3章 3つのキーワードで見る空き家活用

 

1節 「収益性」

1項 収益性が上がる活用

中川(2015)は、収益性が上がる空き家活用は個人ベースでの活用になるとしている。具体的にはシェアハウス、オフィス、カフェやレストラン、雑貨店、ギャラリー、アトリエ、ゲストハウス、教室等の例を挙げている。中でも、主に女性をターゲットとし、店の雰囲気が重視されるカフェなどの飲食店への活用が多いという。早い時期から「古民家カフェ」というジャンルがあり、昭和3040年代ほどの古い建物が注目されている。こうした活用は、おもしろいことに一軒登場すると、次に続きやすく何店舗も現れるという。そのため、最近では、古い建物をあえて使いたいという人も多く、多少駅から遠くても雰囲気のある隠れ家風立地が人気である。貸す側と借りる側をうまくマッチングできれば、双方にとってメリットとなり、空き家問題の解決に繋がる。大都市圏や政令指定都市レベルの街はもちろん、地方都市でも立地次第では活用できる。この手の活用には元々の用途にこだわらず、一度常識を捨てた上でその場に合わせた柔軟な発想が必要であるとしている。

 

2項 活用事例

寿司屋からカフェに活用(神奈川県横浜市)

元々、所有者夫婦で寿司屋を営業していたが、都合により閉店し、内装を変えてほしくないという夫婦の要望から長らく空き店舗になっていた場所がある。そこを以前からカフェ経営を行うことを夢見ていた女性が借り、現在はカフェとして利用されている。女性は、一時はコンサルトに相談し、他の場所に開業する予定であったが多額の出費に疑問を持ち、この空き店舗に目を付けた。内装はそのままにし、寿司屋のカウンターはもちろん、寿司桶等も焼き菓子をとる籠として利用。ネタを冷やしていた保冷ケースは、プリン等の冷たい菓子を冷やすために利用されている。4畳の小上がりもそのまま使われており、落ち着くと評判になっている。

 

銭湯からボルダリング2ジムに活用(東京都大田区)

東京工業大学の近くの商店街にあった旧粟の湯は、現在ボルダリングジムとして使われている。登ることが重要なスポーツであり、高さがある空間が向いている。そこで、天井高が6mある銭湯が生かされた。通常これだけ天井が高い建物を新築しようとなると、一般的ではないだけに費用がかかる。しかし、この事例は、もともとある建物を生かし、費用を抑え、無理なく利用できている。

 

 

 

2節 「公益性」

1項 公益性のある活用

中川(2015)は、活用はできるものの、大きな収益を上げられるほどの活用が難しいという場合は、公益性のある活用が適しているとしている。大都市圏で駅から遠い等で利便性が低い、地方都市で商業的な利用には厳しいが周囲にはある程度の人口があるといった場合に有効で、不特定多数がふらりと入るような施設ではなく、そこを目的として周囲の人が訪れる場所としている。具体的にはデイサービスやグループホームなどの高齢者向け施設、放課後等デイサービス、地域のために開かれたカフェやスペースが挙げられる。地元の自治体やNPO法人などの活動の一環として行われることが多い。場を提供する側は利益目的ではなく、社会貢献を第一に考える必要があるのだ。日本全体として高齢者向け施設の不足と高齢者の介護の場を施設から地域・自宅へと移行しようという動きがあるため、現状では、高齢者向け施設のニーズが高い。しかし、高齢者や子どもを対象とした施設は1020年後も同等のニーズがあるかわからないため、新たな施設が生まれにくい。また、新たに施設を作るとなると莫大な費用もかかる。そこで、空き家等の既存の建物を使用することが、無駄遣いを省き、社会に貢献するというのだ。

 

2項 活用事例

大分県豊後大野市の事例

大分県豊後大野市では地元の養護老人ホーム「常楽荘」が主体となり、第二の在宅を作ることをテーマとして事業に取り組んでいる。同ホームは以前から一時的な緊急入所等の受け入れを行っていたが、施設長は「適切な生活支援体制を整えれば、入所や介護保険制度に依存せず、在宅で生活できるのではないか」「自立して生活した方が本人の生きる力を生かすことになるのではないか」という思いがあった。そこで事業では3軒の空き家(うち1軒はホームの空室)を用意、そこに介護放棄、虐待案件、在宅復帰に向けて調整中等の様々な事情を抱える入居者が生活している。入居期間は人それぞれで、入居者の生活支援は同ホームの職員が行っている。この事業には市の高齢者福祉課、地域包括支援センター、自治委員、民生委員、豊後大野市民病院などが関わっており、空き家利用においては地域で運営委員会を作り、地域住民からの理解を得たうえで活用をしている。うち1軒では地域の自治会に参加してほしいとの要望があり、入居者が地域のお祭りに参加するなど良好な関係を築いている。事業は順調で、現在はまだ空き家にはなっていないが、いずれ空き家になる可能性が高い家を利用することも検討されている。

 

3節 「社会性」

1項 社会的な活用

中川(2015)は、前述した2つの活用方法に加え最後に、人口減少が社会問題化している地域でその問題解決を重視した空き家活用があるという。これは他の2つの活用に比べ、既存の建物の使い方を考慮するというよりは、過疎化が進む地域等で人を呼び戻す戦略としての用いられる空き家活用である。「空き家活用=まちおこし」であり、空き家の活用次第で地域の将来が左右される。農山村、地方都市などその中心市街地で行政や民間の団体が主体となり、行っている空き家バンク的な活用が該当する。地域活性化が主であるため、ここでも利益等のお金の計算は重要視されていない。取り組み次第で成果に差が生まれるため、そのあり方が問われる活用であるとしている。

 

2項 活用事例

広島県尾道市の事例

尾道は観光地だが、坂のまちとして階段が多く、空き家が増えている。空き家バンクが2002年に発足して以来、市役所主体で行われていた。多少の成果は上げたものの、2009年まで開店休業状態だった。それが動き始めたのはNPO法人尾道空き家再生プロジェクトが市から営業を受託して以降である。2007年にNPOの代表である豊田雅子氏が通称「尾道ガウディハウス」を購入し、改修し始めたことがきっかけでプロジェクトが誕生。ガウディハウス再生、尾道空き家談議や尾道建築塾などのイベントというように様々な活動を開始。徐々に人を呼びこんでいる。2008年にNPOとなり、2009年には市から空き家バンクの仕事を受託した。多くの空き家物件を改修しており、再生した空き家は10軒余にも及ぶ。空き家バンク登録者は700人超、移住した人も70人を超す。NPOでは、空き家情報だけでなく、知恵や労力面でも手助けを行っており、従来の空き家バンクに比べ、移住を決断しやすいという。尾道の活動の成功要因として、面倒見の良いNPO、様々なイベントがあり参加しやすいこと、豊田氏がうまく人を巻き込んでいることが挙げられる。さらに豊田氏は建物が好きで、どんなにボロボロの空き家でも素敵な部分を見つけ褒め、愛情を込める。また、豊田氏はデザインを大切にする人で、どんなチラシでもプロに依頼し、若者の目を引くように工夫している。

 

島根県雲南市の事例

雲南市は人口4万人の山あいの町で、2004年に6つの街が合併して誕生した。何もしなければ人口が減っていく地域であり、市の誕生直後から定住促進に力を入れてきた。雲南市オリジナルの施策として、「農地付きの空き家制度」がある。その農地の広さは家庭菜園から兼業なら農業もあり得るくらいまでと幅広い。2012年以降現在までに7軒が売買され、ストックは12軒ある。取引は売買のみで、田んぼ、畑、その両方と価格的にも多様に準備されている。空き家自体では30軒ストックがあり、こちらは売買はもちろん賃貸も可能である。この取組み以外にも、就農・就業支援、無料の職業紹介所の設置、地域に定住協力員を配置するなど様々な事業を展開している。さらに、不動産事業者など関係ある団体との連携も行っている。

 

4節 社会的活用事例としての高岡まちっこプロジェクト

本稿で調査対象とする高岡まちっこプロジェクトの事例は、収益性、公益性、社会性の3つの活用のうち社会性に属する活用であるといえる。

高岡まちっこプロジェクトは、荒井里江さん、服部恵子さん、國本耕太郎さん、桶川淳さんの4人が実行委員を務めている市民の団体である。4人の職業はそれぞれ住宅ビルダー、不動産鑑定士、漆器卸売業、銀行員とバラバラであり、単一の事業者による運営ではない。プロジェクトには大学生も多く参加しており、様々な職業や年齢の人が集まっている。

また、「まちっこPJの目指すところは定住人口拡大にある」(服部2014)とあるように、その地域の定住を促進する目的でプロジェクトが動いている。これは人を呼び込むための活動であり、「空き家活用=まちおこし」の図式が成り立つ。すなわち、まちっこプロジェクトの活動は社会的な活用にあてはまる。