第六章 追加戦士に関する分析

第一節    異質性と協力関係

スーパー戦隊シリーズにおいて、追加戦士の登場は作品の中でどのような影響をもたらすのだろうか。本章では、追加戦士に関する調査で得られたデータを、量的・質的側面から分析を行う。なお、今回調査した追加戦士28人中、炎神戦隊ゴーオンジャーのゴーオンシルバーのみ女性戦士である。彼女は同作品のもう一人の追加戦士であるゴーオンゴールドと二人でゴーオンウィングスというチームを自称している。そのため、本調査の目的である男性の変化を探ることとは逸れるが、本章で示す調査データにおいてはこの二人のデータは全く同一の結果であることもあり、例外的に調査に含んでいる。

6-1 追加戦士の基本情報


6-1は、主な追加戦士についての基本情報について示したものである。表の項目の詳細は以下の通りである。

 

・初登場:追加戦士が初めて登場した話数。

・テーマカラー:戦士に割り当てられている色。

・初登場時の立場:初期メンバーに対する姿勢を4つに分類した。戦士らが戦う敵組織の一員であった者は「敵」、敵組織には所属していないが初期メンバーに対して明らかに敵意を持って攻撃していた者は「攻撃的」、攻撃はしてこないものの共闘は拒んでいた者は「非友好的」、そして初めから協力して戦う姿勢を見せていた者は「味方」と分類した。

・結末:最終回で敵を滅ぼした後の初期メンバーと追加戦士の関係性を3つに分類した。一緒に暮らすなど近しい関係を保っている場合は「加入」、初期メンバーと追加戦士とで生活が分かれたり途中で追加戦士が亡くなった場合は「離別」、そして初期メンバーも追加戦士も戦隊結成以前の生活に戻り散り散りになる場合は「解散」とした。

 

6-1を見ると、追加戦士についての経時的な変化をいくつ見出すことができる。まず、追加戦士が初めて登場する時期についてである。初登場の項目を見ると、徐々に追加戦士の登場時期が早まっているように感じられる。そこで、作品を1990年代、2000年代、2010年代と年代別に分け、各年代の追加戦士の初登場回の平均を求めたものが表6-2である(割り切れない値は小数点第二位以下四捨五入)。ここから、1990年代には22.4話だった登場が、2000年代には20.4話、2010年代には13.7話にまで早期化していることがわかる。一つの作品が、全部で50話前後放送されることから、当初は番組のちょうど中盤あたりで登場していた戦士が、近年では物語全体の5分の1から5分の2程度のところで登場していることになる。これにより、追加戦士がストーリー上、そして初期メンバーにも与える影響が大きくなっていることが予想される。

 

6-2 年代別追加戦士の平均登場話数



テキスト ボックス: 表6-3 追加戦士の異質性



また、表6-3は追加戦士の異質性が表れそうな項目について調査したものである。

人間態の有無とは、追加戦士が人間の姿を持つかどうかを調べたものである。忍者戦隊カクレンジャーのニンジャマンなど、2足歩行のロボットの姿をした追加戦士も存在するため、この項目を設けている。また、強化フォームとは、戦士たちが通常装備する変身スーツに加えて、途中で戦力を増強させるために導入する装備のことである。追加戦士の登場後に、初期メンバーの強化フォームが導入された場合、一般的に初期メンバーを上回る戦力を持つ傾向にある追加戦士と、初期メンバーの強さの差が縮まることになる。初めて追加戦士が登場した恐竜戦隊ジュウレンジャーでは、途中で亡くなった追加戦士の装備を引き継ぐ形で、レッドのみ強化フォームを使用していた。しかし、それ以降1990年代の作品では、星獣戦隊ギンガマン(1998年放送)は追加戦士の登場前に強化フォームを得るものの、追加戦士の登場後に初期メンバーの強化フォームを得た作品は無い。そして、2009年の侍戦隊シンケンジャーで主にレッドのみが使用することのできる強化フォームが導入され、2013年の獣電戦隊キョウリュウジャーから3作続けてレッド用の強化フォームが使われている。

ここから読み取れることは、追加戦士一作目の恐竜戦隊ジュウレンジャーから爆竜戦隊アバレンジャー(2003年放送)までの作品では、追加戦士の強さが特に強調されているということである。そもそも、追加戦士は初期メンバーが敵に苦戦した局面で登場することが多く、即ち初期メンバーよりも強い戦力を持っていることが多い。それを追加戦士の特徴としているのが上記の恐竜戦隊ジュウレンジャーから爆竜戦隊アバレンジャーまでの作品である。そして、アバレンジャーの次の二作品、特捜戦隊デカンレンジャーと魔法戦隊マジレンジャーでは、初期メンバー全員が強化フォームを得ている。この二つの作品に共通することは、追加戦士が初期メンバーと明らかな身分の差を持っているという点である。特捜戦隊デカレンジャーの追加戦士、デカブレイクは、初期メンバーと同じ宇宙警察に所属するが、エリート部署に所属し特別な訓練を受けた「トッキョウ(特別指定凶悪犯罪対策捜査官)」である。また、魔法戦隊マジレンジャーの追加戦士、マジシャインは、「マジレンジャーに本格的な魔法の使い方と心構えを教えるため、魔法の先生」(テレビ朝日,2006:番組ホームページ)として登場する。このように、追加戦士の特徴である強さが、より明確に示されている二作品だが、初期メンバーの強化フォームにより戦力が向上し、追加戦士との強さの差が縮まっている。つまり、追加戦士の特徴としての強さが、以前よりも強調されていないということになる。

 それ以降の注目すべき点は、レッドのみが使用する強化フォームである。2009年放送の侍戦隊シンケンジャーで、恐竜戦隊ジュウレンジャー以来のレッド用強化フォームが登場した。この侍戦隊シンケンジャー以降、必ず強化フォームが導入されていることから、追加戦士同様強化フォームが新たなスーパー戦隊シリーズの定番要素と化していると考えられる。ただ、必ずしも初期メンバー全員が強化されるわけではなく、直近の3作品では主にレッドのための装備として用いられている。


6-4 追加戦士と初期メンバーの協力体制


 表6-4は、追加戦士と初期メンバーが、戦闘中に協力する場面について調査したものである。項目の詳細は以下の通り。

 

・必殺技の協力:敵が巨大化する前、つまりリーダーシップに関する調査で採用したクライマックスでの戦闘の際、止めを刺す時に戦士たちが協力して放つ必殺技がある。そこに追加戦士が加わっているかを調査した。

・ロボの相乗り:初期メンバーが元々乗っていた巨大ロボに追加戦士が一緒に乗るかどうか。

・ロボットの合体:追加戦士が初期メンバーのものとは別に専用ロボを持つ場合がある(調査対象の追加戦士は全員所持)。その際初期メンバーのロボと合体して一つのロボになることがあるかどうか。

 

6-4の必殺技の協力の項目を見ると、2001年の百獣戦隊ガオレンジャー以降必ず協力技を放っていることがわかる。ただし、ロボットの相乗りや合体についてはここまで明確な経時的変化は見られない。表6-3で示した人間態を持たない追加戦士4人に限ってみると、特命戦隊ゴーバスターズのスタッグバスター以外の3(忍者戦隊カクレンジャー、激走戦隊カーレンジャー、天装戦隊ゴセイジャーの3作品)は、ロボットの相乗りと合体は行っていない。ロボットの追加戦士は、初期メンバーと一線を画したまま別の勢力として戦っているとも考えられる。

この協力関係と、表6-3で示した追加戦士の異質性についての調査結果をまとめて、機械的に数値化した(6-5)6。異質性の項目は4.5点満点、協力体制の項目は3点満点で、両者ともに数値が高いほうが異質性や協力度が高いことになる。なお、表6-5で、追加戦士が複数いる作品では、2人の平均の値を採用し、各作品一つの数値にまとめている。これを見ると、まず、協力体制について明確な変化が表れている。2001年の百獣戦隊ガオレンジャーまで、最大で2.5だった協力体制が、2002年以降3が頻出している。直近の5作品に至っては、全て3を示している。つまり、追加戦士が初登場した1990年代には、初期メンバーと追加戦士はそれぞれの独自の武器や技で戦っていた。それが、2000年代に入ると、徐々に協力して一つの技やロボットで敵に向かうようになったということである。強化フォームについての変化はすでに述べたが、異質性についてはこの数値だけでは明確な変化を見出すことは難しい。しかし、協力体制と強化フォームの項目も併せて見ると、異質性が低下しているように感じられる。協力度合いが高まり、強化フォームの導入の定着によって、追加戦士と初期メンバーの差が埋まりつつあるといえるだろう。異質性を数値化した値で明確な変化を見出しづらいのは、今回調査した観点以外に異質性の変化が表れている箇所があるということかもしれない。
6-5 強化フォームと数値化した異質性、協力体制


 

第二節    登場から退場まで

初期メンバーにとって他者として登場する追加戦士が、どのように戦隊の一員として受け入れられていくのだろうか。その過程について、追加戦士が登場する4作品を選び調査したものを分析していく。選んだ作品(放送年)は、恐竜戦隊ジュウレンジャー(1992)、百獣戦隊ガオレンジャー(2001)、特捜戦隊デカレンジャー(2004)、そして海賊戦隊ゴーカイジャー(2011)である。作品の選出理由は、恐竜戦隊ジュウレンジャーについては、初めて追加戦士が登場した記念碑的作品であるからである。百獣戦隊ガオレンジャーは、最初は敵として存在していたキャラクターが後から追加戦士として仲間になるという、追加戦士の一つの定番パターンの作品である。特捜戦隊デカレンジャーと海賊戦隊ゴーカイジャーは、追加戦士の異質性が低い作品を表6-16-26-3から選んだ。このように、異質性が弱まっているという仮定の下、放送が古い2作品は追加戦士の異質性が高く、最終的に初期メンバーと離れ離れになる作品、新しい2作品は追加戦士の異質性が低く、最後は初期メンバーと生活を共にするなど完全に打ち解ける作品を選んでいる。なお、ここでの異質性は、表6-5で示した数値化した異質性とは異なる導き方をしたため、やや相違がある箇所がある。

この4つの作品で追加戦士に関して共通していることは、追加戦士が初期メンバーに、戦いにおいて重要な姿勢や考えを何らかの形で示しているということである。まず、恐竜戦隊ジュウレンジャーでは、追加戦士は限られた寿命の中で戦っていた。寿命が縮むとわかっていながら、子どもを救うため戦闘に参加し、最後は自らを救う方法があったにもかかわらず、それを他の子どものために使うことを望んだのである。彼は、自らを犠牲にしてでも地球の人々を守るという、戦士の使命を再認識させた。ガオレンジャーでは仲間を信じること、信じて行動し続けることの大切さが描かれている。過去の自分の行いを責め、仲間になることに抵抗を示す追加戦士に対し、初期メンバーたちは説得し続けた。その結果、彼の心を開くことができたのである。デカレンジャーでは、データばかりを重視して戦う追加戦士と、気持ちで戦うことを第一にする初期メンバーとで対立が起きていた。その時、どちらか一方を否定するのではなく、どちらも戦いにおいて必要なのだと彼らは気づいたのである。そして、ゴーカイジャーにおいては、一人ひとりに長所があり、それを武器に戦うことで、チームとしてさらに強くなれるということを、追加戦士の登場により戦士たちは気づいたのである。このように、追加戦士の登場により、戦士たちは戦力だけでなく、精神的な面でも成長している。これらの成長は、戦いの場面に限らず、我々の生活においても重要な学びといえるだろう。追加戦士の和解プロセスが短縮されてはいるが、このような形で視聴者にとっての学ぶべき要素は存在しているようだ。

それでは、以下で各作品の和解プロセスを順に見ていく。表6-6は、恐竜戦隊ジュウレンジャーの追加戦士、ドラゴンレンジャー/ブライが17話で登場してから初期メンバーと和解するまでの各回の主な出来事である。

6-6 恐竜戦隊ジュウレンジャーでの追加戦士の和解プロセス


この戦士は、登場した直後は初期メンバーの一人である赤色の戦士・ゲキに個人的な恨みがあったため、ジュウレンジャーたちに攻撃していた。しかし、22話で和解し、共闘することとなる。つまりこの作品では、追加戦士の登場から和解までに、6話を要している。そして、表6-7を見ると百獣戦隊ガオレンジャーの追加戦士、ガオシルバー/大神月麿も、登場から和解までのプロセスは4話に亘って描かれていることがわかる。彼は、実は敵である(ろう)()に体を乗っ取られていた。その肉体を借りて狼鬼が変身していたため、23話で一時的に人の姿に戻るまで狼鬼の正体が人間(ガオシルバー)だとはわからなかったのである。23話で初めて人間であることがわかる以前から、その正体をほのめかす演出がなされており、敵の姿の時からのやり取りも含めると、和解プロセスは15話から26話まで、実に12話にも及ぶのである。

6-7 百獣戦隊ガオレンジャーの追加戦士の和解プロセス


 6-8 特捜戦隊デカレンジャーと海賊戦隊ゴーカイジャーの追加戦士の和解プロセス


一方、4作品のうちの新しいほうの2作品、特捜戦隊デカレンジャーと海賊戦隊ゴーカイジャーでの追加戦士の和解プロセスは、両作品とも2話のみで完結している(6-8)。和解プロセスが描かれた話数だけで比較すると、追加戦士の異質性が比較的高い恐竜戦隊ジュウレンジャーと百獣戦隊ガオレンジャーのほうが、異質性が低い特捜戦隊デカレンジャーと海賊戦隊ゴーカイジャーよりも長い時間をかけて描かれている。異質性が高いほど初期メンバーとの追加戦士の間の障壁が多くなるため、和解プロセスの長さの差は当然のことと受け取れるだろう。

 続いて、追加戦士が初期メンバーと和解をしてから、ストーリーから退場するまで、つまり追加戦士が亡くなるなどしていなくなるか、最終回で敵を滅ぼすかするまでの過程に注目したい。調査した4作品のうち、追加戦士が途中で退場するのは恐竜戦隊ジュウレンジャーだけである。調査対象とした追加戦士のうち、番組の途中で亡くなった戦士は4人いる7。初期メンバーの中で、亡くなった戦士は鳥人戦隊ジェットマンのブラックコンドル/結城凱のみである8ことから、追加戦士は登場が遅いにもかかわらず、途中で亡くなる戦士が多く死亡率が高いことになる。百獣戦隊ガオレンジャーの追加戦士ガオシルバーは、最終回で敵を滅ぼすまで初期メンバーと共に戦った。しかし、戦いの後はそれぞれの夢を叶えるためガオレンジャーは解散し、元々1000年前の時代を生きていたガオシルバーも現代に馴染もうとする様子が描かれている9

 恐竜戦隊ジュウレンジャーの追加戦士の話に戻るが、彼は本来5話限定のゲストとして登場する予定だった。しかし、メインの視聴者である子どもの 母親層から予想以上に好評だったため、無理やり登場回数を増やしたという経緯がある(講談社, 1993: 187)このように、彼に限ってはやや特異な退場理由があるが(もっとも、当初からドラゴンレンジャーが亡くなる予定だったのかは定かではない)、先述の通りそれ以降も度々追加戦士が亡くなっている点は注目に値するだろう。初めて追加戦士が登場した恐竜戦隊ジュウレンジャーで示された退場のストーリーが、後の作品にも引き継がれ、一つのパターンと化している。新たな戦士が登場するだけでも、作品においてかなりの盛り上がりを見せるのが、さらに退場のストーリーまでも描くことで、登場が遅い追加戦士の存在をより強く視聴者に印象付けていると考えられる。同時に、追加戦士にそのような要素があるという前提を視聴者が抱くことで、新参者である追加戦士の人気と注目度を高いまま保つことができるのではないだろうか。

 

第三節    本章のまとめ

 スーパー戦隊シリーズにおいて今や定番となった、追加戦士について様々な角度から分析を試みた。他者として戦隊に加入する追加戦士は、初期メンバーよりも高い戦闘能力を持ち、その強さが一つの特徴であった。そして、登場してから初期メンバーと和解するまでの過程が時間をかけて描写されてきた。

しかし、追加戦士の登場後、初期メンバーが装備を強化することで、追加戦士の強さという特徴が弱まっている。さらに、初期メンバーと追加戦士という「5(又は3)+1」という形から、戦闘においても協力することによって追加戦士も含めた一つのチームとしてのまとまりが強固になりつつある。

そして、追加戦士が登場する時期が早期化し、初期メンバーとの対立や葛藤については描写が減少している。これは、一対多(=追加戦士対初期メンバー)という対立構造の否定であると考えられる。追加戦士が強いといえども、数だけを見ればこの対立構造は追加戦士が不利であること明確である。見方によっては、追加戦士を仲間はずれにしている、という解釈もできてしまうだろう。それはつまり、いじめを助長していると感じる視聴者が表れる可能性も多分にあるということである。このような理由により、追加戦士と初期メンバーとの対立の描写が減少したと推測する。しかし、その結果他者との付き合い方や協調の仕方が示されないことになる。それは、メインの視聴者である子どもたちから、学ぶべき場面が奪われることを意味する。そのようなデメリットを孕みながらも、追加戦士は初期メンバーと比較的穏やかに付き合うようになったのである。