第二章 先行研究

第一節   SNSの特殊性

 SNS依存について考える前に、まずSNSの働きについてその特徴を見てみよう。加藤(2013)は、SNSを「既存の繋がりを維持・強化したり、新たな繋がりを構築したりする特性を持ち、ユーザー間の繋がりやそこでのやりとりがサービスの価値となって         いる会員専用のウェブサービス」と定義している。SNS上では世界中の人とコミュニケーションをとることが可能であり、離れていても、何をしていても簡単にすぐに誰とでもリアルタイムで繋がることができる。また、面と向かっては言えないことでも、SNS上では発言できたり、抵抗なくやりとり出来る人が多い。西出(2012)は、SNSのコンセプトを次の二点にまとめている。一点目は、オンライン・コミュニティでの「人々のつながり」やコミュニケーションを促進するために、現実の社会関係を基礎にしていることである。現実の社会関係を基礎にコミュニティの形成を行うことで、匿名性やメンバーの不特定性をある程度排除し、一定の「信頼性」を担架することによって、コミュニケーションの促進をはかろうとするものである。二点目は、その現実の社会関係をオンラインで可視化するなど、オンライン・コミュニティにリアリティを持たせ、コミュニケーションを促進するための各種機能を実装した、特徴的なオンライン・ツールを発展させたことである。例として、LINEにおける無料通話やグループチャット、Twitterにおけるいいね!やリツイート機能などが挙げられる。このような仕組みは、現実の社会を、相手の顔が見えにくいオンライン・コミュニティ上に射影し再構成するために生み出された工夫であり、オンライン・コミュニティにおける個人やその社会関係に一定のリアリティを持たせている。また、西出(2012)は考察として以下のようにまとめている。上記で述べられたのは、SNSそもそもの出発点となったコンセプトであり、今日ではそのコンセプトに広がりが生まれている。しかし、いずれのSNSと呼ばれるサービスにおいても、当初のSNSのコンセプトに基づいて開発されたオンライン・ツールの特徴を何らかの形でコミュニティ形成に引き継いでいるといえる。つまり今日のSNSは、コンセプトの内容を拡張させつつも、一定の共通する要素を備えたオンライン・ツールを用いて形成された各種のオンライン・コミュニティの総称であると整理することができる。このように捉えれば、SNSというコンセプトを具体化するために開発された一連のオンライン・ツールの機能が当初の目的や用途を越えて様々なオンライン・コミュニティの形成に、汎用的かつ有効に機能しえたことが、今日の「SNS」への注目と様々な場面での利用の広がりにつながっているといえる。西出(2012)による考察から、日々アップデートされる多様かつ便利なツールにより、今日でのSNSが本来の機能を超えてユーザーにとって特別な役割や意味を持つようになったことが、SNSとの関わり方や利用の仕方を変え、生活においてSNSが占める割合が大きくなっていったと考える。

 

                                       

                   

第ニ節 「SNS疲れ」の問題

 「SNS疲れ」とSNS依存との関係性を見出し、SNS依存について調査するにはまず、SNS疲れについて分析することが必要であると考えた。デジタル大辞典は、SNS疲れを「SNS内でのコミュニケーションによる気疲れ」としてSNSの長時間の利用に伴う精神的・身体的疲労のほか、自身の発言に対する反応を過剰に気にしたり、知人の発言に返答することに義務感を感じたり、企業などのSNSで見られる不特定多数の利用者からの否定的な発言や暴言に気を病んだりすることを指すと説明している。つまり「SNS」疲れとは、身体的疲労だけではなく精神的疲労も伴い、自身が発信を行っていなかったとしても陥る可能性があると言える。

加藤(2013)は、「SNS疲れ」に繋がるネガティブ経験の実態について高校生15名への

面接結果を行った。(主な対象メディアはmixi,GREE)そこで、「発信者」「受発信者」に加え、「受信者」の3つのネガティブ経験を「SNS疲れ」が引き起こされる主な理由であることを明らかにし、3つのネガティブ経験に伴う否定的感情として22種類の感情が存在するとしている。具体的なネガティブ経験として以下のように述べている。「発信者」では「コメント欲求」「発信内容への気遣い」「個人情報の漏洩」の3点、「受発信者」では「友人・知人とのやりとり」「友人・知人とのすれ違い」「リンク申請」「見知らぬ者とのやりとり」「言い争い」の5点、「受信者」では「誹謗中傷発言」「誇示的発言」「多量の発信」「悲観的発言」「見知らぬ者からの接近」「業者からの宣伝・勧誘」の6点であった。その上で、「SNS疲れ」の定義として、青少年は自身の発信に対する友人・知人からの反応を過剰に意識したり、他者のSNS上の発信に対して敏感でなければならないと考えている為、それらがいわゆる「SNS疲れ」に繋がるとしている。高校生はこのようなネガティブ経験からSNS疲れを感じているにもかかわらず、多くの人がSNSを継続していることに対して、既存の友人・知人とのやりとりの為にSNSを利用している人が多く、SNSを退会することにより、「現実世界で交流のある者」との関係悪化や断絶を恐れていると述べている。また、高校生がSNSを利用する理由としてある、他者を入れないで絆で関係が作られる「閉鎖的活動」について現在はより多くの者が行っているとし、高校生はSNSでのやりとりにより既存の友人・知人との「閉鎖的活動」を活発化させ、親密性を高め合っているとしている。このことから、SNS利用に伴うネガティブ経験は、高校生の間でより広まると予想し、身体的・精神的負担を抱いたままSNS利用を継続し、結果として、学校生活に悪影響が出ると考察している。加藤(2013)の調査により、SNS疲れとSNS依存とのつながりが見られた。SNSの特性から、SNSの利用が多い人は日常生活や精神上におけるSNSへの比重も高く、その分より多くのSNS疲れを経験していると考えられる。さらにSNS疲れに加え、やめられないといった要素がプラスされることによってよりSNSへの執着性を高め、依存につながると仮定する。また、高校生の分析結果において、SNSをやめられない要素として「人間関係的要素」が強いことが分かった。橋本(2013)が行った調査によると、若者におい                                                                                      

                    

mixiFacebookTwitterなどのソーシャルメディアの利用時間が長い「きずな依存」に分類される依存者が多いことが分かった。様々な利用サービスと、依存度との関連を分析した結果も、ソーシャルメディアの利用が最も依存度と関連が深いという結果が出ている。また、橋本(2010)が行った調査によると、依存的傾向のある人のうち52.1%が「SNS上の人間関係に負担を感じている」と答えており、ソーシャルメディアに没入しているのは、必ずしも楽しいからではなく、多くの人は、そこから抜け出せないからアクセスし続けていると考察している。

高校生は、毎日規則的な生活リズムで家族と暮らし、常に監視的な要素を持っている。学校でも毎日同じルーティーンで確定された人間関係の中で過ごしている。それに対し大学生は、一人暮らしといった監視的要素のない自由な生活リズムである。また、学校に加えバイトやサークルなど、毎日多様かつ複雑な人間関係の中で不規則な付き合いを行っている。このような違いから、大学生において異なる生活環境や人間関係といった要因により、高校生とは異なるやめられない要素があると考えた。