第三章 調査

 第二章第二節において、父親を社会的・精神的にサポートする有効な手段の1つとして父親サークルについて述べた。そこで本研究では、父親サークルがどのような意図を持って運営され、そこに集まる父親たちは何をサークルに期待して参加しているのかを明らかにすべく、父親サークルへの調査を行った。そして北陸地域で父親サークルを運営している団体をリサーチした結果、精力的に活動している団体として石川県白山市に拠点を置く父親サークルである、パパネットあさがお(以下パパネット)を発見し、調査を行った。第一節、そして第二節ではパパネットあさがおとその母体組織であるおやこの広場あさがお(以下あさがお広場)について詳細を言及する。第一節ではパパネットあさがおから始める。

 そして同時に、父親の育児支援を中心に全国的に活動しているNPO法人であるファザーリング・ジャパン(以下FJ)への調査も行った。FJは全国で父親サークルを作ろうとしている人への支援活動も行っており、パパネットあさがおにも時々訪問することもあり互いの繋がりがある。第三節ではそのFJについて詳細を言及する。

 


 

第一節 パパネットあさがおについて

第一項 基本項目

パパネットは平成239月に設立された。認定NPO法人おやこの広場あさがおを利用している子どもの父親が自主的に集まり、父親同士でコミュニケーションを図りながら、積極的に子育てに参加しようと推進する組織である。以下は組織の簡単な紹介である。

 

表1

設立

平成239

所在地

石川県白山市西新町170番地1旧サンライフ松任1

代表

横山由裕氏

副代表

櫻井良光氏、濱谷雅広氏

会費等

会費、入会費はなし。イベントごとの参加費はある。

会員数

73(平成2811月現在)

モット―

「自分を高めて、ママをケアして、子どもと楽しむ」

活動方針

1)父親が自主的に参画し、互いに交流し、親子ふれあい事業の企画・実施

2)子育て支援団体への積極的な支援活動を行う

3)地域ぐるみの子育てを実施するとともに、地域への啓発活動を行う。

 

目立った特徴として、会費や入会費がないということが挙げられる。73名も会員がいる中、イベントなどを実行する際の予算問題などが推測される。活動方針を見てみると、父親同士が交流をするというだけでなく、他の団体への支援活動や地域での活動も行おうとしていることが読み取れる。これは先行研究には見られなかった点である。

 

第二項 主な活動内容について

 ここではパパネットの主な活動内容について言及する。団体としての主な活動は以下の4点である。

(1)月例行事

奇数月の金曜日の夜(行われる週は固定ではない)に、仕事帰りの父親たちが集まって2時間ほど行われるイベントとしてパパナイトがある。内容は毎回異なっており、育児についての研修などを行なうこともあれば、趣味に関することを行うなど多岐にわたっている。父親同士が気軽に集まることができるイベントである。

 また偶数月は季節に応じたイベントを行なうことが多い。4月はお花見、8月はバーベキュー、12月はクリスマス会のようになっているが、それ以外の月でも様々な団体との協賛でイベントなどを行なっており、毎月何かイベントを行なっている。

(2)パパネットDayキャンプ

毎年10月に行うキャンプイベントである。ここでは父親たちが手料理を作って全員で食べるため、父親たちが料理に興味を持ってもらうきっかけづくりにもなっている。

(3)あさがお広場の後方支援(イベントの手伝い)

 親団体であるあさがお広場のイベントに人員や男手を補うためなどで手伝いをする場合がある。例を挙げると、今年行われたイベントである子どもが補助輪なしで自転車に乗れるようになるための自転車教室にも、子どもを支えるような力のいる仕事を任されてパパネットメンバーが支援をしていた。

(4)外部からの委託イベント(お仕事体験など)

 上記以外にも個人では男女共同参画推進員や審議員に任命されることや、幼稚園や小学校のおやじの会に入るなどの活動を行なっている。子育てに関するセミナーなどを開催する際にパパネットへ登壇の依頼が来ることなどもあるようだ。

 

これらの活動からも分かるように、講演会やセミナーのような啓発活動はメインに据えて活動していない。自治体などから依頼を受けて行う場合はあるが、あくまでメインは父親たちの交流を生む拠点としての活動であるということが分かる。

 

第四項 NP

 第三項で言及した活動のほかに、パパネットの重要な取り組みとしてNPというものがある。NPは第四章以降でも重要な観点として取り上げるため、本項ではNPについて言及を行う。

 NPの発祥は1980年代初めにカナダ保健省とカナダ西部4州の保健部局の協力によって開発され、1987年にカナダ全土に導入された親教育支援プログラムである。「Nobody’s Perfect」を省略してNPとしており、その目的は、0から5歳の子どもの親がグループの中で互いの経験や不安を話し合うことによって子育てスキルを高め、自信の獲得・回復につなげることである。NPにはいくつかの特徴がある。1つ目が指導型ではなく、参加者中心型プログラムであり、参加者のニーズに従ってプログラムを進行することである。2つ目が参加者それぞれの価値観を尊重し、価値観の押し付けをしないこと。そして3つ目が体験を通して学ぶ、体験学習サイクルであることだ。

プログラムの進行は企画・運営を同時に行うファシリテーターが行う。ファシリテーターは講座などを受講し認定された者が選ばれる。日本ではNobody’s Perfect日本センター(以下NPNC)から正式に認定された者がファシリテーターになることができる。このファシリテーターは、参加者の価値観を尊重し、講座終了後も参加者同士が子育て仲間として関係を持続できるように支援する役割も担っている。

NPの目標として、NPNCは5点挙げているので以下に記載する。

1)子どもの健康や安全、しつけについて学ぶ

2)すでに持っている子育てのスキルを高め、新たなスキルを習得し練習する

3)自分の長所や能力に気づくことによって、親としての自信をつける

4)学習しながら他の親と知り合ったり、楽しんだりする

5)他の親と助け合い、サポートしあえる関係を作る

 またNPを実施するには細かく条件が設定されているので、その条件についても以下に記載する。

1)回数…610

2)期間…原則として毎週開催

3)時間…2時間程度

4)人数…最少6名最大20名(NPNCではこの人数に規定)

5)対象…乳幼児(0〜5歳/就学前までを含む)を育児中の親

6)形態…保育付き・テキストの使用

7)費用…原則無料。しかしテキストは必要(使用するテキストは『完璧な親なんていない!』ジャニス・ウッド・キャタノ著、ひとなる書房監)

8)ファシリテーター…NPNCから正式に認定されたファシリテーターが実施。すべての回を同じファシリテーターが行う。

9)原則グループ構成員でないオブザーバーの参加は不可

10)講座の開設にあたって事前にファシリテーターが家族・地域支援活動団体のコミュニティ・カウンセリング・センター(東京都)に報告を行う。

 以上がNPの詳細である。パパネットは今までに2回このNPを開催している。ファシリテーターには公益財団法人いしかわ子育て支援財団から2回とも派遣されているが、来年の2月に開催予定の第三回NPではパパネット単体で行おうと考えているため、ファシリテーターもパパネットから選出する予定だそうだ。

 


 

第二節 認定NPO法人おやこの広場あさがお

第一項 基本項目

 あさがお広場は2002年に設立され、地域子育て支援拠点事業「親子よろこびの広場あさがお」の運営を中心に、地域が一体となって子育てをできる環境づくりを目指して活動している団体である。以下は施設に関する詳細である。

表2

開設時間

9:00~16:30 12:00~13:00はランチタイム。休館は日曜日、祝祭日、年末年始、毎月平日の最終日の施設点検日

住所

石川県白山市西新町170番地1 旧サンライフ松任1階

会費

利用料は無料。ただし会員になるには年会費として1口1,000円から受け付けている。入会金は無い。

基本理念

〜ふれあい・分かち合い・支えあい・育てあい・学びあい〜「私の子どもから私たちの子ども達へ」

会員になると、年に4回ニュースレターを、毎月おたよりを送付されることに加え、広場イベントの先行電話予約、会員限定プログラムの参加、イベント等の参加料金の優遇、一時預かりの利用といった特典を受けられる。

 パパネットとは異なり、あさがお広場には年会費が必要になる。あさがお広場は母親が集える場としてだけでなく、子どもの託児所としての面もあるようだ。

 

第二項 主な事業内容

 ここではあさがお広場の主な事業内容について言及する。

(1) 地域子育て支援拠点事業(白山市委託事業)

・親と子どもの集いの場

・子育てに関する相談や援助

・子育て情報の提供

・子育て支援に関する講習や研修

(2) 預かり事業

・子どもの託児事業

(3) サークル支援

・広場の利用者がサークルを立ち上げる際の支援活動。

(4) 地域の方とともに

・中高大生など学生ボランティアの受入れや次世代交流

・高齢者や異年齢児など世代間の交流

・地域出前広場:地域密着イベントなどを企画し交流を図る

・お母さん、お父さん向け図書の貸出(ロータリー文庫):白山石川ロータリークラブの支援で現在250冊以上所蔵。

(5) 父親の子育てに関する支援事業

・パパネットあさがおがこれにあたる。

(6) ボランティア

・ボランティアグループ 「こっこ‘S

(7) ホームスタート事業(家庭訪問型子育て支援)

・6歳未満のお子さんが一人でもいるご家庭にボランティアのホームビジターさんが週に1回訪問し、一緒に家事・育児をすることや、話をしながら過ごす新しい家庭訪問型の子育て支援事業。

 

以上があさがお広場の主な活動内容である。本稿で調査を行っている、父親サークルを運営しているパパネットは、あさがお広場の事業の一つである父親の子育て支援事業に組み込まれていることが分かった。

 


 

第三節 NPO法人ファザーリング・ジャパン

 パパネットに関連があり、全国的な活動をしている団体にNPO法人ファザーリング・ジャパン(以下FJ)がある。パパネットにも2名この団体の会員がいるFJは、2006年に代表理事である安藤哲也氏によって設立されたNPO法人である。世の男性が父親であることを楽しみ、笑っている父親を増やしていくことで働き方の見直しや企業の意識改革、社会の不安解消や次世代の育成へとつながるように未来の日本社会に大きな変革をもたらそうという目的のもとに様々な事業の展開をしている。FJは代表理事の安藤さんを中心として多くの講師や専門家を抱えており、講演会やセミナー、フォーラムなどを中心として育児や家事に参加する父親を増やそうと全国的に活動している。活動の1つに父親の地域コミュニティの創設を試みており、代表の安藤さんはその活動の一環としてパパネットにも時々訪問している。FJは年会費(個人は10,000円、法人及び団体は一口100,000円、入会費は10,000)を支払うことで誰でも会員になることができる。会員になるとFJ主催のセミナーの参加費が無料になることや、事業への参画、会員のみのメーリングリストによる情報交換などの特典が得られる。以下にFJの主な事業内容を記載する。

 

(1) 講演会・セミナー

FJは安藤さんを始めとした理事の方を含め、何人もの講師がいる。それぞれ専門とする分野があり、講演会・セミナーの趣旨に応じて講師を派遣し、講座を行っている。年間300本以上の講演会・セミナーを行っており、その内容は父親支援から男女共同参画、実際に父親たちに育児や家事で実践できるアドバイスをしている。自治体などからの依頼が多く、内容や規模や予算に応じてFJ側がプログラムを設定している。

(2) フォーラム

「ファザーリング全国フォーラム」と題し、まだまだ男性の育児参加が進んでいない都道府県で行われる。さまざまな内容の分科会を行い、男性の意識改革だけでなく、男女共同参画や女性の社会進出など幅広いテーマで開催している。過去に開催された都市は滋賀、鳥取、北九州、三重、富山の五つの都市である。

(3) ファザーリングスクール・父親学級

父親が育児や家事の手法を学ぶための学校である。子供との遊び方、料理、パートナーと支え合うための取り組みなどをカリキュラムに設定し、父親が家庭で実践できるようなアドバイスを行っている。

(4) 父親の育児・家事支援

講座を通じて実際に父親たちへ意識改革を働きかけることや、育児・家事で実践できるアドバイスを行う。

(5) イベント開催

親子が一緒になって遊ぶことができるイベントや、一緒に創作できるイベントなどを実施している。

(6) 男性の働き方改革・育休取得推進

「さんきゅーパパプロジェクト」と題し、実際の企業が男性の育児休業取得を目指すなど、男性の働き方の改革の手助けを行っている。

(7) 地域コミュニティの創設

男性が会社だけでなく地域においても居場所を確立させることができるようにするための事業。地域に父親サークルといった、父親の集まりを作ろうとする事業などが中心である。「ファザーリング・ユナイテッド」という、地域に父親サークルを作るためのメーリングリストを設けている。

(8) 若者・学生への啓発

高校や大学など、近い将来父親になりうる世代を中心に、若い世代から育児・家事への意識を植え付けようとし、学校へ赴き授業や講演を行っている。

 

 これらのFJの活動から、全国的に活動する団体として講演会・セミナー、そしてフォーラムのような大規模活動によって全国で啓発を行うことがメインに据えられていると考えることができる。しかしその一方でファザーリングスクールや地域コミュニティを創設するような活動から、全国的に活動する団体であるけれど実際に父親たちと接し、近い距離で父親たちの支援を行っていることも理解できる。全国規模の団体ではあるが、父親たちとの距離感が非常に密な団体であることが推測される。


 

第四節 調査概要

 筆者はこれまでにパパネット、FJに対して調査を行ってきた。調査期間やそれぞれのインタビューについて記載する。

パパネット

・調査期間:平成282月〜平成2811(5)

・インタビューイの詳細

<横山由裕さん>                              

・年齢:43

・職業と休日形態:団体職員、週休二日

・お住まい:白山市

・家族構成とそれぞれの年齢:妻(ピアノ講師)、長男(10)、次男(8)

・育休取得歴:なし

 

<櫻井良光さん>                              

・年齢:38

・職業と休日形態:会社員、週休二日(土日休み)

・お住まい:白山市

・家族構成とそれぞれの年齢:妻(40歳、あさがお広場職員)、長男(11)、長女(8)

・育休取得歴:なし

 

<濱谷雅広さん>                              

・年齢47

・職業と休日形態:会社員、週休二日(宿直勤務あり)

・お住まい:野々市市

・家族構成とそれぞれの年齢:妻(46)、長男(6)

・育休取得歴など:なし。ご自宅の裏にご両親の家がある。

 

<岡本昌弥さん>                              

・年齢:40

・職業と休日形態:郵便局員、週休二日(土日休み)

・お住まい:金沢市

・家族構成とそれぞれの年齢:妻(41歳、公務員)、長女(11)、長男(7)、次女(5)

・育休取得歴:なし

 

<山窪純さん>                               

・年齢:40

・職業と休日形態:ライフプランナー、休日は不定期

・お住まい:野々市市

・家族構成とそれぞれの年齢:妻(36歳、病院事務)、長男(6)、次男(4)

・育休取得歴:1日のみ(長男の時)

 

<疋田祐一さん>                              

・年齢:38

・職業と休日形態:会社員、週休二日

・お住まい:白山市

・家族構成とそれぞれの年齢:妻(38歳、会社員)、子ども(2)

・育休取得歴:なし。今後もし機会があったら取得予定。

 

<加美暁弘さん>                              

・年齢:29

・職業と休日形態:会社員、週休一日(水曜日)

・お住まい:白山市

・家族構成とそれぞれの年齢:妻(26歳、週に一度パートタイム勤務)、子ども(1)

・育休取得歴:なし

 

 調査内容は主に運営に対して、そして利用者に対しての2つの面についてインタビューを行った。主な内容はそれぞれ以下の通りである。

(1)運営に対する調査内容(インタビューイは横山さん、櫻井さん)

 ・パパネットに関する基本項目(設立のきっかけや運営方針、モットーなど)

 ・活動内容

 ・自治体との連携

 ・サークル内の決まり事

(2)利用者に対する調査内容(インタビューイは櫻井さん、濱谷さん、岡本さん、山窪さん、疋田さん、加美さん)

・パパネット参加のきっかけ

 ・魅力的な活動について

 ・パパネット参加後の育児への意識の変化

 ・自身の育児経験について

 

 運営側に対しては、運営者としてどのような考えを持って活動をしているのか、パパサークルの運営の実態を明らかにするための調査を行った。そして利用者に対しては、なぜパパネットに入ろうと思ったのかという動機を始め、どのような部分に魅力を感じているのか、育児への意識は変わったかなどといった点について調査を行った。

FJ

日時:平成2771日 

インタビューイ:安藤哲也さん(ファウンダー/代表理事)、林田香織さん(理事)、森島孝さん(NPO法人ファザーリング・ジャパン九州)

 FJの活動やその目的などに関してインタビューイの3名に話を伺った。主な調査内容は以下の通りである。

 ・設立のきっかけ

 ・理念について

 ・行政とのつながり、富山県の行政との接点

 ・講師の役割、選定基準について

 ・富山で行われた「全国フォーラムinとやま」について

 ・イベントについて

 ・地域コミュニティの立ち上げに関する取り組み