第1章 日本のシングルマザーをめぐる現状

1 母子家庭の世帯数の変化

 母子家庭の世帯数は、厚生省「国民生活基礎調査」によると、1975年の37万世帯から1990年の54万世帯へと増加の傾向にあったが、90年以降はわずかな増減を繰り返している状況であり、1993年では49万世帯となっている。これの、全世帯に占める割合は1985年の1.4%を最高として以後は少しずつ減少し、1993年では、1.2%となっている。ヨーロッパやアメリカでは、近年離婚率の上昇によって単身世帯が多様なライフスタイルの一つとして社会的に認められつつあるという。渡辺千寿子「母子世帯と所得保証」によると、ヨーロッパ諸国では、母子家庭の有子世帯での割合はほぼ10〜20%を占めるということである。増加の理由としては、京極高宣「イギリスの母子福祉施策とファイナー報告」では1950年代後半より漸減する「死別」に代わって「離婚」「別居」「若年母子」の増加によるということである。日本では、18才未満の子がいる世帯総数の約4%であるということで、比較的少ない。また日本での母子家庭になった理由も、1960年代から、「病死による死別」「病死以外の死別」が減少し1988年にはそれぞれ23.2%、6.5%となっていて、増加してきている「離婚」は、1988年では60%をこえているという状況である。

2 母子家庭の生活問題

 母子世帯の年間収入は厚生省の「全国母子家庭世帯等調査」によると、1990年の平均で202万円で、一般世帯の513万円の半分以下である。母子家庭の収入源は「賃金・給料」が67%で第1位であるが、第2位は「生活保護」で9%である。同じく厚生省の「社会福祉行政業務報告」では、生活保護を受ける世帯は人口1000人あたりの世帯保護率でも母子家庭が118.3と最も高く、ここからも母子家庭の生活の苦しさを知ることができる。1988年「全国母子世帯等調査」によると、就労状況は86.8%の母親が働いているが、そのうち19.4%は「非常用雇用者」である。住居の所有状況は母子世帯の6割が「借家など」で、4割が「持ち家」である。生活上の第一の悩みは「家計」で34%であるが、「住居」も、15%あった。子どもについての悩みでは「教育・進学」40%、「しつけ」20%となっている。
(井上・江原、1995、20ページ/湯沢、1995、154〜157ページ・196ページ)

3 母子家庭に対する行政制度

 ここでは母子家庭に対しての日本の行政援助制度には、どのようなものがあるのかみてみたいと思う。
 まず、支給される手当てとしては、父親と生計を同じくしていない母子家庭などの子どもを養育する母または養育者(祖父母など)に支給される「児童扶養手当て」、3才未満の子どもを養育している家庭の方に支給される「児童手当て」がある。ただし、「児童扶養手当て」についてはかなり複雑な条件があり、非婚・婚外子に対しての差別も存在する。(詳しくは、2章にて述べる。)
 貸付制度には、低所得世帯、身体障害者世帯、高齢者世帯などの方に、生活の安定や経済的自立を図るための「生活福祉資金」、母子家庭や寡婦の方に、その経済的自立や子どもの福祉を図るため、「修学資金」「就学支度資金」などを低利または無利子で貸し付ける「母子寡婦福祉資金」がある。
 母子家庭への優遇措置には、非課税貯蓄制度、福祉定期預貯金、児童扶養手当て受給世帯・生活保護世帯の方の通勤定期代が3割引になるという「JR通勤定期券割引制度」、そして母子家庭などの65才未満の母で扶養家族のある方は、所得税や住民税の寡婦控除が受けられる場合がある。
 その他に、病気などのため、生活費や医療費などに困り、他に方法がないときに受けられる「生活保護」、母子家庭の方が病院で受診したときなどに、窓口で支払う保険診療の自己負担額が助成される「母子家庭等医療費助成」、一時的な病気などのために、食事の準備、買い物、掃除などの家事に困っている方が利用できる「介護人(ヘルパー)派遣」がある。
(厚生省児童家庭局福祉課、1996、10〜13ページ)

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