<第4章 質問紙調査>


 まず、調査の概要を説明しておこう。
 本調査は質問紙を用いた集合調査であり、富山県内のある中学校で実施されたものである。対象は中学1〜3年生の男女であり、1年から3年までそれぞれの学年から2クラスずつを無作為に抽出した。(計213名)
 生徒の「行動」や「意識」に影響を与える様々な「諸要因」についての検討を行なっていくのがこの調査の主旨である。
 この、分析の中心となる「行動」と「意識」とは、「行動」の方が、「日常学習の実施度(問4)」であり、「意識」の方が「(試験前の)我慢しなければ意識(問3)」と「勉強とはやらなくちゃいけないもの意識(問6)」の合計3つである。(問3に関しては、もともと行動を調べるための指標として用意したものだったのだが、選択肢の内容を改めて検討してみたところ、「意識」として分析した方がいいと判断し、問3は「意識」をはかる指標としてあつかうことにしたのだが、)とにかく、この3つと他の要因をからめて、分析を進めていく。これらの単純集計は(表4−1)に示す。

表4−1






 この表4−1の結果から、彼らの勉強に対する「意識」の強さが、まずうかがえる。それは、試験前1週間から、何かを犠牲にしてまでテスト勉強をする子は17・5%とほとんどいないが、実際には我慢をしていなくても、「がまんしなければならない」と意識上思っている生徒は54・5%と多く、実際に我慢をしている子と合わせれば、72・2%もの生徒は、(実際の行動はさておき)「テスト前は他のものをがまんしなければ」と思っているようであるからである。同様に、「勉強とはやらなくちゃいけないもの」という意識を自分で認めている子は、そういった意識が「強くある」「まあまあ強くある」「少しはある」をあわせると86・3%にのぼった。このように7〜8割りの大多数の生徒は、勉強するということに対して、少なくとも意識の上では「しなければならないもの」という意識を強くもっているようである。
 このような「意識の強さ」はあっても、それがそのまま「行動(たとえばテスト前勉強など)には結びつかないようである。しかし宿題や朝学習に関してはその実施率は、非常に高いことが見てとれる。

(1)本人の「行動や意識」に与える「家族」の影響

 まず最初に、本人の行動や意識に与える「家族」の影響といったものを調べてみた。(表4−2参照)この表からもわかるように、「家の人から何か言われる頻度」と「宿題、朝学習などをきちんとする」といった「行動」には相関がなかった。しかしながら、「(試験前の)我慢しなければ意識」とは弱い相関が、また「勉強とはやらなくちゃいけないもの意識」の方とはかなり強い相関がみられた。
 1方、「家の人からほめられたり、はげまされたりする頻度」は「宿題、朝学習などをきちんとするか」といった「日常の勉強行動」とは、非常に強い相関があったのに対し、「(試験前の)我慢しなければ意識」や、「勉強とはしなくちゃいけないものだ意識」の方とはあまり強い相関はないことがわかった。

(2)本人の「行動や意識」に与える「教師」の影響

今度は本人の意識に与える「教師」の影響について調べてみた。
 やはり(表4−2)を参照してほしいのだが、「先生に勉強のことで何か言われる頻度」と「宿題や朝学習をきちんとすること」という「行動」の間には弱い「マイナス」の相関がみられた。そしてまた「(試験前の)我慢しなければ意識」との間にも弱いながらマイナスの相関が、また「勉強とはやらなくちゃいけないもの意識」とは全く相関がないことがわかった。このことは「家の人から何か言われる頻度」が「勉強とはやらなくちゃいけないものだ」とする意識と、非常に強い関連をもっていたことと比較すると、非常に注目すべき点であると思われる。
 一方、「先生に勉強のことでほめられたり、はげまされたりする頻度」と、宿題や朝学習などをする「日常の学習行動」との間には、非常に強い相関があったが、「(試験前の)我慢しなければ意識」とのあいだには相関はなく、また「勉強とはやらなくちゃいけないものだ」とする意識の方とも相関は弱かった。

表4-2
本人の「行動や意識」に与える「家族」「教師」の影響(相関係数)
家族・教師の働きかけ本人の行動意識
日常の勉強行動テスト前はがまんしなくちゃという意識勉強とはしなくちゃならないものという意識
家の人から何か言われる頻度0.030.13*0.23***
家の人からほめられる頻度0.29***0.14**0.19***
先生から何か言われる頻度-0.14**-0.13*-0.00
先生から何か言われる頻度-0.14**-0.13*-0.00
先生からほめられる頻度0.27***0.080.13*
(*は10%水準で有意、**は5%水準で有意、***1%水準で有意であるということを示す)

(3)本人の「行動や意識」に与える「家族」「教師」の影響

 以上2つの結果からは、ある「法則性」が見つけられるように思う。なぜなら「意識」の強さを測定する2つの指標(試験前はがまんしなくちゃ意識、勉強とはやらなくちゃいけないもの意識)は、4つの要因(親、教師各2つずつ)と同じような反応の仕方をしているのに対し、「行動」をあらわす指標の方は、前の2つと明らかに違う相関の仕方(反応の仕方)をしているからである。大まかに言うと次のような傾向が見られたことになる。
  1. 親、教師に関わらず、「ほめられること・はげまされること」は「行動」との相関が強い。つまり、ほめられる子(はげまされる子)ほど、「勉強をよくするようになる」ということが言える。
  2. 「家の人」から「何か言われること」と「意識」との間の相関は強い。つまり家の人に「(叱咤激励等)何か言われる」ほど、「勉強しなくては」あるいは「がまんしなくては」という意識を持ち易いということが言える。
  3. 対して「先生」から「何か言われること」と「意識」との相関は全くなく、むしろマイナスの相関が見られるぐらいである。つまり、学校の先生から「何か言われても」それが「勉強しなくてはという意識」や「がまんしなくてはという意識」には結びつかないことが言える。
全般的に見て、「家族の与える影響」と、「教師の与える影響」とを比べてみた場合、家族からの言葉の方が、教師からの言葉に比べて、生徒の「行動」や「意識」との関連性が「強い」ように思われた(相関係数の数値から)。またそういった「影響力」ばかりではなくその言われる「頻度」自体についても、否定的言葉にしろ、肯定的言葉にしろ、家の人からのほうが断然多く、教師からかけられる言葉は少ないということがわかった(表4−3参照)。子供に影響を与えるのは、やはり「教師よりも親」ということであろうか。

表4−3








(4)本人の「行動・意識」に与える「友人」の影響

 まわりの「友人」が本人の勉強行動や意識に影響を与えている面があるのではと思っていたのだが、分析の結果、(問11)友達とテストの点数を見せあう頻度」も、(問12)「友達と高校進学のことについて話をする頻度」も、(問13)「友達の中で塾に行っている人と行っていない人との割合」も、本人の行動や意識との「相関関係をもっていない」という結果がでてしまった。
 しかしながら、自らの経験として、まわりの人ががんばっているのを見ると、「自分もがんばらねば」という気になった気がする。だから、今回の私の調査では相関を見つけることができなかったが、質問の仕方を変えればもしかしたら「相関がある」という結果が得られたかもしれない。

(5)高校を選ぶ際の「家族の希望」と「本人の希望」

 進路決定に際して、親の希望がどれくらい子供の決定に影響を与えているかということをみてみた。(表4−4参照)
 「あなたが高校を選ぶ際に最も重視していることは何ですか」(問7)と「あなたの家族は、あなたがどんな高校に行くことを希望していますか」(問17)との関係を調べてみたところ、家の人が問17の(1)「なるべく進学に有利な高校」を希望している場合、そのような考えの親を持つ子供の実に62・3%が、自身の高校を選ぶポイントに問7の(1)「大学、あるいは専門学校などへ進学しやすい高校かどうか」という「進学の有利さ」をあげているのである。
 また親が問17の(3)「就職の有利さ」を希望している場合、そのような親を持つ子供たちのうちの31・3%が問7の(2)「就職のしやすさ」を、43・8%が(3)「技術、技能、資格などの得やすさ」をあげていることもわかった。技術、技能、資格などは、必ずしも就職のためだけにとるものではないかもしれない(より上の専門学校や、大学等に進学するための手段なのかもしれないが)、しかし大部分の生徒たちにとって「技術、技能、資格」などを得ようとするのは、やはりそれらを持っていたほうが「就職の時に有利かもしれない」という意識のためであると思われる。だとすれば、高校に就職の有利さを希望する親を持つ子供のうちの75・1%(2と3の合計分)もの子供が、何らかの形で就職を意識して高校を選んでいるということが言えると思われる。
 このように、一見すると「親の希望は子の希望に影響を与えている」ように見える。しかしながらこの話に「成績」という要因を入れると話は「少し」変わってくる。(表4−5参照)
 「親の進路希望」と「子の進路希望」、それに「本人の成績」を加えた「3重クロス表」をとってみたところ、成績「上」の子では、親が進学に有利な高校を希望している場合、そういった親を持つ子供の81・3%は、やはり同じように、進学に有利な高校を希望している。しかしながら、親が進学以外の有利さ(あるいは利点)をあげている場合、進学に有利な高校を希望する子供は、28・1%に激減してしまうのだ。このことから、成績「上」の生徒に関しては、(高校以上の)進学を望むか望まないかには、かなり「親の意向」というものが反映されているということが言えると思われる。
 しかしながら、成績が「中」「下」の生徒に関しては、「親の進路希望」と「子の進路希望」との間には、ほとんど関連がなかった。つまり親に何を言われても(大学や専門学校を目指しなさいなどと言われても)、それが子供たちの意志には反映されていないということが分かったのである。以上の結果をまとめるとこうなる。

(1)成績「上」の生徒
「親の意見(希望)」が、自身の「進学しよう」という意志に、あるいは「進学しないでおこう」という意志に関係している
(2)成績「中」の生徒
「親の意見(希望)」と「子の進学希望」は、「下」別段一致を見せない。

表4-4
高校を選ぶ際の「家族の希望」と「本人の希望」
本人の希望家族の希望
進学有利希望普通科重視就職有利希望その他希望
進学有利62.3%(33)37.5%(12)18.8%(3)21.5%(23)(71)
就職有利13.2%(7)34.4%(11)31.3%(5)18.7%(20)(43)
技能、資格重視9.4%(5)18.8%(6)43.8%(7)19.6%(21)(39)
部活重視7.5%(4)6.3%(2)6.3%(1)23.4%(25)(32)
その他7.5%(4)3.1%(1)0%(0)16.8%(18)(23)
 (53)(32)(16)(14)208名
P<0.01 Crmer'V=0.28
*列(タテ)%をとっている。*( )内は度数を表す。

表4-5
成績別の「家族の進路希望」と「本人の進路希望」

(1)成績「上」の生徒
度数(%)家族の希望する高校
進学有利希望進学以外希望
本人の希望する高校進学有利希望26(81.3%)9(29.1%)(54.7%)
進学以外希望6(18.8%)23(71.9%)(45.3%)
P<0.01 Cramer'V=0.53

(2)成績「中」の生徒
度数(%)家族の希望する高校
進学有利希望進学以外希望
本人の希望する高校進学有利希望5(41.7%)23(33.3%)(34.6%)
進学以外希望7(58.3%)46(66.7%)(65.4%)
ns Cramer'V=0.06

(3)成績「下」の生徒
度数(%)家族の希望する高校
進学有利希望進学以外希望
本人の希望する高校進学有利希望1(14.3%)6(11.5%)(11.9)
進学以外希望6(85.7%)46(88.5%)(88.1%)
ns Cramer'V=0.03

(6)「家族の希望」と本人の「大学へ行こう」という意志

 問17「家族はどんな高校に行くことを期待しているか」と問9「あなたは大学に行くつもりがありますか」の2つの問いの関係を調べてみた。(表4−6参照)すると親が「進学に有利な高校」を希望している場合、そのうちの64・2%もの子供は「将来大学に行くつもりがある」とこたえているのである。
 1方、親が「就職しやすい(普通科以外の)高校」を希望している場合、その子供のうちの43・8%が「大学にはいかないつもりだ」とこたえている。
 このように、家の人の「大学進学」に対する意向が、子供の「大学にいく」という意志に、あるいは「行くつもりはないという」意志に、影響を与えているということが言えると思われる。
 また上の「高校を選ぶ際の家族の希望と本人の希望」の所でもしたように、「成績」との3重クロス表をとってみたところ、(表4−7参照)
(1)成績「上」「中」「下」いずれにかかわらず、「親の希望」が、子の「大学へ行こうという意志」に影響を与えている
ということが分かった。
 高校を選ぶということよりも、大学を希望するかどうかということの方が、まだあまり「現実味を帯びていない」分だけ、こういった成績を意識しない、まさに周りからの言葉にそのまま影響を受けたような結果になってしまったのかもしれないが、やはりそれだけ「周りからの言葉」(特に家族からの言葉)は影響が強いということだと思われる。

表4-6「家族の希望」と本人の「大学へ行こう」という意志
度数(%)家族の希望する高校
進学有利希望普通科重視就職有利希望その他希望
本人の大学へ行こうという意志ある34(64.2%)5(15.6%)2(12.5%)30(28.0%)
まだ決めていない14(26.4%)22(68.8%)7(43.8%)44(41.1%)
ない4(7.5%)5(15.6%)7(43.8%)22(20.6%)
考えたこともない1(1.9%)0(0%)0(0%)11(10.3%)
P<0.01  Cramer'V=0.27

表4-7成績別の「家族の希望」と本人の「大学へ行こう」という意志
(1)成績「上」の生徒
度数(%)家族の希望する高校
進学有利進学以外
本人の大学へ行こうという意志ある23(71.9%)14(43.8%)(57.8%)
・ない
・決めてない
9(28.1%)18(56.3%)(42.2%)
P=0.05  Cramer'V=0.28

(2)成績「中」の生徒
度数(%)家族の希望する高校
進学有利進学以外
本人の大学へ行こうという意志ある8(66.7%)20(29.0%)(34.6%)
・ない
・決めてない
4(33.3%)49(71.0%)(65.4%)
P=0.05  Cramer'V=0.28

(3)成績「下」の生徒
度数(%)家族の希望する高校
進学有利進学以外
本人の大学へ行こうという意志ある2(28.6%)3(5.8%)(8.5%)
・ない
・決めてない
5(71.4%)49(94.2%)(91.5%)
P=0.05  Cramer'V=0.26

(7)「成績」や「テスト」の結果に対する、生徒たちの「感情」

 次に「成績」や「テストの結果」に対して、生徒たちがどのような「感情」を持っているかを調べてみた。(問5の単純集計・表4−8参照)
 この表からは、成績が下がることを「不安」に感じる感情と、ちょっとでも成績があがることを「うれしく」思う感情が、特に「みんなに共通」して「強い」ことが読み取れる。一方、成績が下がることを「はずかしく」思う感情や、「友達」や「平均点」との比較で「くやしく」思ったり、「すごく気になったり」する感情は、「ややあてはまる」と答えた人が若干多めだけれども、全体的に見てあまり答えに偏りは見られなかった。各個人によって、こういった感情には「強い・弱い」の個人差があるようだ。
 このような個人差は、その人の性格、気質、あるいは「成績」などに関係があることかもしれない。そう思って調べてみた結果、成績が下がることが「不安だ」という感情と、「友達に負けることをくやしく思う」という感情には、成績との関連はなかったが、成績が下がることを「はずかしく思う」には成績との(特に成績があまりよくない人との)関連が(クラマ−0・2)、ちょっとでも成績があがると「うれしく思う」や「平均点よりどれくらい上か下かが気になる」にも、成績との(特に真ん中ぐらいの成績の人との)関連(それぞれクラマ−0・23、0・27)が見られた。
 これらの結果は、成績が下がることを「不安」に感じるという感情は、「成績のちがいに関わらず」、多くの生徒が共通して「強く」持っている感情だということを表していると思われる。
 また、彼らが成績に関わらず「不安」というある「漠然(ばくぜん)」とした感情を強く持っているという結果は、彼ら自身も、自分がなぜ自己の成績の上下に一喜一憂を繰り返しているのかが、よくわからない(ばくぜんとしている)という証拠のように私には思えた。「われわれはなぜ勉強や受験ということに躍起になっていくのか」という問いが私の中で、またふたたび思い起された。
 次に生徒たちの「勉強行動」や「勉強意識」と、これらの感情の相関を見てみることにした。(表4−9参照)
 その結果、「日常の勉強行動」と相関があったのは、成績が下がることを「不安」に感じる、という感情だけであった。(その他の感情と「行動」には相関がなかった。)
 一方、がまんしなければ「意識」や、勉強とはしなくちゃいけないもの「意識」の方とは、「うれしい」という感情以外すべての感情(「不安」「はずかしい」「くやしい」「平均点気になる」など)との相関が見られた。それでも1番相関が強かったのは、やはり行動の場合と同じく、成績が下がることを「不安」に感じるという感情だった(相関係数0・29)。以上の結果から、次のような事実が明らかになった。
  1. 成績が下がることを「不安」に感じるという感情は、「成績のちがいに関わらず」、多くの生徒が共通して「強く」持っている感情であるということ。
  2. また、その「成績が下がるということを不安に感じる」という感情は、他の感情と比べ、生徒たちの実際の「行動」とも、「意識」とも関連が特に強いということ。
 このように「不安」という感情が、ある種「キ−ワ−ド」としてあらわれてきたように思われる。「不安」という感情は、人々を「勉強」というものの方へ駆り立てる1要素であるのかもしれない。

表4-8成績やテストの結果に対する生徒達の「感情」(Q5の単純集計)
 あてはまるややあてはまるあまりあてはまらないあてはまらない
成績が下がること不安61.0%26.3%8.9%3.8%
成績が下がること恥ずかしい26.9%35.4%23.6%14.2%
成績上がるとうれしい71.2%20.3%6.6%1.9%
友達に負けるくやしい30.2%37.7%21.2%10.8%
平均点気になる31.1%35.4%19.8%13.7%

表4-9「本人の感情」と「行動・意識」の相関関係
本人の感情本人の行動・意識
日常の勉強行動テスト前はがまんしなくちゃという意識勉強はしなくちゃならないものという意識
成績が下がること不安0.15*1.23**1.29**
成績が下がること恥ずかしい0.050.15*1.26**
成績が上がることうれしい0.040.000.13
友達に負けることくやしい0.090.100.21**
平均点がとても気になる0.120.15*0.28**
(*は5%で有意、**は1%で有意であることを示す)

(8)「達成動機の強さ」と、彼らの勉強に対する「行動・意識」

 次に「達成動機」の強さや弱さが、彼らの「勉強行動」や「勉強意識」に影響を与えているかどうかを(問22)において見てみた。「達成動機」(注10)とは、すぐれた仕事をして業績をあげたい、困難な課題をやり遂げたい、自己の能力を最大限発揮して目標に到達したいなどというような「動機」のことである。そしてまたこの「達成動機」の強い人は、一般に「負けず嫌い」であり、何事に対しても「意欲的に、積極的に」とりくむという傾向があるといわれている。
 このような「より上に」というような達成動機の強さは、恐らく、「実際の(勉強)行動」や「勉強しなくては」という「意識」と関連が強いと思われたのでこの調査をしてみた。結果は(表4−10)を参照してほしいのだが、
  1. 「目標をたててがんばるほうだ」とする気質の人ほど、「勉強とはやらなくちゃいけないもの」と思っているということ
  2. 「遊びでも勉強でもやりだすととことん熱中するほうだ」という人や、「負けず嫌いなほうだ」という人ほど、「日常の勉強をよくしている」ということ
などが言えた。これら以外では、相関関係は見られなかった。
 これらのことから、「意欲的」「積極的」「負けず嫌い」などといった「達成動機の強さ」は、どちらかというと、勉強するという「行動」の方には影響を与えるが、「しなければ」や「がまんしなければ」といった、「意識」の面には影響を与えていないという印象を受けた。つまり、
  1. がんばるのが好きな子(達成動機の強い子)は、「〜せねば」などという規範意識を持たなくても、純粋に「行動として」がんばっている
ということではないだろうか。
(*「目標をたてて頑張るほうだ」とする気質と、「勉強とはやらなくちゃならないもの」という「意識」の間にも「0・28」という強い相関がでているのだが、これは、質問文の「目標を立てて」という言葉に「意識」の意味合いが入ってしまったためではないかと見て、あえて例外とした。)

表4-10本人「達成動機」の強さ・弱さと「行動・意識」の相関関係
達成動機の強さ本人の行動・意識
日常の勉強行動テスト前はがまんしなくちゃという意識勉強はしなくちゃならないものという意識
目標をたてて頑張るほうだ0.160.161.28**達成動機の強さ
やりだすととことん熱中する0.18*0.070.11
自分は負けず嫌いなほうだ0.26**0.140.09
ガツガツやるのは嫌いだ-0.020.00-0.08達成動機の弱さ
リーダーになるのはいやだ-0.03-0.040.01
(*は5%で有意、**は1%で有意であることを示す)

(9)「他人からの評価が気になること」と本人の「行動・意識」

 次に「他人からの評価が気になる」(あるいは「他人の目が気になる」)といったような性格と、「勉強行動」「勉強意識」の間にどのような相関関係があるかを調べてみた。「達成動機の強さ」の場合と同じく、この「他人からの評価が気になりやすい」という気質も、本人の「勉強行動」や「勉強意識」に何らかの影響を与えているのではと思われたからである(「人の目気にするから、勉強する」など)。分析の詳しい結果は(表4−11)を参照してもらいたいのだが、「他人からの評価の気にしやすさ」をはかる3つの指標すべてと、「勉強とはやらなくちゃいけないもの意識」とに相関関係があったことから、
(1)「他人からの評価を気にしやすい」「他人の目を意識しやすい」人ほど、「勉強とはしなければならないもの」という「意識」をもちやすい
ということが言えると思われた。
(「何かするとき、それをすると他の人たちがどう思うかについて考える」ということと「日常の勉強行動」の間には「0・32」という強い相関が見られたのだが、しかしながらこれは、「何かするとき」という「行動」面に限った心理を聞いた問いであったため、このような相関が生まれてしまったのだと考える。したがってこの場合も例外としてあつかった。)

表4-11「他人からの評価」がきになるかどうかと、「行動・意識」の相関関係
他人からの評価気になる本人の行動・意識
日常の勉強行動テスト前はがまんしなくちゃという意識勉強はしなくちゃならないものという意識
何かする時、それをすると他の人たちがどう思うかについて考える0.32**0.18**0.23**
他の人たちと考えが違うと、自分の方がおかしいのかなと思う0.100.061.24**
周りから良く思われたいと思う0.10-0.040.16*
(*は5%で有意、**は1%で有意であることを示す)

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