第５章　考察

　本章では、第４章分析までのことをふまえ、第１節ではSNSに構築されている回路についての考察と、先行研究をもとに筆者なりにSNSを分類し直した上でこれまでの先行研究と本調査の結果を比較する。次の第２節では視野をさらに広げ全体としてSNSがどのように成り立っているかに関しての考察をおこなう。

第１節　本研究のまとめと先行研究との比較

　まず、SNSの全体像を捉えるにあたり、筆者はこれまでの調査からSNSには独特の回路が構築されていると考える。それはSNSが連携利用される時、他のSNSと繋がりを持つ回路である。つまり利用者はSNSを１つ１つ個別に使い分ける場合もあるが、時にSNSが構築する回路を利用しSNS同士を連携させて利用しているということである。このようにしてSNSは個別のものとして、そしてあるときはSNS自身が持つコネクターのような連携機能を利用し同じ相手と複数の回路で繋がることができるのである。

　また、本研究ではSNSごとでの繋がりの違いはその投稿内容の違いよりも比重が置かれていない事に言及してきたが、独特な回路を構築しているSNSにはその「繋がりに違いがないこと」がむしろ重要で、つまりコミュニケーション相手と他のSNSで繋がっているからこそ第４章第２節第１項で見られるようなコミュニケーション空間の移転が可能になっているのである。つまり利用者側から見ると、同じコミュニケーション相手に複数のSNSというチャンネルを持ちコミュニケーションを適切に行なっているということが考えられる。

　次に、第２章先行研究で高橋らが本稿で扱っているTwitter、Facebook、そしてLINEをどのように分類しているか表したが、ここで改めて筆者が本稿で扱っている３つのSNSについて分類をしなおしていくために、もう一度第２章先行研究に基づいた表を示しておきたい。（表１再掲）

	サービスタイプ	リアルタイム性	コミュニケーション範囲	ストック もしくはフロー
Twitter	情報発信	なし	オープン	フロー
Facebook	情報発信	なし	クローズ	ストック
LINE	対話	あり	クローズ	フロー

（表１再掲　先行研究に基づいたSNS３種の分類）

　高橋らの先行研究ではサービスタイプ、リアルタイム性、コミュニケーション範囲に関するカテゴリーで分けられていたが、筆者はSNSを使い分けていく様子、そして連携して利用されるSNSを調査してきた。そして筆者は「コミュニケーション空間の切り分けが可能かどうか」という項目と、「SNSのイメージから来る投稿内容」という新たな２つの項目を設けた。

　「コミュニケーション空間の切り分け」とは、Twitterの「趣味」「普段」といったアカウントごとに投稿内容や繋がりを変えるといった、１つのSNSの中で会話内容、繋がりを自由に選択できるかどうかについて着目したため追加している。また、「SNSのイメージから来る投稿内容」とは、SNSを使い分けていくにあたり、今回の調査で明らかになったSNS利用者の各SNSに抱くイメージをもとに、そのSNSでどんな内容の投稿がされているかといったことを分類するため追加した項目である。以上２項目を追加したのが以下の表３である。（表３）

	サービスタイプ	リアルタイム性	コミュニケーション範囲	ストックもしくはフロー	コミュニケーション空間の切り分け	イメージから来る投稿内容
Twitter	情報発信	なし	オープン	フロー	可（複数アカウント）	フランクな投稿
Facebook	情報発信	なし	クローズ	ストック	不可	フォーマルな投稿
LINE	対話	あり	クローズ	フロー	可（グループライン）	プライベートな内容

（表３　先行研究と分析から再検討されたSNS３種の分類）

　また、表３ではLINEのイメージから来る役割を「プライベートな内容」と表記した。これは、これまでのインタビュー調査からインタビュイー達がイメージよりも明確な利用目的である「連絡手段」としてLINEを捉えていたことに加え、インタビュイー達がLINEをメールよりもリアルタイムに相手と交信し、普段の会話を楽しんでいると回答したことから来るものである。よってただ「連絡手段」として捉えるよりも、自由度をある程度残した「プライベートな内容」と表記した。

　ここで、もう一度上の表に関して考察していく。まず、高橋らの先行研究ではサービスタイプが「情報発信型」「対話型」と２つのタイプに分類されていたが、今回の調査を通し、そのカテゴリーに分類するのは危険だと筆者は考える。なぜなら、以下の語りが今回のインタビュー調査から分かったからである。

Aさん：（中略）あとなんか、リプライってこう、例えば私と中村さんがリプライで会話してたら私と中村さんをフォローしてる人が見れちゃうじゃないですか。

　

Cさん：え、普通になんか、テレビ観て感想言って、それに対してリプ（ライ）して、みたいなのとか、え、そういう感じ？それぐらい。

　上の語りはTwitterに関するAさんとCさんの語りで、Aさんの語りは第４章第２節第２項でも語られていた内容だが、注目すべきは下線の部分である。Cさんの語りも同じく下線の部分に注目してほしい。これらはTwitterのリプライ機能でコミュニケーションを行なうということを示している。つまり、高橋らの分類した「情報発信型」にはリプライ機能で会話をするといった要素が含まれておらず、現在におけるTwitterやFacebookの使われ方を考えると単に「情報発信型」と分類するのは不適切であるということである。よって、現在SNSのサービスタイプを「情報発信型」「対話型」と違いをつけることはできず、その違いは曖昧になっていると言える。

　次に、「リアルタイム性」についても考え直したい。高橋らはリアルタイム性を「電話のようにリアルタイムで交信できるかどうか」という基準をもとに分類したが、今回の調査では以下のような語りが見られた。

Aさん：えっとTwitterはほんとにリアルタイムなんで、秒刻みで反応が出来たり、秒刻みで反応が返ってきたりするんで（中略）

　上の語りからAさんはTwitterのリアルタイム性について秒刻みでやりとりできることに魅力を感じていることが分かる。すなわち、Twitterには利用者が感じることの出来るようなリアルタイム性が存在していることが分かる。よってSNSを「リアルタイム性」で分類していくことも曖昧であるため難しく、高橋らの分類は不適切であると考える。

　以上の事から、もう一度表をまとめると以下のようになる。（表４）

	コミュニケーション範囲	ストックもしくはフロー	コミュニケーション空間の切り分け	SNSのイメージから来る役割
Twitter	オープン	フロー	可（複数アカウント）	フランクな投稿
Facebook	クローズ	ストック	不可	フォーマルな投稿
LINE	クローズ	フロー	可（グループライン）	プライベート

（表４　筆者によるSNS３者の再分類）

　例えば日常的なことを呟くためには、「イメージ」という要因から「フランクな場」と意識させるTwitterがふさわしく、一方でもっとかしこまった、大きな出来事を投稿したいときは「フォーマルな場で日記的な文章を投稿する」と意識させるFacebookが利用されるケースが多い。これにはおそらくコミュニケーション空間が切り分けられるかどうかが関連し、 Twitterはアカウントを変えることによって繋がりを変え、コミュニケーション空間を切り分け、LINEは同じ相手とより密な空間での会話へとコミュニケーション空間を切り分けるといった、それぞれがそのような手段を持っているため自由にフランクな投稿や気軽な会話をすることができるのに対し、Facebookではコミュニケーション空間を切り分ける手段がなく、常に繋がった人に見られているという公的な場として捉えられているため、投稿がよりフォーマルに、そしてその内容がTwitterで投稿するよりも重要な内容となっていることが考えられる。

　これらのことを先行研究と比較すると、まず村益ら(2014)の先行研究では、SNSには「暗黙のルール」や「場の空気」が存在すると述べられていた。本調査を進めるにあたり、その「暗黙のルール」や「場の空気」はこれら「SNSのイメージ」なのではないかと筆者は考える。つまり、利用者はあらかじめ周りに認知されているイメージに沿ってSNSごと投稿をしなければ相手から嫌悪感を抱かれるといった状態になっているのである。

　さらに村益ら(2014)の先行研究で述べられていた「ストック型」「フロー型」のSNSに関して、それらはそのSNSのイメージと関連していることが考えられる。つまり、「フランク」なイメージを持つTwitterは気軽に次々と投稿できるため、そのSNSタイプが「フロー型」になっていることに対し、「フォーマル」なイメージを持つFacebookはフォーマルであるためTwitterのように次々と投稿することは周りの利用者の迷惑になってしまうためはばかられており、よって情報が流れていかない「ストック型」のSNSになっているのではないかと考えられるということである。LINEはリアルタイムに次々と「プライベート」な会話が行なわれるためにそのログも次々と流れていくため「フロー型」のSNSとして分類されるのだと筆者は考える。

　また、Twitterのコミュニケーション空間の切り分ける手段である複数アカウントについても先行研究と比較すると、村益ら(2014)の先行研究では複数アカウントが作成される理由については「ネガティブな投稿をするため」と述べられていたが、本調査ではネガティブな投稿がされていることについては趣味のアカウントでのネガティブな投稿がされていることが明らかになった。ということは、いわゆる裏アカウントはネガティブな投稿をするために存在するのではなく、「普段」「趣味」など２つないしそれ以上のアカウントで分けられていることが前提で、その普段付き合いのない友人と繋がっていない方のアカウントでネガティブな投稿をする傾向にあると筆者は考える。それを考慮すると村益ら(2014)の先行研究で述べられていることだけでは説明不十分であることが考えられる。

第２節　結論 ―相互補完するSNS―

　本稿では利用者が様々な要因によってSNSを使い分けていく様子、そして時としてSNSを同時に組み合わせる連携利用をする様子について、第４章第１節、第２節と分析したが、筆者はこれまでの調査から「SNSは互いに相互補完する形で平行利用されている」という結論を述べておきたい。というのも、本章第１節で改めてまとめた表４を見ると、Twitterはオープン型のSNSであるがFacebookはクローズ型のSNSであったり、似たようなSNSでもそのコミュニケーション範囲は全く相反するものであったりと、別々の要素を持ち合わせたSNSであるにも関わらず、本調査ではそれを使い分けている様子が明らかになった。また第１節でも述べたが、利用者が「場の空気」や「暗黙のルール」と思われるSNS特有のイメージに沿って投稿内容に違いをつけて投稿することや、SNSごとで多少なりとも繋がりの違いに沿って投稿するSNSを変えていることから、１つのSNSを利用するのでは完結しきれない要素がいくつか利用者に存在していると考えられる。

　さらに、本調査でコミュニケーション空間が移動する場合はオープンからクローズへ移動し、その逆のケースは見られないという結果になった。SNSのリプライを利用した会話では、その繋がりを持つ人にはもちろん、持っていない人にも会話内容を閲覧されてしまうことがあるため、会話できるギリギリの範囲までしか公開することができない。よって秘匿させたい会話をするのにはそのようなSNSは適しておらず、内容がより詳細かつ秘匿性が増していくにつれ、より内密に、よりリアルタイムに交信することが求められる。そのため利用者はクローズでリアルタイム性があるSNSに会話を移転させなければならないのである。

　以上のように、SNSを使い分ける場合、そしてSNSを組み合わせて連携利用をする場合においても、SNSは相互補完される形で利用されていることが分かる。すなわち利用者はただ１つのSNSを使ってコミュニケーションを行なったりすることは不可能であり、近年爆発的に発達し、その種類の増えたSNSをいくつか使い分け、１つのSNSでは満たせない部分を別のSNSによって補完させる形で利用しているのである。このことが利用者にSNSの平行利用を必要とさせているのである。

　最後に本研究の終わりとして今後のSNSの展望について述べておく。近年爆発的に発達したソーシャルメディア事情を考えると、私たちが利用しているSNSは今後必要不可欠なものとして成り立っていくのではないかと予想する。それはつまり、スマートフォン利用者が圧倒的に増えた時代で、SNSを使い片手で手軽に自分の心境や状況を発信してそれをもとに他者とのコミュニケーションの輪が次々と広がっていくことが、今後の日本人のコミュニケーションのあり方であるような気がしてならないからである。その中で多種多様化したSNSが私たちのコミュニケーション手段を様々な場面で補ってくれるだろうと期待している。よって今現在私たちが複数のSNSを平行利用しているのは、そのような今後のコミュニケーション社会を生きるための第一歩であり、今や必要不可欠なことなのではないだろうか。