第四章 調査方法


 『完全自殺マニュアル』とその報道が実際の自殺に影響したかどうか考察する方法は、以下の宮島喬『デュルケム「自殺論」を読む』を参考にします。
 19世紀のヨ−ロッパでは、自殺に関する研究はすでに盛んで、経験的なデ−タ−を豊富に盛り込んだ研究は、1897年に先立ってもう沢山出ていました。そしてデュルケムはこのような研究を参照しながら、しかしそれを批判し、乗り越えようとしたわけです。デュルケムの独自性は、社会学的な方法と理論とによって一貫した、しかも力強い推論を用いて自殺と社会的要因の相関の説明をしたところにあります。そして自殺を客観的な対象として、物のように研究せよということです。もう一つは、社会的事実と心理的事実というものをきっぱりと分け、自殺の説明において、心理的な説明を安易に持ち込まないこと、というものでした。
 ここで自殺のような人間の行為を心理的な要因を抜きにして自殺の説明はできるのかと言う批判にデュルケムは次のように応えています。個々の自殺のケ−スを研究するよりも、むしろそれぞれの集団や社会が一定の時間の幅のなかで示す自殺率を研究するのだ。だから個々の自殺、例えばA、B、Cさんという個々の個人が自殺を図ると言う事実を説明するのではなく、それぞれの集団とか社会に一定の時間の中で生じる自殺を全体として考察するのです。それならば自殺を社会的事実として研究することができ、また、こうした自殺率は、それぞれの集団や社会に応じた固有性を持っていることがわかります。一個の社会、一個の集団が全体として示す自殺率に研究の対象を限定するのだ、と言うことです(宮島、1989、p32-36)。
 一般に、統計的に自殺を処理しその一般的傾向客観的に観察、なんらかの法則性を導き出そうとする研究方法と、個々の症例からその心理過程を個別的・生活史的に追求し、そこになんらかの特徴を見いだして、自殺を起こす要因を明らかにしようとする研究方法があります。自殺を研究する場合、この二つの研究方法の両方を稲村博さんなどほとんどの人が用いています。しかしこれから考察するのは『完全自殺マニュアル』という本が実際の自殺に影響があったかどうかということです。また、アイドルの自殺報道の影響を考察した先行研究の方法も前者に近いものです。よって、私はデュルケムの考え方に近い前者の研究方法のみで、できるだけ考えていくことにします。
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