第四章 パパネットの運営

 本章ではパパネットの運営をメインで行っている横山さんと櫻井さんに、設立の経緯を始め、どのような目的を持ち、どのような活動を行っているのかを中心に分析を行った。そしてパパネットが今後運営をしていく上での活動方針などについても質問をし、活動の実態を明らかにする。


 

第一節 パパネットあさがおの設立の経緯と狙い

 横山さんと櫻井さんへのインタビューから、パパネットの設立の経緯が明らかになった。まず母体組織であるあさがお広場であるが、平成14年に設立され、白山市内の未就学児(0~5)を持つ親を支援する活動をしている。あさがお広場が活動を行っている中で育児に参加しようとする男性が増え始めた。そのことがきっかけで父親向けのイベントを作ってみようという話があさがお広場で立ち上がった。しかしただイベントを企画し実行するだけでなく組織として立ち上げることによって父親同士のコミュニケーションを作っていこうという考えのもとパパネットが立ち上げられた。立ち上げのきっかけになったイベントがNPである。あさがお広場ではNPが何度か開催されていたが、父親版のNPをやろうという話が持ち上がり、横山さんが参加者の募集をしたところあさがお広場の利用者やその夫などが参加し、第一回目のNPが開催された。ここで仲良くなったメンバーが後のパパネットで中核的な役割を果たすようになる。

 このように父親対象の組織を作ったことで、今まで一人で来ることに抵抗があった男性も自然と子どもを連れて来るようになったと櫻井さんは語っていた。また櫻井さんはパパネットの大きな特徴として、子どもの年齢による父親の対象を設けていないことを挙げている。あさがお広場は未就学児の親だけが対象であるが、パパネットにはその対象はないため、就学している子どもの親でも参加することができる。父親は子どもが何歳になっても父親であり、親である以上は子どもの年齢に応じた悩みが発生する。そのような時にパパネットを訪れれば幅広い世代の子どもを持つ父親がおり、相談できる環境は非常に有意義であるため、子どもの年齢による父親の参加対象を設けないことはパパネットの魅力の一つであると横山さんは語っていた。

 設立に伴ってどのような狙いを持っているのか質問したところ、父親同士がコミュニケーションを取ることができることが第一に求められていると横山さんは語っていた。母親はあさがお広場のように、育児を通して母親同士の繋がりを作ることができるが、父親は仕事での繋がりは作りやすい一方で育児や地域での繋がりを作りにくい。PTAなどに参加していなければ父親同士の繋がりは生みにくいため、コミュニケーションの機会が非常に少ない。そこでパパネットがコミュニケーションを生み出す場として能力を発揮することが大きな狙いであると横山さんは語っていた。実際に副代表として運営に携わっている櫻井さんは、パパネットに来る父親たちも一緒に遊んだり、話したりできる友達・仲間づくりを一番の目的に来ているのではないかと考えていた。

 組織として運営する上で、何かルールや決まりがないか質問をしてみた。すると活動を行う上で最重要事項が3点あった。以下がその項目である。

 

1,パートナーとのコミュニケーションをしっかり取ること

2,メンバーにイベント等への参加を強要しないこと

3,会合やイベントのたびに打ち上げ(飲み会)を行わないこと

 

以上の3点である。この決まりについての櫻井さんの語りが以下である。

 

 櫻井:結局、何のためにパパネットに入ったか。もちろんパパと他のパパとの交流もあるんだけど、一番はママのことを助けられるように、成長するというか、でママを助けて、自分を高めて、子どもと楽しむっていうのがパパネットあさがおのなんていうかな、モットーというか。

(中略)

櫻井:だから、僕らですらこうやって長いことやっとっても、ママが何してほしいか手に取って分かるわけじゃないんで。で、各家庭ごとに違っていますし。でもそういう意見交換をして、あっ、なるほどって、新米パパからあっなるほどって学ぶことって多々あるので。結局はやっぱ、ママをケアするっていうか、ママを助けるっていうか。でもそれを恩着せがましくならないように自然にできるように。

天野:なるほど。

櫻井:楽しみながら成長する場やね。

 

パパネットは活動モットーとして『自分を高めて、ママをケアして子どもと楽しむ』を掲げている。したがって父親自身の交流の場を作ることが一番の目的ではあるが、それだけではなく自分たちも育児に関わりパートナーを助けるためにもスキルアップが求められる。日ごろから父親が家事や育児に取り組むことができると、パートナーとしても助かり、ケアされているという実感も湧く。すると夫婦関係も良好になり、コミュニケーションもしっかりと取ることができる。夫婦間のコミュニケーションは非常に重要なものだと櫻井さんは考えているが、それは男性がパパネットを含めて何か活動を始めようという際にパートナーからの理解を得ることにつながるためである。日ごろからパートナーのケアができており、コミュニケーションも取ることができているのであれば、パートナーとしても父親の活動に不信感を抱くこともないため、活動しやすくなると横山さんは語っていた。そのためにも1点目の項目が存在しているのであろう。そして、活動を始めても目的もなくただだらだらと過ごすだけでは意味もないため、きちんと目的を持った活動を行うためにも3点目の項目があるのだと考えられる。そしてメンバーに参加を強要しないという2点目の項目であるが、会員とはいっても必ずしも活動に参加しなければならないわけではない。家庭や仕事を優先すべきであると考えている。この決まりは会員としても拘束感なく活動できるため、ストレスが少ない一方で、イベントなどでの集客力や運営不足になってしまうため、パパネットの問題点の一つであると櫻井さんは語っていた。

 


 

第二節 パパネットの組織について

第一項 役員と会員

 運営をしているのは代表の横山さんと副代表の櫻井さん、濱谷さんの3名だ。それ以外の会員の方には役職などはなく、きちんとした組織としては確立してはいない。それぞれのイベントごとに運営の方に加えて手伝いに来てくれる会員の方が参加してイベントを実施することがパパネットの実態である。このように役員をきちんと確立していないことは父親たちが気軽に参加しやすい印象を持たせ、イベントに参加した時にも上下関係を気にせずに楽しむことができるというメリットがある。そして会員がイベントに自分から参加することで活動を活発化させるという効果ももたらすようだ。

 第三章でも説明したが、平成2811月現在で会員数は73名である。しかし実際に参加率が高い会員は全体のうち1割ほどしかいないようだ。やはり仕事や会社の都合でなかなか参加することができない父親が多くいるようである。参加者が少ないことはパパネットの問題点の一つである。会員もイベントの手伝いをしてもらうことがあるため、参加者が少ないと運営を十分に回すことができない。しかし会員を強制的にイベントに参加させることは、前節で言及した活動の重要事項にもあるように不可能である。したがってイベントの企画や運営という面で人員不足を抱えているようだ。イベント参加者が増えることと、横山さんと櫻井さんのように運営に積極的に携わる後任人材も確保したいようだ。会員数自体は決して少なくないように思われるが、いつもイベントでは参加者の顔ぶれが同じであるためより多くの父親が参加してくれるとより活動も活発になると櫻井さんは語っていた。

 

第二項 パパネットへの加入ルート

会員の方がどのようなルートでパパネットの存在を知り、参加に結び付くのだろうか。パパネット会員の多くは妻、もしくは知り合いがあさがお広場に参加しており、そこからパパネットを紹介されるというケースが非常に多いと櫻井さんは語っていた。パパネットのイベント開催をあさがお広場の方から聞き、実際にイベントに参加したことでパパネットの良さを体感してもらい、会員になるというケースが多いようだ。では口コミ以外で会員を増やすためにパパネットはどのような活動をしているのだろうか。横山さんに質問したところ、勧誘には特に力を入れているわけではないのでイベントに来てくれた男性に直接声をかけることや、市の広報にイベント実施のお知らせを織り交ぜる程度のことしかしていないと語っていた。パパネットを知ってもらうにはあさがお広場・パパネット会員の口コミが非常に有力な手段であるようだ。またイベント実施のお知らせについて、会員の方にはニュースレターやはがきが送られてくるため、次のイベントを知ることができる。またパパネットはSNSアプリケーションのFacebookのページも持っているため、イベントの開催のお知らせ・報告はFacebookでも確認することができる。

このように様々な手段でパパネットの存在を知ることができるが、まだまだ宣伝力は不足していると櫻井さんは考えている。今後はより一層パパネットのネームバリューを高めていくかが課題であるようだ。以下がその語りである。

 

櫻井:宣伝力不足っていうのも、やっぱりFacebookにアップしても市の広報に載せてもらおうが、あとさっき言ったハッピーママっていう子育て雑誌に載せてもらっても、なかなかこうそこまで細かく見ているお父さんお母さんって少ない。

天野:うーん。そうですよね。

横山:見たところで、まあ興味はあってもね、あっパパネットなら行こうって思ってもらえるようなそんな宣伝をしないと。パパネット云々じゃなくて、親子で触れ合いませんかだけなら誰も行かない。やっぱりパパネットって名前に対するブランド力じゃないけれど。それをどう高めるか。

 

お二人の語りから、石川県内の子育て関連の団体とのつながりが見える。そのような団体の中ではネームバリューがあるかもしれないが、実際に育児をしている父親たちの中ではまだまだ認知が足りているとは言えない。「パパネットあさがお」という名前を雑誌やポスターで見ただけで、父親たちから期待を持ってもらえるようなレベルの宣伝力やネームバリューを今後手に入れなければならないということが語りから読み取れる。

 


 

第三節 パパネットの活動について

第一項 パパナイト

 パパネットの活動でメインともいえるパパナイトは、第三章でも説明したが奇数月の金曜日の夜に、二か月に一度開催されるイベントだ。内容はパパネットの今後の活動についての打ち合わせを行うことや、父親たちからの要望によってそれに合わせた内容を行っている。このパパナイトは父親同士がコミュニケーションを取り合うために最も充実したイベントであると考えられる。イベントの打ち合わせにしても、他の内容にしても父親同士が自身の育児についての経験や体験を話し合うことができるので、コミュニケーションを取りつつも育児・家事の知識なども得ることができる。パパナイトにフィールドワークを行った際に、キャンプを行うバーベキュー場をどうするかという議題になったが、それぞれの参加者が実体験をもとにどこが適しているか、それに加えて休日に子どもと遊ぶにはどこがおすすめかという話を参加者で話していたので、自身の育児に使えるようなトピックも話されていることが調査から判明した。パパナイトに関する横山さん、櫻井さんの語りが以下である。

 

 横山:うん。偶数月は基本的に自由。奇数月はパパナイトで偶数月の事業を企画したり、考えたり、何もないときはじゃあ好きなことやろうってなったり()

櫻井:やっぱりお父さんたちもこういうことやりたいって思いがあるからー、パパナイトでの会話の中から、参加するお父さんたちの話すことからお父さんたちのやりたいことを。

横山:自分たちがやりたくないことやっても誰が来るかって。

天野:確かにそうですよね()

横山:そうすると仲間内で参加したいって人をまた連れてきてくれれば、パパネットにも入ってもらえるし。

 

 語りから、パパネットの活動は父親主体で行われていることが読み取れる。父親から直接やりたいことを聞くことで活動に対する熱意も湧いてくる上に、何より父親たちが求めていることをはっきりと知ることができるメリットがある。このように当事者たちの生の声をイベントに反映することは、彼の活動のモチベーションの向上や、父親同士のコミュニケーションを円滑にするために大きな役割を果たしているように考えられる。

 

第二項 偶数月のイベント

 偶数月に行われるイベントは、パパナイトに比べると規模が大きいイベントが多い。パパネットのイベントの中でも最もメインとなるキャンプや、他のNPO法人や自治体との共同イベントは主に偶数月に開催されている。キャンプ、そして他の団体とのイベントは次項以降で述べるので、ここではパパネットで行っているイベントに注目して述べる。パパネットで行うイベントとして目立っている料理教室に焦点を当ててみたい。先行研究においても実践的な家事・育児プログラムを取り入れて、父親たちに手順や手法を教えることが必要であるとされていた。あらゆる家事・育児のなかでなぜ料理をピックアップしたのだろうか。これについて質問をしたところ、参加者の妻からの要望が櫻井さんのもとに多数来たことがきっかけだったようだ。母親が外出した際など家を開けたときに子どもたちにちゃんとしたご飯を食べさせることができないことが不安なことや、毎日の献立を考える気苦労などは大きいようで、父親がその役割を月に一度でもいいから代わってほしいと思う母親が多いと櫻井さんは語っていた。その要望に応えるべく、料理教室を開催しているようだ。

 料理のレベルとしてどのようなレベルを目標にしているのか質問をしたところ、まずは料理に慣れていない父親が料理に興味を持ってもらえる足掛かりになればよいと横山さんは語っていた。家事という枠組みでの料理となると、冷蔵庫の中のありあわせで作ることが求められるレベルであるように思われる。しかしいまだに料理をまったくしたことないような父親も多いため、まずは料理に慣れることと料理のレパートリーを増やすことが必要であると櫻井さんは語っていた。そのようにしてステップアップをしているうちに料理に目覚めてくれると嬉しいとも語っていた。

 

第三項 キャンプ

 第二項で簡単に触れたが、パパネットの大きなイベントの一つに毎年10月に開催されるキャンプイベントがある。パパネットが立ち上がってから初めて行ったイベントであり、父親だけでなく家族ぐるみで参加されるイベントだ。普段のパパナイトなどでは参加できない父親も参加するほどで、今年の参加者は30名ほどだったそうだ。キャンプは父親が料理を担当するため、普段料理をしないような父親も父親同士で料理に挑戦することができる。そして家族サービスをなかなかすることができないような方にも、家族と一緒に参加することができるため、キャンプは根強い人気がある一大イベントだ。

 キャンプについて質問をしたときに、パパネットが会員の家族も巻き込んで普段から活動をしている一面を知ることができた。それは、キャンプに父親が参加することができなかった時にはその妻と子どもだけで参加することがあるということだ。ここから、普段から父親だけでなくその家族を含めて活動しているからこそパパネットに対して親密感を抱かせているのではないかと感じられる。パパネットのモットーは父親だけでなく妻、そして子どものことにも触れられているが、そのモットーらしい活動を行っている様子を櫻井さんから伺うことができた。

 

第四項 地域の団体とのつながり

 第二項で他のNPO法人や自治体とのつながりがあると述べたが、その中でも特に関係が深い団体として公益財団法人いしかわ子育て支援財団(以下子育て財団)が挙げられる。最近はパパネットの存在が石川県における子育て支援団体の中でも有名になっていることから、子育て財団からよくイベントの共同実施の声がかかるようだ。またそのつながりから、地元の高校生への授業や、北陸三県のラジオ番組に出演するなど活動の幅の広がりにも関わっているようだ。あさがお広場と子育て財団にも繋がりがあるため、あさがお広場・子育て財団・パパネットの三者が関わり合ってイベントを行うことが多々ある。そうすることで活動規模を大きくすることができることと、地域の他の団体と繋がることで地域ぐるみの子育て支援にもつながっているのではないだろうか。