第5章 分析のまとめ

 これまで様々な影響を受けているヒーローのイメージが出て来たが、これらを分かりやすくするために、ひとつのまとめる方法として私の独断で分けた分野ではっきりとした結果が出た政界、スポーツ界、そしてその他の分野のヒーローのイメージをまとめてみたいと思う。そして私の仮説についても検証する。

第一節 政界ヒーロー

 まず現在政界にヒーローがいると思っている人は全体の7%を越える程度だという事実がある。これは現在の救い難いほどの制度及び政治家の乱れによって、とてもヒーローがいるとは思えない状態を表している。指導力もない人物が次々と首相となり、効果的な改革もできないままに変わっていく。そんな政界に対するイメージとはどのようなものなのだろうか。
 現在政界にヒーローがいると思っている人が少ないため、現在の政界のヒーローにはそれほど明確な像が浮かび上がっていない。唯一、現在政界にヒーローがいると思っている人は「集団」もしくは「孤独」に集中しているが、「集団」を選ぶ人の割合が現在政界にヒーローがいないと思っている人よりも3倍以上大きくなっていることから、人々は現代の政界のヒーローを、強烈な個性を持ち一人で突き進んでゆくタイプよりも政党などの集団での活動についてヒーロー的活躍を見いだしていると考えられる。視点を変えると個人では対処仕切れないほど問題が肥大化してしまったと考えているとも言える。
 現在政界にヒーローがいると思っている人の少なさに比べ、以前政界にヒーローがいたと思う人は50%近くにまで達している。しかしこれは、人々が本当に以前政界にヒーローがいたと考えていると解釈するよりも、やはり現在の軸のない乱れた政治に対する反動としての結果だと解釈した方が適切だと考える。
 こうした人々の厳しい意見の中、政界の特徴としてあげられるのが今後、政界にヒーローが誕生して欲しいと願う人が60%もいるということだ。そして誕生して欲しいヒーローの人物像として「他人のために生きる人」が全体の3分の1を占めている。これもやはり乱れた政治という現実の中、他人のため、と言うよりもこの場合は政界に関連してくるので国民のために活躍してくれるようなヒーローの誕生を望んでいると言えよう。
 政界に誕生して欲しい人物像として「常識をくつがえすようなことをする人」が20%と高く、「華麗な演技、技術で人々楽しませる人」が5%となっており、「他人のために生きる人」の結果と合わせても現代の人々が政治に不安を持っていて、国民のために生きる常識をくつがえすような改革を行う、表面上の華やかさではなく中身をもったヒーロー誕生を望んでいることが見事に割り出されたと思う。そして政治に無関心といわれる現代人だが決して無関心なわけではなく、多くの人が政治に危機感を持ち、それゆえに政界のヒーローに期待を持っていることが分かる。
 政界にヒーロー誕生を望む人は「ヒーローは子供に希望を与える存在であってほしい」「国民的ヒーローが必要だ」「ヒーローは子供へ悪影響をおよぼしてはいけない」という意見が強い。先に私が述べたように多くの人が未来の象徴である子供達に関係した意見に強く賛成し、将来について大きな不安を抱いていることがわかる。その不安感を増長させている原因の一つが政治にあるのは明らかだろう。
 また年齢が高くなるほど「権力ヒーロー因子」のイメージを強く持つようになっている。「権力ヒーロー因子」とは私がつけた名前ではあるが、問1ヒーローのイメージ×問30年齢との相関係数による分析でも年齢が高いほど「集団」のイメージが強くなり、その「集団」のイメージを以前政界にヒーローがいたと感じている人が多いことからも、「権力ヒーロー因子」と政界ヒーローは同質のものだと言えるだろう。確かに現在政界にヒーローがいると思っている人にも「集団」イメージをあげる人が多いが、以前の政界ヒーローを「集団」の頂点にいた存在、現在の政界ヒーローの「集団」をあまりに複雑になり問題が山積みの社会に対しての「集団」での活躍という異なる意味が含まれていると考えている。年齢の高い人が生きて来た社会には政界ヒーローがいたことも関係してくるだろう。 こうしたイメージがあるわけだが、この節の最後に私の仮説と照合してみよう。
 問1ヒーローのイメージと問8ヒーローに関する意見のクロス表あるいは相関係数分析で「遠い」と感じている人ほど「ヒーローは逆境から生まれる」に賛成する人が多くなっているが、この逆境が現在の政治の混乱、政治不信といったものに該当するのでないだろうか。
 さらには問1ヒーローのイメージと問8のヒーローに関する意見の相関係数をとると「遠い−近い」と「ヒーローが活躍すると人々の励みになる」とに正の相関がみられ、「遠い」と感じている人ほどヒーローの活躍を励みになると感じている。遠くに感じるのにそのヒーローの活躍が励みになるということは、よほどそのヒーローが存在する分野が社会的な影響力を持った分野だということになる。これも政界が最も適していると考えることができる。

 こうしたデータから私はこの「政界ヒーロー」を私の仮説の「遠いヒーロー」と呼ぶことができると考える。

第二節 スポーツヒーロー

 スポーツ界はヒーローが存在するもしくは存在したと考える人が最も多い。現在過去ともに70%をはるかに越えるという非常に高い割合で現代人に支持されている。現代人にとっては長い間ヒーローを生み出して来たという印象があるようだ。これはやはり何度も書くが、メディアの発達によって活躍の情報がつねに得られるからだろう。
 スポーツヒーローがいると答えた人は「ヒーローが活躍すると人々の励みになる」と考える人が多いのもメディアの発達によるものだろうし、スポーツヒーローがいると答えた人が子供への悪影響を恐れているのも同じ理由だろう。
 また、それだけスポーツヒーローに励まされているためかスポーツヒーローがいると答えている人は、「国民的ヒーローが必要だ」と考える割合や「ヒーローが生まれないような社会は衰退してしまう」という大胆な意見に関しても割合が高くなっている。また今後スポーツヒーローに誕生して欲しい人物像は「華麗な演技、技術で人々を楽しませる人」が40%弱で多くなっている。そしてその「華麗な演技、技術で人々を楽しませる人」の誕生を望んでいる人はヒーローを「遠い」と感じているという結果が出ている。スポーツヒーローの誕生を望む人はヒーローのイメージを「遠い」と答えた人が60%を越えている。
 以上をまとめると、一般大衆に最も身近で現実的なヒーローは予想以上に人々にとって大事な存在になっていると言えるし、人々はこれまで以上の華麗なスポーツヒーローを求めているとも言える。そしてスポーツヒーローの誕生を望む人はヒーロー、あまり遠くに感じるヒーローよりもスポーツヒーローのような身近なヒーローを求めているためにといえるのではないだろうかと考える。
 つまりはスポーツヒーローが私の仮説の中の「近いヒーロー」にあたると考えている。
第三節 その他の分野のヒーローのイメージ

 財界に現在ヒーローがいると答えている人はわずか9.3%に過ぎない。しかし以前財界にヒーローがいたと答えている人は27.1%にまで増加している。これは第二章で金山の意見として紹介したようなワンマン社長(私は代表的具体例として本田宗一郎をあげたい)と呼ばれるような、会社の中で絶大なる権力を持つ人物が現在は減っていると解釈できる。また財界ヒーローの誕生を望む人は「粗雑」というイメージが強くなるが、豪快にふるまうことを期待していると私は解釈する。しかし、財界にヒーロー誕生を望む人はわずかに11%で、以前財界にヒーローがいたと考えている人の割合よりも大きく減っているため、現代人は財界ヒーローの誕生を特には望んでいないといえる。
 芸能人・芸術家に現在ヒーローがいると思っている人もいない人も、「実力」と答える人が60%強いることから、実力次第という厳しい世界だと考えていると思われる。また芸能人・芸術家にヒーローがいると答えている人はいないと答えている人よりも「裕福」というイメージが強くなっていることから、実力勝負の厳しい世界でヒーローとなるほどの人は当然裕福だと考えられていることが分かる。
 芸能人・芸術家のヒーロー誕生を望む人が「遠い」と感じていることや、芸能人・芸術家ヒーローに求める人物像として「華麗な演技、技術で人々を楽しませる人」の割合が高い点でスポーツヒーローと似ているが、いかんせん芸能人・芸術家ヒーローの誕生を望む人が11.5%と低くスポーツヒーロー誕生を望む人の67.0%と比べるとあまりに少ない。
 学者・知識人に対するイメージとしては、学者・知識人ヒーローがいると答えている人がヒーローには特権が与えられて当然だとする考えと、ヒーローこそが社会を発展させるという意見が強い。それだけ特別な存在だと考える人が多く、これまでの学者・知識人の功績をたたえていると考えられる。また彼らは文化系と考えられる傾向が非常に強い。
 宗教会についての有効なデータは出て来なかった。これはやはり日本の無宗教性がでており、現在過去将来のヒーローについて聞いた設問でも「その他」と「いない」を除けばすべての設問において宗教会に「いる」「いた」もしくは「のぞむ」を選択した人は最低の値となり宗教に関心のある人はごく一部の人だという結果となった。
 ヒーローがいないと答えた人は「ヒーローが活躍すると人々の励みになる」「国民的ヒーローが必要」だと考える人の割合は少ない。当然の結果と言えるのではなかろうか。また現代にヒーローがいないと答える人ほど「普遍的ヒーロー因子」の値が大きくなることから普遍的ヒーローは彼らにとっての理想像だと考えられる。 

戻る