第三章 調査(1)全国のご当地アイドル

第一節 調査概要

 今回の調査では、まず全国各地のご当地アイドルはどのような活動を行っているのか、どのような傾向がみられるのかを明らかにするため、各地方のアイドルの活動を比較し、分析を行う。この調査では対象として、NHKが運営しているサイト「恋する地元キャンペーン」注1において、キャンペーンを盛り上げるために、“恋ジモサポーター”として参加している各都道府県のご当地アイドルを取り上げる。調査は、各グループのホームページに載っている情報をもとに行うこととした。しかし、ホームページを持っていないものや、ホームページから十分な情報が得られないものもあったため、そのようなアイドルグループを除き、26組のご当地アイドルを対象に調査を行った。その結果が表3-13-4である。

 表を作成するにあたり、いくつかの項目を設定し調査を行った。その項目は以下の通りである。

 

 ・結成年

 ・メンバー人数(20169月現在と結成当初)

・メンバーの年齢(20169月時点)

 ・定期公演の有無、会場規模、頻度

 ・東京での単独公演の有無

 ・コンペティションへの参加

(アイドルのランキングを決めるイベント。主催は芸能事務所など)

 ・県内・県外でのテレビやラジオへの出演

 ・ネットチャンネルの有無(動画配信サイトでの配信)

 ・行政との関係(観光大使などに任命されているか)

 

・活動について

 ・グッズや曲などにみられる地域色について

 

これらの項目を設定し調査を行う。CD/DVDの発売やファン交流、各地のイベント出演など、どのグループも行っていた活動などは調査項目からは排除した。表に各アイドルの活動を示し、どのような関係があるのかを読み取っていく。

 

第二節 分析

第一項    結成・メンバー

 ご当地アイドルの結成年やメンバーの年齢層についてまとめたものが以下の表3-1である。

 

3-1 全国ご当地アイドルの結成とメンバーについて

 

 

 表3-1より全国のご当地アイドルが結成された年を見ると、すべて2000年以降であり、26組中21組が2010年以降に結成されたものであると分かる。これは、2010年前後からアイドルブームを巻き起こした「AKB48」の存在や、NHKの「あまちゃん」でご当地アイドルが取り上げられたことなどが影響していると考えられる。

 また、結成された経緯については、地元のプロダクションなどがプロジェクトを立ち上げメンバーを募り結成したものが多く、どれも地域活性化や、名産品のPRを目的として結成されていた。現在では、各地で地域活性化に向けた対策が多く行われている。そのようなことから、アイドルを手段とした地域活性化の動きも多くみられるようになったのだと考えられる。

メンバーについて調べると、メンバーの現在の人数は最少で1人、最大で27人であり、傾向はみられなかった。しかし、ほとんどすべてのグループで脱退や新加入などのメンバーの変化がみられた。

すべてのグループがその地域出身のメンバーを起用している。メンバーの年齢は小中高生の世代から20代半ばとなっている。そして、そのようなメンバーは学業や他の仕事と両立してアイドル活動を行っているようであった。そのため、イベントによって出演するメンバー数が異なっているグループもあるようであった。

 

第二項    活動

 次に、全国のご当地アイドルの活動をまとめ、分析を行った。(表3-23-3

 

3-2 全国ご当地アイドルの活動

 

3-3 全国ご当地アイドルの活動詳細

 

 

ほとんどのご当地アイドルの活動は地元でのイベントへの出演が大半を占めているようであった。また地元県内での定期公演の開催も半分以上のグループが行っていた(表3-2)。

しかし、地元での活動よりも東京を中心に地元外の地域での活動を多くしているグループがいることが分かった。その中には、単独公演も県外で行うグループもいくつか見られた(表3-2)。例として北海道札幌市を拠点としている「フルーティー💛」などがあげられる。このアイドルは「北海道から全国へ」を合言葉に月に一度東京遠征を行っている。同様に「オトメ☆コーポレーション」や「LinQ」なども、複数回地元外で単独公演を行っており、地元を拠点としながらも、全国を視野に活動を行っているグループも存在していると分かる(表3-3)。これらの、地元外での単独公演を行うなど、地元外での活動に力をいれているグループは全国展開を視野に入れていると読み取れる(表3-23-3の黄色で示したグループ)。

このように、ご当地アイドルは地元での活動を中心とし活動している「地元密着型」のグループと、地元外に視野を向け他県での活動も頻繁に行う「全国展開型」の2つの傾向があるのではないだろうか。

 

 メディアでの活動については、多くのグループが地元のテレビ、ラジオ局でレギュラー番組を持っていた。その地域の代表として活動するにあたり、それぞれの地域で、支持を得る必要があるのではないだろうか。

また、インターネットの普及に伴い、インターネット動画配信サイトでチャンネルを開設し、定期的に配信を行っているグループも多く見られた。インターネットでの宣伝は、地元以外の人々にも提供することが可能である。インターネットを活用することで、誰もが簡単に情報を宣伝することができ、また誰もが簡単にその情報を得ることができるため、ご当地アイドルによる地域活性化に一役買っているのではないかと考える。

 

 地域活性化の取り組みには行政との関係も大きく関わっているのではないかと考える。調査をすると、観光大使などを任命されるなど、行政との関係を持っているグループもいることが分かった。この、行政との関係を持っているグループは、県外のテレビやラジオにゲスト出演するなど、県外での活動を多く行っているグループに多いと感じる。地元出身であり、地元を中心に活動しているグループのメンバーが行政との関係を持つことで、説得力があるのではないだろうか。

 また、地元の企業などのイメージキャラクターに就任し、CMなどに出演しているようなグループも多くいることが分かった。

 

第三項    地域色を出す工夫

 ご当地アイドルの特徴として地元の特色を示すという点があげられる。それぞれのグループの地域色を出す工夫をまとめ、分析を行う。(表3-4

 

3-4 全国ご当地アイドルにみられる地域色

    (色なし:地元密着型、黄色:全国展開型)

 

 

 調査をすると、それぞれのアイドルに地域性を出すため、グッズなどに工夫をしているという特徴がみられた。その一つにグループ名がある。その地域の名産にちなんだグループ名がつけられているものがほとんどであった。また、歌詞に、その地域の名所や名産を取り入れた曲を出すという工夫が多く見られた(表3-4)。CD発売はどのアイドルグループでも行われており、曲に地元の要素を取り入れることで、地域をPRしていると分かる。

その他の地域色を出す工夫としては、グッズや衣装に名産品を取り込むという工夫がみられた。特に、青森県を拠点としている「りんご娘」は、名産のりんごをPRするため、グッズとしてりんごジュースなどの商品を発売するという特徴がみられた。この「りんご娘」は、PRには方言を使用するなど、地域色を出す工夫が多くされていた。

また、「とおとめ25」や「はちきんガールズ」も、地元地域の特色を取り入れた曲を多く発表しており、地域色がとても濃く表れている。

 このような地域色を出すという工夫は全国規模のアイドルではみられない。ご当地アイドルとして、地元の要素を取り入れた工夫を多く行うことで、他の地域のアイドルとの差異化を図り、オリジナル性を高めていると言える。

 

第四項 地域密着型・全国展開型のアイドル

 これまでの調査により、全国各地のご当地アイドルには「地域密着型」「全国展開型」の2つのタイプがあることが分かった。それぞれのアイドルはどのような活動をしているのか詳しく探るため、それぞれのタイプを代表するグループをあげ、調査を行う。「地域密着型」では青森県の「りんご娘」、「全国展開型」では高知県の「はちきんガールズ」を取り上げることとした。

 

・地域密着型のアイドルグループ「りんご娘(青森)」

 地元密着型のアイドルグループとして青森県弘前市を拠点に活動している「りんご娘」があげられる。20077月弘前市のボランティア集団「弘前アクターズスクールプロジェクト(通称:H.A.S.P)」によって結成されたアイドルグループであり、音楽・芸能活動を通した地方からの情報発信と、地元青森の活性化、全国、海外の第1次産業をエンタテイメントで元気付けることを目標としている。現在のメンバーは4人。名前にはりんご王国ならではのこだわりがあり、プロジェクトの指針の元、地元の活性化という願いをこめ、青森県が全国生産量No.1を誇るりんごの品種名がつけられている。衣装やグッズにもりんごを取り入れたものが多い。活動としては、年間80本以上の地元のイベント出演や、地元施設へのボランティアライブの他、TVやラジオ、CMへの出演が中心となっている。弘前産のりんごをPRキャラバンの手伝いとして、全国をまわることもある。

 この「りんご娘」の活動として、保育園や老人ホームなど、アイドルファンが訪れないような場でイベントを行っている点が特徴的である。青森県の特産品であるりんごを売ることを第一目的としており、青森県産のりんごを広めることを通して地域活性化につなげており、アイドルである当人の活動自体は目的になっていないのではないだろうか。このような、地元での多くの活動により、同年代に限らず、幅広い年代層から支持されており、公式ホームページによると、青森県での認知度はほぼ100%であるそうだ。

 

・全国展開型のアイドルグループ「はちきんガールズ(高知)」

 全国展開型のアイドルの例として高知県の「はちきんガールズ」があげられる。「はちきんガールズ」は、プロ野球「高知ファイティングドッグス」公式チアから選抜されたメンバーにより20102月に結成された。グループ名は、土佐弁の「お転婆頑張り屋働き者の女性」を意味する「はちきん」が由来となっている。現在のメンバーは高知出身の高校生1人である。2010年には高知県知事より「高知県観光特使」に任命され、行政との関わりも持っている。

 この「はちきんガールズ」は、結成当初から高知県内を中心に活動を行っていたが、20144月には、「高知から高知をPRではなく、東京から高知のPRをする」と高知から「脱藩」し、東京に全員、転校・入学し共同生活を始め拠点を移した。その後は東京でのライブイベントを中心に活動を行っている。定期公演も東京都内のライブハウスを拠点として行っているようだ。このことから、全国展開型のアイドルグループであると分かる。

 地域色を出したものとして、楽曲があげられる。40曲以上のオリジナル曲を持っており、そのうちの20曲ほどが、高知県をアピールする曲となっており、名産の漁業・畜産・農業・お菓子・名所を網羅しているようである。また、公式のYouTubeチャンネルを持っており、メンバーが東京にある高知県のアンテナショップの紹介を行うなど、インターネットも活用して県のPRを行っているようである。

 

 2014年に突然の「脱藩」を発表した「はちきんガールズ」であるが、その経緯や反響はどのようなものだったのだろうか。

 東京への上京は、「はちきんガールズ」のプロデューサーが提案したようである。アイドルとして芸能界で活躍するために勝負させてみたいという気持ちがあったようである。東京に出たところで大きく変化があるかは分からないが、やるなら定住させてみようと強い気持ちがあったようだ。メンバー達は、生まれ故郷を出ることとなり大きな決断をせまられた。中には、アイドルを辞める決断をしたメンバーもいたが、アイドルとして活躍したいという気持ちから上京を決意したようだ。また、メンバーは東京に出ることで、もっと多くの人に「はちきんガールズ」のおもしろさや高知の良さを知ってもらいたいという思いを持っているようだ。

 東京を中心に活動をすることで、東京は人も多くいろんな人に見てもらえるため、応援してくれる人が増えたとメンバーは語り、反響も多くあったようである。

 

第三節 まとめ

 全国のご当地アイドルを調査すると、活動の範囲において違いがみられた。ほとんどのアイドルグループは地元のイベント出演を中心とした活動をしている「地域密着型」のグループであることが分かった。地元での活動として、拠点となる会場を持ち、定期的に公演を開いているグループも半分以上あることが分かった。ご当地アイドルにとっては、地元での支持を得ることが重要であるのだと考える。そのようなグループとは対称的に、地元出身のメンバーで構成されていて、その地域のご当地アイドルであると名乗りながらも、地元以外の地域での活動が大半を占めている「全国展開型」のグループもいることが分かった。アイドルの活動が活発にみられる現在では、様々な地域で、アイドルフェスなどのイベントなどが開かれるようになったのであろう。そのような東京など都会での活動は、他の地域の人々へ地元をPRしたり、ご当地アイドルの名を広めて、ファンを獲得し、その本拠地である地元への集客を増やしたりという効果があるのではないかと考える。

ほぼすべてのグループが地域活性化を目的としていながらも、どのような活動を通して地域活性化に結びつけているかはグループによってさまざまである。その中で、「地元密着型」「全国展開型」それぞれに見合った活動が行われているようである。

 また、活動についての調査から、どのアイドルグループもイベント出演や定期公演などライブ活動が中心となっていることが分かる。このことから、アイドルの主活動の場がファンと居合わせることができる「現場」であることが読み取れる。

 さらに、ご当地アイドルとして、それぞれの地域性を出すという工夫が多く行われていることが分かる。このような、地域色を出す活動はご当地アイドルならではであり、その地域性はグループにおいて様々である。地域色を出す工夫は、メジャーなアイドルや他のご当地アイドルとの差異化を図り、オリジナル性を高めていると言える。