7章 考察

 

この章では、尾道の事例と高岡の事例を比較した分析を踏まえて、高岡ならではの空き家活用の特徴を考察していく。第3章で述べた通り、中川(2015)は、空き家活用を収益性、公益性、社会性の3つに分類している。高岡まちっこプロジェクトは、定住人口拡大のために活動している。そのため、3つの分類のうち、空き家活用を行うことで居住者を増やし、結果的にまちおこしに繋げることを目的とする「社会性」に当てはまる。高岡の場合、学生と連携して、空き家の活用に取り組んでいる。同じ地方都市で空き家活用を行っており、その活用に学生も参加しているという点から、今回は尾道の事例との比較を行った。

尾道と高岡を比較してみると、どちらも空き家が増加している地域であるが、その景観に大きな違いがみられた。独特な景観があり、知名度が高い尾道。その景観こそがまちの魅力である。移住する人、移住を考えている人は、尾道空き家再生プロジェクトの手厚いサポートにプラスして、そういった景観にも魅了され、他の都市ではなく尾道を選択しているといえるのではないだろうか。一方で高岡は、古い町並みもあるものの、必ずしも建て替えが困難というわけではないため、新しい建物も存在する。実際に住めば、高岡らしさやその良さ、高岡独特の家の造りが分かるかも知れないが、一般的に町並み自体は格別に優れたとまでいえる特徴が見受けられない。多くの空き家問題に悩む地方都市は、尾道のような独特で秀でた景観を持っているわけではない。むしろ、何もない地方都市のほうが多いだろう。そういった地域が尾道と同じことをしても、必ずしも成功するとは言い難く、居住者を取り込むのはむずかしいかもしれない。

 

そこで、高岡の場合、近くに富山大学芸術文化学部のキャンパスがあることに注目したのではないだろうか。高岡まちっこプロジェクトにおける学生の参加は、尾道のように遠方にある大学からの参加ではない。比較的近距離にある富山大学芸術文化学部生の参加である。大学が近くにあるため、若者が多く、活動に呼び込むにはうってつけである。若い世代の定住人口拡大に向け活動しており、プロジェクトのきっかけとなったシェアハウスも芸術文化学部学生向け「アトリエ付きシェアハウス」というコンセプトである。学生という若者をプロジェクトに取り込むことで、高岡はその空き家活用において成功へと繋げている。立ち上げ当初から学生は参加しており、プロジェクトにおいてその存在は大きい。プロジェクトとして学生の発想を尊重し、自由にやりたいことに取り組める環境となっている。イベントも学生目線のものや、学生が参加しやすい内容のものも多い。そのため、学生も意欲的に参加し、空き家やまちについて考える機会となっている。金子さんはそれまで「ボロくて汚い」という印象から「ちゃんと手を加えれば綺麗なものになる」というように空き家に対する印象を良い方へと変化させている。この変化はプロジェクトによって改修された物件やプロジェクトの取り組みがもたらした変化である。プロジェクトは、空き家に対する偏見を取り払い、空き家が持つ可能性を提示しているのだ。金子さんは空き家について自分の肌で感じたことで、空き家に住むことを決心している。空き家自らの目で見て、その可能性を感じることで、より学生たちは空き家問題に向き合い、そして新たな活用が生まれるのではないだろうか。

 

また、地域社会を舞台に活動しているプロジェクトと学生が密に関わることで、学生も地域社会との関わりを深めることができる。高岡まちっこプロジェクトでは交流会のような地域との結びつきを重視した活動が多いことがわかった。イベントには学生以外の一般の方もたくさん参加しており、地域住民をはじめ、高岡ならではの職人やまちづくりに熱意を持っている人と交流できる。そういった人との出会いもプロジェクトに参加する醍醐味である。高岡でしか出会えない人、これは高岡で活動する意義になっている。本稿で詳しく取り上げた近藤さん、金子さん、分元さんの3人の学生たちもみなプロジェクトを通じて、高岡の人と知り合えたことに喜びを感じている。そして、人との出会いが高岡のまちに対する印象に、良い作用をもたらしている。

 

プロジェクトに参加し、まちとの接点、まちの人との接点が増えれば増えるほど、学生たちのまちに対する愛着も増すのだ。「すごい高岡の居心地がよくなる。地元よりも親しみのあるまちになってる気がします」という金子さんの言葉や、近藤さんの「むしろ高岡から離れる気は全くない」という言葉からも、高岡への愛着をうかがうことができる。「高岡がすき」「高岡って面白い」というまちへの愛着は、学生のプロジェクトへの参加度を増加させ、更なる活動をもたらす。学生は、大学に在籍中の数年ほどしか活動に携われない。しかし、その数年の中で1つでも多くの活動を実行することで、プロジェクトにとってもまちにとっても大きな成果となる。

 

20166月に行われたほんまちの家2周年イベントに、在学時にプロジェクトで活動していた富山大学の卒業生の方が顔を出していた。卒業生が顔を出すということはよくあるという。大学を卒業して別の地域に住んだとしても、まちへの愛着があることで高岡のことを思い返す、卒業後も何度か訪れるなど高岡との繋がりは存在するということである。

 

なかには、近藤さん、分元さんのように卒業後も高岡に残る者、加納さんのように高岡に移住した者もみられる。近藤さん、分元さんともに「卒業後は高岡に残る」と決めていたわけではない。しかし、卒業後の進路の選択肢の1つとして高岡があり、就職活動は地元や都会に加え、高岡でも行っている。そして、縁があって高岡に就職し、現在は高岡に住んでいる。ほんまちの家の管理人として高岡に住んでいる加納さんも、たまたま研究室の調査で高岡を訪れたことがきっかけで高岡のまちと関わるようになった。そこから住民と同じ目線でまちを見たいと思い移住を決めている。

 

学生自体は、在学期間中のみの活動であり、ましてや卒業後は様々な事情で別の地に移ることが多い。だが、卒業後も高岡に足を運ぶなど、定住に比べれば弱いかもしれないが、高岡との繋がりを生んでいる。さらに、卒業後、縁あって高岡に定住する場合もある。必ずしも高岡ではないかもしれないが、居住地として選択肢に高岡が存在する。少なからずまちっこプロジェクトが影響しているだろう。学生の参加を重視した空き家活用とは、若い世代のまちに対する愛着の形成である。もちろん、尾道空き家再生プロジェクトにおいても、学生の満足度は存在するだろう。兵庫県と広島県という距離や時間、費用においては非常に大変ではあるが、学生たちは家の改修工事という、より実践的なことを行えている。実際に作業し、体験していく中で、学生たちは学びを得ることができる。時には建築士である豊田さんの夫とともに作業したりと、建築の第一線で活躍する人と協働することもある。大学に通うだけでは得られない刺激を受ける良い機会となる。何より、学生たちが協力し合って作業を進め、自分たちの手で工事を行ったという達成感は大きいだろう。それが尾道のまちに貢献できているとなればより一層学生たちの満足度や充実感は高くなる。尾道には尾道の良さがあるのだ。しかし、先ほども述べたように、必ずしも景観など土地柄自体の魅力に訴えることがしにくい地域では、その地域が持つ何らかの特徴を活かす方法が必要である。そのひとつが学生を重視し、学生の思いを実現するという高岡の空き家活用のスタイルだったのだろう。