今回行ったインタビュー調査から、富山県地域生活定着支援センターの開設前・開設直後と開設から5年経った現在の状況を比較することが出来た。住まいや就労の受け入れ先は、センターの開設前・直後からあまり増えてはいないようだった。「矯正施設出所者」というマイナスイメージに加えて、更に「高齢」や「障害」を有していることから、高齢期特有の疾患や障害を抱えており、事業主側もなかなか受け入れづらいようだ。また、本人の身体や精神の状態が安定していても、保証人や身元引受人が不在など、対象者の周囲の状況から敬遠されてしまうことも多いようだ。

 また、関根(2012)の調査から、富山県にセンターが開設される以前は、富山刑務所では、精神障害手帳を持つ者はいないが、軽度の者は多そう、収容中に受刑者に対して精神障害の有無の診断が行われていないと思われるような状況だった。現在も、センターのスタッフの方は、対象者の大半は障害者であると感じているそうだが、様々な理由から障害者手帳を所持できないため、障害者として受けることが出来るサービスを受給できないケースが起きているなど、障害者認定や障害者手帳についてもあまり前進していないようだった。

 しかし、社会の中では、山本譲司が出版した本や統計の影響などもあり、高齢犯罪者や障害犯罪者の存在に注目が寄せられるようになり、福祉的な支援を必要としている矯正施設出所者への対応も変化してきた。また、矯正施設を出所した者だけでなく、被疑者・被告人段階でも支援が行われ始めている。高齢犯罪者や障害犯罪者はその特性から、単なる懲役刑では反省を促し、再犯を防ぐ効果が薄いことが指摘されているため、矯正させることが出来ないまま社会に復帰させてしまっている。こうした問題を見直すために、長崎県でモデル事業「地域社会内訓練事業(注21)」が行われたり、被疑者・被告人段階から福祉に繋ぐ仕組み作りも行われている。また、正式な刑事手続きを回避・離脱し、本人の特性に合わせて支援を行う「ダイバージョン」も取り入れられている。刑事手続きから早期に離脱させることによって、出来る限り本人及び関係機関の負担を減らそうというもので、本人にとっては社会からのラベリングの回避や早期の社会復帰に繋がるというメリットがある。このように、出口支援だけでなく「入口支援」も行われるようになってきている。

 さらに、保護観察所が行っている就労支援事業のひとつである協力雇用主に対する支援制度により、協力雇用主数は、2003年には約5000千人だったものが、2012年には約9900人と年々増加していることから、高齢犯罪者や障害犯罪者を受け入れる事業主も徐々に増加していることが分かる。

 これらのことから、社会の中で高齢犯罪者や障害犯罪者の支援に関する動きは見られるが、地方に目を向けると前進していない部分が少なくないと言えるのではないか。地域生活定着支援事業の開始、センターの開設までは順調であったが、その後の地方で行われている展開は順調であるとはなかなか言えないということが今回のインタビュー調査から分かった。

 しかし、南沢さんと西田さんの口からは、「地域生活定着支援事業が開始されてまだ7年」、「富山県地域生活定着支援センターが開設されてまだ5年」という言葉が頻繁に聞かれた。著者自身は、「地域生活定着支援事業が開始されてもう7年」、「富山県地域生活定着支援センターが開設されてもう5年」という意識を持っていたため、実際に支援の場で活動をしているスタッフの方がそのように感じているということには驚いた。まだ始まって間もない不安定な事業であるため、今は先進的な手法を取り入れたりする大胆さより、既にある事業主や福祉施設を維持し、そこから広げていくという慎重さが必要なのではないか。高齢犯罪者や障害犯罪者を地域生活に復帰させていく上で、新たに受け入れ先を開拓していくことも重要だが、今あるものを維持していくことも同じくらい、もしくはそれ以上に重要なのではないか。現時点では、上手く地域に定着することが出来た事例を周囲に認知してもらい、地域生活支援センターや高齢犯罪者・障害犯罪者に対してポジティブなイメージが少しずつ広げていくことが最優先であり、また、社会の中で高齢犯罪者や障害犯罪者の支援に関する動きが見られているので、そのような社会の動きに地方も次第に引っ張られていく可能性も期待できるであろう。

 富山県地域生活定着支援センターが支援を行っている対象者の数は年々増加しており、センターが高齢犯罪者や障害犯罪者の社会復帰に貢献していることも含めて、センターの実績がうかがえる。また、富山県地域生活定着支援センターには、「医療連携」や「無料低額診療事業」といった、他県のセンターには見られない富山県のセンターならではの強みもある。富山県地域生活定着支援センターが開設され、5年間事業を維持し支援を行ってきたことで、地域に定着することが出来た者もいるだろう。福祉的な支援を必要としている高齢者や障害者のためにも、これからも着実に事業を進めていって欲しい。

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