (37.7) 33 (62.3)
    50代 25 (64.1) 14 (35.9)
    60〜70代 21 (60.0) 14 (40.0)
    全体 95 (44.8)117 (55.2)
       p<0.01、Cramer's V=0.265、r=-0.237

    表8
     問30:年齢 × 問15改:12〜13歳の頃、どのようにマンガに触れていたか
    度数(%)買って読んでいた買わなかったが読んでいた大して読まなかった
    20代 25 (78.1) 1 ( 3.1) 6 (18.8)
    30代 30 (57.7) 5 ( 9.6) 17 (32.7)
    40代 30 (57.7) 12 (23.1) 10 (19.2)
    50代 15 (35.7) 13 (31.0) 14 (33.3)
    60〜70代 9 (25.0) 10 (27.8) 17 (47.2)
    全体109 (50.9) 41 (19.2) 64 (29.9)
       p<0.01、Cramer's V=0.270、r=0.268

    表9
     問30:年齢 × 問17改:今、どのようにマンガに触れているか
    度数(%)買って読んでいる買わないけど読んでいる読まない
    20代 13 (41.9) 11 (35.5) 7 (22.6)
    30代 13 (24.5) 24 (45.3) 16 (30.2)
    40代 12 (22.6) 28 (52.8) 13 (24.5)
    50代 1 ( 2.4) 25 (59.5) 16 (38.1)
    60〜70代 4 (11.8) 10 (29.4) 20 (58.8)
    全体 43 (20.2) 98 (46.0) 72 (33.8)
       p<0.01、Cramer's V=0.265、r=0.286

    まずマンガに関する考えを問う項目をみると、問11ではどちらかというと年上のほうが「小説をより多く読んで欲しい」と答える割合が高く(相関係数、以下r:r=-0.182)、また問14では年上のほうがマンガの性的表現に関して「取り締まったほうがよい」と踏み込んだ意見の人が多い(r=-0.237)。その理由に関しては、単に「年配の方は保守的」と根拠の薄い説明をしてもいいが、マンガ経験の質との関係があるかもしれないので、マンガ経験の分析の後に分析を譲ろう。マンガ経験に関しては、やはり年齢があがるに従って子どもの頃に関しても現在に関してもマンガを読んでいた度合いが低くなっていく傾向が出た。このことから、今のほうが昔よりもマンガを読むことに関して寛容な社会であると言うことができる。実際第一章でも触れたとおりマンガはいまや非常に大きなメディアになっており子どもから大人まで楽しめるものになっているといえるので、同じ年齢の頃で比較しても生まれが遅いほうがマンガをよく読んでいるのかもしれない。
     次にマンガ経験(問15〜17)と他の変数との相関をみてみよう。
     問11が、問15〜17の全ての変数と相関関係を持っていた(表10〜表12参照)。

    表10
     問15改:12,3歳のマンガ経験 × 問11改:子どもには小説をマンガよりも多く読んで欲しいか
    度数(%)小説をより多く読んで欲しい小説のほうが多い必要はない
    買って読んだ 35 (32,4) 73 (67.6)
    買わずに読んだ 24 (60.0) 16 (40.0)
    読まなかった 34 (54.0) 29 (46.0)
    全体 93 (44.1)118 (55.9)
        p<0.01、Cramer's V=0.244、r=-0.206

    表11
     問16改:いつからマンガを読まなくなったか × 問11改:子どもには小説をマンガよりも多く読んで欲しいか
    度数(%)小説をより多く読んで欲しい小説のほうが多い必要はない
    元々読まない 19 (59.4) 13 (40.6)
     〜15歳 15 (68.2) 7 (31.8)
    16〜20歳 25 (47.2) 28 (52.8)
    21〜25歳 18 (48.6) 19 (51.4)
    26歳〜 8 (34.8) 15 (65.2)
    読む量減らず 6 (16.7) 30 (83.3)
    全体 91 (44.8)112 (55.2)
        p<0.01、Cramer's V=0.317、r=0.290

    表12
     問17改:現在のマンガ経験 × 問11改:子どもには小説をマンガよりも多く読んで欲しいか
    度数(%)小説をより多く読んで欲しい小説のほうが多い必要はない
    買って読む 10 (23.3) 33 (76.7)
    買わずに読む 43 (45.7) 51 (54.3)
    読んでいない 39 (53.4) 34 (46.6)
    全体 92 (44.8)112 (55.2)
        p<0.01、Cramer's V=0.221、r=-0.209

    いずれもマンガに多く触れているほど「小説のほうが多い必要はない」度数が増える傾向が出た。特に「何歳頃までマンガを読んでいたか」を聞いた問16との間に、一番強い相関関係が見られた(r=0.289)。問12「あなたは、マンガは子どもにとって悪影響を及ぼすものだと思いますか」は、問15との間にだけ有意差があった。ちなみに問16とはカイ二乗検定は有意水準に達しなかったが、相関係数に関してだけは有意であった(r=0.190、表13、表14参照)。

    表13
     問15改:12,3歳のマンガ経験 × 問12改:子どもに悪影響を与えるマンガは…
    度数(%)多い多くない
    買って読んだ 16 (15.0) 91 (85.0)
    買わずに読んだ 15 (37.5) 25 (62.5)
    読まなかった 21 (34.4) 40 (65.6)
    全体 52 (25.0)156 (75.0)
        p<0.01、Cramer's V=0.221、r=-0.210

    表14
     問16改:いつから読まなくなったか × 問12改:子どもに悪影響を与えるマンガは…
    度数(%)多い多くない
    元々読まない 11 (36.7) 19 (63.3)
     〜15歳 7 (31.8) 15 (68.2)
    16〜20歳 15 (28.3) 38 (71.7)
    21〜25歳 9 (24.3) 28 (75.7)
    26歳〜 1 ( 4.3) 22 (95.7)
    読む量減らず 6 (16.7) 30 (83.3)
    全体 49 (24.4)152 (75.6)
                  r=0.190

    また、問14に関しては問16とだけに有意差が認められた(表15参照)。

    表15
     問16改:いつから読まなくなったか × 問14改:マンガの中での性的表現について
    度数(%)取り締まった方が良い取り締まりは必要ない
    元々読まない 17 (51.5) 16 (48.5)
     〜15歳 15 (68.2) 7 (31.8)
    16〜20歳 26 (50.0) 26 (50.0)
    21〜25歳 14 (36.8) 24 (63.2)
    26歳〜 10 (43.5) 13 (56.5)
    読む量減らず 9 (25.7) 26 (74.3)
    全体 91 (44.8)112 (55.2)
       p<0.05、Cramer's V=0.245、r=0.200

    ここまでいずれもマンガに接していた度合いが大きいほどマンガに対して好意的、もしくはマンガを擁護する意見、選択肢が多くなる。これらの事は何を意味するだろうか。これは、マンガに長い間触れてきた人はマンガにシンパシーがあるから、マンガに対して好意的、肯定的な意見になるということなのではないだろうか。
     このことから、年配の方の方がマンガに対して厳しい見解を述べる傾向も説明がつきそうである。年齢が高い方が過去も現在もマンガをあまり読まない傾向があることは既に述べた。また、マンガ経験とマンガに対する見方、マンガに対して擁護・理解を示す度合いとの間にリニアな相関があることにも触れた。この二つを合わせると、年齢の高さとマンガに対する見解の傾向の間には、「マンガ経験とマンガに対する見方、マンガに対して擁護・理解を示す度合い」という媒介変数があり、「年齢が高いとあまりマンガに触れていない」→「あまりマンガに触れていないとマンガに対して共感度が高くないため見解が厳しくなる」という図式が成り立っていると思われる。
     もう一つ興味ある相関が見られたのは、問11と問12との相関である(表16参照)。

    表16
      問12改:子どもに悪影響を与えるマンガは… × 問11改:子どもには小説をマンガよりも多く読んで欲しいか
    度数(%)小説をより多く読んで欲しい小説のほうが多い必要はない
    多い 38 (73.1) 14 (26.9)
    多くない 53 (34.2)102 (65.8)
    全体 91 (44.0)116 (56.0)
       p<0.01、Cramer's V=0.340、r=0.340

    「子どもに悪影響を及ぼすマンガが多い」とする人のほうが「子どもにはマンガよりも小説をより多く読んでもらいたい」と答える割合が非常に高くなった(r=0.340)。マンガが子どもに悪影響を与える可能性という点は、大人から見て子どもにマンガと小説をどちらを読ませたいかということについて非常に大きな決定要素であるといえる。これは第三章の最後に触れた「パターナリズム」の典型例であろう。「子どもがマンガなんか読んでいると『純粋で無垢』な子どもが悪影響を受けるから読ませたくない」という、子ども向けのマンガが戦前に発生して以来ずっと言われ続けている言説である。
     問9(1)「マンガは子どもの読むもの」と思っているかどうかと、他の変数との関係も調べてみた。この項目は、本来ならマンガイメージの因子分析に使われるのであるが、マンガのイメージについてかなりストレートに聞いている上に、因子分析についてのべた部分の資料を見ればわかるが、共有率が非常に低く、ほとんど独自の因子ということも出来なくはない。よって先にこれだけでクロス表をとってみることにした。特に「マンガが子ども向けだと思われているからマンガだけが他のメディアよりも非難されるのではないか」という仮定をしていたため、マンガを子どもに読ませたいか、マンガは有害か、といった質問との関係は興味のある部分であった。しかし予想に反して、有意な判定が出たのはマンガ経験に関する問16・問17と、「子どもにマンガよりも小説を多く読んでもらいたいか」を問う問11の3項目だけであった。問16でマンガをより高い年齢まで読んでいる人のほうが、また問17で現在マンガにより深く接している人のほうが、マンガは「子ども向けとは限らない」と答える傾向があり、マンガは「子ども向け」と答える人のほうが、「子どもには小説をマンガよりも多く読んで欲しい」と答える傾向が見出された(表17〜19参照)。
    表17
      問16改:いつから読まなくなったか × 問9(1)改:マンガは子ども向けか
    度数(%)子ども向けである  子ども向けとは限らない
    元々読まない 20 (64.5) 11 (35.5)
     〜15歳 15 (68.2) 7 (31.8)
    16〜20歳 32 (64.0) 18 (36.0)
    21〜25歳 19 (50.0) 19 (50.0)
    26歳〜 12 (50.0) 12 (50.0)
    読む量減らず 8 (22.2) 28 (77.8)
    全体106 (52.7) 95 (47.3)
       p<0.01、Cramer's V=0.316、r=0.279

    表18
      問17改:今、マンガにどのように接しているか
       × 問9(1)改:マンガは子ども向けか
    度数(%)子ども向けである  子ども向けとは限らない
    買って読む 13 (30.2) 30 (69.8)
    買わないが読む 50 (52.1) 46 (47.9)
    読んでいない 47 (66.2) 24 (33.8)
    全体110 (52.4)100 (47.6)
       p<0.01、Cramer's V=0.257、r=-0.254

    表19
      問9(1)改:マンガは子ども向けか × 問11改:子どもには小説をマンガよりも多く読んで欲しいか
    度数(%)小説をより多く読んで欲しい小説のほうが多い必要はない
    子ども向けである 56 (51.4) 53 (48.6)
    子ども向けとは限らない 36 (36.4) 63 (63.6)
    全体 92 (44.2)116 (55.8)

     問16、問17が影響を与えるのは至極当然である。どちらも「大人になってもマンガを読んでいるか」を聞いた質問であり、大人になってからもマンガを読んでいる人が、大人である自分の読んでいるものを「子ども向けである」とはあまり言わないであろう。しかし、問11との相関は一体何を意味しているのだろうか。「マンガは子どもの読むもの」と思っている人の方が、「子どもにはあまり読ませたくない」と思っているというのも、何だか妙な話である。「子ども向けだから子どもしか読まないが、しかし子どもには読んで欲し くない」ということは、「誰にもマンガを読んで欲しくない」ということになる。つまり、「マンガは子ども向け」と思っている人は、そもそもマンガが嫌いだ、ということなのだろうか。もしくは逆に、そもそもマンガが嫌いな人が「マンガは子ども向け」と考えるのかもしれない。
     また今回の調査において、「『マンガは子どもが読むものだからこそ性的表現は取り締まって子どもから遠ざけるべき』という考え方があって、そのことによってマンガが特に性的表現について厳しい非難が来ているのだ」と予想していたのだが、問9(1)「マンガは子ども向けか」と問14「マンガの性的表現は規制すべきか」との相関が無いということは、こちらが予想した関係は、実際にあるとは言えないということである。しかし、実際には「子どもが読むと『青少年の健全な育成』を妨げる」というのが規制派の主張である。要するに、「子どもの視界から性的表現を排除すべきだ」というイデオロギーがあることは間違い無いが、だからといって「マンガは子どもがよく見るから」という理由で、特別にマンガを規制の対象として注目したわけではないらしい、ということがわかった。
     以上、クロス表集計だけで確認できる変数間の相関を挙げてきたが、最後に、マンガについてのイメージを聞いた問9を分析する。

  • 因子分析  今回の調査の中心、マンガのイメージについてのSD法を用いた問9は、マンガはどのようなイメージを持たれているかの他に、因子分析を用いて多数の質問項目から共通する要素を取り出し、他の変数との関係を導き出すために設問されている。まずはとりあえずどのような因子があるか分析してみた。すると、固有値が飛び抜けて高い因子が二つあったのでその二つを採用した。一つ目の因子は、「知的」「成熟」「高尚」「真面目」といった変数への因子負荷量が大きいので「文学性」因子と名付けた。マンガがいかに読物として評価されているか、といったイメージを表わしているといえよう。二つ目の因子は、「親しみにくい」「理解しにくい」「感情移入できない」「縁遠い」などに対する因子負荷量が大きい。そこで「非大衆性」因子とした。この因子は、マンガは大衆性か否か、細かく言うならば身近かどうか、一般的なものかどうかといったイメージで構成されている(表20参照)。

    表20:問9因子分析・因子負荷量など一覧

    FactorEigenvaluePct of VarCum Pct
    13.8773019.419.4
    23.3583816.836.2

    Factor 1Factor 2Communality負荷がかかっている要素
    Q09X20.72797-.30241.62139  知的
    Q09X18.67179-.35446.57694  成熟
    Q09X13.63691.28163.48497  重い
    Q09X02-.63011.19170.43378  高尚
    Q09X11.62764-.21088.43840  真面目
    Q09X16.60633.30791.46244  複雑
    Q09X04.60280.05697.36661  細やか
    Q09X14-.50092-.30580.34443  長編
    Q09X03-.38517-.01785.14867  現実的
    Q09X01.26955.09099.08094  大人向け

    Factor 1Factor 2Communality負荷がかかっている要素
    Q09X09-.01806.73756.54432  親しみにくい
    Q09X05.05744.65769.43585  理解しにくい
    Q09X19.33464-.61216.48672  感情移入できない
    Q09X17-.01079.55623.30950  縁遠い
    Q09X12-.15261-.51811.29173  マニア向け
    Q09X07-.34448-.50807.37681  かたい
    Q09X08-.30309.42633.27362  野暮ったい
    Q09X10.35527.39219.28003  高価
    Q09X06.09167-.38250.15471  マイナー
    Q09X15-.07734-.34328.12382  内向的

    この二つをまとめると、マンガのイメージは「文学的かどうか」と「大衆的・一般的かどうか」という二つの軸で説明されそうである。そして、それぞれ因子得点をはじきだし、得点が「低い・中間・高い」の三つに分けて新たな変数(「文学性得点」・「非大衆性得点」)とした。そしてこの二つの新たな変数を、さらに様々な変数とのクロス表分析にかけた。すると、次のような結果が表れてきた。
     「文学性得点」と有意な相関関係を示したのは、問11・問12・問16の3つの変数であった(表21・22・23参照)。

    表21
      問16:いつからマンガを読まなくなったか × 「文学性得点」
    度数(%)低い中間高い
    元々読まない 11 (44.0) 5 (20.0) 9 (36.0)
     〜15歳 8 (44.4) 5 (27.8) 5 (27.8)
    16〜20歳 19 (40.4) 20 (42.6) 8 (17.0)
    21〜25歳 13 (37.1) 11 (31.4) 11 (31.4)
    26歳〜 5 (22.7) 8 (36.4) 9 (40.9)
    読む量減らず 4 (11.4) 13 (37.1) 18 (51.4)
    全体 60 (33.0) 62 (34.1) 60 (33.0)
       p<0.05、Cramer's V=0.323、r=0.229

    表22
      「文学性」 × 問11改:「子どもには小説をマンガよりも多く読んで欲しいか」
    度数(%)小説をより多く読んで欲しい小説の方が多い必要はない
    低い 44 (69.8) 19 (30.2)
    中間 17 (27.4) 45 (72.6)
    高い 21 (33.9) 41 (66.1)
    全体 82 (43.9)105 (56.1)
       p<0.01、Cramer's V=0.377、r=0.297

    表23
      「文学性」 × 問12改:「子どもに悪影響が与えるマンガは…」
    度数(%)多い多くない
    低い 24 (38.7) 38 (61.3)
    中間 11 (17.7) 51 (82.3)
    高い 9 (14.8) 52 (85.2)
    全体 44 (23.8)141 (76.2)
       p<0.01、Cramer's V=0.250、r=0.230

    これらによると、マンガを長い間読んでいる人ほど「文学性」因子の得点が高い(r=0.229)、すなわちマンガに関して文学性といったものをある程度見出しており、そのような人は、「子どもはマンガより小説を多く読む必要はない」と答える傾向(r=0.297)や、「子どもに悪影響を与えるマンガは多くはない」と答える傾向(r=0.230)がある。逆に言えば、マンガをあまり読まなかった人はマンガの文学性をあまり評価しておらず、そのような人は「子どもにはマンガよりも小説を多く読んでほしい」「子どもに悪影響を与えるマンガが多い」と答える傾向がある、ということになる。問16との相関はクロス表の分析のところでも触れたように、「マンガに長い間触れてきた人のほうがよりマンガに対してシンパシーがあるから、マンガに対して好意的、肯定的な意見が出やすい」ということで説明できると思う。あと、高年齢になるまでマンガを読んでいるほど対象年齢が高いマンガを読む機会が増えやすいことも一因かもしれない。また、問11に関して、マンガに「文学性」を認める人は「小説のほうを多く読む必要はない」と答え、マンガの文学性をあまり認めない人は「小説をより多く読んで欲しい」と答える傾向が現れた。このことからは、子どもには「文学性が高い」読み物を読んで欲しい、という「子どもを教化しなくてはいけない大人(やはりこれもパターナリズムの一種であるといえよう)」としての思いが浮かび上がってくる。
     それに対して、「非一般性」因子との有意な相関関係が認められたのは、問18のみであった。これは事実上、「非一般性」因子はほとんど他の変数に影響を与えていないし、受けていないということである。言い換えると、マンガのメディアとしてのある種の入り込みやすさ(因子負荷量は「親しみ易い/にくい」、「理解しやすい/しにくい」といった変数に大きくかかっている)、いうなれば一般的なメディアであるなら持ちうるような影響力は、考慮に入れられていないということであろう。先の「文学性」因子の分析と合わせて述べるなら、「マンガについての実際的な評価、即ち『マンガが子どもに悪影響を与えると思うかどうか』や『子どもに小説をより読んで欲しいかマンガをより読んで欲しいか』という判断には、マンガのイメージに関して、マンガに文学的・教育的価値を認めているかどうかという一面は影響があるが、マンガが一般的な存在か否かという一面はあまり関係がない」ということが言えそうである。

    ・分析を振り返って

     さて、これで一通り質問紙調査の分析は終わったが、今回の分析から言えそうなことをもう一度まとめてみると、以下のようになる。
  • マンガのイメージとして比較的多くの人に共通するものとしては、「子ども向け」の他に、「非現実的」「理解しやすい、単純、やわらかい」「親しみ易い、軽い、身近」などがあった。
  • 「マンガは子ども向けである」と答える人は、そう答えない人に比べると(特に現在)あまりマンガを読んでいない。
  • 「マンガ経験の多少、長短」は、前項の「マンガは子ども向けかどうか」の他にも、「マンガに有害な物が多いか」「マンガにおける性的な表現を取り締まるべきか」「マンガは文学的か否か」など、多くの項目に影響を与えている。具体的には、マンガ経験が多いほどマンガを擁護するような意見が出る傾向がある。
  • 年齢が高くなるほど「マンガ経験」は少なくなり、年齢が低くなると「マンガ経験」は多くなる傾向がある。このことにより一つ前の項目とあいまって、年齢が高いほどマンガに対する評価(「有害なマンガが多いか少ないか」のイメージや性的表現の取り締まりについて)が厳しくなる傾向が見られる。
  • 「マンガは子ども向けかどうか」や「マンガは文学的かどうか」ということと、「マンガの性的表現を取り締まるべきかどうか」ということの間には、因果関係が見出せなかった。言い換えると、マンガの性的描写の取り締まりの是非の判断は、先に述べたようにその人のマンガ経験とは因果関係があるが、その人の持つマンガに対するイメージは、取り締まりの是非とは全くと言っていいほど関わりを持たないということである。
  • 「子どもにはマンガよりも小説を読んで欲しい」と思う理由の主なものは、「子どもに悪影響を与えるマンガが多い」「マンガは文学性が低い」というように、その人が持つマンガの評価が低いゆえであり、尚且つ「子どもには良くないものは与えたくない、大人がそういう物を子どもから遠ざけてやるべきだ」という、いわゆるパターナリズムの論理が働いているためと思われる。  以上のようになるが、1.2.3.4.のそれぞれの項目についてはほぼ予想通りであったのだが、5.6.については「マンガ自身についてのイメージが、マンガが非難される時の論調に影響を与えるのではないか」という仮説にそぐわない結果となった。すなわち、そのような事は起きていないということである。では、あの「有害コミック問題」や「悪書追放運動」の時の様な熱狂的なマンガに対する敵意のようなものは一体何を源泉にしているのだろうか。その答えは今回の質問紙調査の中からは窺い知ることは出来なかった。次の最終章で本論を総括しようと思うが、その中で答えの手がかりになりそうな説にも触れたいと思う。


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