第1章 流行現象の分析

第1節 はじめに

 私が流行について関心を持った理由は、現代の若者の流行採用意識に、一昔前とは違う何かが影響を与えていると考えたからである。ブティック販売員のアルバイトをした経験から、特に若い女性の多くがおしゃれに装うようになり、ファッション感覚が全体的にレベルアップしているように感じた。そこで、若者の流行受容状況の研究をする一環として、女子大生を対象としたアンケート調査を実施し、その要因は何なのか社会学的観点から考察していくことにした。

第2節 流行現象の成立過程

 流行について詳しく知るために、流行現象そのものに着目した様々な理論を紹介していくことにする。どんな流行現象にも、それぞれ発生から衰退までの展開過程がある。池内の五段階区分は、シンプルでしかも的確に展開過程を区分しているため、以下に紹介することにする(川本、1981、pp67−68)。
(1)潜在期
(2)初発期

(3)急騰期

(4)停滞期

(5)衰退期
 以上のような流行の展開過程は、特にファッションに見られる流行現象型にも当てはまっている。ファッションは、特定の集団に限られない、広範囲に波及する「開放的流行」に分類される流行現象である。これからその代表である伝播形式による分類の中の3つの型を紹介しよう(川本、1981、p34−35)。

1.一般型
 この「一般型」は、潜在期から急騰期に達するまでの速度が速く、停滞期で流行過程が終結するのが特徴である。例として流行のロングセラー化が挙げられる。

2.衰退型
 「衰退型」の流行は、潜在期から急騰期の間が非常にせまく、衰退期に入ると急激な下降線をたどり、ついには消滅してしまう場合もある。例としては、何年か前に流行したボディーコンシャスファッションが挙げられる。

3.循環型
 「循環型」の例として、現在の流行の一つでもある、60年代や70年代のファッションのリバイバル現象が挙げられる。

 これまでは流行現象に着目してきたが、私の観点は個人ごとの流行採用意識を探ることなので、流行の展開過程を担っている流行採用者について触れていくことにする。流行採用の個人ごとの差異を時間的に把握する上で、E・M・ロジャースの採用者カテゴリーを
参考にした(小山、1977、p70)。
 ロジャースは、イノベーションの伝播研究の中で、「個人によって新しいと知覚されたアイディア」をイノベーションと定義し、社会のメンバーがイノベーションを採用していく時間的な遅速によって、メンバーを次の理念型としての5つの採用者カテゴリーに分類している。
 私が調査を実施する際に参考にした川本の調査も、ロジャースの採用者カテゴリーを使用していたことに加えて、各採用者の特徴が詳しく示され、使用する際に便利であることから、私自身が実施した調査でもこの採用者カテゴリーを使用している。しかもロジャースの採用者カテゴリーは、これ以降も頻繁に登場する重要な項目である。

(1)革新者

(2)初期採用者

(3)前期追随者
(4)後期追随者

(5)遅滞者

第3節 流行現象の特質

 流行現象の中でも、特に移り変わりが激しいものがファッションである。ここで、小山の『ファッションの社会学』から、ファッションの特徴や定義を紹介したい。(小山、1977、pp32−34)
(1)美的関心の一般性

(2)服飾における世論形成

(3)時宜に適すること

(4)継続性と時限性

(5)ファッション・サイクル
(6)拘束性

(7)変化テンポの加速性

(8)ファッションの飽和度

(9)螺旋的(スパイラル)進行

(10)欲求不満の補償作用

 ところどころ重複する箇所もあるが、さらに、川本の『流行の社会心理』からの流行の特質も紹介したい。第一点は、最新性である。従来からの行動様式や思考様式とは異なる新奇性を、集団や社会のメンバーに知覚させる必要がある。
 第二点は、一時性である。流行は長期間に渡って普及してしまうと、第一点目の「最新性」が失われてしまうからである。さらに今日では、マス・メディアによる情報サイクルが短くなり、人々は提示された新しい様式についての情報を、次々と消費する傾向になっている。
 第三点は、流行は、その時々の社会的・文化的背景を反映している点である。とりわけ多勢順応型の日本人は、その時の社会情勢や文化、価値観に影響されやすい。
 第四点は、基本的様式をアレンジしていくという瑣末性である。例えば、スカート丈の長さや形の変化は、スカートを履くという基本的行動様式の範囲内での変化である。
 第五点は、流行は一定の規模を持っているという点である。性別や年齢、社会的条件等によって、その流行の採用者は限定されるからである(川本、1981、pp38−52)。
 この5点の特質の他にも、流行は社会的な影響力を発揮するという特質も持っている。すなわち、人々が流行を意識した途端に、流行は人々の行動や思考の様式に対して圧力をかけるのである。本来の自由意志から離れて、人々が流行を取入れなければならない状況へと導くのである。
 次の章からは、この社会的な影響力を感じながら生活している消費者の消費行動を考察していくことにする。

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