第六章 考察・まとめ

 第四章で、ジャニーズアイドルファンと、女性アイドルグループのファンの一番端的な違いはコミュニティでの応援活動であると述べた。そこで、コミュニティでの応援活動について調査した結果、女性アイドルグループのファンがコミュニティを組み、そのコミュニティで積極的に応援活動を行っているのに対し、ジャニーズアイドルファンにはそのような行動がみられないことがわかった。それでは、どうしてこのような差異が生じるのであろうか。考察していく。

 

第一節 ファンの応援行動に差異が生じる理由

 ここまで述べたように、ジャニーズアイドルファンと女性アイドルグループのファンの応援行動には差異が生じている。本調査で得られた語りより、その差異が生じる理由には4種類あるのではないかと推測することができた。

 

第一項 行える応援活動の制約

ジャニーズ事務所は、ファンレター等の手紙は受け付けているが、その他祝い花や金品を含むプレゼント類は原則禁止されている(19)。そのため、女性アイドルグループのファンが色紙や看板等を作成して本人の目に入るところまで届けているのに対し、ジャニーズアイドルファンは本人のところまで届けることができない。また、握手会や生誕祭などの公式のイベントもほとんど開催されていない。その点について、以下のような語りがあった。

 

 

山口:(中略)ジャニーズって手紙しかダメみたいななんかあると思うんで、(プレゼントを贈る等の行為が)できないと思うんですけど、そういうのがもし決まりがなかったらやってると思いますか?

C:やってると思います()

山口:それでは、(中略)(女性アイドルグループのファンが、グループで行う応援活動について)どういうふうに思うか教えてください。

C:んー、でも全部すごい楽しそうやなーって、思います。(4秒沈黙)あなんか、ジャニーズ以外だったら、結構なんか、アーティストとの距離が近いっていうか、が、羨ましいなって。

 

 

C氏は、女性アイドルグループのファンが行う応援活動で、ジャニーズでは制約されているものについて、もし許されるなら自分も行ってみたい、もし許されていれば行っているだろうと述べた。また、同様の趣旨の発言をB氏、D氏からも得た。

またC氏は、どうしてプレゼントを作成する行動をしていないかという問いに対して、本人のところまで届けることができないから、と答えた。

 

山口:(中略)最初から(女性アイドルグループのファンがグループで行うような応援活動が)許されているようなところだったら、自分もやっていたかなって思いますか?

B:…んー、たしかに。あでも、なんかそれこそやっぱり1人じゃできんからってなるんかなって、すごい思います、ふふ()やからこそなんか、集まって、じゃあみんなでやってみようってなるんかなって。なんか自分ひとりやったら、やってみたいけど実行まで移さんみたいな。

 

B氏は、プレゼントを贈る等の応援活動が許されていた場合、自分もやっていたと思うと述べた。そして、そのような応援活動を行うことになった場合、一人で行うのではなく、グループで集まって行うというふうになるのかもしれないと述べた。

 これらの語りより、応援活動を事務所によって制約されているために、ファンの行動に差異が生じていると考えられる。ジャニーズアイドルファンは、女性アイドルグループのファンが行っているような応援活動を本当は行いたいと考えているが、ジャニーズ事務所によって禁止されているため行えずにいる。色紙等の作成や、生誕祭で担当を祝う等の応援活動が許可されていた場合、それらの活動は一人で行うよりもコミュニティで行うほうが行いやすい。また、女性アイドルグループのファンは「色紙等を作成する」、「生誕祭で推しを祝う」といった、コミュニティで活動する目的が明確であるため、コミュニティを組み、活動に積極的になるのに対し、そのような目的が少ないジャニーズアイドルファンは、コミュニティでの活動が消極的になると考えられる。

 

第二項 他のファンとの人間関係

 アイドルを応援していく中で、他のファンとの人間関係を重視するために、コミュニティでの応援活動に消極的になることが分かった。以下に語りを引用する。

 

山口:(中略)グループで応援活動を行うことで、デメリットはあると思いますか?

B:……デメリットは…んー…もし入っとったら、なんか……絶対そのグループの中で……()価値観が違ってくると()えーたぶん、あのー、その自分がどういうファンなのかってなるとなんかそこまで熱狂的じゃないんかもしれんとかって思って、おれんくなったり、するんかなあと思います。

 

山口:…(コミュニティの人数が)多すぎるとちょっとみたいなことだったと思うんですけど、なんか、そう思う理由ってありますか?

C:んー、なんか、私がちょっと人見知りっていうのもあるけど、なんか多すぎたら、なんかいろんな考えしてる人がいるから、ちょっと、あってなることとか(中略)

山口:(中略)そしたら、逆にグループで応援活動を行うことでデメリットはあると思いますか?

C:んー、私はそんなに…なんやけど、考えられるんは、やっぱなんか同じ担当の人とかで、揉めたりとかある人もおるんかなあって。

 

山口:(中略)そのような(ジャニーズで制約されている)活動がもし、そのー、できると仮定した場合、自分でもやりたいと思いますか?

D:……んー、なんか個人でできるレベルのものについては、ちょっとやってみたいかなって。(中略)40人規模とかのものには、ちょっと参加しにくいかな…友達同士で少人数でやるんだったらやりたいけど、みたいな。

山口:なるほど。……その大人数になると、そのーなんだろ、参加しにくいっていうのはどうしてですか?

D:……もともと自分があんまり大人数が得意じゃないっていうのと……あんまり知らない人たちと大人数でいるよりは、よく知ってる少人数の人とおしゃべりしてたほうが、こういろんなことが言えて気が楽というか、楽しい、からかな。(中略)どっちかというとなんか、人柄っていうか、コミュニケーション重視なのかな。

 

 B氏、C氏、D氏それぞれが、コミュニティに所属することに対して、他のファンとの人間関係を考慮していると語った。また、A氏からも同様の趣旨の語りが得られた。同担のファンとトラブルが起きるのではないかという考えは女性アイドルグループのファンの内にはなく、ジャニーズアイドルファン独特のものであると言える。

これらの語りより、他のファンとの価値観や考え方の違い、同担とのトラブル、よく知らないファンとコミュニケーションをとることからくる気遣いやトラブル等が生じて、自分が不快な思いをする可能性を不安視して、コミュニティに所属することに消極的になっていると考えられる。女性アイドルグループのファンの間では「推し被り拒否」のファンがごく稀であり、推し被り拒否という文化がファングループ内で人間関係を壊してしまうものと捉えられているため、ファンコミュニティを組んだ際に、人間関係について心配する必要性が減少するのではないだろうか。それに対してジャニーズアイドルファンの間では「担当制」という文化が存在するため、ファン自身が担当に敏感であり、「同担拒否」が存在することも知っているため、コミュニティを組んだ際に人間関係で不快な思いをする可能性を避けるために、コミュニティを組むことに対して消極的になるのではないだろうか。コミュニティを組んで他のファンとトラブルになるより、組まないという選択をしたほうが、他のファンとのトラブルを防ぐことができる。もしコミュニティに所属したことで他のファンとトラブルになった場合、その時点で人間関係が崩れることになるが、コミュニティに所属しないことで、そのファンとの人間関係を壊さず、万が一そのファンと出会うことがあったとしても、同コミュニティに所属せず一定の距離を保っておくことで、その後も穏やかな関係を維持することができるのである。このように、ジャニーズアイドルファンにとって、ファン同士の人間関係は非常に重要な要素であると考えられる。

 

第三項 ファン人数、コンサート会場の規模

 ファン人数、コンサート会場の規模が、コミュニティ所属、コミュニティでの応援活動に影響を与えていることが分かった。以下は、プレゼント作成や生誕祭等のジャニーズにはない応援活動を羨ましいと思うかという問いに対する語りである。

 

B:……えー、微妙()微妙だなー。いや、羨ましいけど…あーどうやろ、いや、うーん、どうかな…()いやなんか、多いじゃないですか、ファンが。なんかすごいことになりそうだなって()そういう現実…味?()いや無理だろうなって思ってしまいます。

 

 また、以下はジャニーズアイドルファンがコミュニティで活動を行わない理由について思うことはあるかという問いに対する語りである。

 

C(中略)ジャニーズ全般に言えるわけじゃないと思うけど、ファンの人数の、そのー、あるんかなあって。なん…会場が、でかい()っていううん。他の…めっちゃ人気なグループとかでもこういうのあると思うけど、たぶんちっちゃいグループだったら、なおさらやりやすいんかなってなんかライブ会場とかだったら人数少ないやろうし。

 

 B氏、C氏は、ファン人数が多いことによって、コミュニティの活動が円滑に進まないのではないかと述べた。

 そして、以下はファン人数の規模についての語りである。

 

D (中略)ジャニーズとかだと、こうやっぱファンがめちゃくちゃいるから、自分から行かなくても、なんかどこかしら友達がみつかるっていう、結果的にそういう感じになるから、そんな必死に、ファン同士集まろうっていうのがないけど、やっぱ地下アイドルとか、ファンが少ないとこだったら積極的にいかないと仲間が見つからないっていうのが、ちょっとあるのかなって。

 

 D氏は、ジャニーズアイドルはファン人数が比較的多く、そのため自分から積極的にファン仲間を増やそうとしなくても、普段の生活の中で仲間が見つかるために、ファン人数が少ないアイドルグループに比べてコミュニティを組んで積極的に活動する必要性が低いのではないかと述べた。

これらの語りより、ファン人数やコンサート会場の規模の大きさがコミュニティでの活動に影響している可能性が考えらえる。ジャニーズアイドルは、全てのグループに当てはまるとは言い切れないが、ファン人数やコンサート会場の規模が比較的大きいと言える。ファン人数、コンサート会場の規模が小さければファン全体でなにかをするということが比較的容易であるのに対し、ジャニーズアイドルのようにファン人数、コンサート会場の規模が大きいと、考え方をまとめることはおろか、全体で一つのことを進めることやファン全体で集まること自体が大変困難なため、ファンみんなで協力してなにかをしようという考えに至りにくいのではないだろうか。また、ファン人数が少ないと、自分から積極的に行動しなければファン仲間を作ることが難しいのに対し、ファン人数が多ければ、それだけ日常生活でファン仲間に出会うことのできる可能性が増加する。つまり、ジャニーズアイドルのように比較的ファン人数が多いグループのファンであれば、それほど積極的に行動しなくてもファン仲間に出会うことのできる可能性が高いため、コミュニティで活動することに積極的になる必要性が低いと考えられる。

 

第四項 コミュニティ所属により生じる義務感

 コミュニティに所属することによって義務感が生じ、それによって自分が行いたいように応援活動を行えなくなることを不安視していることが分かった。以下に語りを引用する。

 

山口:(中略)Dさんが応援しているグループのなかに、例に挙げたような応援活動(握手会や生誕祭、プレゼント作成等)がないことに対してどういうふうに思いますか?

D(中略)もし、あったら…なんか、こういうのがあることで、ファンは参加しなきゃいけないっていう義務とか、義務感とかが発生するんだったらないほうが自分的には楽かなぁ。なんか、好きでやるんだったら全然いいと思うんだけど、こう、ファンなんだから、ファンなのになんでやってないの、みたいになったら、もう、ちょっとないほうがいいかなって。

 

山口:グループで応援活動を行うことでデメリットはあると思いますか?

D:デメリット。なんかさっきも言ったような、なんか、好き、最初は好きでやってたのに、なんかこうグループがどんどん増えてくとやっぱ決まり事とか増えてったりして、やっぱなんか自分の思ってた活動と違うとか、なんか、それ、ファンだからなになにしなきゃいけないみたいな義務感とかが、うまれてくるとしたら、そういったグループで活動するっていうのは、なんていうか、自分の思ったように…そのー、好きなアイドルを応援できなくて、ちょっと活動しにくいんじゃないかな。

 

 D氏は、コミュニティに所属すると、応援をする際に義務感が発生したり、決まり事が増えたりして、自分の思うように応援ができなくなるのではないかと述べた。

 これらの語りより、コミュニティに所属することで、コミュニティ内の規則や他のファンとの関わりにおいて「ファンだから〜しなければならない」「このコミュニティに所属しているから〜しなければならない」という義務感が発生し、そのような義務に縛られるようになると、はじめは好きで応援していたものが、徐々に自分の思うように活動できなくなると考えられる。このように、コミュニティに所属して義務に縛られ、好きなように応援できなくなってしまう可能性を避けているのではないだろうか。

 

第五項 まとめ

 女性アイドルグループのファンがコミュニティに所属して積極的に応援活動を行っているのに対し、ジャニーズアイドルファンがコミュニティに所属し応援活動を行うことに消極的である理由について、各ファンの応援行動の差異の点から分析をした結果、ファンの応援行動に差異が生じる理由には4種類あるのではないかと推測できた。

 第一は、行える応援活動に制約があるという点である。ジャニーズ事務所はアイドルの誕生日を祝う生誕祭やファン投票といったイベントを公式に行っておらず、所属アイドルに送ることができるのもファンレター等の手紙のみと定められている。それらの応援活動を制約されているジャニーズアイドルファンは、コミュニティで活動する明確な目的がないため、積極的な活動が行われていないと考えらえる。

 第二は、他のファンとの人間関係について考慮しているという点である。ジャニーズアイドルファンの間では「担当制」という文化が存在するため、ファン自身が担当に敏感であり、「同担拒否」が存在することも知っているため、コミュニティを組んだ際に人間関係で不快な思いをする可能性を避けるために、コミュニティを組むことに対して消極的になるのではないだろうか。

 第三は、ファン人数、コンサート会場の規模が大きいという点である。ジャニーズアイドルのようにファン人数が多い場合、ファン全体で協力すること自他が大変困難であるため、ファンで協力してなにかをしようという考えに至りにくいのではないだろうか。また、ファン人数が多ければ、それだけ日常生活でファン仲間に出会うことのできる可能性が増加するため、コミュニティに所属し、自ら積極的に行動する必要性が低いと考えられる。

 第四は、コミュニティに所属することで義務感が生じるという点である。コミュニティに所属することで、「〜しなければならない」といった義務が生じ、そうなることで自分の思うようにアイドルを応援できなくなる可能性が考えられる。そのような可能性のあるコミュニティに所属し活動しようと思わないのではないだろうか。

 このように、ファンの応援行動に差異が生じる理由は4種類考えられる。しかし、これら4種類の理由はそれぞれが独立して作用しているのではなく、互いに補完しあっている。以下にその例を挙げる。

第二で述べた「他のファンとの人間関係」では、まず、第一で述べた「行える応援活動の制約」が関連する。女性アイドルグループのファンにはコミュニティで活動する明確な目的があり、その目的を達成していく過程でファン同士の仲を深めることができる。しかしジャニーズアイドルファンにはコミュニティで活動する明確な目的が少ないため、コミュニティを形成したとしても、ファン同士のコミュニケーションが主な目的となるのではないだろうか。コミュニケーションが主目的のコミュニティになると、女性アイドルグループのファンのように目的を達成する過程で仲を深めていくという過程を踏めず、より一層人間関係が重要になる。女性アイドルグループのファンはコミュニティ内の人間関係で多少不快な思いをするとしても、目的を達成するためにコミュニティに所属するだろう。しかしジャニーズアイドルファンは明確な目的がないため、気の知れたファン仲間数人との交流にとどめ、人間関係で自分が不快な思いをする可能性があるコミュニティで積極的に活動しようと思わないのではないだろうか。そして、第三で述べた「ファン人数、コンサート会場の規模」も関連する。ファン人数が多ければ多いほど、いろいろな価値観や考え方が存在する。ジャニーズアイドルファンは人間関係について深く考慮しているため、ファン人数の多いジャニーズアイドルファンはコミュニティに所属することで、他のファンとの人間関係でトラブルになる可能性を考慮し、コミュニティでの活動に消極的なのではないだろうか。

第四で述べた「コミュニティ所属により生じる義務感」では、まず、第一で述べた「行える応援活動の制約」が関連する。コミュニティに所属する明確な目的がないジャニーズアイドルファンは、義務感に縛られて好きなように応援できなくなる可能性のあるコミュニティに所属しようとはしないのではないだろうか。そして、第三で述べた「ファン人数、コンサート会場の規模」も関連する。ファン人数が多ければ、日常生活でファン仲間に出会うことのできる可能性が高くなるため、義務感に縛られる可能性のあるコミュニティに所属する必要性が低くなるのではないだろうか。

このように、4種類それぞれが独立して成立しているのではなく、互いに補完し合っている。そのため4種類を合わせて考えると、「ジャニーズアイドルファンは人数、コンサート会場の規模が大きく、自ら積極的にコミュニティに所属しなくてもファン仲間に出会うことができるのに加えて、コミュニティに所属する目的が明確でないだけでなく、コミュニティで他のファンとかかわった際に人間関係で不快な思いをする可能性もあるため、コミュニティに所属して活動しようと考えない」と言えるのではないだろうか。これより、双方のファンの応援行動に差異が生じる最も大きな理由は、ジャニーズアイドルファンの、コミュニティに所属する明確な目的の欠如と、ファン同士の人間関係の重視であると考えられる。


 

第一節     担当と推しの違い

 前節で、ジャニーズアイドルファンと女性アイドルグループのファンの応援行動の差異が生じる大きな理由は、ジャニーズアイドルファンの「コミュニティに所属する明確な目的の欠如」と「ファン同士の人間関係の重視」であると考察した。それでは、そもそもジャニーズアイドルファンの「担当」と、女性アイドルグループのファンの「推し」はどのような違いがあるのだろうか。そして、「担当」という言葉はジャニーズアイドルファンにどのように認識されているのであろうか。また、その違いは応援行動の差異に影響を与えているのであろうか。インタビュー調査で得られた語りから考える。

 

第一項 思いの強さ、責任感

筆者は、ジャニーズアイドルファンが、自分がそのアイドルに対する思いや責任感が強いという意味合いを込めて、「担当」という言葉を使用しているのではないかと考える。ジャニーズアイドルファンにインタビューしたところ、以下のような語りが得られた。

 

山口:(中略)担当と推しに違いはあると思いますか?

A:んーー(7秒沈黙)なんとなく、推しメンのほうが軽く、誰でも使えるイメージ?なんかそんなに48好きじゃなくても、48の中だったら私はこの子が推しメンだーとかその程度で使えるイメージですけど、担当までいくと本当に、本当にそのグループが好きで、その人が好きみたいな感じじゃないと、なんとか担とかは言えないかなって思いました。

山口:なるほど。そしたら、イメージ的には推しのほうが、あの、なんて、気軽で、担当のほうがよりファン、なんていうんだろう、ファン度が重いというか。

A:そうですね。ファンじゃないと使えないかなと思います。

 

A氏は、「推し」という言葉は誰でも気軽に使えるイメージだが、「担当」という言葉は、そのアイドルのことを本当に好きな人でなければ使えない言葉であると述べた。

調査を進めていく中で、ジャニーズアイドルファンは、「担当」という考え方を大切にしている印象を受けた。自分が誰の担当であるかということをはっきりと示し、他のファンが誰の担当であるかということを意識して交流している。これは、自分が誰の担当であるかということに対して責任を持っているのではないかと筆者は考える。自分の好きなアイドルのことを「担当」と呼ぶことで、「そのアイドルが好き」という責任感を持って応援しているのではないだろうか。自分はこのアイドルの担当としてそのグループを盛り上げる、他の担当の人に自分の担当の責任を持つ、という意識が働くのである。そして、その責任を果たすためには、そのアイドルを語ることができるほど好きである必要がある。そのため、「担当」という言葉に、アイドルに対する思いや責任感の強さを感じているのではないだろうかと考える。

また、この考え方は、ジャニーズアイドルファンの「独占的思考」が働いていると筆者は考える。独占的思考とは、自分がアイドルを独占したいという考えのことをいう。自分が好きなアイドルを担当することで、他のファンには自分の担当に関して口出ししてほしくないといった気持ちがあるのではないだろうか。

 

第二項 役割分担

そして、「担当」という言葉は、他のメンバー、ファンのことを意識しているのではないかと筆者は考える。ジャニーズアイドルファンへのインタビューでも、そのような趣旨の語りが得られた。以下にその語りを引用する。

 

山口:(中略)担当とか推しの違いってなにかあると思いますか?

G:……んー……いややっぱ担当ってさ、やっぱ他の人を意識してるよね。他のメンバー、その、担当以外のメンバー。……やっぱり、私は中居くん担当だから中居くんを応援するし、あなたは木村くん担当だから、木村くんを応援して、グループを盛り上げていこうねっていうか。(中略)……で推しは(中略)まゆゆ推しだったら、まゆゆだけが…まゆゆだけが輝いてほしいっていうのがありそう。(中略)輝いてほしいっていうか、ま、輝いてほしいとは違くて、まゆゆだけが幸せになってほしいっていうか。だけ、まゆゆが一番幸せになってほしい() っていうか。だけ、じゃないけど。一番幸せになってほしいから、ゆきりん…のことは別に全然目に入ってなくて、…だからAKBを盛り上げるっていうよりはまゆゆを盛り上げてるって感じ。(5秒沈黙)だから、そのーゆきりんのこともゆきりんファンのことも、目には入ってない。

山口:あー。…じゃあ推しっていうのが1人に焦点を当ててるのに対して、担当っていうのは、グループを意識してグループに焦点を。

G:うん、グループとか。まあ、ジャニーズの中のほかの人?

山口:なるほど。

 

G氏は、女性アイドルグループのファンが自分の推しのアイドルに焦点を当てて応援をしているのに対し、ジャニーズアイドルファンは、自分の担当のアイドルだけでなく、担当が所属するグループのメンバーや、ジャニーズ事務所のアイドル、そのファンを意識して応援していると述べた。

「担当」という言葉の持つもともとの意味は、「一定の事柄を受け持つこと、引き受けること」である。その言葉の意味のとおり、ジャニーズアイドルファンは他のファンに対して、自分が好きなアイドルの応援について受け持っているのではないだろうか。「私はアイドルグループの中でこの人を担当して応援して、あなたは別のこの人を担当して応援する」というふうに役割分担をしており、それを表すために生まれたのが「担当」という言葉であると筆者は考える。他のファンと応援するアイドルが被らないように役割分担をすることで、不愉快な思いをすることなく、協力してグループを盛り上げることができる。自分が好きなアイドルを担当することで、好きという思いでぶつかることもなく、「このアイドルのことなら、担当の私に任せて」というように、知識等においても自分が担当であるアイドルについて語ることができるのである。このように、役割分担をして応援をするという面で、他のメンバー、他のファンを意識しているのではないだろうか。

また、この考え方にも、ジャニーズアイドルファンの「独占的思考」が働いていると考えられる。他のファンと役割分担をすることで、他のファンが自分の担当に口出ししないようにするはたらきがあるのではないだろうか。

 

第三項 まとめ

 「担当」と「推し」の違いについて調査し、ジャニーズアイドルファンが「担当」という言葉に対してどのような認識を持っているか考察した結果、以下のようなことが分かった。

 第一は、思いの強さ、責任感についてである。「推し」という言葉は、だれでも気軽に使える言葉であるのに対して、「担当」という言葉は、そのアイドルのことを本当に好きな人でなければ使えない言葉であるという語りより、ジャニーズファンは、「担当」という言葉を使用するにはファンの度合いの重さが必要であると認識していると分析した。第三章 第三節で、自分がアイドルに関して他のファンよりも詳しくないのではないか、と引け目や遠慮を感じたり、アイドルについて知らないことがあった場合に馬鹿にされるのではないかと不安に感じたりするというファンの語りを引用したが、それもファンの度合いの重さを考慮した「担当」という文化の影響を受けていると筆者は考える。ジャニーズアイドルファンには、アイドルを良く知り、そのアイドルを「担当する」というファン文化があるため、女性アイドルグループのファンと比較してもジャニーズアイドルファンのほうがより、自分が他のファンよりも詳しくないのではないかと不安に思うのではないだろうか。そして、そのような不安があるため、他のファンとの交流に慎重になったり、人間関係をより重視したりするのではないだろうか。

 第二は、役割分担についてである。女性アイドルグループのファンが自分の推しのアイドルに焦点を当てて応援をしているのに対し、ジャニーズアイドルファンは、自分の担当のアイドルだけでなく、担当が所属するグループのメンバーや、ジャニーズ事務所のアイドル、そのファンを意識して応援しているという語りより、ジャニーズアイドルファンが他のファンを意識して担当分けをしているのではないかと分析した。自分が好きなアイドルを担当として受け持つことで、同じアイドルが好きであるファンと好きという感情や知識がぶつかることを避けようとしたのではないだろうか。自分が不快な思いをせずにアイドルを応援するために担当を示し、他のファンの担当を知ることが必要であり、それが他のファンとの交流に慎重になったり、人間関係を重視したりすることに繋がるのではないだろうか。

 これらふたつの分析より、第一節 第五項で述べたとおり、ジャニーズアイドルファンにとって「人間関係」というものが大変重視されていると言える。そして、人間関係を重視するジャニーズアイドルファンにとって、コミュニティに所属して多数のファンと関わりを持ちながら応援活動を行うことはハードルが高い。そのため、コミュニティで活動する明確な目的のないジャニーズアイドルファンはコミュニティ活動に消極的になり、女性アイドルグループのファンに比べて活発に活動されていないと言える。このように、ジャニーズアイドルファンにおける「担当制」は、ファン活動をしていくうえで大変重要な仕組みなのである。

 ここで、先行研究と照らし合わせて考えてみる。徳田(2010)は、同担拒否の理由を「担当に対して恋愛に似た感情を抱くため」としていた。しかし、本論文の第三章 第二節で述べたように、同担を拒否する理由には、恋愛感情だけでなく、同担とのトラブル等によるトラウマからくるものがある。そして、第二節 第二項で述べたように、ジャニーズアイドルファンは自分の好きなアイドルを担当し、他のファンと役割分担をしてアイドルを応援している。その中で、自分と同じアイドルを担当するファンとの出会いは、トラブルの発生や不快な思いをする等、自分にとって都合が悪い場合があり、そのため同担を避けるという行動が生じる可能性もあるのではないだろうか。これより、徳田(2010)が示した、同担拒否の理由が「担当に対して恋愛に似た感情を抱くため」という分析は、それだけでは同担拒否の理由として不十分であるといえる。

(2012)は、ジャニーズアイドルファンが疑似恋愛関係に重点を置く「当事者」から、他のファンとのコミュニケーションを大切にする「観察者」へと移り変わったとしていた。しかし、先に述べたように、現在でも疑似恋愛関係を求めるファンは存在しており、すべてのファンが「観察者」へと移り変わったとは言い切れない。だが、ジャニーズアイドルファンが、自分の好きなアイドルを担当し、他のファンと役割分担しながら、工夫してコミュニケーションをとりアイドルを応援している点より、他のファンとのコミュニケーションを重視していることは事実である。これより、辻(2012)の述べる「観察者」的思考を持つファンは実際に存在しているといえる。

徳田(2010)と辻(2012)の論は、一見すると相反することを述べているように見える。しかし、これはそれぞれ違う面をとらえた論であるためであると筆者は考える。ジャニーズアイドルファンは、先に述べたように、自分が担当のことを独り占めしたいというような「独占的思考」を持っている。もちろん、すべてのファンがそうであるとは言えないが、ジャニーズアイドルファンの考え方のベースには、この「独占的思考」があると考える。自分が担当を独占したいという感情は、徳田(2010)の述べる「恋愛に似た感情」と類似している考え方なのではないだろうか。そのような意味では、徳田(2010)が述べたのは、ジャニーズアイドルファンのベースである「独占的思考」についての論と言えるのではないだろうか。

しかし、ジャニーズアイドルファンは「独占的思考」を持っているが、他のファンと交流する際に、自分が不快な思いせず、他のファンと穏やかにコミュニケーションをとるためには、その「独占的思考」を抑えて一歩引く必要がある。そのようなコミュニケーションのとり方は、相手とのコミュニケーションを重視すると述べた辻(2012)の論と類似するものなのではないだろうか。そのような意味では、辻(2012)が述べたのは、ジャニーズアイドルファンが「独占的思考」を抑えながら、工夫して他のファンとコミュニケーションをとるという面についての論と言えるのではないだろうか。

これより、徳田(2010)、辻(2012)の論は、両者が違う側面を見ていたものであり、相反しているが、どちらも正しいと言える。しかし、これはジャニーズアイドルファンに特化した論であり、アイドル全体でみると異なってくると筆者は考える。

ジャニーズアイドルファンは、先に述べたように、「独占的思考」をベースに持っている。これは、女性アイドルグループのファンが他のファンと協力しながら応援するという行動と異なる。女性アイドルグループのファンは、ジャニーズアイドルグループファンのような独占的思考を持つのではなく、他のファンを「仲間」として捉えているのではないだろうか。先に述べたように、アイドルとの接触イベント等により、独占欲を満たすことができるため、独占的思考を持ちにくいと考えられる。それだけでなく、他のファンと協力して応援する場面のある女性アイドルグループのファンは、独占的思考を持っていると、協力が難しくなると考えられる。そのため、他のファンを仲間であるととらえ、一緒に応援するのではないだろうか。このように、ジャニーズアイドルファンと女性アイドルグループのファンでは、他のファンの捉え方に差異があると考える。アイドルの応援と言っても、一緒くたにすることはできないのである。

ジャニーズアイドルファンの「独占的思考」は、担当制の持つ責任感や役割分担の排他的で独占的な部分からあらわれてくるのではないだろうか。もちろん、すべてのファンにあてはまるわけではないが、そのような排他性や独占性の強いファンもいる。そのようなファンが存在することで、他のファンも、そのようなファンがいることを意識し、配慮する。このように、担当制は「独占的思考」を生じさせる働きがあると筆者は考える。しかし、そのような面だけではない。担当制があることで、他のファンと役割分担をしながらアイドルを応援することができる。そのため、「独占的思考」を持っていても、ファン仲間を作り、お互いが気持ちよく応援することができるのである。このように、担当制は、ジャニーズアイドルファンの、他のファンとの交流を円滑に進めるための機能としても作用している。


 

第三節 まとめ 「担当制」とは

 本研究では、ジャニーズアイドルファンと女性アイドルグループのファンを比較しながら、ジャニーズアイドルファンによる「担当制」に焦点を当てて調査を進めた。ジャニーズアイドルファンは、自分と他のファンの「担当」を意識しながらアイドルを応援していること、そして、ジャニーズアイドルファンにとって、「担当制」という文化は大きな意味を持っていることがわかった。それでは、「担当制」はジャニーズアイドルファンにとってどのようなものなのであろうか。

「担当制」は、ジャニーズアイドルファンが、楽しくアイドルを応援するための仕組みなのではないだろうかと筆者は考える。本研究では、「同担拒否」はトラブルや不快な思いを避けるための手段であり、同担を拒否しないファンも、トラブルや不快な思いを避けるための工夫をしながらアイドルを応援していると述べた。ファンたちは、示される「担当」を知ることで、同担を拒否することも、振る話題を調整することもできる。そのため、同担を拒否するファンにとっても、そうでないファンにとっても、「担当制」はトラブルや不快な思いといったマイナスを避け、ファン同士の交流を円滑にするという大きな存在意義を持っているであろう。「担当制」は、アイドルに熱狂する中で、お互いが気持ちよくアイドルを応援するために生まれた手段であると本研究を通して感じた。そして、それだけでなく、自分の好きなアイドルを「担当」とし、他のファンと示し合いながら応援することで、自分が誰担当なのかを相手に知ってもらい、同様に相手の担当も知ることができる。これは、仲間を作る上で大変便利な意思表示となる。「担当制」があることで、容易に他のファンと情報を共有したり、会話を楽しんだりできるのである。また、他のファンと、自分は誰々を担当する、と役割分担することで、同担とのトラブルを回避できるだけでなく、自分の好きなアイドルを「担当」するという責任感を持って応援することは、ファンである誇りのようなものを感じられるのではないだろうか。他のファンとの交流を持ち、楽しく応援するための「プラスの手段」としても「担当制」は重要な仕組みとして働いていると考えられる。実際インタビュー調査でも、「担当制」が他のファンとの交流を行う上で役立っているという語りがみられた。

しかし、「担当」という枠組みを作ることで、その枠の中の頂点を奪い合う動きが出てきてしまうという一面も持っている。他のファンと役割分担をする、というはたらきの裏側には、自分の担当に口出ししてほしくないという「独占的思考」があると筆者は考える。そのような思考をベースに持つファンたちにとって「同担」とは、そのアイドルの「担当」という枠の中でぶつかってしまう存在である。枠の中の上位を奪い合うことで不快な思いをし、それが「同担拒否」を生むことに繋がっていくというマイナスの要素も含んでいるのである。同担を拒否するファンにとっては、同担が存在するという情報が容易に自分に入ってくるこの制度は大変苦しいものであるかもしれない。しかし、「担当制」がなければ同担のファンを知ることもできないため、「トラブル、不快な思いを避ける」という行動もとれなくなってしまう。そのようなパラドックスを含んだ制度であるだろう。「担当制」とは、このような長短の両面を持った仕組みであるだろう。そして、他のファンとの人間関係に重きを置くこの「担当制」の文化が、ジャニーズファンの応援活動を独自なものにしているのである。