第２章　先行研究

第１節　SNS

　SNSはSocial Networking Serviceの略であり、インターネット上でそのユーザー達とさまざまなコミュニケーションを行なえるサービスである。チェ(2014) はSNSが自分の意見を表現し、他人との関係を形成、情報を取得するツールとして広まっていると述べている。また、SNSの使用目的が学校の友人とともに普段会えない友人との連絡の用途と捉え、人間関係を維持する役割が大きいという考察を行なった。第１節ではそれらの中でも近年利用者数が圧倒的に多く、大学生などの若者に馴染み深いTwitterとFacebook、そしてLINEについての平行利用を調査していくためにまずそれぞれの特徴をとらえていきたい。

第１項　Twitter

　Twitterはユーザーが自らの近況やちょっとした一言などを「つぶやく」という形で投稿していくSNSであり、アメリカカリフォルニア州のTwitter,Inc.が運営し、2006年にオブビアウス社がサービスを開始したSNSである。全世界利用者数は３億人を突破したと言われ、他のユーザーをフォロー（ユーザーのお気に入り登録）するとそのユーザーのつぶやきなどがタイムライン（投稿が時系列上に並ぶウェブページ）上に表示されていくといった仕組みを持つ。水野(2012)は、ツイッターとは「ミニブログ」のことで、通常のブログは私的な生活のことなどを綴る「日記」的役割が多く、政治的な主張を書いたりそれを読むと言った活動の舞台としてはそれほど機能していないことに対し、「ミニブログ」であるTwitterはより政治的ないしジャーナリスティックなメッセージが発信されることが多く、マスメディアのニュース報道に近い役割を演じることが目立っていると述べている。

　また、宮岸(2013)は、Twitterの「ゆるさ」と「リアルタイム性」に焦点を当て、違うタイムラインを見ているはずのユーザーが、タイムラインを通じある話題を共有していることを明らかにし、「同じものを見ている感覚」がTwitterで有効に働いていることを明らかにした。

第２項　Facebook

　Facebookは、2004年にFacebook,Incが運営を開始し、現在利用者が10億人を越え、世界中で利用者が最も多いとされているSNSである。このFacebookには他のSNSとは少し違った特徴があり、Facebookは実名で登録することが原則でTwitterのように複数のアカウントを作ることはできないとされている。また、プロフィールをもとに友達登録している友人の誕生日を知らせてくれる機能があり、これを利用するユーザーは多いと考えられる。水野(2012)はFacebookでは知人を見つけやすいとか、昔の知り合いに再び出会うことが容易であるといった特徴があると述べている。

　しかし、石井 (2014) はこうしたFacebookの方針は日本人の匿名的なコミュニケーションを行なう文化とは適合していない可能性があると述べる。石井は日本人のインターネット利用について、客観的な個人情報の開示度は低いにしても日記やエッセイなどを通して主観的な自己開示は積極的に行なっていると述べている。

　チェ(2014)は最近ではスマートフォンアプリ・タブレット端末アプリのFacebook連携機能が発達したことから、ユーザーが写真やイラスト、動画などを気軽に投稿でき、他のユーザーとのコミュニケーションを活発にさせていることにも言及している。

第３項　LINE

　LINEはLINE株式会社が2011年から提供を開始したサービスであり、海外では２億人、国内では6500万人以上が利用しているSNSであり、インスタントメッセージを送ったり、無料通話をすることができる。LINEは主に1対１のクローズドなコミュニケーションをすることを中心にし、TwitterやFacebookのようにタイムライン機能も備えたSNSである。加藤(2016)は、スマートフォンの普及に伴い主に若年層の間でのコミュニケーションは従来の携帯メールからLINEへと移行し、コミュニケーションの迅速性が求められていると述べている。しかしLINEは、チャットのように時間を決めてお互いがリアルタイムにやり取りをするようなアプリではなく、当然そこには受信者と発信者のタイムラグが生じ、メッセージを読んだのに返信できない、もしくはしないといった問題も起きてしまう。そこで加藤(2016)はLINE特有の「既読無視」という問題に着目し、「既読」をつけてしまったがゆえにそこから生じるトラブルについて明らかにし、利用者が「LINE疲れ」のような状態に陥ってしまうことを述べた。

第４項　SNS３種についてのまとめ

　これまで第１項から第３項にかけてTwitter、Facebook、LINEに関しての特徴を述べてきたが、ここではそれらのまとめを述べる。

　まずTwitterは先行研究では「ミニブログ」として捉えられており、リアルタイムに誰かと物事を共有できる点を活かし、よりジャーナリスティックなことや、同じようなタイムライン機能を持つFacebookや他のSNSよりも「今◯◯してる」といったリアルタイム性の強い内容が投稿されていることが明らかになった。

　Facebookは利用者が最も多いSNSでありながらも、実名登録の原則やそのプロフィールの詳細さを活かし友人を見つけやすいなど、個人を特定しやすいSNSであることが分かる。しかし先行研究ではそのような個人を容易に特定できてしまうコミュニケーションは匿名的なコミュニケーションを行なう日本人とはうまく合致していないことも指摘されている。

　そしてLINEは主に１対１のクローズドで密なコミュニケーションを目的とするSNSが故にそこで起きる既読無視といった問題を抱えたSNSであることが述べられている。だがしかし、その利用者数は海外でも多く、国内でも多く、もはやスマートフォン利用者にとって欠かせないSNSになっているのではないかと筆者は考える。

　これまで、SNS３種の特徴をまとめてきたが、次の第２節ではその中のTwitterとFacebookに焦点を当て、同じタイムライン機能を持つSNSでも、その性質や投稿内容が異なっていることについての先行研究を取り上げ、似たようなSNSでもそれぞれ別のものとして分類されていることについて明らかにしていきたい。

第２節　暗黙なルール・場の空気

　村益、竇(2014)はTwitterとFacebookに着目し、Twitter、 Facebookの文字データをSNS上での個人情報の自己開示度の度合い、また投稿内容の違い、投稿した内容についての自己開示の深さなどにコーディングし調査を行うとともに学生にインタビューを行い、「投稿理由におけるTwitterとFacebookの違い」、「他人の投稿を見て思うこと」、「裏アカウントの使い方」の3点にまとめた。その結果によると、投稿内容をコーディングした調査ではTwitterやFacebookは自分について(「自分は今○○している」など)の投稿が多くなるSNSであることや、趣味や楽しかったことなどの投稿がされていることが明らかになった。また村益らはFacebookが実名登録原則のSNSであるため、TwitterよりFacebookの方が公開範囲を指定した投稿が多くされていることも明らかにした。

　学生に対するインタビュー調査からはFacebookには「記録として残しておきたいこと」や「『これがありました』って言いたい行事」などの大きな出来事があったときに投稿をし、一方でTwitterには「誰かに言いたいのだけど特定の友人に言うほどのことではないこと」が投稿されることを明らかにした。さらに裏アカウントについては、Twitterで裏アカウントを作成している学生にインタビューをし、その作成理由と投稿内容について調査を行なったところ、他人の悪口や、愚痴などの内容を他人に見られたくないという意識や、他人のタイムラインを不快な投稿で汚さないという意識のもとで裏アカウントを作成するということを明らかにした。

　総じて村益らはFacebookよりも個人情報の開示が少ないTwitterでは、深い自己開示を表す投稿やネガティブな感情を示す投稿を多くし、プロフィールでは自己開示が深くされないがそれでも少ない情報で自分だと分かってくれる親密な友人のみと繋がり自己表現をしやすくしていることや、インタビュー調査で得られたFacebookをTwitterのように使う人やTwitterをFacebookのように使う人への嫌悪感を抱くという意見をもとにSNSには「暗黙のルール」や「場の空気」が存在していることを明らかにした。それによるとTwitterにはどうでも良いことを投稿しても良いという空気、Facebookには大きな出来事や特別な出来事、公に知ってほしい出来事などを投稿するという空気があり、利用者はその「空気」に従い投稿を行なっているのではないかと村益らは述べた。

第３節　ストック型とフロー型、オープン型とクローズ型

　第２節で村益ら(2014)が先行研究でも述べた通りFacebookには「記録として残しておきたいこと」などが投稿されるため、Twitterよりも情報の流れが遅い。逆にTwitterでは「特定の友人に言うほどのことではないこと」等、とりとめもない感情等が頻繁に投稿されタイムラインの情報の流れは非常に早い。つまりTwitterとFacebookでは情報蓄積様式に違いが存在する。村益らによると、一般的にTwitterは情報の流れの速さから「フロー型」、Facebookは逆に「ストック型」に分類されるという。また、このように次々とログが流れることが「フロー型」の特徴だと考えると、LINEはリアルタイムにチャットのようなやりとりをし、そのログが次々と流れていくことから判断して、Twitterと同じく「フロー型」に分類されるのではないかと筆者は考える。

　情報蓄積様式の違いとともに浮き彫りになるのが、TwitterやFacebook、そしてLINEを始めとする各SNSのタイプの違いである。高橋ら(2013)によると、Twitterは情報の信頼性には欠けるが、そのコミュニケーション範囲の広さや、フォローしていなくても他のユーザーとのコミュニケーションを行なうことが出来る点として「オープン型」のSNSであるとしている。一方Facebookは一方が友達申請を行い、受けた方がその申請を承認するといった形で初めてコミュニケーションを行なうという点から、「クローズ型」のSNSであるとしている。LINEに注目すると、一般的には友達登録を互いに承認し合い、相手が誰なのか断定した上、他者とのコミュニケーションが一対一ないし一対複数の空間においてのみ展開される。そしてその会話ログ等が会話当事者達以外の第３者に閲覧されることはない。こういった点からLINEも「クローズ型」のSNSだと言える。

　なお、高橋らは本研究で取り上げるTwitter、LINE、Facebookを以下のように分類している。

　まず、TwitterとFacebookはそのサービスタイプが情報発信タイプに分類されLINEは対話タイプに分類される。また、電話のようにリアルタイムで相手と交信されるかどうかを識別するにあたり、そのリアルタイム性はTwitterとFacebookにはなく、オンラインチャットのようにやり取りを交わすLINEにはリアルタイム性があると分類される。最後にそのコミュニケーション範囲は先述した結果になっていることが分かる。これらをまとめたのが下の表である。（表１）

	サービスタイプ	リアルタイム性	コミュニケーション範囲	ストック もしくはフロー
Twitter	情報発信	なし	オープン	フロー
Facebook	情報発信	なし	クローズ	ストック
LINE	対話	あり	クローズ	フロー

（表１　先行研究に基づいたSNS３種の分類）

　しかし、これらオープン、クローズはSNSの設定によって選択できるもので、例えばTwitterに鍵をかけてしまい鍵アカウントとすれば友達申請を送り承認されなくてはその人の投稿を閲覧することは出来なく、一見オープンなTwitterであっても設定によりクローズなSNSへと姿を変えることができる。Twitterだけでなく他のSNSもその細かい設定によりオープンからクローズなSNSへと形を変えることが出来る点にも留意するべきである。

第４節　先行研究のまとめ

　これまでの先行研究からTwitterは「ゆるさ」と「同じものを見ている感覚」、Facebookは「実名登録」と「日記的要素」、LINEは「一対一ないし複数のコミュニケーション空間」と「既読無視」など、それぞれに特有の特徴があることが分かった。第２節では村益らの先行研究をもとにTwitterとFacebookを比較すると、そこには二者の間に存在する情報開示度の違いとSNS上での「暗黙のルール」や「場の空気」によって投稿内容が違っていることが明らかになった。そして第３節ではTwitter、Facebookを中心にSNSタイプの違いと情報蓄積様式の違いを先行研究をもとに述べた。すると友達申請の承認の有無やコミュニケーション範囲の広さから「オープン型」と「クローズ型」に分かれること、さらには投稿内容が違っていることから「ストック型」と「フロー型」という情報蓄積様式の違いが明らかになった。

　そこで本調査は、表１でまとめた要素も念頭に置きながらSNSごとの繋がり、投稿内容、そしてコミュニケーション空間をもとに２つの平行利用に関する観点に焦点を当てた。それが「SNSの使い分け」そして「SNSの連携利用」の２つである。

　まず、「SNSの使い分け」では各SNSの特徴、そしてこれまでの先行研究を踏まえ、ある１つのSNSを利用者がその用途に応じてそれぞれ使い分けていく様子を明らかにする。そこでは利用者が各SNSをそれぞれどのようなものとして捉えているかが明らかになり、それによってSNSが使い分けられていく様子が明らかになるのではないかと判断したからである。

　次に「SNSの連携利用」としては２つないしそれ以上のSNSを同時的に利用するといった実態を明らかにしていく。そこには前者と違い、例えば会話をするために別のSNSへ移動するなど、SNS同士が繋がりを持ったコミュニケーション空間として存在し、利用者はその間を行き来しているといったSNSの連携が見られることをより明らかにしていく狙いがある。

　以上の２点を踏まえ、先行研究にとらわれないSNSの実際の利用のされ方を調査し、本研究の問題関心である「どのようにSNSが使い分けられているのか」ということに迫っていく。