第3章 富山県における撮影
本研究では、富山県内にある2つのフィルムコミッションへのインタビュー調査を行った。なお「富山ロケーションオフィス」では映画作品の撮影誘致、「富山フィルムコミッション」ではCMなどの撮影誘致を中心に活動しているため、分析は「富山ロケーションオフィス」へのインタビューを軸とする。まず映画の撮影誘致に関する取り組みや実際に撮影に至るまでの過程を明確にしたうえで、富山県で撮影が行われた作品の観光PRに焦点を当てていきたい。
第1節 概要
<富山ロケーションオフィス(以下TLO)>
発足 |
2011年7月1日 |
事務局 |
富山県観光・地域振興局観光課 〒930-8501 富山市新総曲輪1番7号 TEL 076-444-6789 FAX
076-444-4404 e-mail info@location-toyama.jp |
活動内容 |
1.映画会社・制作部への情報発信・提供 2.シナリオハンティング(@)、ロケーションハンティング(A)、ロケへの同行 3.ロケに当たっての支援 4.県内各フィルムコミッションでアテンドしている場合の後方支援 5.各種手続きに関する支援 6.ロケ地情報の公募 |
インタビュイー
富山ロケーションオフィス(富山県観光・地域振興局観光課内)
ロケーションコンシェルジュ
木寺彩乃さん
<富山フィルムコミッション(以下富山FC)>
発足 |
2011年6月2日 |
構成団体 |
富山市、富山商工会議所、富山青年会議所、富山市ホテル旅館事業者協同組合、市内観光協会等 |
事務局 |
富山市観光振興課 〒930-8510 富山市新桜町7-38 TEL 076-443-2072 FAX
076-443-2184 |
活動内容 |
1.ロケ地情報の提供 2.ロケーションハンティング等の案内・立会い 3.各種使用認可手続きのアドバイス、協力 4.ボランティアエキストラの紹介 5.各種関連事業者や、宿泊施設の紹介 6.その他、ロケーションに関する相談 |
インタビュイー
富山市役所観光振興課副主幹
伊藤宗司さん
富山市商工労働部観光振興課企画係主事
塩原拓さん
第2節 撮影誘致の実態
一般的なフィルムコミッションの活動の中心は、撮影の誘致と撮影のサポートである。映画に限らずドラマやCMなどでも同様に、「このような場所はないか」「このような映像を撮影するのだがいい場所はないか」といった依頼が制作側から来る場合、フィルムコミッションによるプレゼンが始まる。
富山県で映画作品を中心に撮影誘致を行っているTLOも、基本的な活動内容は他県のフィルムコミッションと変わらない。まず依頼が来てロケ地のプレゼンを行うが、そのプレゼンによってロケ地を探す役割である制作部がロケ地の絞り込みをする。制作部は実際に候補地に訪れるが、その際にTLOも同行して、直接的なプレゼンを行う。そして実際に候補地を巡った制作部が、今度は監督へプレゼンを行い、気に入られたら監督をはじめとした各部門のトップによるメインロケハン(ロケーション・ハンティング)が行われ、それぞれが納得した上でロケ地として決定する。ロケ地の決定は撮影に入るおよそ1、2か月前にされる。決定後はTLOにスケジュールが送られ、撮影のサポートを行う。
TLO独自の取組みとしては、撮影誘致の営業を行う際用いる専用のガイド本がある。以前はパワーポイントで作られた資料を用いていたが、1つの冊子にしたことで読み物として使用できるためよく読み込んでもらえるようになった。他県のガイド本が撮影地の写真ばかりを載せただけのものなのに対し、TLOのガイド本は地元の映画制作会社であるタカオカンドリームに協力してもらい、制作側がどのような情報を求めているかを考慮して内容が練られたそうだ。制作側にとって役立つ情報が載った非常に魅力的なものであり、撮影地富山のプレゼン資料として、誘致に非常に役立つものになっていることが伺える。
フィルムコミッションの対応に関する評判や噂は、業界内では良くも悪くも広まりやすい。仕事の規模に関わらず1つ1つの対応を素早く丁寧にこなし評判を上げ、後の仕事にも繋げていくことが重要だという。また撮影誘致が成功しなかったとしても、その時の縁で次回の撮影誘致が成功することがあるため、これまで付き合いのあった制作関係者には特に積極的に営業を行っているそうだ。ここから、人脈と業界における撮影情報を素早くキャッチすることが、撮影誘致を成功させる要因の1つなのではないかと考えられる。次の作品の情報をキャッチし、それに応じた撮影地のプレゼンの準備をいち早く行うことが重要であるように感じられた。
図3-1 『富山2015ロケーションガイド』
<ロケーションガイドに盛り込まれている情報>
・エリア別の撮影スポット
富山駅、新高岡駅、黒部宇奈月温泉駅の3つにエリアを分け、実際に撮影が行われたスポットと作品名が掲っている。また各エリアにある博物館や美術館なども紹介されている。各エリアで撮影を行なう際、協力を要請できるフィルムコミッションや観光協会などのスタッフの写真が掲載されている。
・富山県のお祭り
・富山県の四季の花
・ジャンル別の撮影スポット
ラブストーリー、アクション、サスペンス、時代劇といった主要ジャンルに分け、様々なニーズに合わせた撮影スポットを紹介している。
・冬の富山県でのロケ対策(服装の紹介)
・富山県の方言
・富山県の偉人
・富山県の美食、美酒
・富山県の鉄道
・問い合わせ先一覧
市役所、観光協会、警察署、消防署、病院、公共施設、撮影関連会社、宿泊施設、レンタカー、弁当屋などの店舗名と住所、電話番号が市町村別に掲載されている。
・富山県の気象データ
第3節 観光PR
第1項 作品の分類
TLO、富山FCへのインタビューでは、県内で撮影が行われた映画やテレビドラマ、テレビアニメ作品名がいくつも挙げられ、富山県における撮影実績を知ることができた。調査を進めるうえで、まずその作品を自然系、もしくは町・文化系の2つに分類する。自然系は富山県の自然をテーマに制作された作品、町・文化系は富山県内の市町村で撮影が行われた作品、または富山県の文化をテーマに制作された作品である。第7章では、町・文化系作品を対象に考察を進める。これはもともと商品価値のあった自然のグリーンツーリズムではなく、従来あまり商品価値のなかった町や文化が、映像メディアによってどのような効果が生じたのか調査するためだ。また自然系の作品は撮影の際行政を介する必要があるが、町・文化系の作品の撮影は行政を介さず制作側と地域が直接関わることがある。そのようなフィルムコミッションを介する作品と、そうではない作品の撮影を比較したいと考えたからである。
以下はインタビュー内で挙げられた、富山県で撮影が行われた作品の概要と、その撮影または公開・放送年表である。
自然系
・『剱岳点の記』
・『春を背負って』
町・文化系
・『ゆるゆり』
なもりによる日本の漫画作品。テレビアニメは3期にわたって放送された。
・『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』
富山地方鉄道運転士のドラマを描く、『RAILWAYS』シリーズ第2弾。
・『おおかみこどもの雨と雪』
細田守監督による第2作目の長編オリジナルアニメーション映画。
・『あなたへ』
2014年11月10日に死去した高倉健最後の主演日本映画。
・『脳男』
首藤瓜於の小説を原作とした日本映画(PG12指定)。
・『アオハライド』
咲坂伊緒のベストセラーコミックを実写化した日本映画。
・『恋仲』
フジテレビ系の「月9」枠で放送された日本のテレビドラマ。
・『人生の約束』
第1章第2節参照。
表3-1 富山県における撮影実績
次に町・文化系作品を筒井(2013)に基づく類型(表2-2)で分類する。
表3-2 筆者の類型分類(作品分類済)
本研究で挙げられた町・文化系作品の中には、A-0型、B-0型に当てはまるものはなく、A-1型には『おおかみこどもの雨と雪』、『脳男』、『アオハライド』の3作品が該当した。『おおかみこどもの雨と雪』は、主人公たちの移住先の田舎のモデルが、細田守監督の出身地である上市町と隣の立山町となっている。同じくA-1型の『脳男』も富山県が主要なロケ地として選ばれ、大規模なカーチェイスや爆破シーンが撮影された。『アオハライド』は撮影の約7割が富山県で行われ、地元の学校や駅、公園などがロケ地となった。しかしこの3作品は、作品中でロケ地が富山県であると明示されておらず、『脳男』と『アオハライド』に至っては物語の舞台は全く別の場所になっている。富山県民であれば映像を見ただけで富山県がロケ地になっていると把握できるかもしれないが、富山県外の人々は物語の舞台で撮影が行われたと誤認してしまうかもしれない。
B-(1)2型には『ゆるゆり』、『あなたへ』、『恋仲』の3作品が該当した。『ゆるゆり』と『恋仲』は架空の地名もいくつか登場するが、作品中で舞台が富山県だとはっきり明示されている。『あなたへ』も主人公の旅の出発点が富山県だと明示されており、富山県以外にも実在の地名が多数出てくる。
B-3型には『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』、『人生の約束』の2作品が該当した。『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』は富山地方鉄道運転士のドラマを描いており、全編富山ロケを敢行した作品でもある。『人生の約束』は地域の祭りを取り上げており、その作品内でのウェイトは高い。この2作品は作品中で地名が明示されるだけではなく、ストーリー内容と地域の関連性が非常に強い。第2項の表3-3を見ると、ロケ地ガイドやロケ地ツアー、作品関連の取り組みも盛んに行われており、他の類型と比べても富山県側の力の入れ方の違いが分かる。
第2項 富山県内の作品関連の取り組み
フィルムツーリズムが成立するためには、まず観光客にロケ地がどこにあるのかを知ってもらわなければならない。地元の人間であれば映像を見ただけでロケ地の場所を把握できるかもしれないが、その土地の知識が乏しい者にとっては地名を調べるだけでも一苦労だ。中にはロケ地の特定が容易でない作品もあり、実際にはロケ地ではない場所をロケ地だと誤認することもある。そこで必要となってくるのが、ロケ地ガイドだ。ロケ地ガイドとは、作品に関する情報と撮影が行われた土地が記載されたパンフレットのようなものである。地図上にロケ地を重ねて紹介するマップ形式がほとんどであるが、作品とは特に関係ない富山のおすすめスポットやグルメ、その土地へのアクセス方法、観光に関する問い合わせ先などの情報が載っているものもあり、作品をきっかけに富山県に関心をもつ観光客の存在を非常に意識している面が伺えた。
また作品関連のグッズや発行物の作成、イベントの開催も重要な観光PRの1つである。TLO、富山FCをはじめとしたフィルムコミッションや地元自治体も、現在まで様々な取り組みを行ってきたそうだ。取り組みはロケ地を巡るロケ地ツアーから、企画展、オリジナルグッズの販売まで多種多様である。中にはストーリー内容を色濃く反映した、作品色が非常に強い取り組みも存在する。
以下は町・文化系作品のロケ地ガイド、ロケ地ツアー、その他取り組みをまとめた表である。「ロケ地ガイド」は雑誌の特集ページなどに掲載されたマップ等を含むと、ほぼ全ての作品が「○」になってしまうため、独立して発行された紙媒体限定とする。「ロケ地ツアー」は富山県内のロケ地で行われたものに限り、富山県外のロケ地のみを巡るツアーは含まないものとする。
表3-3 町・文化系作品取り組み