4章 街アップへの参加

1節 Mさんの参加過程

1項 街アップの第一印象

 

Mさんは1年生の5月下旬に街アップに加入した。それから卒業まで活動を続けたので、Mさんは街アップに約310か月在籍したことになる。Mさんが街アップの存在を知ったきっかけは入学式の時に新入生に配布されるサークル紹介パンフレットだった。それに掲載されていた街アップの紹介文に「公務員とか、社会人の方としゃべれる」といった文言があり、当時公務員の道を考えていたMさんはその言葉に惹かれ、初めてのミーティングに参加した。そこで感じた街アップの第一印象について以下のような語りが得られた。

 

M:面白くて優しい先輩はいるし、その、コーディネーターさんみたいな人もいるし、で、なんか、もう行ったら面白い話してくれる人いるし、で、やりたいことを会議で本気でみんなでちゃんと進めていくし、同級生もいて一人じゃないし、で、まあ、すごいある意味、先輩たちの優しい雰囲気に甘えたなかでやりたいことを言える、引き出してくれる、(中略)そう、アイディアを言い出しやすい雰囲気で…

 

新入生としてサークルに加入したMさんを、先輩メンバー達は好意的に迎え入れた。そして街アップ内の「面白くて優しい先輩 」や「コーディネーターさん」(注:コーディネーターとはMAG.netに常駐する株式会社まちづくりとやまの社員を指す)は自分たちのやりたいことをうまく引き出してくれる頼りがいのある存在として認識されており、それからのサークル活動に対する安心感や楽しさにつながっている。Mさんがサークルに入った当時は現在ほどサークルの人数が多くなく、どんな活動をするときも皆がひとつの輪になり話し合いが進められていった。それにより、サークルに入ったばかりのMさんも、活動歴の長いメンバーと同じ立場で活動に参加している実感を得ることができた。

ここまで、街アップに対するMさんの第一印象はおおむね良かったといえる。もともとボランティアに対して強い興味を持っているわけではなかったMさんだが、街アップとの出会いを経て、まちなか活性化という学生活動に興味が湧いていった。

 

2項 初めてのイベントとリーダーの役割

 

Mさんが街アップに加入したとき、学生メンバーは6月上旬に行われる山王祭の準備の最中であった。加入時期の都合上、Mさんは準備にはあまり携わることができなかったものの、当日はイベントに参加し、客引きや来場者の整理などの仕事を行った。この山王祭がMさんにとって初めてのイベントとなったわけだが、それについて以下のような語りが得られた。

 

間嶋:この、初めて街アップとして主体的に活動する場だったっていうことじゃないですか。それで感触はどうでしたか。

M:え、なんだろう、大変なことはやってもらってたんだけど、でも中に入れてもらって、仕事を与えてもらったっていうことが、なんかもう一員になった感じで、なんか、先輩も別に「1年生だから」とか、上下の感じもなくて、自分でやれることどんどんやっていいよみたいな感じ…

 

サークルに入って初めてのイベントで仕事が割り当てられたことで、サークルの一員になった実感を得ている様子がわかる。街アップの主たる活動であるイベント運営を実際に体験し、自分にもできるという喜びを得たことで、街アップを「なんて楽しい団体なんだ」と語っている。

Mさんはその後、1年生の9月に「お絵かきプロジェクト」のリーダーを務めることになる。お絵描きプロジェクトとは、総曲輪のグランドプラザに保育園児・幼稚園児を招き、大きな紙に自由にお絵かきをしてもらう企画であり、街アップは毎年その運営補助を行なっている。参加した子どもたちからは毎年好評を博している。当時1年生がリーダーを務めるということは異例であったが、Mさんはミーティングの場でリーダーをやりたい人を募った際、面白そうと感じたため自ら立候補してリーダーの役割に就いた。街アップにおいてリーダーとは、ある程度の決定権を持つ存在でありつつも、あくまで他のメンバーと同じ立場でイベントを作っていく存在である。リーダーにあらゆる権利が一極集中しているわけではなく、みんなで全力になって仕事を進めていく前提があるからこそ1年生がリーダーになっても大丈夫だった、とMさんは語る。リーダーの経験について、Mさんから以下のような語りが得られた。

 

M:…何にせよ、リーダーが最後決めるのもあれば、他の人が、すっごいこれがいいと思うっていうのがあって、周りも、なんかその熱にこう、負けるじゃないけど、リーダーじゃない人の意見がバーって通る時もあるから(中略)リーダーのときはどうだろう、でもなんかスケジュールとかも決めたりするから、いつ準備で来てくださいみたいな、感じもあるから、まあ...気が引き締まるのはリーダーのときかな

 

リーダーであるときとそうでないときの違いについての語りである。街アップのイベントは決してリーダーの考えだけで成り立っているものではなく、その時々の学生の熱意によってイベント内容の決まり方も異なるということを理解している。特にMさんは1年生でイベントリーダーを経験したので、他のメンバーに比べて早くからリーダーの役割についての理解が進んだといえるだろう。

 

3項 まちにいる人との出会い

 

街アップの拠点MAG.netに出入りするのは学生ばかりではない。MAG.net運営する株式会社まちづくりとやまの社員、市役所の職員、地域に暮らす人など、たくさんの人が絶えずMAG.netを訪れるため、普段から街アップのメンバーと顔を合わせる機会が多い。Mさんからは、街アップの活動を介して出会った人たちによって、まちづくりに対する自分の考えが変わっていったという旨の語りが多く見られた。ここではMさんが12年生だったころに出会った女性についての語りを引用したい。その女性は総曲輪通りのグランドプラザでイベント面の運営を統括しており、Mさんは「まちづくりに熱くて、面白」い人物と感じている。

 

M:(まちづくりを)お堅い人たちだけでやってるんじゃないんだな、っていうのと、センスのある人がいるからセンスのあるイベントがあって、楽しい、面白いまちになってるんだな、っていうのを知れたのが、面白かった

 

M地域をだれがまわしているのかって、高校生とかしてたら全然わかんないから、まあそれを、街の中に実際入ってるうちに、ちょっとずつ触れ合って

間嶋:ほんとは、こんなタイプの人がやってたんだ=

M:=そうそう、(中略)なんか、成り立つ上で必須のことは、まあ、公務員の人がやってるんだろうけど、それプラスで、面白い取組みしてるな、とかはその中の熱い人たちが、まわしてるんだな、って思って、ああなんか、そういう人たちがいないと面白くならないんだなって。

 

Mさんにとって「まちづくり」はどこかつかみどころがないものだったが、まちがどのような人のもとで作られているか間近に触れたことで、まちづくりへの興味が一層深まっていることが読み取れる。このように、普段の学生生活では出会うことができない「まちのために働く大人」と行動を共にすることにMさんは喜びを感じており、そこに街アップで活動することの意義を見出している。

 

4項 街アップに求めるもの

 

Mさんはその後も週1回のミーティングや年数回あるイベントの運営などに参加を重ね、4年生の4月からは街アップのサークル長になった。街アップでの活動歴が長くなるにつれ、まちなかとの関わりもより深くなっていくため、まちなかに暮らす人々が街アップに何を求めているのか、またそれに伴って現状の街アップにはどのような課題があるのかということに意識的になっていった。以下はそれに関する語りである。

 

M:(活動を)やるんだったら、まちなかの人がやってほしいと思ってることをやりたい、だけど、それを聞くまでが、多分大変なんだと思って。(中略)なんか、人間関係を築くところから多分始めるとまあ、しっかりしたものができると思うんだけど、それって、大学でウキウキした1年生がやってきて、4年でできないことなんじゃないかなと思って。あそれ、需要じゃないけど、街の人がやってほしいなっていうことをやる集団になったら、すごい、うまく回っていくんじゃないかなと、思うけど、まあ4年で、出ちゃうんで…

 

Mさんは、まちなかを活動フィールドにしているからには、まちなかに暮らす人たちのニーズに沿った活動をしたいと考えている。しかし、4年という時間制限がある(時に他県出身の)大学生が短期的にまちと関わっても深い人間関係を築くことができず、本質的にまちなかのニーズを満たすことはできないのではないかと感じている。

 

M:あと別に、商店街の人たちから(中略)あの、認めてもらえなくてもいいって思ってる気持ちもあって、なんか、求めた瞬間怖くなるじゃない(笑)別にいいんだねって思って。なんか、もうなんかやってるなっていうだけで、楽にま、でも、それ(積極的にまちなかと関わりに行くこと)が3年生とかに向いてるなら。=

間嶋:=自己満足レベルでも別にっていう思いもあったり

M:そうそう、でもそれが変わっていく時期なのかもしれない、かなと思って。

 

まちなかには様々な人たちが暮らしている。その中には、街アップが取り組むまちづくりを好意的にとらえる人もいれば、それほど関心を示さない人もいる。Mさんは地域に暮らす人たちの多様性を知ることで、街アップの活動に対する熱意や理解にも個性があるということを受け容れている。そしてMさんは、そのなかで街アップがどのようなことをすればいいのか、つまり地域の人の特性とサークルの特性の両方を考えたうえで街づくりを行なうとき「ちょうどいい」距離感はどのくらいなのか、という、コツのようなものを徐々につかんでいった。地域の人から認められる/認められないという評価軸から、たとえ認められなくとも、自己満足にとどまるレベルであったとしても、自分たちができる自分たちらしいことを実行すること自体に意義を見出す、という方向へ価値観が変わった。

 

 

 

2 Yさんの参加過程

1項 街アップとの出会い

 

Yさんは2年生の4月から街アップとしての活動を開始し、現在約29か月在籍中である。Yさんは高校時代から大学ではボランティア活動をしたいと思っており、1年生の4月に別のボランティアサークルに加入した。そこから、同じボランティア系サークルとして街アップの存在はうっすらと知っていた。しかし、サークル加入前は街アップについて「とりあえずまちで何かしらイベントをやって、まちを盛り上げてるところなんだろうなっていう、ぐらいの印象」にとどまっていた。1年生のボランティア経験で地域活動への興味が増したことに加え、街アップ内に知り合いがいたことも後押しになり2年生の春からサークルの一員となった。Yさんの、街アップに対する第一印象はどのようなものだったのだろうか。以下はそれに関する語りである。

 

Y先輩と、その、コーディネーターというかスタッフはめちゃくちゃフレンドリーやった。あ、後輩も割とフレンドリー。同い年は人見知りが多くて最初全然話さんだ。もう初めて行ったときは、初めてっていうか入ってすぐの時は、MAG.net言ったら孤立無援みたいな。(間嶋:Yが?)うん、割と、同い年の人は割と最初みんなそうだったらしい。

 

先輩や大人のコーディネーターは新メンバーに対してフレンドリーだったものの、活動初期において同学年同士のつながりはそこまで深くなかったという。MAG.netまで行くものの、うまく話せずにその場に座っているだけということもしばしばあったようで、Yさんはそのような状況を「孤立無援みたい」と表現している。こうした語りから、初期の参加においては同学年の横のつながりよりも先輩やコーディネーターなどの縦のつながりの印象の方が強く残っていることがわかる。活動したての頃の参加について以下のような語りも得られた。

 

間嶋:自分が新人として入ったときに、自分に対して、その、既存のメンバーの人たちは同じ輪に取り込んでくれたって実感はある?

Y:ある。なんか、街アップの風習というか、誰か入ってくるとまずみんなであだ名を考えるから、それが恒例行事で、なんか、仲間になったな感があると思う。

 

 街アップには新しく加入したメンバーにあだ名をつける慣習がある。そのあだ名が自分にもつけられることによって、Yさんは街アップの「仲間になったな感」を感じている。一人一人にあだ名があり、それを使って呼び合うことで集団としての雰囲気や独特の空気感が生まれるうえ、新メンバーにとっては、それを持つことが街アップへの参加の第一歩になっている様子がうかがえる。Yさんにとってあだ名は、街アップへの正統性を生み出す一つ目のステップだったともいえるだろう。

 

2項 イベントと地域からの評価

 

Yさんが初めて街アップのイベント運営に参加したのは6月上旬に行われる「山王祭」であった。そこではラムネの販売と子ども神輿の手伝いという役割であった。企画段階から他のメンバーと意見交換を重ね、イベントを成功させられたことは大きな達成感につながった。以下はそれに関わる語りである。

 

間嶋:最初、その、感触っていうのはどうだった?初めてイベントってものに出た感想、なんか、どんなもんだなって思った?

Y:まあ、達成感が。その、大学生っぽいなって感じが。高校生で、自分らでそんなイベントを何か企画してやるってことがなかったから=

 

自分たちで一からイベントを企画し、まちなか全体を巻き込んだ大きな規模でイベントを作るという経験がとても大学生らしく、そこに面白さを感じている。街アップとして初めてのイベントはとても好感触だった。

 あるイベントの成功体験は、実行した自分たちの満足に加え、そのイベントに周囲からどのような反響が寄せられたかということにも影響を受けるだろう。Yさん自身は街アップが行うイベントに対する地域側の反響はおおむね好意的なものだと感じている。「(イベントが)盛り上がったね」「(街アップのチームTシャツの)黄色いTシャツ着て頑張ってたね」と声をかけてもらうこともあったそうだ。また、イベントだけでなく日常の活動においても、商店街の店主らと交流したり、商店街の宣伝活動等を行ったりしているため、街アップは相応の評価を受けているとYさんは感じている。中心商店街の真ん中に位置するMAG.netとそこを拠点とする街アップは、まちなかのなかである程度存在感がある集団なのだと、活動を通して理解することができた。

 

3項 紙芝居イベント

 

複数のイベントを経験しながらまちなかと街アップの関わり合いについて理解が深まっていったYさんだが、サークルに加入して約半年後の2年生11月に「紙芝居イベント」のリーダーを務めることになる。「紙芝居イベント」は、失われつつある紙芝居の文化を改めて発信するために、商店街を舞台に著名な紙芝居師による公演やその他イベントを行なう、という趣旨の活動であった。Yさんは、プロジェクトのリーダーとして大人との連絡調整、チラシ・ポスターなどの広報資材の準備、部員の割り振りなどを行なった。その際、個人の希望や興味をできるだけ尊重する形で役割を決めていった。Yさんにとって、あるイベントのリーダーになるということは一般メンバーとして参加することとどのように異なるのだろうか。以下はそれについての語りである。

 

Y自分がリーダーだから、自分が一番責任を負う立場だから、やっぱ成功させんなんなっていう。自分がリーダーじゃないと、割と気楽に、そう、できるけど。

間嶋:で、その紙芝居イベントのときは、リーダーだけがやらないといけない仕事っていうのはどんなだった?

Y:あのー、その、○○高校の先生(紙芝居イベントを主催する人物)とか、割と偉めの人と、街アップの代表としてなんか、チラシを何枚刷るとか、大会の流れとか、ポスターどこに置くとか、そういう話をしてた。

 

リーダーであることの責任感を強く感じつつ、街アップの代表として運営に関わる細かい部分の打ち合わせを重ねていった様子がわかる。リーダーのみが行う仕事を経験することによって、そのノウハウはもちろん、自分が最前線でそのイベントを取り仕切っているという事実によりサークルに参加している実感がより深くなっていると考えられる。イベントの内容をすべて熟知し、サークルメンバーのモチベーションを保ちながら役割を割り振ることは簡単ではないが、その分、イベントを一から作ることの大変さや成功の喜びはYさんが一番に理解したはずである。

 

4項 今後の街アップを担う存在として

 

筆者がインタビューを行ったのはYさんが3年生の7月である。街アップは例年、3年生が4年生に進級する年にサークル長の引き継ぎが行われるため、インタビュー時点では、Yさんたちの代の誰かがサークル長になるのは、半年近く先だったということになる。しかし、Yさんたちの代(当時3年生)のメンバー間では、徐々に今後の街アップを担う存在としての自覚が生まれているようであった。以下はそれに関する語りである。

 

Y:今後についてではないけど、3年生7人いて、(公務員)講座とってる人が4人いるから、あの、今後のミーティングについてどうしようかみたいな、あの=

間嶋:=あ、そういう、なんか穴が開くからっていうこと?

Y:そう、ミーティングを、水曜じゃなくて月曜日に、してもらうか=

間嶋:=あ、定例のやつをもう変えようかってこと?

Y:そう。っていう話はまあ元々あったから、来れない人会議をいつにするか、みたいなそういう話を

 

もともと水曜日に行われていたミーティングだが、就職活動の影響で今後水曜日に開催することが難しくなると予想されるため、皆が均等に参加できる月曜日に変更する案が出ているということだった。ミーティングに限らず、今後の街アップの活動の方針について、これまでよりも話す機会が増えてきており、世代交代に向け、徐々に意識が高まっている。

 


 

3 Aさんの参加過程

1項 街アップ内での居心地

 

Aさんは1年生の4月から街アップに所属しており、現在約36か月在籍している。Aさんは大学に入るまでボランティア経験は特になく、地域活動に興味があるわけでもなかった。そんなAさんが街アップを知ったきっかけは、入学時にもらうサークルガイドの写真であった。その写真に写る活動の様子が楽しそうで、参加を決めたという。この時点で、街アップの活動内容を深く知っているわけではなかった。加入してすぐのAさんの心境はどのようなものだったのだろうか。以下はそれに関わる語りである。

 

A入ったときはすごく居心地悪かったですね。僕一応、富山市の中心部の方に住んでるんですけど、MAG.netの存在も知らなかったですし、あそこ一応ガラス張りですけど、常に誰か人がいて、あんまり僕そんなコミュニケーション得意な方でもないので、うわー、人がいて入りづらいなぁって、自動扉開けるのもいつも緊張してどきどきしながら…

 

Aさんの住まいは中心商店街の近くであるが、街アップに入るまでMAG.netの存在は知らなかった。MAG.netが商店街活性化の拠点と知った後でも、常に人がいる活発な雰囲気に圧倒されていた。Aさんにとって、初期のMAG.netないし街アップの雰囲気は「入りづらい・なじみにくい」というものであった。

 その後Aさんは街アップの新メンバーとして、サークル活動に参加していくことになる。初期のAさんの参加において、心理的な支えになったのが、先述の2人と同様に先輩の存在であった。以下はそれに関わる語りである。

 

A:先輩方はすごい優しく接してくれてましたね。先輩方のおかげで僕がMAG.net居心地悪かったけどだんだん入っていけるようになった…

間嶋:なんかどんな風に取り込んでくれたかって、思い出ありますか。

A:僕全然自分から話さない方なんですけど、積極的に話を振ってくれたり、ご飯に誘ってくれたりして、少しずつ心を開いていくというか

 

Aさんは新しい環境の中で自分から積極的に発言することが苦手であったが、先輩側から自分にはたらきかけてくれたことで徐々にサークルの輪に入っている実感が得られていった。ここでもやはり、初期の参加における先輩の重要性が読み取れる。そして、Aさんにとってそれは街アップの第一印象だけでなく、自らが運営に携わったイベントの場でも大きな影響をもたらすものだった。

 

2項 学生まちづくりの可能性

 

Aさんが初めて参加したイベントは先述の2名と同様6月上旬に行われた「山王祭」であった。しかし、その内容決めのミーティングでは「一切喋らず石のようにただ黙って」いたそうである。サークルに加入してすぐに山王祭にかかわる打ち合わせが行われたものの、その頃のAさんはまだ上手くサークルに馴染めている実感がなく、話し合いにもあまり参加せずにいた。その年度の街アップでは山王祭の一企画として子供向けのお化け屋敷を企画したが、Aさんは特に何かの役割につくことはなかったという。Aさんにとって初めてのイベントは街アップへの参加という面では手ごたえが得られるものではなかった。

しかし、山王祭の次に行われた「お絵かきプロジェクト」についての語りからは、Aさんに心理的な変化が見られた。以下はそれに関わる語りである。

 

間嶋:お絵かきイベントは実際どんなことを担当しましたか、企画の中で。

A:とりあえず先輩と一緒に、絵の、立体物をつくったりだとか、絵の下絵を描いたりだとかしましたね。

間嶋:その、イベント終わってからの感想はどんな感じでしたか。

A:なんか、グランドプラザ一面に絵を描くっていうのが、大人の援助もあったんですけど、基本学生メインであそこまでのことができるっていうのにすごい驚きました。

 

A:あー、やっぱ最初正直な話、お化け屋敷に全然関われてなくて、このまま馴染めなくて終わってくんかなあって思ってたんですけど、まあ少しずつお絵かき(プロジェクト)とかで馴染んでいけて、これからもこんな楽しいことあるんだったらやってこうと、いう思いになりました。

 

先述したようにAさんは、山王祭の時点においては街アップにうまく参加しているという実感がまだ得られなかった。しかし、その後に開催されたお絵かきプロジェクトとそれに伴う一連の準備作業では、明確な役割を持ちながら他のメンバーと活発に活動している様子がうかがえる。そして、お絵かきプロジェクトを実行した後は、まちなかを巻き込んだ大きな規模のイベントを、学生主体の運営で成し遂げることができたということにとても感動している。その成功体験はAさんの心に強く残り、その後のサークル参加について「これからもこんな楽しいことあるんだったらやってこう」というポジティブな思いに変わっていることがわかる。Aさんにとってこのお絵かきプロジェクトは、その後の活動参加をより能動的なものにする大きなきっかけとなった。

 

 

3項 イベントリーダーの経験

 

Aさんはその後も2回に1回程度ミーティングに参加し、街アップとして行うイベントにもおおむね参加をした。1年生のうちは話す機会が少なかった同期メンバーとも、2年生に進級してからは徐々に打ち解けていったそうだ。そのような中で、Aさんは3年生の6月にあるイベントのリーダーを務めることになる。Aさんがリーダーを務めたイベント「なかもん大量発生」は、山王祭の一企画としてまちなかを舞台に行われるものであった。この企画のメインキャラクターであるなかもんとは、まちなかの情報発信サイト内のキャラクターである。街アップの学生10人ほどがなかもんに扮し、様々な場所に散らばり、参加者に探してもらうという企画であった。この企画はAさんが一から発案し、計画・準備等は全てAさんが指揮をとった。以下はこれに関する語りである。

 

A:やっぱ誰かの企画に乗っかるってなったら、その人が中心となってるから、別に俺がやんなくてもってことで、自分の他の予定優先させたりするんですけど、自分がリーダーの時はそのイベント絶対成功させたいから、常にそのことばっかり考えてて、授業中でももっといい案ないかなってメモしたり…

 

間嶋:(「なかもん大量発生」に対して)反響があったっていう話をしたんだけど、それを受けてどんな風に感じましたか。

A:はい、何よりもうれしかったです。自分がやった企画が自分だけの満足じゃなくて他の人も参加者も満足してもらえたので、非常に嬉しいことでした。

 

Aさん自身が発案したイベントということもあり、そのイベントをよりたくさんの人に楽しんでもらいたいという前向きな思いのもとで精力的に準備を進めていった様子がわかる。結果として「なかもん大量発生」は成功を収め、その場にいた人からはもちろん、Twitterなどを通して間接的に感想を聞くことができた。その多くが好意的なものであり、Aさんは自分だけの満足ではなく、イベントを体験した人たちの満足にもつながったということに大きな喜びを感じた。

「なかもん大量発生」の経験は、Aさんにとっての街アップの意義につながる貴重な経験となった。インタビュー中、Aさんに「街アップに入ってよかったと思うこと」を訊ねたところ「うーん、やっぱり自分のやりたいことを実現できるところですかね」という答えが得られた。自分がやりたいと思うことだからこそ参加へのモチベーションが生まれていることからも、地域活性化という枠組みのなかであらゆるアイデアを巡らせ、同じ志を持つメンバーとともに地域に参加していくことが「街アップの楽しさ」ないし「街アップで活動するメリット」ととらえられているようである。

 

4項 「大人」のアシスト

 

3項で触れたように、イベントを作る過程とそれを地域というフィールドで実践することは、街アップメンバーの十全的な参加を導く大きなきっかけだが、それは学生だけの力で叶うものではない。イベントの費用や使う場所の確保などはコーディネーターをはじめとするスタッフが対応しているため、イベントに関する語りではそのような「大人」との関わりに言及したものが多く見られた。以下はそれに関わる語りである。

 

間嶋:じゃあ、街アップに参加して一番良かったなと思うことは?
A
:やっぱり大人の人と関われたってことですかね。うん、他のサークルだと学生同士で終わってしまうところが大人と関わって、色んな意見聞けたりしますし、イベントを自分たちから作ってくっていう過程もすごく面白くて、入ってよかったなって思いますね。

 

A:ほんとにこのサークルやばいなって思う(笑)やりたいこと実現できるって、(「なかもん大量発生」で使用する)全身タイツあんなに買ってくれるとこないっすよ(笑)

 

Aさんは街アップに参加して一番良かったこととして「大人」と関わることができた点を挙げている。活動のなかに「大人」が存在することで、現実味を帯びたより幅広い視点を持つことができた。それに加え「大人」は、学生だけではできないことを資金や各種手続きの面からバックアップしてくれた。街アップのメンバーにとって「大人」は良き相談相手であるとともに、学生のアイデアを尊重しながらそれを実現へと推し進めてくれる貴重な存在であると認識されている。一方でこのような語りも見られた。

 

 

A:そうですね、うーん、自分たちがやりたいって言って始めたイベントなら、そうやって作った企画だったらそういうまちを盛り上げる意気込みとかも非常に強く感じるんですけど、大人から言われたりだとかずーっと昔からあったものをやるところにはあまりそういう強い熱意が感じられないなということもあったりします。

 

自分達のやりたいことを実現できる雰囲気が街アップの良いところだととらえられている反面、大人側から頼まれるイベントや慣例として何年も続いてきたイベントを行う時は、それが必ずしも自分の熱意と結びついているとは限らないため、モチベーションが上がらないこともあるようだ。

4節 Nさんの参加過程

1項 まちを活動フィールドにする喜び

 

Nさんは1年生の前期に街アップに加入した。石川県出身のNさんは、大学入学後に富山県民の知り合いを増やそうと思っていたがあまりきっかけがなかった。そんな折、街アップを知っていた友人から紹介を受け、興味を持った。紹介を受けた友人は街アップのメンバーではなかったが、街アップがまちなか活性化のために何かしらのイベントを行っているという程度の認識があった。その後、初めてサークルの様子を見学に行った際、街アップが取り組む活動の面白さや先輩メンバーの人間性に惹かれ、サークル加入を決意した。Nさんが街アップに参加して間もない頃は、同級生よりも先輩との関わりの方が深かった。大学生活で不安なことやプライベートな話など何でも話せる先輩はNさんにとって大きな存在だった。同級生よりも先輩との関わりの方が厚かったという語りはAさんにも見られた。

Nさんが初めて運営に携わったのは他のメンバー同様「山王祭」であった。そこではラムネの販売と、その年のテーマであったお化け屋敷で舞台裏を支えるアシスタントの役割を務めた。順路のチェックポイントで来場者を待ち、驚かす仕事をしていたそうだ。このお化け屋敷がNさんにとって初めてのイベントになったわけだが、その感触について以下のような語りが得られた。

 

間嶋:自分が初めてイベントに携わったときに、その感触というか、感想はどうでしたか。

N:率直な感想、うーん、自分自身はすごく楽しめたなって感じ、イベントを作るという経験は昔からあって、生徒会活動とか、イベントの喜びというよりは、その、まちでやったという喜び、まちでできたな、という喜び

 

Nさんはこれまでの学生生活で生徒会活動を経験しているので、皆でイベント作りを進めるということには慣れていた。しかし、街アップに加入し、そのフィールドがまちに変わったことで新たな喜びが芽生えている様子が分かる。活動を通じて、街アップがまちと深いつながりを持つ団体だということを理解するとともに、イベント実行の過程で出会った様々な人とのやりとりを楽しむことができている。

 

2項 Nさんの参加ペース

 

 Nさんは、1年生で街アップに加入したころから、それ以後の自分の参加ペースをある程度見据えていたようである。以下はそれに関する語りである。

 

N:私がまずその街アップに対して抱いていたイメージ、私が街アップに入るときにもしかしたら他の活動に力を入れるかもしれませんと、たまに来るだけになるかもしれませんが大丈夫ですかと、聞いたんですね、その時に大丈夫です、と言っていただけたので、私としては、私の街アップへの関わり方っていうのが気軽に来て、忙しいときは出ていくという、…

 

Nさんは街アップに加入する前に、今後の活動への参加ペースがまばらになるかもしれないが、そのような参加の方法でもよいのかということを街アップのコーディネーター・先輩に確認を取ったそうである。Nさんに限らず街アップには他のサークルと兼部している学生が多く在籍しているので、Nさんのような参加形態は決して珍しいわけではないが、1年生時から「気軽に来て、忙しいときは出ていく」参加スタイルを明言しているのは今回のインタビュイーの中でNさんだけだった。実際、現在(4年生)のNさんは街アップの他に2つの団体に所属しており、そちらの活動にも精力的に取り組んでいるので、街アップに顔を出す時間は少なくなってきているようである。そのような自分について、Nさんからは以下のような語りが得られた。

 

N:今もたまーに顔を出しに行く程度で、少し助言をする程度になっているので、指導はできても、なんていうか常時できるわけではないっていう風になっているので、先輩としての対応がたまにしかできないというか、だから、幹部っていう言い方はおかしいかもしれないですが、そういう立場に立つのはどうなんだろうっていう感じにはなってますね。

 

継続的に街アップの活動に参加し、いつでもMAG.netで会うことができるようなキャラクターであれば、中核メンバーの先輩としてリーダーシップを取ることができる。しかし、Nさんの参加はそこに至っていないと自認しているため、自身を街アップのリーダー的存在として語ることに違和感があるようだ。このNさんの語りからは、街アップのリーダーになるべき存在には、ある程度の参加回数とそれに伴うメンバーの理解が必要と考えられていることが分かる。

また、リーダーに対する価値観も関係しているかもしれないが、Nさんは今回のインタビュイーの中で唯一イベントリーダーを経験していない人物だった。ゆえにイベントリーダーの実践に伴う参加の深まりは見出すことができなかった。

 

3項 「大人」イメージの変化

 

 街アップでの経験が増えていくにつれ、MAG.netに出入りする大人や中心商店街に暮らす住民たちと触れ合う機会が増えるのは、これまでのインタビュイーの語りでも触れたところだが、Nさんの場合はどうだろうか。

 まず、Nさんは街アップに加入する前、街アップが大人と協働しているサークルだということを知らなかった。ゆえに「大人」の存在はNさんにとって街アップ加入のモチベーションにならなかった。しかし街アップのメンバーになってからは、まちの内部にいる「大人」との関わりが増え、そのような人たちと意見を交換しながら共に活動できることが街アップの強みであると徐々に印象が変化していた。以下は街アップに入って良かったことについて訊ねた際の語りである。

 

N:まちと関わるという活動を通して大人との会話の仕方がわかったという、この人たちが何を求めてるのかとか、どういうことをすると相手から帰ってくるのかとか、

間嶋:人付き合いという部分でね

N:人付き合い、そう、コミュニケーション能力を高められたかなと、活動のフィールドがまちだけじゃなくて、他のとこでも活動できるようになった。まちづくりだけじゃない活動もできるようになったり

 

たくさんの「大人」と関わることができる街アップでの機会を生かし、コミュニケーション能力を高められた、と自身の活動を振り返っている。そしてそれは地域活性化の場だけでなくNさんが関わる他の活動においても役に立つスキルとなった。

一方、「大人」との関わりについて以下のような語りも得られた。

 

(中央通り、千石町商店街の人たちとの交流について)

N:…個人的なつながりとして一緒に飲んだりとか、千石町通りに関しては、自分がまちなか、今年のコンペに出して協力団体として入ってもらって、で、それ以外だと個人的に飲む仲で()お店に行ったりももちろんありますし、食事しに行ったり、お祭りに遊びに行ったりとか、中央通り(の人たち)は、ノミニケーションじゃないですけど、そういう交流あるのかな。

 

この語りからNさんは、街アップを通じた「大人」との関わりに加えて個人的なつながりも深いことが分かる。他のメンバーは街アップの活動中に限定して地域住民との関わりがあると言及していたが、Nさんは活動外でも地域の「大人」と親密な間柄であり、そこに違いが見られた。