1章 本研究について

1節 問題関心

 今日、話題になった映画やテレビドラマのロケ地を訪れる観光客が増え、そのような観光を指す「フィルムツーリズム」という言葉が定着してきている。これは作品がヒットして注目を浴びることで、それらのロケ地となった場所への注目や関心が高まり、実際に訪れようとする観光客の誘致につながっているからだ。また観光事業や地域のイメージ戦略の一環として、映画やテレビドラマの撮影を積極的に誘致しようという動きも各地で見られ、全国で誘致合戦が繰り広げられている。富山県も例外ではなく、「富山ロケーションオフィス」や「富山フィルムコミッション」といった撮影誘致を目的に活動している団体が存在する。このように映画やドラマのロケ地となることは、観光の新たな情報発信や地域復興の面で高く評価されており、観光事業による地域活性化の有効な手段として、これからますます重要になってくると考えられる。

本研究では、上記のような作品の撮影、それを利用した観光PRに関わる人々への調査を通じて、富山県におけるフィルムツーリズムの実態について明らかにしていく。

 

 

2節 調査概要

 本研究では、富山県内における撮影誘致、観光PRの実態を明らかにするため、「富山ロケーションオフィス」、「富山フィルムコミッション」へのインタビュー調査を行った。実際に富山県で撮影が行われた作品について調査、分析し、ロケ地となることによってどのようにフィルムツーリズムへと繋がっていくのか、明らかにしていきたい。

また今回は、富山県射水市新湊地区で撮影が行われ、制作側と地域が密接に関わった映画『人生の約束』を調査作品とした。撮影がどのような過程で誘致され行われたのか、どのような情報発信やイベントが行われたのか、撮影前後で地域にどのような効果がもたらされたのか、地元団体や地域の人々へのインタビューを通して明らかにする。そこから作品の持つ地域性がどのように関連してくるのかを重視し、地域密着型作品が持つ可能性について考察を進めていきたい。


 

【調査作品】

『人生の約束』

監督

石橋冠

 

キャスト

竹内豊、江口洋介、西田敏行、松坂桃李、優香、小池栄子、三保純、市川実日子、高橋ひかる、立川志の輔、室井滋、柄本明、ビートたけし

 

公開日

201619

 

配給

東宝

 

ストーリー

会社の拡大にしか興味の無いIT関連企業CEO・中原祐馬(竹野内豊)の携帯に、共に起業しながらも会社を追い出す形で決別してしまった、かつての親友・航平から、ここ数日、何度も着信があった。胸騒ぎを覚えた祐馬が航平の故郷へ向かうと、そこで待っていたのは予期せぬ親友の死だった。町内会長の西村玄太郎(西田敏行)に話を聞くと、病に冒され余命僅かだった航平は、最後に曳山につながりたいと故郷の土を踏んでいた。事態を飲み込めない祐馬が線香をあげようとするも、航平の義兄・鉄也(江口洋介)は会社を追い出したあげく、航平からの電話を無視し続けた祐馬を許すことが出来ず、殴りかかってしまう。

故人を惜しむ場が荒れるのを防いだのは、航平の忘れ形見ともいえる娘・瞳(橋ひかる)の落ち着いた対応だった。かつての親友に子どもがいたことに驚く祐馬は、自分に何か出来ることはないかと瞳に聞くと、物憂げな瞳が重たい口を開いた。「西町から四十物町の曳山を取り返してくれますか?」。航平の故郷・富山県の新湊にある四十物町(あいものちょう)では、前代未聞の曳山譲渡に町が揺れており、約束を反故にした新興の西町に、航平は最期を迎える瞬間まで抗議をしていたのだ。一方、東京では祐馬の会社が不正取引の疑いで強制捜査を受け、祐馬は会社や仲間だけでなく、全てを失ってしまうことに。1人になってしまった祐馬だったが、たった1つだけ残ったもの、瞳との約束を守るため再び新湊に向かうと、そこでは祭りがすぐ間近に迫っていた。(映画『人生の約束』公式サイトより)