第4章 調査結果の分析と考察


1 分析結果


[1945〜1954]
[1955〜1964]
[1965〜1969]
[1970〜1974]
[1975〜1979]
[1980〜1984]
[1985〜1989]
[1990〜1994]

2 調査結果の考察


 この結果から、2つの点に注目したい。1つは、「父親」が育児に参加してほしいと希望されている状況である。
 ここに、1955年から1994年までの「父親の置かれている状況、立場の分類とその出場回数」から、「育児への参加を希望されている」という項目の内訳を並べる。
 それぞれの年代で、「父親」が最も多く出場している場面が、その時代に父親の参加を最も強く望んでいる場面といえるのではないか。そのように仮定すると、父親の役割の変化が見えてくる。
 1955年から1974年まで上位にあったしつけへの参加希望は、1975年以降参加希望が少なくなっている。これは、父親のしつけ参加は不要であると考えられていた、ということへの根拠にはならない。では、どんな意味があるのだろうか。
 1975年から79年までの間で参加希望が最も多かったのが赤ちゃんの入浴の場面である。しかし、1980年以降は参加希望が少なかったり、ない年がある。これは、父親の赤ちゃんの入浴への参加は不要であるといっているのではない。なぜならば、1980年以降の育児書の中で入浴の際に「父親」がでてくるからである。『0〜3歳〈最新〉安心育児』の中での赤ちゃんの入浴の場面では、次のように書かれている。「(赤ちゃんの入浴時間は親の都合のよい時間で。)たとえば、夜の9時になるとお父さんが帰ってくるというのであれば、それを待っていれたほうが、お母さんも楽というぐあいです。」赤ちゃんの入浴を父親が行うのは当然になっていて、お願いをする必要がなくなっているのだ。父親の役割が説明されている場面でも、一般的な父親の例として出てくるのは、入浴をさせている父親で、育児への参加をお願いをするのはそれ以外の場面になっている。『抱きしめて、語りかけて パパとママの愛情育児』のなかで、父親の役割の説明の中で次のように書いてある。「・・・赤ちゃんの沐浴(入浴)はお父さんの役割という家庭が多いようですが、おむつの洗濯をしたというお父さんや、会社の帰りにお惣菜の材料を買って、もっぱら食料係をつとめたというお父さんもいます。・・・」
 この事から考えると、子どものしつけでも、同じように、1975年以降は、参加するのが当たり前になったから参加希望が減少したのではないかと考えることができる。そして、しつけへの参加が実現されて、次に母親が協力してほしかった場面が子どもの入浴であると考えられる。
 そしてさらに一歩前進したのが、1985年から89年の間に出場している、授乳の参加希望である。それまで赤ちゃんの栄養は母乳が一番良いと考えられていて、したがって、授乳はもちろん母親の、母親にしかできない仕事とされていた。やむなく粉ミルクで育てる場合も母親が行うのが当たり前と考えられていた。それが、この間では、父親にも授乳の参加を希望している。『ひとりひとりのお産と育児の本』では、赤ちゃんの授乳をミルクで行う場合について次のように書かれている。「・・・ミルクで育てる最大のメリットは、男も授乳できるということです。・・・父親は出来るだけ家にいる時間を長くして、授乳すべきです。」また、ただ赤ちゃんにミルクを与えるだけでなく、粉ミルクを作るところから希望されているものもある。他にも、おむつ替えを希望されたり、夜泣きの対応を希望されたり、と以前と比べて参加を希望される育児の範囲が広がっている。
 1990年以降では子どもと遊んでほしいという希望が多くなっている。これは、この場面での参加希望は以前からあったが、なぜここでまた希望が多くなったのか。これは、ほとんどの育児書に父親と子どもの遊びの場面が載せられていることが理由の一つだと考えられる。以前は、父親の役割が説明されている中に子どもとの遊びについての記載が入っていることが多かったのが、現在ではコーナーの一つとして取り上げられている。今回調査対象に選んだ育児書のなかでも、1990年以降の4冊のうち3冊が父親との遊びかたをコーナーとして作っている。父親が子どもと遊ぶ時間が増えたからなのか、逆に仕事が忙しくなって、子どもと遊ぶ暇がなくなったからなのか、それとも他の原因があるのかは調査不足で分からないが、ほとんどの育児書が父と子の遊びについて書いている。
 次に2つめに注目している点について考えたい。それは、父親への様々な希望の内容である。ここに、父親が育児書の中で「希望」されている状況、立場を「父親が置かれている状況、立場の分類」から抜き出してみる。
 以上を見て、すぐ目に付くのが1975年以降、突然に父親への希望の種類が増えていることである。1975年以前までは、希望の種類も少なく、内容も育児に参加してほしい、という希望の他は、子どもとの関わりよりも母親との関わりの場面での希望が中心になっていたが、1975年以降は、子どもとの関わりの場面での希望が増えている。その内容を見ると、以前は、単に育児に参加してほしい、協力してほしい、というものだったのが、以降は、育児の「質」にまで希望が及んでいる。特に1985年から1989年の間には、「母親とは違うのが父親だから、育児もその持ち味を生かして母親との違いを出してほしい」とか、「父親は子どもに社会というものを教える大切な存在だから、父親としてだけでなく一人の社会人として接してほしい」など、父親に対する希望が多種多様なものになっている。

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