第三章 調査報告

第一節 インタビュー概要

日時:201576日 14時半〜

場所:富山県地域生活定着支援センター(済生会富山病院内)

インビュイー:社会福祉士 西田 知大さん

       以前は民間の福祉の会社や在宅介護支援センターで働いていた。

精神保健福祉士 安達由希さん

以前は精神病院で働いていた。

 

日時:20161218日 11時〜

場所:富山県地域生活定着支援センター(済生会富山病院内)

インビュイー:センター長 南沢 宏さん

       済生会富山病院の事務部次長・経営企画室長も務めている。

社会福祉士 西田 知大さん

 

第二節 分析

第一項 富山県地域生活定着支援センターと済生会

〈一〉富山県済生会に委託された経緯

 富山県が社会福祉士会や社会福祉協議会ではなく、済生会富山病院に地域生活定着支援センターの運営を委託することになった理由の一つに、他の施設が受託を拒否したからというものがある。関根(2012)の訪問調査では、更生保護法人富山養得園にもセンター設置の打診が何度かあったが、更生保護施設は自立支援施設であり、一時的な保護を行う施設であることを理由に断ったことが分かっている。同じように他の施設にも断られてしまい、受託を引き受けた唯一の施設であったため、済生会富山病院に地域生活定着支援センターの運営が委託された。

 また、地域生活定着支援センターが支援の対象としている者の条件と、済生会のなでしこプランが支援の対象としている者の条件が合致したために、受託に至ったことも分かる。なでしこプランとは、済生会が100周年を迎えた時に作られた生活困窮者支援事業である。ホームレスや家庭内暴力(DV)被害者、刑務所出所者、障害者、高齢者、在留外国人等の生活困窮者を対象に、巡回健診や予防接種、健康相談等の医療支援をしていこうというプランである。「なでしこプラン」の「なでしこ」は済生会の紋章を指している。対象者の中に刑務所出所者や障害者、高齢者が含まれている。また、地域生活定着支援センターが支援の対象としている特別調整対象者の条件の中には「高齢(65歳以上)であり、又は身体障害者、知的障害者若しくは精神障害があると認められること」という項目が設けられている。つまり、地域生活定着支援センターの支援対象者と、済生会のなでしこプランが支援を行っている対象者の条件が同じであるため、受託に至ったと考えられる。

〈二〉更生保護法人富山養得園との関わり

 関根(2012)によると、富山県地域生活定着支援センターが開設される以前に、更生保護法人富山養得園にセンターの運営の委託の打診が何度かあった。養得園は、高齢や障害により自立が困難な矯正施設の出所者等に対する特別処遇を実施する更生保護施設としての指定を受けており、当時、富山県の地域生活定着支援事業に大きな役割が期待されていたことが分かる。養得園はセンターの受託を拒否することとなったが、現在、富山県地域生活定着支援センターが支援を進めていく中で重要な役割を果たしている。矯正施設と社会との中間施設として、矯正施設出所後の帰住先や身元引受人、就労先が定まらなかった場合、支援対象者を一時的に養得園に入居させてもらい、入居可能な6カ月の間にコーディネート業務を行うことが出来るため、対象者を丸腰のまま地域に返さなくてすむ。

 

第二項 富山県地域生活定着支援センターの特色

〈一〉医療連携

他県では、地域生活定着支援センターは社会福祉士会や社会福祉法人、NPO法人が受け持っているケースが多い。しかし、富山県地域生活定着支援センターは、済生会富山病院という医療機関に併設されているため、全国的に見て珍しいケースであると言うことができる。

実際に富山県地域生活定着支援センターで支援を行っている西田さんも、医療機関に併設されていることで、「医療連携」という強みが支援に表れていると感じていることが分かった。介護サービスを利用する際には介護認定を受ける必要があるが、その際の主治医指示作成や、矯正施設出所後の健康診断などは、他のセンターより円滑に行うことが出来ているそうだ。

また、以下のようなケースもある。

 

西田さん:特別な事例なんですけれども、出所してその時点ですでに重篤な疾患を持っていらっしゃった、例えば糖尿病とかで一時的に入院して、一人暮らしができるかどうかというところで検査が必要だってことで、出所してすぐに検査入院をってことで、病院のほうにお願いをして入院を一週間ほどさせていただいたことがあります。そういったことはなかなか他の法人ではできないところなのかなっていうことがあります。

 

 支援対象者が矯正施設を出所した時点で重病を抱えていた場合、対象者を出所後直ちに済生会病院に入院させることができたケースもある。もし、センターが病院に併設されておらず、対象者を入院させるのに時間がかかっていたら、対象者の病状が悪化していたかもしれないと考えると、医療連携の強みが支援に表れていると言うことができるだろう。

 

 

〈二〉無料低額診療事業

また、医療機関に併設されていることによる強みとは別に、無料低額診療事業という「済生会に併設されていることによる強み」というものも存在することが分かった。無料低額診療事業とは、済生会を中心とした社会福祉法人立病院などで実施している事業のことである。疾患や経済的困難を抱えていて医療費を払うのが困難な場合、病院側が医療費のすべて又は一部を負担するというものである。病院側が提示する条件に当てはまった場合は、無料や低額で診察を受けたり入院することが可能となる。先行研究でも見てきたように、高齢犯罪者や障害犯罪者は就労が厳しく収入もそれほど多くない。しかし、高齢や障害であるために疾患を抱えているケースが多く、医療を受ける必要がある。そのため、この事業は、矯正施設を出所した高齢犯罪者や障害犯罪者の支援を行う上で、非常に効果的な支援であると言うことが出来るだろう。

 また、無料低額診療事業の話はインタビュー中も幾度か出てきており、富山県地域生活定着支援センターで活動しているスタッフの方がこの事業に誇りを持っているように感じられた。

 

第三項 就労支援活動

〈一〉保護観察所との連携

 保護観察所は、2006年から就労支援事業を開始している。法務省と厚生労働省のホームページによると、無職の矯正施設出所者等の再犯率は、有職の者と比べて約4倍と高く(2009年〜2013年)、就労支援や雇用の確保は矯正施設出所者等の再犯防止のために非常に重要であるとされている。多くの場合、矯正施設出所者等は社会生活に必要な資金や住居の確保といった生活基盤を確立しておらず、また、出所者等に対する社会の理解も進んでいないなど円滑な就労に向けた準備が整っていないこと、さらに、矯正機関(刑務所及び少年院)・更生保護機関(保護観察所及び更生保護法人)と職業安定機関(ハローワーク)との就労支援に関する連携がこれまで十分でないことなどの課題に、法務省と厚生労働省が連携をして取り組んでいこうということである。具体的には、ハローワーク等と連携をした支援対策の実施や、協力雇用主に対する支援制度(注18)などを行っている。

 また、関根(2012)によると、富山保護観察所では就労支援に力を入れていることが分かっている。しかし、今回の調査からは、富山県地域生活定着支援センターでは、富山保護観察所とは別に就労支援活動を行っているということが分かった。以下は、そのことに関する語りである。

 

小川:前回のインタビューでは矯正施設出所者という枠を外れても高齢者っていうだけでなかなか就労には結びつかないっていう現状から、富山のセンターでは就労支援活動は積極的に行っているわけではないというようなお話を聞いたんですけれど、保護観察所の就労支援事業と協働して何かセンターでやっているってことですかね。それとも保護観察所の就労支援事業とは全く別にセンターでは就労支援をしているっていう=

西田さん:=保護観察所の就労支援っていうのは多分協力雇用主のことだと思うんですけど、私らのほうの就労支援っていうのは、例えば出所者支援の対象が高齢とか障害者っていうことで、保護観察所はできないというかやはり強くない福祉的な部分に関して私たちは出所者に対して提案することができます。それからご質問されている分については別個だというふうに、もちろん連携はしますが別個というふうに考えていただければいいです。

 

 保護観察所の就労支援事業が対象として想定しているのは、高齢や障害を有していない、一般的な矯正施設出所者であるのに対して、地域生活定着支援センターが対象としているのは高齢や障害を有している矯正施設出所者である。そのため、対象としている矯正施設出所者の範囲が異なるため、全く連携をしないというわけではないが、保護観察所の就労支援活動と富山県地域生活定着支援センターの就労支援活動は基本的には別々に行い、保護観察所がカバー出来ない福祉的な部分の支援を行っているということが読み取れる。高齢犯罪者や障害犯罪者は、矯正施設出所者である上に、高齢や障害という条件も有しているため、保護観察所が目指している「一般就労」とは違い、「福祉的就労」という選択肢に絞られてくるため、保護観察所が行っている就労支援活動とは合わないので、別々に行っていると言えるだろう。

 

〈二〉就労支援活動の内容

 具体的にどのような就労支援活動を行っているのかというと、障害犯罪者の場合は、障害者手帳を取得し、障害の程度に応じて、A型作業所(注19)やB型作業所(注20)で就労が可能な場合がある。また、障害を有していても一般就労ができる能力や健康状態であれば障害者職業センターの利用を提案する場合もあるそうだ。

 高齢犯罪者の場合は、高齢でも雇ってみようという雇用主もまれに現れるらしいので、そのような場合は面接に繋げたりしている。これは、保護観察所が行っている就労支援事業の中の一つの協力雇用主に対する支援制度の影響であると考えられるのではないか。

 

第四項 年金受給資格の有無

〈一〉年金を受給できた場合

 関根(2012)が富山県地域生活定着支援センターが設置される以前に行った富山刑務所への訪問調査によって、富山刑務所の刑務作業の報奨金は全国的に低いことが明らかになった。さらに、恐らく高齢や障害を有していることが要因で、刑務作業に適さない者も存在しているということも明らかになった。作業報奨金だけでは、矯正施設出所後の社会生活への復帰のための資金としてはあまりに少なすぎる。そのため、年金を受給できるか、出来ないかは、対象者の支援を行う上で非常に重要なポイントになってくる。矯正施設入所中も年金を受給できている場合は、ある程度のお金が貯まるらしく、それを生活費として使っていくことができる。

 矯正施設出所者の中には、年金の受給資格があるにも関わらず、自分には受給資格が無いと思っている者も少なくないらしい。そういった対象者に対しては、一般的な年金や企業年金を受給できないか過去の生活歴を掘り起し、受給の手続きを行うのも地域生活定着支援センターの役割である。センターが開設される以前は、このような役割を担う者は存在しなかったと考えられる。施設に入居する際にも、選ぶことができる選択肢が増えるなど、年金を受給できる場合と出来ない場合では差が生まれてくるのではないだろうか。

 また、年金を受給できた場合でも、年金のみで生活している対象者だけではないらしい。以下は、それについての語りである。

 

西田さん:例えば年金が少なくて生活保護で最低生活費を賄っているっていうところもあるし、就労分がちょっと足りなくって就労分と年金分でやってたりとか、人それぞれ色んなパターンがあるので。

 

 年金と生活保護を組み合わせたり、年金と就労して貰える給料を組み合わせるケースなど、生活費の生産の仕方は対象者の状態によって様々なパターンがあることが分かる。

 

〈二〉年金を受給できなかった場合

 年金を受給できる場合は、生活保護などの他の制度と組み合わせて生活費を確保することができるが、年金を受給できない場合はどのように生活費の確保を行うのかについては、以下のような語りが見られた。

 

西田さん:年金がない場合についてはやはり生活保護に制度的には頼らざるを得ない。

小川:年金を受給するか生活保護に繋げるか両方が厳しい場合はどうなるんですか。

西田さん:それが厳しい場合…救済する制度って年金と生活保護だけではなくて、それこそ短期的なものとか長期的なものとかさらにあるんです。まあその二つで、無い場合に関してはどうにか生活保護を受給させてもらうっていうところで行政と話をせざるを得ない。

 

 年金を受給できない場合は、やはり生活保護に繋げる場合が多いようだ。年金を受給することが出来ず、生活保護に繋げるのも厳しい場合は、それ以外の救済制度を利用するらしい。

 

第五項 ボーダーライン上にいる対象者

 富山県地域生活定着支援センターが支援を行っている対象者は、高齢犯罪者や障害犯罪者である。しかし、毎回必ずしも「高齢犯罪者」と「障害犯罪者」と線引くことができるわけではない。高齢者でありながら、障害を有している対象者も存在する。平成27年度は、支援を行った対象者44名のうち、高齢者は20名、高齢でない障害者は22名、高齢でありかつ障害を有している者は2名だったそうだ。数字的にはこのような結果が出ている。しかし、実際に富山県地域生活定着支援センターで活動している南沢さんは、障害者であるのに障害者手帳を持っていない者もいるなど、この数字通りではないと感じているらしい。

 障害者と判断する基準が「障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳精神障害者保健福祉手帳等)を所持しているかどうか」なので、手帳を所持していない場合は、センターのスタッフが障害を有している可能性が高いと感じていても障害者として支援することが出来ない。障害者手帳を所持していない理由は、親族が障害者であるということを認めたがらず手帳を持たせなかったケースや、手帳を持つことへの抵抗感を抱いているなど、対象者本人のプライドにより持てないケースなど様々あるだろう。しかし、障害者手帳を所持していることで、就労時に障害に合わせた配慮を受けることが出来たり、国税や地方税の諸控除及び減税、公営住宅の優先入居等といったサービスを受けることが可能になる。障害者手帳を所持していない場合、本来受けることができるサービスを受けることが出来なくなるため、ボーダーライン上にいて障害者と判断が下されずにいる支援対象者の存在とどう向き合っていくかは、地域生活定着支援事業を進めていく上での課題である。

 

第六項 支援が必要なのに支援を受けたがらない対象者

 富山県地域生活定着支援センターが支援をしている対象者の中には、支援を受けなければならない状態なのに、対象者本人のプライドなどが理由で、支援を受けたがらない者もいる。以下は、そのことに関する語りである。

 

西田さん:今日もひとり逃げて行かれました。

小川:あー。

西田さん:繋いだかたが施設から。

小川:その人は矯正施設いる時はそういう逃げる感じではなく=

西田さん:逃げられないから。

小川:あー。

西田さん:だけど社会に出て、支援とか福祉とか色々な枠の中でやろうとすると、今回が初めてじゃなくって何回もやってるの。何回もやっててその行先は罪を犯してまた刑務所に戻ってくるってことを繰り返されてるかただから、そういうかたをその地域の中でどうするかっていうのは…。今回もまたこういうことがあったし課題ではあります。

 

 インタビュー当日も、支援対象者が入居した施設から逃げ出してしまうという事態が起きたそうだ。その対象者は、以前にも入居した施設から逃げ出し、再び罪を犯し矯正施設に戻るということを繰り返していた。対象者本人が支援を受けたがっていなくても、高齢期特有の病状や障害を有しているために、福祉的支援を受ける必要がある。しかし、特別調整対象者の条件に、「特別調整の対象者となることを希望していること」という項目があるため、支援を行っていく際に対象者本人の自己決定が必要になってくる。センター側が何かしてあげたいと感じていても、対象者本人の同意が得られない場合は動くことが出来ないという問題がある。しかし、対象者の親族に支援を頼まれることもあり、そういった場合は対象者の自己決定した意思を尊重するか、引き止めるべきなのかという判断にぶつかる時もあるそうだ。

 しかし、そのような支援中に逃げ出してしまう対象者を見ていると、彼らにとっては矯正施設へ戻ることが一番幸せな道なのではないかと思えてしまうことさえあると南沢さんは語っていた。矯正施設内では同じような境遇の者もたくさんいて、決められた時間に決められたことをしていれば良かった。しかし、社会に出たら自分のことを気にかけてくれる者はおらず、何をすればいいか分からないという状況に陥ってしまう。

 以下の語りは、入居した施設から逃げ出してしまった対象者に対して南沢さんと西田さんがどのような思いを抱いているのかについての語りである。

 

小川:その人はやっぱり福祉とかの世話になりたくない、一人で生きたいって感じで逃げてしまったんですかね。

西田さん:ほっといてくれということは前回逃げた時にも言いましたけれども、それをほっとけないからっていうことである施設のほうに繋いだのですが、結局そこでも実際に逃げたってことはなかなか理解を得られなかったってことだと思います。

南沢さん:一銭も持たんわけやから、逃げてっても。逃げてったけどもお金も一銭も持たんから今日食いもんも無いし寝るとこもないってことになるじゃないですか。そしたら結局またどこかで盗みするか、また警察の厄介になるっちゅうことしか可能性としてはないわけ。あとはどっか行って死んでるか。自殺するか空腹に耐えかねて盗むか。

西田さん:理想としては社会の中で、それこそセンターの名前のように地域に定着させれればいいけども、やっぱりどうしてもその支援からこぼれていくかたの先っていうのは必然刑務所になる…。そこをどう拾い上げていくのかっていうのは多分ずっと課題ということにはなっていると思うけれども、その反面、上手くいってらっしゃる方もいるので。

 

 支援が必要な状態でも、対象者本人が支援を拒否している場合は、センター側はそれ以上は何もできないため、もどかしさを感じているようだった。「地域生活定着支援センター」という名前の通り、対象者が地域生活に定着できることが理想であるが、なかなかうまくはいかないようだ。重要なのは、対象者本人が支援を受けたがっていなくても、健康面や金銭面などの様々な面で自立能力が低く支援が必要な状態にあるということだ。対象者本人が支援を受けたがっていないからといって、そのまま地域社会に戻してしまっては、再び罪を犯し矯正施設に逆戻りしてしまう可能性が非常に高い。これは富山県地域生活定着支援センターだけではなく全国のセンターでも課題として残っている。

第七項 7年目を迎える地域生活定着支援事業の活動

〈一〉地域生活定着支援事業の不安定さ

 地域生活定着支援事業が開始されてまだ7年間しか経っておらず、いつ終わってしまうかも分からない不安定な事業であると、南沢さんと西田さんが感じていることが分かった。

もしかしたら来年度には地域生活支援事業の補助金が出ずに、事業自体を行えなくなってしまうかもしれない先の見えない事業であると言える。しかし、矯正施設を出所した高齢者や障害者の支援は誰かが行わなければならないため、地域生活定着支援センターが事業を行えなくなってしまった場合、どこが引き継ぐかという問題もある。

 

〈二〉受け入れ先の拡大

(一)就労の受け入れ先

 富山県地域生活定着支援センターが設置された直後と、地域生活定着支援事業が開始されてから7年、富山県にセンターが設置されてから5年経った現在を比べて、地域生活定着支援事業や高齢犯罪者や障害犯罪者に対する社会の理解が進んだことで、就労の受け入れ先が増えたか聞いたところ、以下のような語りがみられた。

 

西田さん:就労を理解してくださる所ですか。

小川:理解して実際に受け入れてもいいよって言ってくれる=

西田さん:実際そういうところは増えてきているかどうかってことですか。

小川:はい。

西田:あのー。(約3秒沈黙)

南沢さん:まず定着支援センターというものが認知度があるかっていうと、今5年くらい経ってるけどもまだまだ認知度的には薄いかなと。

西田さん:例えばセンター長の縁故で知り合いのところとかに繋いでいただいて上手くいったケースとかもありますし、やっぱりその人個人がどうこういうことでいっても、仕事したいっていっても確実に繋がることは少ないんですよ。

 

 富山県地域生活定着支援センターで設置当時から活動をしている南沢さんと西田さんは、地域生活定着支援事業が開始されてからまだ7年、富山県にセンターが設置されてからまだ5年しか経っていないため、地域生活定着支援事業や高齢犯罪者や障害犯罪者に対する社会の理解はまだまだ進んでいないと感じているらしく、就労の受け入れ先は大きく増加しているというわけでは無さそうだった。縁があって就労に繋げることができるケースもあるようだが、「就労したい」という支援対象者の気持ちがあっても、高齢期特有の疾患や障害を有していることが理由となって、就労に繋がってもそれを維持できない場合や、そもそも就労に繋げることができない場合がほとんどのようだ。

 

(二)住まいの受け入れ先

 就労の受け入れ先だけでなく、やはり住まいの受け入れ先の拡大も苦労していることが以下の語りから分かる。

 

西田さん:施設とか在宅に戻るってことであれば、アパートとかってことになってくるんです。なかなか事業主さんに理解っていうのはまあ進んでないっていうのが現状ですかね。

小川:センター長の知り合いだったりっていうところ以外ではやっぱりまだ広がらない感じですかね。

西田さん:んー、あのー=

南沢さん:=この人だったら大丈夫って人がまずなかなかいないので、対象者とすると。

西田さん:それから個人の問題っていうのと、その個人を取り巻く問題っていうのがあって、まず出所者というところでそこのハードルと、あとはその家を借りる、就労するとかいうことに関しても保証人を求められる場合があるんですが、無いかたがほとんどなんですよ。そうするといくらその人柄が良くって個人としては大丈夫かもしれないけど、周辺を見ていくってことができないもんで、なかなか入所させてもらったり、保証人がないことで断られることもやっぱり多いです。

 

 地域生活定着支援センターが対象としているのは、矯正施設出所者であることに加え、高齢者や犯罪者であるため、そもそもセンター側が「この人だったら大丈夫だろう」と送り出すことができる人が少ないようだ。また、どんなに支援対象者の人柄が良かったとしても、矯正施設出所者、高齢者、障害者という様々なハンデが重なり、施設への入居は困難である。施設へ入居する場合や、また、就労をする場合は、保証人を求められる場合がある。しかし、支援対象者は、高齢であるためにすでに親族が他界してしまっているケースや、親族や友人から見放されてしまっているケースが多く、保証人がいないことも少なくない。支援対象者本人の状態が大丈夫だったとしても、本人の周囲の様子が見えてこないために、受け入れ先の施設は安心することができず、入居を断られてしまうケースもある。

 

〈三〉受け入れ先の拡大を目指す

 第七項〈二〉(一)(二)で見てきたように、就労や住まいの受け入れ先はなかなか拡大していないことが分かった。南沢さんと西田さんは、就労や住まいの受け入れ先を拡大するためには、地域生活定着支援事業が継続されることが第一だと考えていることが分かった。これから先も事業が続いていくことで、福祉施設の入居先や就労先、地域住民に事業を理解してもらい、うまく地域生活に定着できた事例を共有してもらい、地域生活定着支援事業やセンターにポジティブな印象を持ってもらうことに期待を寄せているようだ。

 

 以下は、富山県地域生活定着支援センターが支援を行った対象者の人数の推移を表したものである。

 

 

平成23

平成24

平成25

平成26

平成27

特別調整

5

9

12

12

21

相談支援業務

2

6

8

7

9

フォローアップ業務

0

6

8

9

14

 

 富山県地域生活定着支援センターが支援を行った対象者の人数が年々増加していることが読み取れることから、センターの活動が数値的にも結果を残しているということが分かる。地域生活定着支援事業を継続していくことで、支援を受けて地域生活に復帰できる者が増加し、地域生活定着支援事業がより安定した事業になっていくことが期待できるのではないだろうか。