第六章 考察

先行研究においては、進学先・就職先と地元の往復でUターン希望者自身に時間的・費用的負担が大きくのしかかることがUターン就職の難しさの要因の1つとなっているとされていた。ただ、Uターン希望者は進学先と地元の往復をする必要があり、どうしても時間的・費用的負担がかかるというのは誰でも想像がつくことである。今回の調査で、Uターン希望者に実際のスケジュールを提供してもらい、就職活動の過程を分析したことで、これらの問題の根本的なものが見えたのではないだろうか。

まず1つ目に、費用的な問題である。先述した通り、Uターン就職希望者は就職活動において進学先と地元を何度も往復する必要があり、完全地元就職組と比べ莫大な費用がかかる。現に、Kさんに至っては3月から6月までの4ヶ月間に19回も往復している。また、Nさんに至っては帰省の費用が16万を超えるなど莫大な費用がかかっている。たとえKさんのように一回に長期滞在をする形で帰省し、費用を抑える努力をしていたとしても、やはりかかる金額は大きい。進学先で一人暮らしをしており、かつ親から仕送りをもらっていない学生などにとってはかなり大きな問題となるのではないだろうか。

 2つ目に、時間的な問題である。先ほども述べたように、Uターン就職希望者は進学先と地元を何度も往復する必要がある。地元就職であれば説明会や選考を受ける企業と自宅の往復の時間だけで済むが、Uターン就職の場合は、それに加えて進学先と地元を往復する時間がかかることになる。自己分析や業界研究、企業研究、説明会への参加など、ただでさえやることがたくさんある就職活動のなかで、移動に時間を割かれるのはかなり痛いだろう。

この2つの問題は、今回のインタビュイーの3人にも共通して現れている。Nさん、Mさん、Kさんの三者とも、大学の授業やアルバイトと地元での就活を両立させるのに苦労していた。特にNさん、Mさんは、大学の授業やアルバイトのために概ね週1回のペースで帰省していたため、時間も距離も費用もかかり負担が大きい。そのうえ、地元へ帰る交通費などすべて自分で用意をしていたMさんは、アルバイトを休むにも休めず、授業にも出席し、そのうえ企業の選考も受けていた。Mさんの負担は相当大きいものだったと考えられる。Kさんにおいても、申請をすれば休みをもらえたとはいえ、授業をかなり欠席していることになる。また、Nさんは地元新潟県に交通費の補助制度があったものの、申請する際に企業からの証明をもらわければならないなど、手間がかかることから利用を断念している。この事例からすると、Uターン希望者は費用がかかることよりも時間がかかることの方が惜しいと思っているのかもしれない。

 3つ目に、情報的な問題である。この問題は地方から地方へのUターン就職希望者に顕著に表れる。Nさん、Mさんが就活の際に利用した情報源としては、マイナビやリクナビなどの大手就活サイトなどに頼ることが多かったという。Nさん、Mさんの進学先では、地元行政主催のイベントなどもあまり行われていなかったようだ。Kさんのように都市部から地方へのUターンであれば、地方行政も力を入れているため、Uターンの相談窓口が設置され、フェアや合同企業説明会などのイベントも多数開催されており、地元企業の情報を得やすくなっている。しかし、Nさん、Mさんのように地方から地方へのUターンとなると、窓口の設置はおろかイベントもほとんど開催されていないため、自力で地元に戻るか、ネットでの情報のみに頼ることになるだろう。

 何度も言う通り、Uターン希望者は就職活動のために進学先と地元を往復する必要があり、そのための移動時間や費用が大きな負担になっている。これまで3つの問題を指摘してきたが、これらの問題は独立して存在しているわけではなく、それぞれが少しずつ絡み合いながら起こっている問題ではないだろうか。移動時間がかかるからこそ大学の授業を犠牲にしながら地元に帰る必要があり、また、その費用を用意しなければならないからこそアルバイトを続けなければならない。そこでまたアルバイトに時間をとられることになり、さらに時間が無くなるという負のサイクルに陥っているのではないだろうか。現にMさんは、週35回のアルバイトをこなしていたにも関わらず、その給与のほとんどを帰省の費用やその他の雑費に費やしてしまい、生活費が足りなくなってしまうという状態にまでなっている。Uターン就職希望者とは反対に、完全な地元就職を希望していた友人に就職活動中にどれほどアルバイトをしていたか質問したところ、週1回や2回と答える人が多かった。それだけ時間がないという状況だということになると、合同企業説明会や個別企業説明会などへの参加回数も完全な地元就職組と比べて少なくなってしまうのではないだろうか。また、Uターン希望者と一般的な就活生の企業説明会の参加数を比べてみると、一般的な就活生の平均が20社〜40社であるのに対し、Mさんは9社、Nさんは15社、Kさんが6社と差が開いている。企業説明会への参加回数が少ないということはそれだけ入手することができる情報量も劣ってしまうということになるだろう。

今回の調査では、Nさんの地元である新潟県、Mさんの地元である石川県、Kさんの地元である富山県に着目して分析を行った。この3県を比較してみると、各県の支援地域の絞り方の違いが明確にわかった。新潟県は就活イベント、情報提供窓口の設置の双方とも東京にのみ展開しており、石川県は東京に加え大阪にも展開している。富山県はそれらに加えて名古屋や金沢など、前半の2県に比べてかなり広い範囲で支援を行っていた。支援内容については、3県とも情報提供に偏っている印象を受けた。どの県もUターン窓口の設置やネットでの情報提供など似たり寄ったりの内容が多かった。富山県こそ、それまでUターン就職を現実のものとして考えてなかった人にUターン就職を意識させるようなイベントは開催しているものの、元からUターン就職を意識している人に対する地元企業などの情報の提供の方法は他の2県とさほど変わらないように思う。また、Uターン就職希望者の経済的な負担を軽減するような政策がほとんどないことも、この3県で共通していた。

このような調査結果を踏まえ、Uターン就職希望者の負担を減らすためにはどのような支援をすれば有効的なのだろうかと考えてみた。例えば、出張合説と同じような形で都市部で複数の企業の選考を受けられるようなイベントや、本当に最終の選考以外は近隣の地域で選考を受けられる制度、公共交通機関の就活割などがあれば、少しはUターン就職希望者の負担は軽くなるのではないだろうか。また、就職活動のピークを大学の春休み期間である2月〜3月に合うように就活の解禁日を設定すれば、春休み中にまとめて帰省することで時間的にも費用的にも負担はかなり抑えられるかもしれない。

 本稿では、Kさん、Mさん、Nさんという3名のUターン希望者にインタビュー調査を行い、Uターン就職の困難さや問題点について考察を行った。Uターン希望者が抱えている問題には家庭の事情など個人的なものも関与してくるため、必ずしも彼女ら3人がUターン希望者の代表例としていえるとは限らない。しかし、今回の調査によって、Uターン希望者がどのように就職活動を行い、どれほどの負担を抱えているのかという具体的なところを明らかにできたのではないだろうか。