第三章 先行研究

本章では、これまでスーパー戦隊シリーズを調査対象とした研究を取り上げる。

 可貴(2004)は、秘密戦隊ゴレンジャーから2003年放送の爆竜戦隊アバレンジャーまでの計27作品について、戦士の色とその性別について調査した。その27作品中、ピンクの女性戦士が登場する作品は23作品であるとしている1

また、ピンク以外の女性戦士の色で最も多いのは黄、次いで白、青であるとしている。男性戦士は、赤、青、黄、緑、黒、など様々な色が適用されているのに対し、女性の色が乏しいことを浮き彫りにした。さらに、調査した27作品中、男性がリーダー格であるものは25作品に及び、そのうち24作品のリーダーが赤い戦士となっていることを示した。一方、女性がリーダーを務める作品は、忍者戦隊カクレンジャーと未来戦隊タイムレンジャーの2つのみであるという。そして、ゴレンジャーとアバレンジャーの2作品については戦闘シーンでの各戦士の戦闘時間を計測し、女性の戦闘が男性に比べて短いことを示し、問題視している。

 葛城(くずき)(2008)は、ジェンダーに対する意識の高まりとジェンダー要素の描写変化との関連について分析している。まず、秘密戦隊ゴレンジャーから当時放送されていた炎神戦隊ゴーオンジャーまでの31作品について、戦隊内の女性の数と割合を示した。そこから、男女平等や女性に対する差別の撤廃に関する議論が活発化した時代に、最初は一人だった女性戦士が二人登場するようになったことを指摘している。そして、質的分析として、戦隊内のリーダーの戦士に注目し、そのうちの女性でリーダーを務めた3人がそれぞれリーダーになる経緯の違いがあることを明らかにした。すなわち、初めは出自を根拠としてリーダーになっていた女性戦士が、今では能力によって、もしくはそれらの要素すら無くてもリーダーの地位に就く場合があるのだ。それらの変化は、それぞれ社会におけるジェンダーの意識が高まった時期と重なるということを、「男女共同参画社会基本法」の制定などの男女平等施策を引き合いに出して論じている。

 さらに、女性戦士の立ち位置とオープニング映像で名前を紹介される順番、女性戦士の色割り当て、そして女性の着衣(露出度)についても各作品について調査している。オープニング映像での女性の立ち位置は、女性戦士が二人体制になってからは必ずしも外側には配置されなくなっている。だが、名前を紹介される順番を見ると、大きな変化は見られず、必ず男性の後に紹介されていた。色割り当てについては、桃色の戦士が固定的なジェンダー観に近い、しとやかでやさしいキャラクターとして描かれてきたが、女性二人体制になってからは、度々桃色以外の戦士にも固定的なジェンダー観を付与することが増えてきたという。そして、着衣については総じて戦闘に不向きな露出の多い服装であるという。初めて女性二人体制になった頃は、キャラクターの描き分けのため一人は露出が多く、もう一人は露出の少ない恰好をしていたこともあったが、一時的な現象であった。この点に関しては、ジェンダーバイアスを維持・強化するようなバックラッシュ(=反動、揺り戻り)が生じているのではないかと、葛城は指摘している。以上のように、女性の人数などストーリーに関わるわかりやすい部分では配慮がなされているが、着衣などのストーリー上重要でないわかりにくい部分においては、変わらずバランスの配慮が欠けていることを示している。

 以上の2つの論文に共通することは、主に女性戦士の変化に重きを置いているということである。しかし、スーパー戦隊シリーズは男性戦士の方が登場人数が圧倒的に多く、チームとしての戦隊の中でも、中心的な存在であることは明白である。よって、先述の通り本稿では女性戦士に重点を置くことはせず、男性戦士の変化を追っていくこととする。