1章 問題関心

 

美術や創造に関心を持っている障がい[1]者を対象に、美術作品の創作活動を支援したり、作品を発表する場を提供したりするNPO法人の事業所がある。そこでは、正式な美術の教育を受けていない障がい者が制作活動を行い、評価を受けることで、加工されていない、生(き)の芸術を意味する「アール・ブリュット」の振興を目的としている。障がいを持った人が創作する作品は、知識や技術にとらわれない魅力があり、美術の世界に刺激を与えるものである。しかし、どんなに素晴らしい作品を制作する人でも、障がいを持った人は、自分で自分の作品を発信することができない。あるいは、発信しようという気持ちがない場合もある。誰かのサポートがあり、はじめて美術の世界で注目されることにつながるのだ。

この研究では、アール・ブリュット作家の作品がどのようにして、美術の世界に発信されるのかを調査する。また、障がい者の芸術表現活動支援の、余暇にとどまらせない取り組みがどのように行われているのかを明らかにしていきたい。



[1] この論文では、調査協力者の要望も考慮に入れて、「障がい」の表記を使用する。ただし、文献や資料の引用に基づく部分では、「障害」「障碍」の表記も使用することにする。