第五章 特別養護老人ホームの人々


 特別養護老人ホーム、それは介護を受ける人々の生活の場であるが、同時に寮母の職場でもある。 介護を受ける側、介護をする側の関係についてみてきたわけだが、介護をする側の寮母が、介護をさ れる側の入所者よりも強く、入所者を管理していた。入所者はこの暮らしについて、どのように感じ ているのだろう。ある寮母と何気ない会話をしていて、私がスウェーデンのサービスハウスの話をし たら、その寮母は、「そんな老人ホームだったら、私も入りたいわ。」と言った。その言葉の背後に は「この老人ホームには入りたくない。」という気持ちがあるのだ。そう思いながらも自分たちでは 何も変えようとしていない。そこには、やはり、介護が必要な弱者は我慢しなくてはならない。この 程度で十分。といった気持ちがあるのだろうか。
 寮母Bさんは、私に「もし自分だったら」と考えるように教えてくれた。もし自分が入所者の一人 になったら、排泄も食事も介助が必要で、しゃべることもできなくなったら、きっと、おむつ交換は 想像できないくらい恥ずかしいだろうし、食事で嫌いなものがあっても有無をいわさず食べさせられ 、今まで味わったことのない屈辱を味わうだろう。そのような状況に文句も言わずに生活している入 所者の皆さんは偉いと思うし、文句も言えないことが非常にかわいそうでもある。

 今回の調査では、一つの施設しか観察することができなかったが、在宅の高齢者の暮らしも見てみ たい。自分の家にホームヘルパーが来る場合、介護される側とする側の関係は、施設の場合と比較し て、相違点があるだろうか。あるとしたら、どのような点が違うのだろうか。私の予想では、ヘルパ ーにわざわざ家まできてもらっているという点で、高齢者の遠慮が顕著になると思う。その反面、自 分の家で、自分のルールにしたがって介護をしてもらえると言った融通のきく点が、高齢者にとって プラスになるだろう。

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