第5章 調査結果の分析と考察


・装置との関わり

 現代の若者の音楽生活を見ていく上で、まず彼らが音楽ソフトをどのくらい所有しているのかを調べた。平均所有数は、CDアルバム(31.1枚)、CDシングル(9.0枚)、LD(0.8枚)、カセットテープ(47.7本)、MD(0.9枚)、〔音楽〕ビデオ(2.0本)であった。CDアルバムに比べると、CDシングルがかなり少ないが、これは後に出てくる若者のレンタル行為の影響が出たか、あるいはアルバムよりはすぐに聴き飽きてしまう率が高いシングルは、中古CD店などで売却されてしまう可能性があるためだと考えられる。また、LDやMDなどの新ソフトはまだ浸透していないようだ。それから、借りたCDをダビングするために必要なカセットテープは、やはり一番多く所有しているソフトのようだ。
 現代の若者の音楽生活の中で、CDをレンタルするという音楽行為は、かなり日常的なものとなりつつある。なぜ、CDレンタルが若者にウケているのか。それは、一度見て楽しめば十分な映画などのレンタルビデオに比べ、CDの場合は個人的に所有し、反復して鑑賞したいというニーズの強いソフトであり、ビデオに比べ価格的にも安いこともあって、所得の高い中年以上の音楽ファンはレンタルよりも必要なCDは購入することが多い。 したがって、CDをレンタルするのは所得の少ない若者が中心ということになるのではないだろうか。
そこで、彼らが1年間にどのくらい音楽ソフトをレンタルしているのかを調べた。平均レンタル数は、CDアルバム(10.2枚)、CDシングル(32.1枚)、〔音楽〕ビデオ(1.1本)であった。CDシングルがかなり多いのは、やはりその時の流行歌をすぐにシングルで購入してしまうと、あとで本当に自分が気に入ったアルバムを購入する資金がなくなるので、いずれ廃れてしまう危険性のある流行歌はレンタルし、自分のオーディオ機器を利用してカセットテープに録音して繰り返し聴くといったやり方がなされているためであろう。
 では、彼らは1年間にどのくらい音楽ソフトを購入しているのだろうか。平均購入数は、CDアルバム(6.9枚)、CDシングル(1.6枚)、〔音楽〕ビデオ(0.2本)であった。これはレンタル数と比較すると、それよりも少ないことがわかる。若者はちょっと興味のある程度のものはレンタルで、そして本当に自分が気に入ったものだけを購入しているようだ。彼らは実に要領のいい音楽消費者なのである。
 次に、若者と現代の電気メディアとの接触状況を調べるために、彼らが所有する音楽メディア機器と、その利用頻度をたずねた。所有率の高かったものから挙げると、テレビ(98.0%)、ビデオ(88.4%)、〔CD〕ラジカセ(63.1%)、ヘッドフォンステレオ〔ウォークマン〕(60.7%)、コンポステレオ〔ミニ・コンポも含む〕(54.8%)、カーステレオ(52.4%)、ラジオ〔単独〕(45.9%)、CDプレイヤー〔単独〕(28.3%)、レコードプレイヤー〔単独〕(15.0%)、家庭用有線(9.3%)、LDプレイヤー〔単独〕(5.3%)、MDプレイヤー〔単独〕(4.5%)、家庭用カラオケ(2.4%)であった。
 また、自分が所有している機器の利用頻度で、「ほとんど毎日利用する」と「時々利用する」を合わせて50%以上だったものは、テレビ(97.5%)、カーステレオ(96.9%)、コンポステレオ〔ミニ・コンポも含む〕(91.9%)、ビデオ(88.6%)、家庭用有線(82.6%)、〔CD〕ラジカセ(82.2%)、MDプレイヤー〔単独〕(81.8%)、CDプレイヤー〔単独〕(68.6%)、ラジオ〔単独〕(53.1%)であった。よって、現代の若者の音楽生活を支えているのはこれらの機器であると言えよう。そして、上位を占めている機器に注目すると、例えば、テレビやビデオは映像と音楽が、またカーステレオは車と音楽が組み合わされている。このことから、現代の若者が音楽を聴くといった場合、音楽を聴くことだけに集中するというよりは、何かをしながら音楽を軽く聴き流すという聴き方をしているということがわかる。

・音楽の意味づけ

 「あなたにとって音楽とはどのようなものですか」(10の選択肢の中から複数選択)という質問の回答結果を割合の多いものから順に並べると以下のようになった。
  1. 楽しませてくれるもの(73.7%)
  2. 気持ちのいい雰囲気をつくるもの(68.0%)
  3. 自分の気持ちを慰めてくれるもの(38.5%)
  4. 生活に必要なもの(35.6%)
  5. 仕事、勉強、運転などをはかどらせてくれるもの(24.7%)
  6. 自分の世界をつくってくれるもの(21.5%)
  7. 人との交流をなかだちしてくれるもの(11.7%)
  8. 教養として必要なもの(10.5%)
  9. 未知の世界を体験させてくれるもの(9.7%)
  10. その他(7.3%)
 この結果から、現代の若者にとって音楽とは、何か特別に重要な意味を持ったものではなく、「楽しいもの」「気持ちのいい雰囲気をつくるもの」といったように、その場のムードを快適に演出してくれるものとしてとらえられていることが多いようだ。

・背景としての音楽

 現代の若者と、背景としての音楽との関わりを調べるために、「あなたは日頃、町の中やお店に流れている音楽に対して、うるさいと感じることがありますか」という質問をしたところ、「よく感じる」(6.5%)、「時々感じる」(26.1%)、「あまり感じない」(44.1%)、「全く感じない」(23.3%)という回答結果が得られた。このことから、約70%もの若者が、被音楽状況に対する適応力を持っているということがわかる。彼らは自分にとって関係のない音楽を聴き流すという能力を身につけてしまっているのである。
 さらに、「あなたは、特に音楽が聴きたいわけでもないのに、何となく音楽をかけてしまうことがありますか」という質問に対して、「よくある」(42.1%)、「時々ある」(33.2%)、「あまりない」(20.6%)、「全くない」(4.0%)という回答結果が得られた。約75%もの若者が、特に音楽が聴きたいわけでもないのに、何となく音楽をかけてしまっているようだ。生まれた時から音楽がある環境で育った彼らは、音楽を聴いていないと落ち着かないのであろう。さらに、彼らの身近にあるオーディオ機器の操作の容易化がこの結果に影響を与えていると思われる。ボタン一つで操作が済ませられるリモコンが手元にあれば、つい触りたくなる気持ちもわかる。そして、分析によれば、特に音楽を聴きたいわけでもないのに何となく音楽をかけてしまう人ほど、音楽を生活に必要なものだと感じているという結果が得られた(図5−1)。彼らにとって音楽というものは、まるで空気のように彼らの生活に欠かせない存在となっているのである。
 それから、「あなたは勉強するときに音楽をかけることがありますか」という質問の回答結果は、「よくある」(28.6%)、「時々ある」(36.3%)、「あまりない」(20.2%)、「全くない」(14.9%)であった。勉強は、かなり集中力を使う作業であるにもかかわらず、約65%の若者が音楽をBGMにして勉強していることがわかった。これは音楽の環境化を裏付ける結果となっている。

図5−1
Q6(特に音楽を聴きたいわけでもないのに何となく音楽をかけてしまう頻度)×
Q154(音楽は生活に必要なものか)
Q6
よくある時々あるあまりない全くない 全体
Q154あてはまる  55  19  10   3  87
63.2%21.8%11.5% 3.4%35.4%
あてはまらない  48  63  41   7 159
30.2%39.6%25.8% 4.4%64.6%
全体 103  82  51  10 246
P<0.01  Cramer’sV=0.32

・音楽と流行

 若者が音楽を選択する際に、流行というものをどれくらい意識しているのかを調べるために、「あなたはCDなどを購入する際に、アルバムやシングルなどのヒットチャートや、レコード店の売上ランキングを意識しますか」という質問をしたところ、「非常に意識する」(9.3%)、「やや意識する」(39.0%)、「あまり意識しない」(29.7%)、「全く意識しない」(22.0%)という回答結果が得られた。ちょうど「意識」派と「無意識」派とが半々ずつに別れた。若者が音楽を選択する際に流行を意識するかしないかは個人によって様々であると言えよう。
 また、「日頃、どちらの音楽を聴いていますか。A.ヒットチャートに入るような音楽、B.マイナーな音楽」という質問には、「A」と「どちらかといえばA」を合わせて50.0%、「B」と「どちらかといえばB」を合わせて26.4%、「どちらでもない」が23.6%という回答結果が得られた。前の質問と比較すると、「B」派が少ないように感じられるが、これは「どちらでもない」という回答率が多さが原因となっている。若者は自分さえ気に入れば、たとえそれが流行りの音楽であっても、マイナーな音楽であっても関係なく聴くといったところであろうか。
 それから、「日頃、どのような音楽の聴き方をしていますか。A.広く、浅く、いろいろな音楽を聴く、B.自分の好きな音楽を深く聴き込む」という質問には、「A」と「どちらかといえばA」を合わせて40.5%、「B」と「どちらかといえばB」を合わせて44.9%、「どちらでもない」が14.6%という回答結果が得られた。これも「A」派と「B」派で半々ずつに別れた。この結果から、現代の若者における音楽の聴き方は、一概にこうであると一般化できるものではないことがわかる。

・音楽と人との関わり

 現代の若者の音楽聴取と周囲の人との関わりを調べるために、「あなたは周囲の人と音楽について、どの程度話をしますか」という質問をしたところ、「よくする」(13.0%)、「時々する」(56.3%)、「あまりしない」(27.9%)、「全くしない」(2.8%)という回答結果が得られた。
また、「あなたは周囲の人から影響を受けて、ある音楽を聴くようになったということがありますか」という質問には、「よくある」(22.7%)、「時々ある」(50.2%)、「あまりない」(22.3%)、「全くない」(4.9%)という回答結果が得られた。
 分析によれば、周囲の人と音楽についてよく話をする人ほど、また、周囲の人から影響を受けて音楽を聴く頻度が多い人ほど、流行に関心があるということがわかった(相関係数0.31、0.23)。また、両方の質問とも、音楽が人との交流のなかだちをしてくれるという意味づけとの相関は大して見られなかった。この結果から、音楽が人とのコミュニケーションの道具となっているというよりは、むしろ、若者が流行に取り残されないために、仲間同士で音楽の情報交換をしあっていることがうかがえる。

・カラオケ

 カラオケについて、その利用頻度と好悪をたずねた。まず、利用頻度は、「よく行く」(17.4%)、「時々行く」(52.6%)、「あまり行かない」(23.5%)、「全く行かない」(6.5%)という結果であった。そして、好悪は、「好き」(36.8%)、「どちらかと言えば好き」(33.6%)、「どちらでもない」(15.8%)、「どちらかと言えば嫌い」(7.7%)、「嫌い」(6.1%)という結果であった。全体としてみると、現代の若者はカラオケ好きで、またよくカラオケに行くようだ。
 では、彼らがそんなにカラオケに引きつけられる原因は何だろうか。
 まず、カラオケに行く人と、音楽の意味づけの相関を調べてみたところ、大した相関は見られなかった。また、人づきあいを大切にする人との相関も調べたが、やはり大した相関はみられなかった。そこで、カラオケと流行の関係を調べてみると、カラオケに行く人ほど流行に関心があり、また流行に取り残されることを不安に思っているという結果が得られた(相関係数 0.26、0.18)。さらに分析してみると、カラオケに行く人ほどヒットチャートや売上ランキングを意識してCDなどを買い(相関係数 0.21)、またミュージシャンのファッションをチェックする(相関係数 0.24)という結果が得られた。
 カラオケによく行く人というのは、流行に敏感な人のようだ。人よりも早く最新の音楽をキャッチして、それをカラオケで歌うことによって、自分が最先端の人間であることを人にアピールしたいのであろうか。もしそうだとすれば、彼らにとってカラオケは自己表現の手段としての役割を担っていると言える。
 また、カラオケが好きな人ほど、音楽が自分の世界をつくってくれるものだと意味づけているということがわかった(図5−2)。カラオケの魅力は、まさにこの自己陶酔にあるといえよう。そして、この自己陶酔も、カラオケによって自己を確認するという意味では重要な体験なのである。

図5−2
Q132(カラオケの好悪)×Q155(音楽は自分の世界をつくってくれるものか)
Q132
 好き どちらか
といえば
好き
どちらで
もない
どちらか
といえば
嫌い
 嫌い 全体
Q155あてはまる 30   9  9  2  3 53
56.617.017.0 3.8 5.721.5
あてはまらない 61 74 30 17 12194
31.438.115.5 8.8 6.278.5
全体 91 83 39 19 15247
36.833.615.8 7.7 6.1100.0
P<0.01  Cramer’sV=0.24

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