第五章 リーダーシップに関する分析

 本章では、リーダーシップに関する調査で得られたデータの分析を行う。

 

第一節 メンバー間の葛藤

 メンバー間の葛藤について、表5-1に示した。4作品を平等に比較するため、表の値はすべて50話換算に変換し、整数にならないものは小数点以下を四捨五入した。4作品を新旧で2分すると、新しい2作品(特捜戦隊デカレンジャーと天装戦隊ゴセイジャー)のほうが、葛藤の発生件数も仲裁介入件数も古い2作品に比べ多くなっていることがわかる。作品別に見ると、葛藤の発生件数ではデカレンジャーが最も多い14件となっている。発生件数が多い分、当事者・仲裁者数も多いが、ほとんど放送回数が同じであるオーレンジャー・ゴセイジャーと比べても、葛藤が頻発していることがわかる。

 5-1 メンバー間の葛藤

これは、デカレンジャーの結成経緯に一因がある。デカレンジャーのデカレッド以外の4人は、元々デカブルーをリーダーとしたチームで職務に当たっていた。そこにデカレッドが加わるところから、番組はスタートしている。つまり、デカレッドがチームの新メンバーとして他のメンバーと関係を築いていく中で、戦闘方針などを巡って対立を起こしていたのだ。そのうえ、デカレッドは「猪突猛進な熱血漢」で「型破りな性格」(特撮ニュータイプ 2012: 143)であるため、さらに葛藤件数を伸ばしていると見られる。実際、デカレンジャーの22話では、このようなエピソードがある1

デカレンジャーの5人では歯が立たなかった敵を、その回から新たな戦士として登場したデカブレイクが、一人で敵を圧倒してしまう。止めを刺される前に逃げ出した敵を、追おうとしたデカレンジャー5人に対し、デカブレイクは「あなた達が行っても無駄です。」と止める。その言葉がデカレッドの怒りに触れ、デカブレイクに飛びかかろうとするも、他のメンバーに止められる。しかし、「ここからは僕が一人でやりますから、地球署の皆さん(=デカレンジャー)は邪魔にならないようにお休みください。」とのデカブレイクの言葉に再びデカレッドは激高し、他の4人に制止される始末となった。

 

第二節 一般人に対する救助・避難誘導

5-2は、一般人に対する救助・避難誘導の調査結果をまとめたものである。ゴレンジャーとオーレンジャーの救助・避難誘導件数を50話換算に変換(小数点以下は四捨五入)すると、ゴレンジャーが38件、オーレンジャーが44件となる。これを踏まえて数値を見ると、救助・避難誘導件数については、オーレンジャーが最も多くなっており、続いてゴレンジャー、デカレンジャー、ゴセイジャーの順となっている。オーレンジャーの値が突出しているが、4作品を通して見ると、時代を経て件数が減少しているように見える。

 5-2 一般人に対する救助・避難誘導


 救助・避難誘導者数については、男女の比率に注目したい。各作品について、男性と女性の人数を足したものを100%として、男女別の割合を計算したものが、表5-3である。

 5-3 救助・避難誘導の男女別割合


5-3を見ると、デカレンジャーは例外だが、男性の比率は減少し、女性の比率は増加傾向にあることがわかる。ただし、ゴレンジャーでは女性戦士がモモレンジャーの一人のみであったため、女性戦士が二人いるオーレンジャー以降の3作品で女性の割合が約二倍に増えていることは、男女で担う役割の変化とは関連付けがたい。

続いてリーダーによる救助・避難誘導件数に注目する。ここから、リーダーによる救助・避難誘導件数の割合を計算すると、ゴレンジャーは63%、オーレンジャーは36%、デカレンジャーは35%、ゴセイジャーでは43%である。このように、秘密戦隊ゴレンジャーでのみ半数以上の救助・避難誘導にリーダーが関わっており、超力戦隊オーレンジャー以降の3作品は34割程度に収まっている。さらに情報を加えると、指示した者については、ゴレンジャーとオーレンジャーで出された救助・避難誘導に関する指示は、全てリーダーの戦士(アカレンジャー・オーレッド)から出されている。つまり、ゴレンジャーでは、リーダーであるアカレンジャーが他の戦士に救助の指示を出しつつ、自らも救助活動に参加しているということである。一方オーレンジャーでは、リーダーであるオーレッドは、救助・避難誘導の指示は出すものの、自分はそこに関与せずにいると推測できる。デカレンジャーとゴセイジャーでは、指示が出されることはほとんどない。すなわち、戦士たちは自ら積極的に救助活動を行なっていることがわかる。

指示が出される割合を計算すると、ゴレンジャーでは4件に1件、オーレンジャーでは7件に1件、デカレンジャーでは11.5件に1件、そしてゴセイジャーでは21件に1件のペースとなる。時代を経るごとに、指示を出して他のメンバーに救助させることが減少しているのである。このことから、各戦士が自ら救助活動を行なっている、言い換えれば誰かから指示を受けてそれを行なうことはなくなってきていることが確認できる。

 

第三節 クライマックスでの戦闘シーンにおける指示行為

 3つ目の調査項目である、クライマックスでの戦闘シーンにおける指示行為については、それぞれの作品ごとにデータを分析していく。(5-4参照)

 5-4 クライマックスでの戦闘シーンにおける指示行為 上


第一項 ゴレンジャーのクライマックスでの戦闘シーンにおける指示行為

ゴレンジャーでは、リーダーであるアカレンジャーからの指示回数が60回に上っている。これはゴレンジャーの中で最多であり、その割合は87%に及ぶ。その他の4人については、いずれも指示回数が一桁になっており、アカレンジャーの次に多いアオレンジャーでさえ、指示回数は6回に留まっている。キレンジャーに至っては全く指示を出していない。アカレンジャーのリーダーシップの強さが明白に表れている。

被指示回数について見ると、指示回数とは反対にアカレンジャーだけが一桁の値となっており、他4人と大差がついている。アカレンジャー以外の4人では、モモレンジャーのみ30%以上の値を記録している。残る3人の被指示回数がほぼ等しいことから、モモレンジャーには4人とは別に指示されうる要因があると考えられる。

その要因の一つとして、ゴレンジャーの必殺技である、ゴレンジャーストームの発動方法が挙げられる。敵に止めを刺す際に発動するこの技は、必ずアカレンジャーの指示により行われる。この技は5人が一人ずつ爆弾のパスを繋いでいく攻撃である。パスを繋ぐ順番は回によって若干変化するが、最初にパスを出すのはモモレンジャー、最後にパスを受けるのはアカレンジャーであるという点は一貫している。つまり、アカレンジャーはほぼ毎回モモレンジャーに向かってゴレンジャーストームを命じるのである。モモレンジャーを名指しせず4人全員に対して命じることもあるが、このような技の発動経緯により、モモレンジャーの被指示回数が他の戦士よりも多くなったと考えられる。

 

第二項 オーレンジャーのクライマックスでの戦闘シーンにおける指示行為

オーレンジャーはリーダーであるオーレッドによる指示回数が105回、また指示する割合が92.1%と、指示する回数、割合ともに、ゴレンジャーの60回、87.0%に比べて増えている。

またオーレンジャー内を見ても、リーダーからの指示が圧倒的に多く、ほかの隊員はほとんど指示を出していないことがわかる。逆にほかの隊員は指示を出されている回数、割合がリーダーに比べて多く、リーダー以外はブルーが81回(23.3%)、グリーン・イエローが87回(25.1%)、ピンクが88回(25.4%)とほぼ同じ回数、割合である。

 これは作品内においてリーダーであるレッドのみが、組織内における階級が「大尉」であるのに対して、ほかの隊員は「中尉」であることから、このような結果が得られたのではないかと考える。さらに付け加えるならば、リーダーを除く隊員に対しては、リーダーも含めて、変身後の色、または本人の名前で呼ぶのに対して、リーダーのみほかの隊員から「隊長」と呼ばれている。このことから、この作品内では階級差が、戦闘における指示行為に影響を与えているのではないかと考える。

また、女性隊員においては2人とも指示回数が0回(0%)という結果から、女性には指示を出す役割はないのではないかといえる。

 

第三項 デカレンジャーのクライマックスでの戦闘シーンにおける指示行為

デカレンジャー以外の3作品においては、リーダー格であるレッドに指示回数が集中している。それに対して、デカレンジャーではリーダーであるデカブルーに一極集中せず、その分デカレッド、デカグリーンからの指示回数が格段に増加している。他の作品と比べて戦士間の指示回数の差が小さいと言える。

被指示回数については、リーダー格以外の戦士に回数が集中しているゴレンジャー、オーレンジャーに対し、デカレンジャーはリーダー格であるデカブルーも他の戦士と同等数の指示を受けている。リーダーからの指示が絶対であり逆らうことはごく稀であった前の2作品と比べると、リーダー格の戦士と他の戦士との上下関係が緩くなったのではないかと考えられる。

女性戦士の指示回数に着目してみると、ゴレンジャーが2(全体の2.9)、オーレンジャーが0回であったのに対し、デカレンジャーでは女性戦士2名の回数を合計すると17(全体の18.1)と大幅に指示回数が増加している。このことから多少なりとも女性のリーダーシップを発揮する場面が増えたのではないかと考えられる。2人の女性戦士のうちの1人であるデカピンクは、テレビ朝日の公式ホームページにおいても「仕切り屋」と紹介されているように、第1話ではデカレンジャーの変身の合図を真っ先に発し、第17話では他の戦士から反対されるも何度も指示を出そうとする姿が見受けられる。加えて、先ほども触れた第17話においては女性戦士であるデカイエローとデカピンクが、敵の罠にかかり捕らえられた男性戦士たち(デカレッド、デカブルー、デカグリーン)を救助しにいくというストーリーが展開されている。女性戦士が男性戦士を助けるという展開は非常に稀であり、この第17話が女性戦士による指示回数増加に寄与しているのではないだろうか。

 

第四項 ゴセイジャーのクライマックスでの戦闘シーンにおける指示行為

ゴセイジャーについては、指示を出した合計回数が他の3作品と比較すると一番小さくなっている。これはメンバー間に階級差がなく、お互いのことをわかりあっているからだと考えられる。例えば、29話の敵に襲われる一般人の避難誘導のシーンでは、ゴセイレッドが敵を切り伏せ一般人に避難を促すと、残りの4人が駆けつけ他の敵を倒しながら一般人の退路を作る、ということがなんの指示もなく行われていた。このような連携が全体の指示回数を減少させた原因であると思われる。さらに明確にリーダーが決められていないことも関係していると予想される。

女性が指示を行った割合は過去3作品と比べて19%と最も多くなっている。さらに男性の指示割合についてデカレンジャーと比較すると、デカレンジャーの63.1%から45.1%に減少している。女性の被指示割合は過去の作品とさほど変化はないが、以上のことからこの作品では、男性と女性のリーダーシップの差が少なくなっていると言える

だろう。

 

第五項 四作品を通した変化と本節のまとめ

5-5は、各作品の指示回数及び被指示回数について、それぞれの総数、1話あたりの回数、そして男女別の割合について算出したものである。ゴレンジャーの指示回数及び被指示回数を50話あたりの数値に換算すると、およそ指示回数が109回、被指示回数が283回となる。このことを踏まえて表5-5を見てみると、ゴレンジャー・オーレンジャーの2作品と、デカレンジャー・ゴセイジャーの2作品を比較すると、明らかに指示回数が減少していることがわかる。男女別の指示割合についても、古いほうの2作品では、ほぼ全て男性から指示が出されているのに対し、新しいほうの2作品では、女性からの指示が、少数ではあるが確実に増えている。1話あたりの指示回数も、オーレンジャーをピークに減少しており、指示行為が行われなくなっていることがわかる。以上のように、本節ではリーダーの戦士が明らかな指揮権を握っていた体制が、徐々に崩れていったことが示された。

5-5 クライマックスでの戦闘における指示行為 下


第四節 本章のまとめ

 ここで、本章で示した分析を整理したい。まず、メンバー間の葛藤の調査では、デカレンジャー・ゴセイジャーの新しい2作品について、葛藤が比較的多く発生し、同時に仲裁件数も増加していることがわかった。ただし、サンプルが少ないため、多くのことを論じることはできない。

 一般人の救助・避難誘導については、誰かが他者に対してその指示を出すことが減少しており、すなわち受動的な救助活動が減少していることを述べた。この指示回数の減少は、救助・避難誘導のものに限らず、クライマックスの戦闘での指示行為についても当てはまる。つまり、場面を問わず指示行為そのものが減っていったことが示された。指示行為について付け加えれば、避難・救助活動の場面では、4作品を通して男性戦士からのみ指示が出されていた。しかし、クライマックスでの戦闘においては、男性からだけでなく女性からも指示が出されており、女性からの指示回数が新しい2作品において増加したことも合わせて注目すべきだろう。

 救助・避難誘導とクライマックスでの戦闘の両シーンにおいては、指示行為が減少している。ゴレンジャーでは、リーダーであるアカレンジャーからの指示が絶対であり、彼は敵の捜索や作戦変更などの今回調査したシーン以外でも頻繁に指示を出していた。その指示に逆らったメンバーに対しては、アカレンジャー自らそれが命令であると説明し、メンバーを怒鳴りつけている4。オーレンジャーでは、リーダーには他のメンバーと明確な身分の差があり、「隊長」と呼ばれていた。しかし、デカレンジャーでは、リーダーであるデカブルーにデカレッドが跳び蹴りをする5など、決してリーダーとして上に立つ者への行動とは思えない場面が見受けられる。ゴセイジャーに至っては、リーダーが明確に存在しない。それどころか、中心人物であるゴセイレッドは女性メンバーから個人的な雑用を手伝わされたり、家具のペンキ塗りを何度もやり直させられたりと、もはやこき使われているのである。このように、リーダーが戦隊の頂点に君臨していたピラミッド型の構造から、メンバー間の上下の差が少ないフラット型へと組織の形が変化したのである。リーダーは、他のメンバーに指示を出すタイプから、チームのまとめ役として存在するようになった。それは、男性メンバー間での差だけでなく、女性を含めた戦隊というチームの形の変化である。リーダーを務める男性が絶対的な地位で中心に陣取っていた戦隊の形が崩れているのである。

 さらに、メンバー間の葛藤について、デカレンジャーでの発生件数の多さが目立っている。しかし、4作品を新旧で二分すると新しい2作品のほうが葛藤が多いことが明らかだ。では、なぜ葛藤が頻発するのか。第五章第一節で触れた、メンバーの性格以外の面から考える。

 前節で述べたように、以前は強力なリーダーが存在し、その下で他の戦士たちは戦闘に臨んでいた。自分で大きな判断をせずとも、リーダーに随って行動すればよかったのである。しかし、リーダーという指針が弱まったことで、リーダー以外の戦士それぞれが戦闘などの戦隊として行動する場面において、意見を出すことが増えたはずだ。すると、メンバーから複数の意見が出されることになり、お互い譲らなければ対立する意見を出したメンバー同士が衝突することになりうる。その結果として、葛藤が増えたのではないだろうか。そして、そこで必要になるのが、仲裁者の存在である。メンバー同士で葛藤が起きた際に、そのままではチームとして戦うことはできない。このとき、リーダーに代わってチームの修正、つまり仲裁の役割を担う者が現れることになる。デカレンジャーにおいては、デカグリーンがそれを担っていた。前章第一節で挙げたデカレッドのエピソードの際、デカグリーンは2回ともデカレッドの制止に入っている。また、ゴセイジャーでは、戦隊の中の中心人物であるゴセイレッドが葛藤の当事者となったのは1件のみであったが、仲裁が入った葛藤の4件中3件でその役割を担っていた。リーダーという戦隊の支柱が衰退していく中で、新たに仲裁者というチームをまとめる役割が必然的に表れたのだ。このような存在を置くことで、戦隊が小さな組織としてのまとまりを保ったまま戦い続けることが出来ているのだろう。

 ただし、その役割を必ずしも男性が担っているとは言い切れない。実際、表5-1の仲裁者の数を見ると、デカレンジャーでは男女で同じ数になっており、ゴセイジャーでも男女比が2:1になっている。この2作品では、男性戦士が3人、女性戦士が2人であることを顧みれば、女性が仲裁を行うケースが少なくない、むしろ男性より多い場合さえあることがわかる。つまり、必ずしも男性戦士が戦隊という組織の中心であり続けるわけではなくなったのだ。