6章 分析

 

 この章では、第4章で記したNPO法人尾道空き家再生プロジェクトと第5章で記した

高岡まちっこプロジェクトを比較し、分析していく。

 

1節 景観・知名度

尾道市、高岡市どちらも空き家が増え続けている地域ではあるが、その景観や知名度には違いが見受けられる。尾道市は、「坂のまち」として、古くからの町並みが残り、瀬戸内海に面していることもあって坂の上からみる海は圧巻である。加えて、映画の撮影地となったこともあり、観光地として非常に知名度が高い。尾道には、観光客を引き付ける独特でその土地ならではの優れた景観がある。

一方で、高岡市は駅北口から万葉線にそって商店街が続いているが、シャッターが閉まっている店もいくつある。まちなかに入ると、古い町並みは残るものの、すべてがそういうわけではなく、ところどころに新しくできた建物も見受けられる。富山県で第2の都市とされてはいるが、特別に栄えているわけではなく、突出して優れた景観があるとも言い難い。

 

2節 改修物件

 高岡まちっこプロジェクトでは、シェアハウス、ほんまちの家となる物件を実行委員が購入している。運営において発生した料金で徐々に回収しているものの、購入となると、その費用は実行委員負担となる。荒井さん、服部さんはそれぞれ購入した思いについて「覚悟なんてありません。私たちが動けば高岡が変わるっていう思いだけです」「覚悟・見込みは特にありませんでした。高岡市内の典型的な古民家だったので活用してみたいという期待はありました」と述べている。高岡を変えたいという思いや空き家を活用してみたいという思いがあっての購入、行動である。「まちのために、空き家という資源を活かしたい」という考えは、尾道の代表である豊田さんも同様に抱いている。こういった「まちの問題を自分が何とかしたい」という自発的な行動がどちらのプロジェクトにおいても共通しており、それが結果的に成功に繋がっている。尾道空き家再生プロジェクト、高岡まちっこプロジェクト、どちらもいくつもの物件を改修している。

しかし、その改修された物件には違いが見受けられる。尾道で改修されている物件は、貸家や個人宅であり、学生が手を加えているものの、その使用目的、使用する存在に学生が考慮されていない。高岡の場合、学生向けシェアハウスやY邸など最初から学生が使用すること、学生が住むことが目的で改修されている。物件は実行委員が購入したもの以外に、所有者からの依頼によるものや、Y邸のように学生側からの依頼によるものなど様々である。

 

3節 学生参加

 尾道空き家再生プロジェクト、高岡まちっこプロジェクトどちらのプロジェクトにおいても、学生が携わっている。しかし、その参加の仕方には差異がみられる。

 

1項 参加の動機

尾道空き家再生プロジェクトに参加している大手前大学は、「現場に出かけ、その地域の人と交流し協働する」という社会体験教育として、様々な地域で実習を行っており、尾道での活動もその一環である。もともと尾道のプロジェクトとして、学生と協働でしようとしているというよりも、大学側からプロジェクトへの協力を要請している。大学として学生に経験の場を提供しているのだ。参加者も大学側から選ばれた学生であり、その点からも大学側が意図して行っているカリキュラムの一環であることが読み取れる。また、大学としてプロジェクトが誕生した当初から参加しているわけではない。2009年からの参加であり、2007年のプロジェクト誕生から2年経ってからの参加である。

 一方、高岡まちっこプロジェクトの場合は、第5章第4節に記したように、実行委員が学生のアイディアを吸収したいという思いを持っており、実行委員側から大学に協働を働きかけている。実行委員がワークショップを企画し、学生を募集しているのである。このワークショップが学生参加のきっかけとなっている。プロジェクトとして学生の参加を重視していることがわかる。そのため、立ち上げ当初から学生が携わっている。初めは、担当の教員がおり、授業のような形であったというが、現在では大学とは切り離された活動となっている。学生たちも、自発的にプロジェクトに興味を持って活動に参加している。

 

2項 活動場所との距離

 尾道で活動に参加しているのは大手前大学のメディア・芸術学部である。同学部は、兵庫県西宮市にキャンパスがある。尾道まで、約240qあり、車で3時間弱かかる。大学から活動場所である尾道は、非常に遠い。尾道での活動の際は、金曜の授業終了後に移動し、尾道に宿泊している。移動費と移動時間で、活動を行うのに膨大なお金と時間がかかってしまう。また、その距離から頻繁に活動に参加することができないため、活動頻度は月に1回程度となっている。そのため、第4章第6節で挙げたような課題も浮上してきていると思われる。

 高岡の場合は、高岡に芸術文化学部のキャンパスがあるため、その周辺に学生が下宿している。学生は、活動場所である本町に容易に行くことができる。大手前大学とは異なり、お金や時間の心配をする必要がない。そのため、コンスタントに活動に参加でき、ほぼすべてのイベントに学生が携わっている。


 

 

3項 参加の度合い

 尾道のプロジェクトにおける大手前大学の参加は、主に改修作業に関わるものである。月に1度活動しているが、壁の塗装や裏門制作など、どれも実際の工事の部分である。ワークショップの企画や運営を行っているが、そのワークショップの内容も、本の家での体験作業であった。改修工事は積極的に行っているが、その改修を行う物件の使い道を考える段階での学生の参加は見受けられなかった。

 高岡では、壁塗りや大掃除、障子張りなど体験作業のワークショップも行っているが、ほとんどは改修する物件の利用方法を決めるためのワークショップである。そのワークショップにも、学生は参加している。一般の参加者と学生、実行委員が皆で話し合い、活用方法を決めることができる。ワークショップでアイディアを出し合って活用方法を決め、工事を経て、自分たちの思い描いたものが形となる。そのため、学生のワークショップへの参加度は高い。また、学生自身がプロジェクトメンバーとして、ワークショップの企画や打ち合わせを行い、ワークショップの雰囲気がよくなるよう工夫をこらしている。

加えて、ワークショップ以外でも、学生の活動参加が見受けられる。分元さんのデザインの力を発揮したいという思いを叶えるチラシやのれん、HPのデザインや、金子さんの空き家に住みたいという思いを実現したY邸のプロジェクトである。Y邸の場合は、空き家があって使い道を考えたのではなく、シェアハウスにしたいという目標が事前にあったうえで、空き家を探している。学生が空き家を求め、空き家に住みたいという思いを形にすることもできているのだ。その他のイベントも、学生が一から企画していたりと、その参加の度合いは非常に高くなっている。学生の意見や発想がプロジェクトとして重視されているのだ。