第4章 調査報告

第1節 大学生対象の調査分析の報告

 調査対象者は、富山大学人文学部の1年生から4年生までの女子学生を対象に実施した。回数部数は250人で、学年の割合は、1年生37.3%、2年生15.6%、3年生28.7%、4年生18.0%である。年齢構成は、18歳11.9%、19歳23.8%、20歳20.4%、21歳25.5%、22歳10.6%、23歳5.1%、その他2.6%(円1参照)。1ヶ月の洋服代(アクセサリーも含む)の平均は、11000円であった。
 調査では、流行採用の時間差によるカテゴリー分けとして、E・M・ロジャースの流行採用者カテゴリーを使用した。他の人がほとんど知らない時に真っ先に流行を取入れる「革新者」、チラホラ着ている人を見かけるようになった頃、一般の人よりもかなり早く取入れる「初期採用者」、だいたい一般の人が取入れる頃になってから取入れる「前期追随者」、多くの人が取入れ、そのファッションが普及すればそれにしたがって取入れる「後期追随者」、流行を取入れない・関心がない「遅滞者」の5段階で調査を実施した。
 それぞれのカテゴリーの割合は、革新者が3名で1.2%、初期採用者が17名で7.0%、前期追随者が79名で32.5%、後期追随者が58名で23.9%、遅滞者が86名で35.4%、無回答7名という結果になった。ただし、革新者が非常に少数であり、有意性のある分析とはならないため、以降からの調査分析では、革新者と初期採用者を合わせて「初期採用者」と表すことにする(円2参照)。以下に表示するのは、単純集計による各設問の回答率である。
 流行を意識する者の割合は全体の28.3%、意識しない者は71.7%。さらに、周りの人よりもファッションに関する事をよく知っていると思っている者は全体のわずか7.7%で、よく知らないと思っている者は92.3%となっている(グラフ1・2参照)。
 流行を知る経路として「ファッション雑誌」を挙げた者の割合は52.2%、「他人が着ているのを見て」が26.3%、その他の経路として「友人・知人」、「テレビ」、「その他」が順に挙げられた(円3参照)。特に回答が多かったファッション雑誌の購読頻繁度を調べたところ、「毎号読む」者の割合が17.7%、「毎号ではないがよく読む」が23.3%、「たまに読む」が44.6%、「読まない」が14.5%と、圧倒的に雑誌を講読している若者が多いことが分かる。さらに、テレビや雑誌に登場する人物のファッションを「かなりチェックする」者の割合は全体の6.4%で、「ある程度チェックする」が56.6%、「ほとんどチェックしない」が36.9%となったことからは、メディアで活躍するモデルや芸能人のファッションへの関心の高さが示されている(円4・グラフ3参照)。
 一方のパーソナル・コミュニケーションに注目してみよう。販売員のアドバイスを「参考にする」者が全体の64.1%を占めていることからは、販売員のアドバイスへの信頼の高さが伺える。さらに、販売員のアドバイスを「参考にする」と回答した者だけに、最もアドバイスして欲しい項目を尋ねたところ、「着回し方」が全体の50.0%、次いで「似合うかどうか」が40.1%、どういう結果が出るのか興味があった「流行」は、0.6%と最下位で、流行にはこだわらない若者の意識が明らかに示されている(グラフ4・円5参照)。
 大学生に、販売員が実際にどのようなアドバイスで服を勧められるのかを質問したところ、「流行」が全体の35.7%、「似合うかどうか」が32.0%、「着回し方」が22.1%だと感じていることが分かった(円6参照)。
 また、周りの人々とのコミュニケーション行動として、「ここ2.3ヶ月にファッションに関して話をしたことがありますか。」という質問では、「ある」と回答した者は全体の53.0%で、ファッションが日常会話のネタになっているようだ。さらに「ファッションに関する話をしたことがある」者のうち、ファッションに関しての意見を相手に聞く方だと自認しているのは84.6%にも上り、受動的な情報収集状況が伺える(円7・8参照)。
 次に、大学生の消費行動を伺ってみよう。服を購入する際に最も重視する項目は、「デザイン」50.6%、「自分に似合うこと」31.3%の2項目が高い割合を占め、「流行」は0.8%である。2番目に重視する項目として「価格」55.1%、「デザイン」17.3%、「自分に似合うこと」11.9%、そして「流行」4.1%という結果になった(円9・10参照)。この結果からも分かるように、販売員にアドバイスして欲しい項目と同様に、「流行」は若者には全く重要視されていないのである。
 その他にも調査分析で重要視した、流行に対する態度を調べるための8項目から成る質問を設けた。以下にその8項目を挙げる。


 そして各質問項目に「全くそう思う」、「まあそう思う」、「あまりそう思わない」、「全然そう思わない」の4段階で回答してもらい因子分析にかけると、2つの因子が抽出された。第一因子に「最先端の流行を身に付けることによって自分の個性を発揮することができる」、「流行に取り残されるのは不安だ」、「流行のファッションを身に付けている人を見るとうらやましい」、「他人に自分がどう見られているのか気になる」の因子負荷量が高いので、「追いかけ因子」と名付けた。
 第二因子は「流行はマスコミが作り出したものにすぎない」、「流行を追いかけるのは軽薄だ」、「流行を取り入れることとおしゃれは別だ」の因子負荷量が高いので、「反発因子」と名付けた。私の調査では、「追いかけ因子」に注目した分析を行なっているので、第一因子に対して因子負荷量が高い4つの項目を足し合わせ、その合計が4〜11点までを「流行追いかけ傾向強型」、12〜16点を「流行追いかけ傾向弱型」と分類した。

第2節 採用者カテゴリー別流行意識

 それでは、採用者カテゴリー別に流行追随意識がどのように異なるのか見ていくことにしよう。
 流行意識の有無を比較してみると、回答数238人中158人が「流行を意識しない」と回答している(グラフ1参照)。その理由の同率1位として2つの理由が挙げられた。まず一つ目は「個性がなくなるから(24.1%)」である。この理由からは、現代の若者が流行を採用することは、逆に無個性化に繋がると考えていることが伺える。
 そして二つ目の理由として「自分には着こなせないから」が挙げられている(円11参照)。この「自分には着こなせないから」という理由は、言い換えれば「流行のファッションを身に付けたくても着こなす自信がないからあきらめよう」という「流行無意識あきらめ型」の表れなのだ。そのことは、「個性がなくなるから」という「積極的流行否定派」とは対照的で、流行を無個性化と捉える若者の流行意識と逆行するものではないかと私は考える。なぜ正反対の理由が流行を意識しないことの理由として同率1位になっているのだろうか。これから、流行採用意識の二面性を探るために調査の分析を行なっていくことにしよう。
 まず最初に「流行を取入れることによって自分の個性を発揮することができる」という質問項目で、「全くそう思う」や「まあそう思う」と答えた者の割合を採用者カテゴリー別に見てみよう。すると、初期採用者の70.0%、前期採用者の43.6%、後期追随者の34.5%、遅滞者の22.1%が、流行を個性化と捉えており、より早期の採用者ほど「流行の採用=個性化」と考えていることが分かる(表1参照)。
 さらに流行を意識しない理由として「自分には着こなせないから」と回答した者は、初期採用者の0.0%、前期追随者の27.8%、後期追随者の26.8%、遅滞者の22.4%となったことに注目してみたい。以上の結果から、流行に最も敏感な初期採用者を除けば、どの採用者カテゴリーでも同程度の割合で「流行無意識あきらめ型」の者が存在することが分かった。
 そこで「自分には着こなせないから」という「流行無意識あきらめ型」をさらに深く調べるために、これから採用者カテゴリーと追いかけ因子の関連を見ていくことにする。なおパーセントの数値は、各設問に対して「全くそう思う」と「まあそう思う」と回答したパーセンテージを合計したものとする。
 表2から見ても分かるように、初期採用者と前期追随者は、「流行追いかけ傾向強型」は「流行追いかけ傾向弱型」の約3倍の多数派である。しかし「流行追いかけ傾向弱型」の6割が遅滞者で占められており、より早期の流行採用者ほど流行追随傾向が強くなっていると言える(表2参照)。
 さらに、流行追いかけ因子に含まれる項目を詳しく見ていくと、「流行のファッションを身に付けている人を見るとうらやましい」と思っているのが、初期採用者の55.0%、
前期追随者の43.6%、後期追随者の32.8%、遅滞者の17.5%(表3参照)という結果となっている。同様に「他人に自分がどう見られているのか気になる」と思っているのが、初期採用者の89.4%、前期追随者の96.1%、後期追随者の68.9%、遅滞者の53.5%(表4参照)、「流行に取り残されるのは不安だ」と思っているのは、初期採用者の45.0%、前期追随者の42.1%、後期追随者の29.3%、遅滞者の8.2%(表5参照)という結果となった。この3項目からは、より早期の流行採用者ほど、流行追随傾向が強いということが分かる。
 これら3項目に比べ、全体的に「全くそう思う」、「まあそう思う」の回答比率は低いが、「最先端の流行を身に付けることはステイタスシンボルになる」と思っているのは、初期採用者の25.0%、前期追随者の24.4%、後期追随者の22.4%、遅滞者の13.0%という結果となり、この項目でもより早期の流行採用者に流行追随意識の高さが読み取れる。(表6参照)。
 しかも、「流行を意識している」と回答している者のうち、「流行追いかけ傾向強型」の者は40.0%で、そのうちの43.8%は前期追随者が占めていることが表2から読み取れる(表2参照)。「流行追いかけ傾向弱型」の者のうちで同様に「流行を意識している」と回答したのはわずか9.3%であり、流行追随傾向が高いほど流行を意識していることが分かる。しかし初期採用者は20人という少人数であり、この調査からは明確な結果を出すことはできないが、前期追随者が全体の32.5%を占めていることから、大半の若者の意識とは逆に、流行を追いかけようとする傾向が少なくとも前期追随者に見られるということが言える(表7参照)。
 以上のことから、「同調性の欲求」や、憧れの集団に近づき、より理想的な自分を目指そうとする「自己実現の欲求」は、より早期の流行採用者に強く見られるということが伺える。そして結果的には、流行を早めに採用することによって、流行に敏感な自分像を周囲に印象づけようとしている「流行に敏感なフリ型」傾向がより早期の流行採用者に見られると言えると考えられる。

第3節 ファッション雑誌と流行追随意識

 大学生対象の調査結果から、マス・メディアによるインパーソナル・コミュニケーションの中でも、ファッション雑誌を経路として流行を知る者が半数以上であり、各採用者カテゴリーでも最も利用率の高い情報源となっている(円3・表9参照)。ファッション雑誌の講読率を見ると、遅滞者にあっても「読まない」人は30.2%の26人しかおらず、いかにファッション雑誌が日常的な情報収集手段になっているかが分かる(表8参照)。
 まず始めに、若者にとって最も身近な情報源であるファッション雑誌と流行追随意識の関りについて見ていくことにしよう。「流行追いかけ意識強型」と「流行追いかけ傾向弱型」の両者には、雑誌の講読率による流行意識の違いが見られるのかどうかという点に着目していきたい。
 ファッション雑誌を「読まない」者は「流行追いかけ傾向強型」では6.1%で、一方の「流行追いかけ傾向弱型」では27.8%である(表10参照)。また、「テレビや雑誌に登場する人物のファッションをチェックしていますか」という質問で「ほとんどチェックしていない」と回答した者は、「流行追いかけ傾向強型」では27.9%。「流行追いかけ傾向弱型」では52.6%となっている(表11参照)。
 以上の結果から、流行追随傾向が強いほどファッション雑誌の購読頻度が高く、しかも情報収集を細かく行っていることが伺える。流行を知る情報源では「流行追いかけ傾向強型」の59.2%が「ファッション雑誌」を挙げていることからも、流行追随傾向が強いほど、ファッション雑誌による情報に頼っていると言える。ちなみにそれ以外の情報源で高い割合だったのは、「他人が着ているのを見て」が25.8%である。
 一方の「流行追いかけ傾向弱型」では「ファッション雑誌」37.1%、「他人が着ているのを見て」27.4%、「友人・知人」12.9%、「テレビ」11.3%という結果になった。この結果から「流行追いかけ傾向弱型」は、ファッション雑誌だけにとらわれず広範囲から情報収集していることが伺える(表12参照)。
 次に、ファッション雑誌とブランドの関りについて見ていきたい。ここで言うブランドとは、シャネルやプラダのような高級ブランドではなく、ファッション雑誌に頻繁に掲載されている、若者に認知度が高いアパレルメーカーのブランドの意味である。私は、現代の若者はブランドにこだわってショッピングをする傾向が高いと考えている。なぜならば、ファッション雑誌の講読が、ブランドのネームバリューに頼らなければ自分で購入を決定できない若者の消費行動を導いているのではないかと感じるからである。
 以上の予想を確かめるために、大学生対象の調査で、好きなブランドと実際によく買うブランドを複数回答で挙げてもらった。好きなブランドとして回答があったのは全体の46.4%である115人で、回答がなかったのは53.6%の133人であった。名前が上がったブランドは242ブランドで、そのうちファッション雑誌で頻繁に掲載されてい
るブランドは182ブランドと高い割合で見られた。高級ブランドやあまり馴染みのないブランドは60ブランドであった。
 それでは以下に、雑誌に掲載されているブランド名とそのうちわけを見てみよう。「アニエスb」が24人、「ベネトン」が16人、「NICECLAP」が15人、「EASTBOY」が14人、「DO!FAMILY」が12人という結果になり、その他にも「マーガレットハウエル」、「パーソンズ」、「ZUCCA」、「SUPERHAKKA」等、数多くのブランドが挙げられた。
 このように、好きなブランドとしてファッション雑誌で頻繁に掲載されているブランドが多く挙げられていることが分かる。しかし無回答以外では「特になし」という回答が65人と目立っている。
 一方のよく買うブランドとして回答があったのは、34.3%の85人で、回答がなかったのは65.7%の163人であった。名前が上がったブランドは137ブランドで、そのうちファッション雑誌で頻繁に掲載されているブランドは105ブランドで、高級ブランドやあまり馴染みのないブランドは32ブランドという結果となった。
 それでは以下に、雑誌に掲載されているブランド名とそのうちわけを見てみよう。「EASTBOY」が11人、「アニエスb」が10人、「NICECLAP」が8人、「ベネトン」が8人、「DO!FAMILY」が6人と、好きなブランドと同じ名前が上がっていた。無回答以外では「特になし」が68人、「ブランドは買わない」が12人、「ブランドでは選ばない」が5人という結果となった。
 結果として、「好きなブランド」も「よく買うブランド」もブランド名が多数挙げられていたとはいえ、無回答や「特になし」という回答が目立っていると言える。このことからは、ブランドにこだわって洋服を購入していないという若者の消費行動が伺えそうである。
 しかしこのデータからでは、「特になし」と回答した者が、量販店やワゴンセールのような全くのノーブランドでも構わないと思っているのか、認知度の高いブランドならば、特にブランドを決めずに何でも購入しているのか、または他の理由があるのかどうかを読み取ることができない。そのため、ファッション雑誌の利用率が高くなるにつれ、雑誌はカタログやマニュアル本化され、雑誌に掲載されるブランドのネームバリューに頼る若者像という私の仮説をはっきりとは確かめることができなかった。とはいえ、ファッション雑誌で頻繁に掲載されているブランドが馴染みのないブランドよりも多く名前が挙がっていることからは、少なくともファッション雑誌が若者の消費行動に与える影響力を持っているということは言えるのではないだろうか。

第4節 販売員の接客術

 これまでは、ファッション雑誌に着目してきたが、次にパーソナル・コミュニケーションに焦点をおいて、若者の流行意識を探っていきたい。まず始めに、販売員の接客の仕方から、若者の消費行動を伺っていきたい。
 販売員102人のうち、82.4%である84人が客によって商品の勧め方を変えていると回答している。その内容として、「客の年齢に応じた言葉遣いや対応の仕方」が17人、「客の性格」が13人という回答が上げられた。このことからは、客の社会的地位や性格によってアプローチにバリエーションを持たせ、より消費行動に結び付けやすい雰囲気づくりをしていることが予想される。さらに、「客の来店時のファッション」が8人、「客の好みに合わせる」が10人という回答の結果から、客の第一印象で勧める商品のテイストを変えることによって、あくまでも客の買いたい物やセンスを尊重し、補助的なアドバイスに留めていることも伺える(グラフ5・円12参照)。
 以下に、販売員の接客術を紹介しよう。
(年代別)
(客の性格別・第一印象別)
(客の好み別)
 その他にも、少数意見ではあるが興味深い意見がいくつかあった。特に、客の持っている情報量の違いを念頭に接客をするという意見を2例紹介する。
(客の情報量別)
(その他の意見)

 以上の接客例からは、店に来る客のファッション雑誌等での情報収集量や、商品知識が豊富かどうかで、販売員の対応が異なることが分かる。また、販売員との会話を頻繁にすることが、現代の若者が望んでいる「私だけの情報」というくちコミ情報の入手に繋がりそうである。「そうありたい自分」や「そう見られたい自分」になりたいという「自己実現の欲求」をかなえるためには、販売員とのパーソナル・コミュニケーションが重要な鍵を握っているようである。しかし結局のところは、
という意見に尽きるようだ。

第5節 販売員の流行意識


 それでは、消費者の消費行動に大きな影響を与えている販売員自身の流行意識はどのようなものなのか見ていくことにしよう。なお、販売員対象の調査は回収部数が106部で、しかも記述式の質問を多く設けたため、分析結果はパーセントではなく、人数によって表すこととする。
 調査対象とした販売員は106人。性別は女性が97人、男性が6人、無回答3人であり、年齢構成は最低年齢が16歳で、最高年齢は50歳で、平均年齢は24.6歳であった。なお、設問によって回答人数に多少の変動があることを了承してもらいたい。
 販売員が流行を知る情報源や経路は、「ファッション雑誌」が64人と最多なのは大学生対象の調査結果と同じだが、「その他」の中に「展示会」が6人、「店の商品」が4人、「(会社の)会議」が3人という販売員ならではの情報源が含まれていた(円13参照)。
 ファッション雑誌の購読頻度は「毎号読む」が54人、「毎号ではないがよく読む」が41人、「たまに読む」が12人、「読まない」が0人と、大学生の調査結果よりも講読率が高いことが分かる(円14参照)。そして実際に「自分も流行を取入れている」者は62人で、「自分は流行を取入れていない」のが38人(グラフ6参照)で、無回答が目立ったものの「流行を取入れている」という理由として、「お客さんに買ってもらうため」や「仕事上着ている」が23人と最も多い結果となった(円15参照)。
 一方の「流行を取入れない」という理由は、「きらいだから」が7人、「自分が着たい服とは違うから」が6人、「自分には似合わないから」が4人という結果となった。
 大学生と同様にファッション雑誌が情報源であると言えるが、大学生対象の調査結果と決定的に異なるのは、「売る側の人間として流行のファッションを着なければならない」という義務感からの流行採用が多いということだ。
 次に、販売員の周りの人々の流行採用度を、「あなたの周りの人で、実際に流行を取入れている人はいますか」という質問で尋ねたところ、「はい」と回答した者は、86人、「いいえ」は8人と、圧倒的に周囲は流行採用者ばかりであることが分かる。しかし「周りの人」の中には仕事仲間も含まれていることを考えると、この高い数値は当然とも言えそうだ(グラフ7参照)。
 また、大学生対象の調査の分析でも行ったように、因子分析を念頭においた設問6項目に回答してもらった。特にそのうち3項目を「流行追いかけ因子」とし、別の2項目を「流行反発因子」とした。また、残りの1項目は独立させることにした。しかしこれらは得点化せず、各回答人数を全回答数と比較してパーセントで示し、小数点第二以下は四捨五入した。以下にその6項目を示す。

(流行追いかけ因子)
(流行反発因子)
(その他)

 まず始めに、「流行追いかけ因子」の結果を見てみよう。「最先端の流行を身に付けることは、ステイタスシンボルになる」という質問で「全くそう思う」と回答したのが7.0%、「まあそう思う」が30.0%と、大学生対象の調査よりも高い割合である。(円16・表6参照)。「流行に取り残されるのは不安だ」という質問で「あまりそう思わない」が50.5%、「全然そう思わない」が19.8%となり、これは大学生とよく似た意識を持っていることが分かる(円17・表5参照)。「流行のファッションを身に付けている人を見るとうらやましい」では「全くそう思う」が3.0%、「まあそう思う」が25.7%となり、大学生よりもうらやましいとは思っていないことが伺える結果となった(円18・表3参照)。
 以上の結果から、販売員の流行追随意識は大学生と同様に低いと言える。しかしそれは、販売員自身がファッション・リーダーであり、他の人々からの羨望の的となる存在であると販売員自身が自覚しているからだと私は考える。販売員は全般的に見て、現状の自分の流行採用状況に満足しているのではないかと私は考えている。また、流行をステイタスシンボルと考える者の割合の高さからは、販売員が流行採用を「他人とは違うこと」を際立たせることに繋がり、流行を肯定的に捉えていることが伺える。
 次に「流行反発因子」を見てみよう。「流行はマスコミが作り出したものにすぎない。」という質問で「全くそう思う」が15.7%、「まあそう思う」が34.3%となっている(円19参照)。さらに、「流行を追いかけるのは軽薄だ」では「全くそう思う」が5.0%、「まあそう思う」が13.7%という結果となった(円20参照)。
 大学生の調査結果では、「流行はマスコミが作り出したものにすぎない」で「全くそう思う」と「まあそう思う」を合わせて72.6%、同様に「流行を追いかけるのは軽薄だ」では28.8%であったことと比較すると、販売員の結果の方が大学生の結果よりも比率が低いことから、販売員の流行反発意識の低さが分かる。
 しかし、私は販売員の流行反発意識が低いことは当然だと考える。なぜならば、販売員自身が流行の発信源であるという役割と意識を背負っているため、流行に反発するということは、自らの職業やアイデンティティまでも否定することに繋がるからである。
 さらに、流行の個性発揮という意識を見る「流行を取入れることによって、自分の個性を発揮することができる」という質問では、「全くそう思う」が11.5%、「まあそう思う」が40.3%という結果になった。大学生対象の調査結果と比較すると、同項目で「全くそう思う」と「まあそう思う」を合わせても36.0%であったことから、販売員が流行採用を個性化に繋げて考えていることがよく分かる(円21・表1参照)。
 最後に、以上に見られるような販売員の流行意識は、実際の接客の際にはどのような関りを見せているのか見ていくことにしよう。回答数106人のうち「流行を意識して接客をしている」のが85人で、「流行を意識して接客をしていない」が21人で、実際の流行商品の売れ行きは「売れている」が22人、「どちらかといえば売れている」が43人、という結果から、流行のファッションは、圧倒的に売れ筋商品であることが分かる(グラフ8・円22参照)。
 このような流行を意識した接客とは、販売員自身が流行に対して肯定的な意識を持っていることの表れであり、その接客に説得力があるからこそ流行商品が売れているという結果が生まれるのであろう。しかし、大学生対象の調査結果からは、流行を意識しない若者が大半を占めていることが明らかになった。それではなぜ、流行の商品が売れ筋になっているのだろうか。次の最終章では、現代の若者の消費行動の実態を探り、このような矛盾する調査結果の解明に乗り出すことにする。

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