第五章 分析(2)地方から地方へのUターン希望者

 前章でも述べたように、Uターン就職と聞くと「大都市圏から地方」へのものだと考える人が多いのではないだろうか。だが、実際のところ、「地方から地方」へのUターン就職も少なからず存在している。そこでこの章では、富山県から新潟県へのUターンを希望するNさんと、富山県から石川県へのUターンを希望するMさんに注目し、2人のインタビュー調査をもとに分析を行う。

 

第一節 Nさんの場合

第一項 Uターン意識の形成

Nさんは、2013年に進学のために富山にやって来た。そもそもNさんはなぜ進学先に富山を選んだのだろうか。また、進学先の富山に対してどのような印象をもっているのだろうか。Nさんに質問してみたところ、Nさんは以下のように語った。

 

N:新潟が好きだからこそ、ほかのとこに行ってみたいっていうのがあった。やっぱそこにずっといたらそこしか知らないわけじゃん。だから他のところも見て比べたかったっていうのがある。で、やっぱり戻ってくるっていう前提で外に出た。(中略)第一志望の大学が富山じゃなかったっていうのも、たぶんあるんだけど、来たくて来たわけじゃないから…あんまり……富山は好きじゃない。

 

Nさんはもともと地元愛が強かったが、一度地元と他の地域を比べてみたいと考え、卒業後は新潟に戻る前提で富山に進学してきた。しかし、富山の大学は第一志望ではなかった。また、受験の際に宿泊したホテルの前で中年男性が嘔吐しているところを目撃してしまうなどの経験から、富山の第一印象は最悪だったという。望んだ進学ではなかったうえ、富山の第一印象も悪かったため、富山という地域にあまりいい印象を持っていないことがわかる。それでは、Nさんは地元のどのようなところに対して愛着をもっているのであろうか。Nさんに質問してみたところ、Nさんは地元が好きだからこそ、地元と他の地域を比べてみたいという思いから富山に進学してきたが、思ったほど地元の良さを見つけることはできなかったと語った。

それならばなぜ、NさんはUターン就職をしようと考えるに至ったのであろうか。Uターンを決意した理由を質問したところNさんは以下のように語った。

 

鴨川:やっぱり帰りたいって思ったのはどういう決め手…なんか大きな決め手ってある?

N:あー…そのー…話し合ったのね。彼…と。でもあっちはなんか…もう…私こんなに迷ってるんですけどっていうことを言ったんだけど、いや俺は大丈夫だと思ってるよ、みたいな…離れても。(鴨川:あー。)だから好きに、俺のことは気にしなくていいよ、ってふうにしてくれた。

 

Nさんは進学当初から卒業後は地元に帰ることを決めていたが、富山で恋人ができたこと、また、新潟の両親とはあまり仲が良くなかったことなどから、このまま富山に残るのか、それともやはりUターンするのかで相当悩んだという。しかし、上の語りからもわかるように、彼に後押しされたことによって地元に戻る決意をしたのである。

 

第二項 就職活動の困難さと地元行政の支援

 Uターン就職をする人はどのような就職活動を行っているのであろうか。Nさんの語りから3月〜6月にかけての帰省の回数とそれにかかった費用をまとめた。また、巻末に掲載しているNさんの就活スケジュールに関しても以下に概要をまとめた。


 

回数(日数)

かかった金額

3

4回(15日間)

49,170

4

3回(8日間)

58,910

5

4回(18日間)

49,040

6

1回(日帰り)

12,700

合計

12回(42日間)

169,820

51

 

Nさんの就活スケジュール概要>

3月:合同企業説明会7回、個別企業説明会5社/アルバイト5

1週目のうち2日間を新潟で過ごす。5日土曜日には富山に戻り、富大の合同企業説明会に参加する。2週目から3週目にかけて再び新潟に帰省し、2つの合同企業説明会に参加している。その後アルバイトのために富山に戻る。4週目に再び新潟に帰省し、1つの合同企業説明会に参加。翌日には富山に戻り、A社の個別企業説明会に参加している。5週目にも新潟に帰省し、4社の個別企業説明会に参加する。

4月:個別企業説明会4社、選考3社/アルバイト6

1週目はアルバイトのために富山で過ごす。2週目は4日に18時〜24時までアルバイト勤務をしたのち、5日は新潟に帰省しH社、I社の個別企業説明会に参加している。3週目は大学の健康診断もあることから富山に戻り、週末はアルバイト勤務。4週目は再び新潟に帰省し、B社、J社の選考を受ける。週末にはアルバイトのために富山に戻る。5週目は2日間だけ新潟に帰省し、K社とG社の個別企業説明会、E社の選考に臨んでいる。次の日には富山に戻り、またアルバイトに出勤している。

5月:個別企業説明会4社、選考5社/アルバイト3

1週目はアルバイトに出勤し、2日後には新潟に帰省。F社、L社の個別企業説明会に参加し、2週目に突入。2週目の初日はM社の選考に参加。翌日には富山に戻り、N社の個別企業説明会に参加。当初の予定ではその翌日には新潟に戻りB社の選考を受ける予定だったが、寝坊してしまったため選考を延期してもらった。11日には新潟に帰省しH社、延期してもらったB社の選考を受ける。その翌日にはアルバイト出勤のため富山に戻る。3週目は18日に新潟に帰省し、L社の選考に臨んでいる。21日はアルバイトの出勤のため再び富山に戻っている。4週目から5週目にかけて新潟に帰省し、29日にM社の選考、31日にO社の個別企業説明会に参加した。

6月:選考(内定)1

9日の選考で内定が出たため、ここで就職活動が終了。

 

 

 Nさんは概ね週に1回のペースで地元に帰っていた。現在のアルバイト先でのバイトを続けるために週に一回は出勤しなければならず、アルバイトのためだけに富山に戻ってくることもしばしばあり、出費がかさんだという。移動手段としては、主に電車を使用した。移動に45時間かかるため、移動中に何かやりたいとは思ったが、電車の中は揺れるため、何かを書くなどの作業はすることができず、ネットで企業の情報を検索したり、SPIの本を読むなどの書かなくてもよい作業だけをしていた。また、富山に残るか地元に帰るか悩んでいた5月頃は、富山でも企業の選考を受けていたため、時折富山での選考と新潟での選考が続くこともあり、あまりの過密スケジュールに寝坊することさえあったという。実際にNさんに提供してもらったスケジュール(※巻末参照)を確認してみたところ、5月は確かにスケジュールが詰まっていた。5日に地元に戻り、6日・7日に2社の個別企業説明会に参加、8日にM社の選考を受けた後、9日には富山に戻りN社の個別企業説明会に参加。そして再び新潟に戻りB社の選考を受けるという過密スケジュールになっている。4月のスケジュールを見てみても、4日に18時から24時までアルバイトをした翌日に新潟に戻りH社の個別企業説明会に参加するなど、詰まったスケジュールになっている。また、就活のための帰省にかかった移動時間を計算してみると、3月〜6月までの合計で最低96時間はかかっているということになった。費用だけでなく時間もかなりの負担になっているのではないだろうか。加えて、Nさんの就活スケジュールの概要を見てもわかるように、合同企業説明会や個別企業説明会は大学の春休み期間である3月に集中しているが、就活の核となる選考については授業期間である4月から5月に集中している。

 また、Nさんは地元行政のUターン就職支援について以下のように述べている。

鴨川:じゃあ、地元のUターン就職支援の制度みたいなのを利用したことは?

N:なーい…ないかな。あーでも、新潟で就活する人のサイトは使ったけど。Uターン用じゃなくて、ただの新潟用の。

鴨川:そうなんだー。あんまり充実してないのかな?支援制度とか。全然利用しようとも思わなかった?

N:そうだね(笑)あんまり考えてなかったかな。あるのかな…わかんないけど。期待してなかった。

鴨川:そっか…じゃあ地元の企業の情報とかは、その新潟で就職する人のサイトからとか…?

N:まあ、就活サイトとか…全般…。

鴨川:あーやっぱり、大手のマイナビとか?やっぱり大手のが多いのかな?

N:うん。

 

 以上の語りより、Nさんは地元行政のUターン就職支援に期待していなかったうえに、利用しようとも思っていなかったことがわかる。また、企業の情報を得る場として、新潟県のサイトは使用したものの、マイナビやリクナビなどの大手の就活サイトの情報に頼ることの方が多かったという。

 

第三項 Nさんの地元 新潟県のUターン就職支援の現状

Nさんの地元である新潟県のUターン就職支援がどのようなものなのか明らかにするべく、新潟県のHP等を用いて調査を行った。以下にそれらについてまとめる。

 

〇新潟県UIターンサポートデスクセミナー

 東京在住のUターン希望者を対象とした、新潟県のUターン就職事情を知ることができるセミナー。新潟県の求人状況や企業が求める人材像、Uターンするにはまず何をしなければならないかなどの説明を聞くことができる。また同日に完全予約制ではあるが、130分程度の転職カウンセリングなども行っている。

 

〇学生×企業にいがた交流会 IN TOKYO

 首都圏等県外大学に進学した学生を対象とした、新潟県企業の概要、会社の雰囲気・社風の紹介、自社PR、若手社員の体験談などを聞くことができるイベント。また、参加企業とフリートークができる交流会も同時開催されている。参加費は無料。

 

〇「新潟Uターン情報」、「新潟生活」の発行

 県外在住の若者やその家族に向け、新潟企業の紹介や若手社会人の体験談、就職関係のイベント、県内での暮らしなど、新潟へのUターンに関する情報を載せた雑誌。「新潟Uターン情報」はVol.2まで発行しており、「新潟生活」は第28号まで発行している。新潟県のHPで入手が可能。

 

Job Searchバス

 県内の企業を訪問して現場を見ることで、新潟県で働くことの魅力を知ってもらう事業。2月、6月、7月、9月、10月に開催されており、上越、柏崎、県央の3つの地域に分かれて実施される。1日に2つの企業を見て回ることができる。参加企業は、ものづくり系が多数であり、あとは金融系や福祉系などが1社か2社程度。申込制で参加費は無料となっている。しかし、集合場所は新潟県内の駅であるため、そこまでの旅費は自費になる。

 

 

〇にいがたUターン情報センター

 新潟へのUターン希望者を対象としたUターン相談窓口。ハローワーク機能を導入しており、わざわざ新潟まで行かなくても、新潟県内の最新の求人情報を検索・閲覧できる。開設時間は10301830。休業日は火曜日と祝日・年末年始のみであり、土日も開いているため、平日は時間がないという人でも利用することができる。所在は東京・表参道新潟館「ネスパス」内。

 

〇新潟県UIターンコンシェルジュ

 県外在住のUターン希望者を対象に、ホームページに登録すると毎月東京で4回〜5回開催される相談会に参加することができ、そこでヒアリングした希望者の希望条件や経歴をもとにコンシェルジュが仕事を紹介してくれる制度。企業への紹介、面接の日程調整、面接対策などもサポートしてくれる。また、新潟での就職が決定した場合、新潟の住まい・暮らし関連の情報なども提供してくれる。

 

〇交通費の補助

 県外在住の学生が、公共交通機関を利用して現在の居住地と新潟県内を移動するためにかかった交通費のうち1/2に相当する金額(※100円未満は切り捨て)を1万円を上限に支給する事業。補助対象になるのは、@新潟県内の企業が県内で行う企業説明会への参加、A県内で開催される合同企業説明会への参加、B県内企業が県内で行う採用試験または面接への参加、C県内企業で実施されるインターンシップ(3日以上)への参加、である場合のみ。ただし、公務員試験や行政機関が実施するインターンシップに参加する場合は補助金の対象とならない。

 

 


 

第二節 Mさんの場合

第一項 Uターン意識の形成

MさんはNさんと同様、2013年に進学のために富山にやって来た。Mさんが進学先に富山を選んだ理由と進学先での生活について質問したところ、以下のような語りが得られた。

 

M:もともと大学は京都に行きたくって。京都の大学に行く気満々で受けとったんやけど。遠いし、学費も私立やったから高いから、(親に)国公立もちょっとやってくれんかみたいな感じで言われて。なんか、やったら受かってしまったから…じゃあ安いんならそっちでいいわーってことで富山に。学費の面でごちゃごちゃあって、富山にきました。(中略)まあ時間に融通もきくし、一人の時間も増えたし、一生ものの友達っていうのも何人かたぶん作れたと思うし、そういう面ではこっちに進学してきてよかったなーとは思う。でも、バイトから帰ってきて、疲れとんのに自分でご飯作ったりとか、洗濯したりとかはめんどくさいなーってなる(笑)

 

Mさんはもともと京都の私立大学に進学するつもりだった。しかし、学費の面で両親に国公立も受けてみてくれないかと頼まれ、試しに富山大学も受験したところ合格。本来であれば京都の私立大学に進学したいと考えていたが、学費のことを考え仕方なく富山に進学した。一生ものの友達ができた点や、実家暮らしのときとは違い時間に融通がきくという点では富山での暮らしには満足しているものの、何でも自分でやらなければならない生活に苦労しているということがわかる。では、Mさんは地元のどのようなところに対して愛着をもっているのであろうか。Mさんに質問してみたところ、Mさんは地元に対して帰って来たと感じる田舎のにおいや下宿先とは違った静かな環境など田舎だからこその良さを感じている反面、どこに行くにも距離が離れていて大変だという点においては不満を持っているようであった。

では、MさんはなぜUターン就職をしようと考えるに至ったのであろうか。Uターンを決意した理由を質問したところ、Mさんは以下のように語った。

 

鴨川:なんでUターン就職を考えるようになったん?

M:=うーん。まず1年生の頃から私は、富山にいるの4年間だけって決めてた。私は絶っっっ対に帰るって思っとって。なんやろ…地元愛が強いっていうか。(中略)私は富山ではなく石川の人間だっていう思いが強いから(笑)石川に帰って石川で働きたいっていうのがあったと思う。

鴨川:え、じゃあ、1年生?進学前から、もう

M:もうなんか、大学は4年間だけ仕方ないから一人暮らしするけど、終わったら帰ってくるからな、みたいな感じで(笑)最初っから決めとった。うん。

 

MさんもNさんと同様、進学当初からUターン就職を考えていた。Mさん自身も語ったように「私は富山ではなく石川の人間だ」という地元への帰属意識が強く、一人暮らしの気楽さや富山で築いた友人関係などを切り捨ててもUターンをすること決めていたということがわかる。

 

第二項 就職活動の困難さと地元行政の支援

 Uターン就職をする人はどのような就職活動を行っているのであろうか。Mさんの語りから3月〜6月にかけての帰省の回数とそれにかかった費用をまとめた。また、巻末に掲載しているMさんの就活スケジュールの概要についても以下にまとめた。

 


 

回数(日数)

かかった金額

3

1回(1ヶ月間)

20590

4

9回(12日間)

8470

5

7回(10日間)

16980

6

1回(1日間)

0円(回数券使用)

合計

19

46040

52

 

Mさんの就活スケジュール概要>

 3月:合同企業説明会6回、個別企業説明会9社/アルバイト3

1週目は1日に日帰りで石川の合説に参加。45日は富大の合同企業説明会に参加する。2週目は7日、8日、11日にアルバイトに出勤し、12日には石川に帰省。ここから22日まで実家に滞在し、その間に3回の合同企業説明会とABCD4社の個別企業説明会に参加している。23日に一度富山に戻るものの、25日には再び石川に帰省する。ここからしばらくの間石川に滞在。この間にEFGHI社の個別企業説明会に参加する。

 4月:個別企業説明会1社、選考4社/アルバイト14

3月から引き続き、7日まで石川に滞在。5A社の選考を受けている。8日には富山に戻り2日連続でアルバイトに出勤。10日には再び石川に帰省しDH社の選考を受ける。翌日には富山に戻り、5日連続でアルバイト勤務、1日休み、今度は3日連続でアルバイトに出勤している。次の日には石川に帰省し、H社、A社の選考を受ける。そのまた翌日には富山に戻りアルバイトに出勤している。3日後の26日には石川に帰省しI社の選考を受ける。そしてまた富山に戻りアルバイトに出勤している。

 5月:選考7社/アルバイト16

1週目初日はアルバイト出勤から始まる。翌日に石川に帰省しF社の選考を受ける。6日には富山に戻り、4日連続でアルバイト出勤。10日に石川に帰省し、B社、H社の選考を受け、12日には富山に戻り、再びアルバイトに出勤している。17日に石川に戻りH社の選考、B社の企業体験に参加。2021日にアルバイトに出勤した後、22日には石川でC社の選考に臨んでいる。また翌日に富山に戻り、23日、26日にアルバイトに出勤。28日に石川でI社の選考に参加。その翌日から富山で3日間アルバイトに出勤している。

 6月:選考1

6日の選考で内定が出たため、ここで就職活動を終了した。

 

 

 MさんもNさんと同様、概ね週一回のペースで地元に帰っていた。親御さんもMさんのUターン就職に賛成していたものの、交通費は出せないと言われていたため、Mさんは3年生の8月頃から1ヶ月につき1万円ずつ貯め、約8万円の貯金を作っていた。しかし、いざ地元での就活が始まってみると、交通費だけでなく外食費やその他の雑費などがかかり、貯金は4月までに使い切ってしまった。そのため、5月は生活費がほとんどなく、11食で生活するほどにお金に困っていたという。また、4月からはアルバイト先から休みをもらうことができず、かなり精神的に追い詰められたときもあったという。実際にMさん

に提供してもらったスケジュール(※巻末参照)を見てみても、その過密さは一目瞭然である。就活が解禁になった3月中はアルバイトもそこまで入っておらず、そこまでスケジュールが詰まっているような印象は受けない。しかし、4月、5月はMさん自身も語ったように、連勤を終えたあとに複数の企業の選考を受け、また連勤をこなすなどハードなスケジュールが続いている。そのうえ4月からは授業期間でもあるため、授業にも出席しなければならない。アルバイトを辞めることもできたかもしれないが、Uターン就職を希望し帰省の費用や生活費を全て自分でまかなっていたMさんは、アルバイト先から休みをもらえなかったとはいえ、出勤せざるを得なかったのではないだろうか。

 また、Mさんは地元のUターン就職支援について以下のように語っている。

鴨川:じゃあ地元の就活支援制度みたいな、何か使った?

M:あー、なんか石川県の、Uターン生を後押しするみたいなサイトがあって。それもなんか、マイナビリクナビみたいな感じで。そのサイトに登録したら、石川の企業の情報一覧が載ったごっつい資料送られてきて。フルカラーやったし、すごい見やすくって。それはすごいよかったかなーとは思うけど。マイナビとリクナビの合同企業説明会に行くので手いっぱいやったから(笑)そのサイト主催のは行ってないかな。(中略)

鴨川:他にも支援あったりはしたけど、マイナビとかで手いっぱいで…使ってないみたいな?

M:うーん、そのサイトを運営しとるところに行けば、面接の練習とか、自己PRの紙見てくれるとか、結構そういう…学校でやってくれる支援と同じようなことをそこのセンターでもやってくれとって。実家に帰っとる間はそこに行こうかなと思っとったんやけど、ま、ま、田舎も田舎やから(笑)そこまで行くのにも、お金がかかる(笑)だから結局使わなかった。

 

 Mさんは、石川県のUターン生を応援するサイトを利用しており、そのサイトから送られてきた企業情報の冊子は活用していたという。しかし、合説などのイベントはマイナビやリクナビなどの大手の就活サイトが主催のものに行くので手いっぱいであり、地元の行政主催のものには手が回らなかったという。

 

第三項 Mさんの地元 石川県のUターン就職支援の現状

 Mさんの地元である石川県はどのようなUターン就職支援が行われているのか明らかにするために、HP等で調査を行った。概要を以下にまとめる。

 

UIターンサポート石川、いしかわ就職・定住総合サポートセンター

 東京と石川県内に事務所が開設されており、就職・転職に詳しいコーディネーターが個別相談を受けてくれる。豊富な求人情報の中から、希望に添った仕事を探してくれる。また、移住の際に必要な住まいや生活についての相談にも乗ってくれる。東京事務所の開所時間は火曜日から土曜日までの1019時。休業日は年末年始と祝日。所在地は東京都千代田区にあるパソナグループ本部内。石川事務所の開所時間は月曜日から土曜日の918時。休業日は年末年始、祝日。所在地は石川県金沢市本多の森庁舎内。

 

〇イシカワノオト(ISHIKAWA NOTE

 UIターンサポート石川が開設しているホームページ。実際に石川県にUターンした人の体験談や企業の紹介などが掲載されている。

 

〇大学での地元就職相談会

 関西の大学に進学し、将来は石川県にUターンしたいという学生に対し、地元就職に関する情報を提供する場として開催されている。(詳細は不明。)

 

〇いしかわUターン就職フェア

 3月に東京・大阪にて開催され、石川県企業の採用動向や今後のUターン就職の進め方などを聞くことができるイベント。また、石川県企業の社員さんから、会社概要や具体的な仕事内容、職場の雰囲気などを聞くこともできる。参加費は無料。


第三節 この章のまとめ

 Nさん、Mさんの両者とも、大学進学と共に富山にやって来た。しかし、富山への進学は本来望んだものではなかったということがわかった。また、富山での生活に対してあまり積極的な感情を抱いていないという点でも2人は共通していた。望んだ進学先ではないうえに、進学先に対する印象の悪さや生活の大変さが相まって、地元に帰りたいという思いが強くなったのではないかと考えられる。Uターン決意後、Nさん、Mさんは、富山と地元を頻繁に往復する形で就職活動を行っていた。Nさん、Mさんの両者とも企業の情報を得る場として県のサイトは利用したものの、その他の支援制度は利用しなかった。

 新潟県のUターン就職支援を見てみると、東京を中心に策が練られている印象を受ける。情報提供の窓口である「にいがたUターン情報センター」も「新潟県UIターンコンシェルジュ」も東京にのみ開設されており、他の地域にはそのような窓口はない。また企業説明会などのイベントも東京での開催に偏っている。新潟県の立地などから東京への人口流出が多いため、このような策の展開の仕方になっているのかもしれないが、これではその他の地域への進学や就職後にUターンを希望する人たちは、実際に地元に帰って情報を得るか、ネット上での情報に頼るしかなくなってしまう。交通費の補助など、Uターン希望者の経済的負担を直接支援する策はあるものの、公務員志望の学生は対象にならず、また、民間志望の学生にしても企業からの説明会への参加の証明をもらわねばならない。これから選考を受けるかもわからない企業に証明はもらいづらいのではないだろうか。加えて、いつ、どこの公共交通機関を利用し、どこから乗車し、どこまで乗ったのかなど細かい情報も申請しなければならない。ただでさえ移動に時間をとられる帰省や就職活動の合間にこのような面倒な申請をするのは逆に負担になってしまうのではないだろうか。現に、Nさんもこの制度の存在は知っていたものの利用はしていない。

 石川県のUターン就職支援策を見てみると、東京だけでなく大阪でも就職フェアを行っており、前節で取り上げた新潟県と比べるとUターン支援地域の範囲が少し広い。ただ、範囲は広いものの、支援の内容が「情報提供」のみに偏りすぎているように感じる。先行研究でも取り上げられていた「Uターン希望者が地元の情報を受け取ることが困難である」という問題にはある程度の効果が出るかもしれないが、Uターン希望者の時間的・経済的負担を減らすための政策はほぼないと言っていいだろう。