序章 はじめに


 帰国子女という異文化で育ち考え方が違うと周りから排除されるのではないだろうか。しかし、帰国子女の増加に伴い帰国子女教育が教育問題として取上げられ、さまざまな試みがなされてきた。
 その一方で年々増加傾向にある外国人子女については、あまり大きく取上げられることもなく外国人の教育の権利はなおざりにされているのではないだろうか。

第一章 帰国子女教育と外国人子女教育


T 帰国子女教育


1 帰国子女教育の歴史
(1)昭和40年以前の帰国子女教育
 帰国子女教育の歴史は古く、戦前にまでさかのぼる。
 昭和30年代は、帰国子女教育の草創期であり、帰国子女の受け入れとその教育は少数の私立学校に大きく依存していた。しかし、高度経済成長期に突入し、帰国子女数も増加傾向を示しはじめた。こうした状況をふまえるため、文部省は昭和39年に初の帰国子女の実態調査を実施している。
(2)昭和40年代の帰国子女教育
 文部省は昭和41年4月に東京学芸大学付属大泉中学校に帰国子女のための特別学級を設置した。国立付属中学校だけでなく広く帰国子女の受け入れをするため、昭和42年文部省は海外勤務者子女教育研究協力校制度をスタートさせた。この時期はまだ日本人学校が数校にすぎず、帰国子女の多くは現地校・国際学校に在学した者たちであった。したがって、当時の帰国子女の受け入れも国語力を考慮したものであった。このように昭和40年代では適応に関する研究が中心であった。
(3)昭和50年代の帰国子女教育
 帰国子女の受け入れを主目的とした国際基督教大学高等学校の設立を筆頭にして、帰国子女の高校段階の受け入れが本格化する。研究の力点が適応指導から特性を生かす指導へと変化を見せる時期でもある。
(4)昭和60年代以降の帰国子女教育
 昭和50年代の後半になると、一挙に帰国子女数が増加し、しかも多様化、広域化する。昭和58年に文部省は帰国子女受入推進地域の指定を開始する。これにより地方自治体での帰国子女の受け入れとその教育が展開されるようになる。
 また教育の国際化が叫ばれ国際理解教育との関わりから帰国子女教育のあり方が模索されるようになる。

2 帰国子女の受け入れ
(1)小・中学校での受け入れ
 小・中学校の受け入れには、国立大学付属学校・帰国子女教育研究協力校・帰国子女教育受入推進地域での受け入れの3つに分類できる。
 国立大学付属学校では帰国子女教育学級といった特設方式や普通学級への混合方式などがとられている。しかし帰国子女の絶対数が少ないこともあり、帰国子女の問題は表面化しにくい。
 帰国子女研究協力校では各学校により事情は多少異なるがきめ細やかな体制がとられている。必要に応じて「日本語力の回復」や「取り出し授業」が行われる。
 帰国子女受入推進地域での受け入れは従来の研究協力校の事業に加え、帰国子女の比較的多い地域が地域ぐるみで実践研究および受け入れ体制の整備を行うものである。
(2)高校での受け入れ
 国立大学付属高等学校・私立高等学校・公立高等学校により受け入れの現状は異なっている。
 国立大学付属高等学校での受け入れは定員も少なく、また入学後一般の生徒と同じ扱いをされるため、学力の高い生徒が応募し合格している。
 1990(平成2)年現在海外子女教育振興財団の調べでは、帰国子女の受け入れ枠や特別の受け入れ態勢を取っている私立学校は、全校71校におよび、帰国子女の受け入れに際し、特別な配慮をする学校は95校におよんでいる。また文部省の「学校基本調査」によると1989(平成元)年度の高等学校の帰国生徒(ただし海外勤務者等の子女で、継続して1年以上海外に在留し、1989年4月1日から1990年3月31日までの間に帰国した生徒)数は計1,649名で、そのうち私立学校の生徒は1,168名(全体の約70%)であり、高等段階の帰国子女の受け入れは私立学校に大きく依存している。
 都道府県レベルでは、1入学定員に一定の枠を設定 2受験教科の配慮 3選抜時期の配慮 4通学区域の配慮 5帰国子女選抜と一般選抜の併願 など帰国子女に特別の便宜をはかっているところが多い。

U 外国人子女教育


1 外国人子女教育の歴史
 在日外国人には「韓国」「朝鮮」籍のもの、中国人、アメリカ人をはじめとする定住外国人や、新たに入国してくる発展途上国の外国人など、それらは数知れない。朝鮮人学校の「民族教育」は「反日教育」として日本政府による抑圧の歴史を持っている。
 近年、家族同伴の外国人労働者の増加に伴って、公立の小・中学校に在籍する外国人子女が増加している。中でもスペイン語やポルトガル語を母語とする者が増えてきている。これは、平成2年6月に改正された『出入国管理及び難民認定法』の施行による。改正入管法では日系2世、日系3世ならば就労が合法的になり、その結果日本での就労を目的とした日系人が増加し、公立小・中学校に在籍する外国人子女も増加してきている。
 この論文ではこのような公立小・中学校に在籍する外国人子女を対象とする。

2 外国人子女の受け入れ
 外国人の子どもは、日本の公立学校、民族学校、大使館等に設置された国籍国の公立学校のいずれかに通学する。それぞれがどのような現状であるか把握しかねないが、公立学校の受け入れは次のようになっている。
 文部省は、平成7年9月1現在の公立小・中・高等学校に就学する「平成7年度日本語教育が必要な外国人児童・生徒の受入れ状況等に関する調査」の結果をとりまとめた。それによると、受け入れ児童・生徒数は1万1806人であった。前回調査と比べ、小・中学校においては、10.4%増となって、着実な増加が認められた。この調査は平成3年及び5年にそれぞれ実施して以来、第3回目の調査であり、高等学校については初めての調査であった。
(1)小・中学校での受け入れ
 公立小・中学校に就学する外国人児童・生徒で日本語教育が必要なものが在籍する人数および学校数は、小学校で8,192人、2,611校、中学校で3,350人、1,237校である。前回調査(平成5年9月1日現在)と比較して児童生徒数は10.4%増で着実な増加が認められ、また学校数も3.9%増となっている。
 都道府県別在籍状況は、愛知県が1,396人(全体の12.1%)で最も多く、以下、静岡県が1,226人(10.6%)、東京都が1,173人(10.2%)、神奈川県が1,074人(9.3%)、大阪府が788人(6.8%)の順になっている。
 母語については次のようである。ポルトガル語を母語とする者が4,244人(全体の36.8%)、中国語が3,726人(32.3%)、スペイン語が1,423人(12.3%)の順となっている。これらの第三言語で小・中学校全体の81.4%を占めている。
(2)高校での受入れ
 公立高等学校に就学する外国人生徒で日本語教育が必要な者が在籍する人数および学校数は、264人、73校である。
 都道府県別在籍状況は、東京都が108人で最も多く、以下、神奈川県が44人、大阪府が32人、千葉県が31人の順となっている。
 外国人生徒の母語については、中国語を母語とする者が182人(全体の68.9%)、ポルトガル語が26人(9.8%)、スペイン語が17人(6.4%)の順となっている。

第二章 富山県内の実態


T 帰国子女教育


1 帰国子女の受け入れ

(1)小・中学校での受け入れ
 1985(昭和58)年文部省より協力校の指定を受けた黒部市立中央小学校が中心となって実践研究など行っている。黒部市には海外の各地に事業所をもつYKKがあり帰国子女が多い地域である。中央小学校では、取り出し学級で帰国子女の適応を支援する目的で作られた「なかよし教室」があり、専任教諭が個別指導を行っている。「なかよし教室」に通うのは担任や親の相談によって決められる。
 その他の小・中学校では帰国子女が取り出し学級で特別指導を受けるという例はあまりない。
(2)高校での受け入れ
 県立高等学校では帰国子女の入学者選抜において何らかの配慮をしている。
 富山南高等学校には帰国子女の特別枠5名がもうけてある。またすべての県立高等学校を帰国子女として受験することができる。その場合は一般生徒と同様の学力検査と高等学校長との面接をしなければならない。ただしここでいう帰国子女とは海外在住期間が継続して2年以上の者で、志願時にいて帰国後3年以内の者というようになっている。平成8年度の入学者選抜においてこの帰国子女として受験した者は3名であった。うち2名が現地の中学校から受験している。平成7年度(帰国子女の総数からも平成8年度ともそれほど人数の変動はないと考えられる)海外に1年以上在留し、帰国して3年以内の者は、県内の中学生では20人であった。入試における帰国子女は20人より少なくなると思われるが、帰国子女として受験する人はあまり多くないと言える。

U 外国人子女教育


1 外国人子女の受け入れ
 平成2年の改正入管法をうけて県内でも年々外国人子女が増加している。県教育委員会は平成3年から毎年「日本語教育の必要な外国人児童・生徒の在籍状況」をとりまとめている。
 県内の外国人子女は主に、留学生の子女や県西部の日系ブラジル人子女と考えられる。
(1)小・中学校での受け入れ
 日本語教育が必要な外国人児童・生徒が在籍する人数及び学校数は、平成9年9月1日現在、小学校で91人、43校、中学校で22人、15校である。平成3年の調査と比較して児童・生徒数は10.6%増で着実な増加が認められる。また学校数も15.5%増である。
 市町村別在籍状況は、高岡市が33人(全体の29.2%)で最も多く、以下、富山市が17人(15.0%)、砺波市が13人(11.5%)の順になっている。
 外国人児童・生徒の母語は、ポルトガル語が82人(全体の72.6%)で最も多く、中国語が12人(10.6%)となっている。これらの第二言語で全体の83.2%を占める。
(2)高校での受け入れ
 県立高等学校では入学試験に外国人特別枠はなく、他の日本人と同じ条件で受験しなけらばならなくなっている。過去、外国人で県立高等学校の入学を希望した者はいない。
 私立高等学校では推薦入学で外国人生徒が入学した例がある。

第三章 調査方法とその内容


T 調査方法・調査対象


1 調査方法
 調査は一対一の面接調査を行った。基本的には学校の中の部屋をお借りして2人だけで話をした。しかし、中には放課後他の児童がまだ残っている教室で面接した者もいた。
 面接時間は約1時間から1時間半であった。
2 調査対象
 県教育委員会の資料をもとに帰国子女・外国人子女が在籍する市内の小学校に調査の協力を依頼した。その際、調査対象者の年齢差をなるべく小さくするためと、対象者自身の自発的な意見を得るために、対象者を高学年の小学4年生から小学6年生とした。ご多忙中の急な依頼にもかかわらず、学校関係者と調査対象者の協力が得られ帰国子女5名、外国人子女5名にお話を伺うことができた。なお帰国子女は在留期間が1年以上で平成5年4月1日以降に帰国した者を対象者とした。
 対象者については性別と滞在国・母国だけに限って詳しく述べることとする。帰国子女は男子2名、女子3名、滞在国はアメリカ合衆国3名、オーストラリア1名、シンガポール1名であり、外国人子女は男子2名、女子3名、母国は中国4名(うち1名は新彊ウイグル自治区で母国語はウイグル語)、エジプト1名である。

U 調査内容


 調査の観点は次のようなものであった。
 (1)については、帰国子女と外国人子女は身につけた外国語・外国文化および母国語・母国文化を保持したいのではないだろうか。
 (2)については、そのような帰国子女と外国人子女に対し学校の役割はどのようであるか。
 (3)については、そのような帰国子女と外国人子女に対し友達関係はどのような作用があるか。
 (4)については、教育や友達関係の中から、帰国子女と外国人子女が外国文化および母国文化をどう評価し、そして文化的な帰属感をどのように持っているのか。
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